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第二幕 回避の為=世界の為

vs18 思い掛けない涙

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会話の間が開くと、クリフォードが立ち上がる。
「少し待ってて」
「ええ…」
クリフォードは慌てて何処かへ行く。
そしてプレゼントの箱を持ったクリフォードが走ってやって来てひざまずく。
「これを受け取ってくれないか?」
「ありがとう、中を見ても?」
「ああ、是非」
そう言われて開けてみると、赤紫が主体のカシミールバイカラーサファイアで作られたネックレスが入っていた。
「まあ素敵! 着けてもいいかしら?」
「…着けさせてくれるかい?」
その申し出に頷くと、クリフォードがネックレスを手にしてマリミエドの横に座ってネックレスを着けた。
天使の涙は、マリミエドが外してバッグの中に入れる。
「素敵なデザインね」
「…あの後すぐにプレゼントを選んだんだ」
そう言ってクリフォードは腕を見せる。
タキシードの袖を飾る翡翠のカフスが見えた。
「ふふ、着けてくれて嬉しいわ」
マリミエドが嬉しそうに笑うので、クリフォードはつられて笑い、立ち上がって手を差し伸べた。
「お手を」
「ええ」
答えてマリミエドはバッグを王宮騎士に預けて踊り始める。
クリフォードはギルベルトに劣らない程ステップが上手かったので、流れるように踊れた。
「今日は本当に綺麗だね」
「ありがとう」
「またお茶会をしたいな。誘ってもいいかい?」
「ええ…けれど、まずは婚約者の方を探さないといけないのではなくて?」
「はは…」
痛い所を突かれてしまい、ダンスが終わる。

マリミエドは一息つく為にバッグを手に王宮騎士と共に休憩室へ向かった。
「ありがとう」
礼を言い、休憩室に入る。
広い休憩室では、待っているご夫人達が噂話をしていた。
「さっきの王太子殿下の態度には驚いたわ」
「本当、最悪よね」
「…あんな王太子では国が滅ぶから、すぐに改心して頂かなくては」
「第2王子は気弱そうよね」
「この後のランチはどなたと食べようかしら」
「今日の晩餐会はどうなるかしらね」
などと、様々な会話が飛び交う。
その中でマリミエドはメイドに化粧を直してもらい、中庭に出た。
「はあ…どこも騒がしいわね…」
落ち着いて休めもしない。
中庭のガゼボの下のソファーに座って休む事にした。
 中庭を眺めていると、横からエデュアルト王太子がムスッたれた顔でやってくるのが見えた。
〈…どうしようかしら〉
この王太子をどう扱うのが正しいのだろうか?
出来れば〝育成〟したいのだが…いつものように叱り付けては駄目だ。
マリアのように拗ねてみるか、泣いてみるか…。
〈つんけんせずに、泣いてみましょう…〉
そして、どう出るかを試そう。
そう思って、マリミエドはマリアのやり方を真似て泣いてみる。
俯いて涙を拭う素振りをして、鼻をすすってみた。
「……マリミエド?」
不安そうな声がする。
両目を両手で覆いながらそっと覗いてみると、心配げな表情のエデュアルト王太子が居た。
昔、本当に泣いていた時に見た事のある顔だった。
〈…まだ心配はしてくれるのかしら?〉
無関心ではないらしい。
「酷いわ…」
「…エスコートは……悪かった。だが、王太子妃候補はお前だけじゃないし…」
「でもエスコートしてらっしゃらないわ…どれ程悲しかったか…」
言いながら顔を上げると、本当に涙がポロポロと溢れてしまった。
「…え、あ…」
〈やだ、こんなに泣くつもりはなかったのに…!〉
動揺しながらも涙を拭いていると、ハンカチを差し出された。
「そんなにこすったら腫れるだろう…」
「王太子殿下……ぐす…」
マリミエドはハンカチを受け取って目を押さえた。
「………」
どう声を掛けていいか分からない男と、なんと言えばいいのか分からない少女は、ただ無言で居た。

 何が悲しかったのか自分でも分からないままに泣いて、しばらくするとエデュアルトが別のハンカチを取り出して水に浸してマリミエドに差し出す。
「…これで冷やせ」
「ありがとう…ございます……」
マリミエドはそれを受け取って目元を冷やした。
〈こんな優しさは…マリアさんから教わったのかしら…?〉
自分はといえば、勉学ばかりで人間らしさを忘れてしまっていた…。
口を開けば〝国の為に〟〝皇帝として〟と責め立てて叱り付けた。
それではエスコートもしたくなくなるだろう。
マリミエドはガゼボに寄り掛かって庭を見つめているエデュアルト王太子を見上げた。
エデュアルト王太子は何かの枝を手にして指に刺さったらしく、破片を取って手袋をはめている。
〈…まだ、変われるのかもしれない…〉
今ならまだ、卒業パーティーまで半年はあるーーー。
卒業は9月だ。
しかしそれはどうなのだろうか…?
エデュアルトも不承不承で婚約したのかもしれない。
国の為に、皇帝に言われるがままに…。
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