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第二幕 回避の為=世界の為
vs15 離宮にて
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「メイナード侯爵家のギルベルト様とマリミエド様のご到着ー!」
玄関で騎士が中に告げる。
会場内がザワつき一斉に注目される中で、2人は一礼して中に歩いていく。
「あれが噂の〝天使の涙〟…」
「まあ、王太子殿下のエスコートはどうしたのかしらね?」
「早くご挨拶してきなさい。気に入られるように」
ヒソヒソと色々な声が飛び交う。
マリミエドはそれらの声にため息を吐く。
「お兄様、もう一人で平気ですわ」
「まだソファーにも座っていないのに?」
答えてギルベルトはマリミエドをソファーに座らせ、シャンパンを2つ手にして一つをマリミエドに渡す。
「ありがとう、お兄様。もう一人で…」
「うん、だからねリュミ…誰がいいと思う?」
ギルベルトが聞く。
先程から早く挨拶をして新しい婚約者になりたいという令嬢達が、今か今かと挨拶のタイミングを測っているので、それを聞いているのだ。
「…あ、フォルネウス家のご令嬢はどうでしょうか?」
「ベルンハルトを〝兄〟と呼ぶのかい?どうせなら〝兄〟と呼ばれる方がいいのだがね」
ギルベルトが言う。
「…そんな屁理屈ばかり言って。早くご挨拶を受けて差し上げて」
そう言いマリミエドはソファーの端に寄る。
すると、待ち構えていた令嬢達が一斉にギルベルトに挨拶に来た。
「ご機嫌よう」の嵐を聞きながら、マリミエドは周りを見る。
〈まさかマリアさんをエスコートしてくるなんて事は無いわよね…?〉
そう思って見ていると、学友達が次々に到着する。
ソフィアは、レアノルドやクリフォードと共にお話をしていた。
「あ、ライニング令嬢、こちらよ」
マリミエドは笑って手を振る。
ソフィア達が手を振ってマリミエドに寄っていく。
「まあメイナード令嬢、そのワインレッドのドレス素敵ね!」
「ありがとう。ライニング令嬢のミントグリーンのドレスも素敵よ」
そう互いに褒め合って笑う。
「本当に綺麗だね、見惚れてしまうよ」
レアノルドが言うと、クリフォードが頷く。
するとマリミエドは照れて赤くなり、頬を押さえながら微笑む。
「ありがとう、お二人も素敵ですわよ」
「それはどうも。兄君には敵わないけれどね」
クリフォードが隣りで令嬢達に囲まれているギルベルトを見て言う。
「まだかしら…私朝から支度してて、お腹が空いてしまって」
ソフィアが言うと、マリミエドも微笑して言う。
「わたくしもですわ。そろそろ両陛下と王女殿下がいらっしゃると思うのですが…」
そう言っている時、登場を知らせるトランペットが鳴る。
皆は一斉に家ごとの並びに戻ってお辞儀をする。
「皇帝陛下、皇后陛下、王女殿下のおなーりー」
響く声で騎士が言い、2階から両陛下と今日の主役であるアルセフィナ王女が現れる。
「皆の者、よく集まってくれたな。今日は王女の誕生日を祝うパーティーだ。存分に楽しんでくれ」
皇帝陛下の言葉で、パーティーの開始の音楽が鳴らされる。
そして王女殿下に挨拶に行く列を作る。
ギルベルトとマリミエドは大公家の後だ。
「本日はおめでとうございます」
そう言うと、王女殿下はじっとマリミエドを見る。
「…いつになく派手ね。嫌いじゃないわ」
珍しく王女殿下がまともだった。
「ありがとうございます、王女殿下。王女殿下のドレスの方が眩くて素敵ですわ」
「ありがとう、マリミエド」
その言葉にお辞儀をして、2人は下がる。
「王女殿下が嫌味を言わないなんて、天変地異の前触れかな」
ギルベルトがエスコートをしながら言う。
テーブルまで来ると、2人は皿を手にして朝食を選ぶ。
「お兄様、そんな事を言っては失礼よ」
「…しかし…」
言い掛けてやめて、ギルベルトはウエイターに皿を運ぶように指示をして、マリミエドをテーブル席にエスコートする。
食事を済ませて紅茶を飲みながら、マリミエドが言う。
「今日は共に悪役令嬢を学ぶ約束ですけれど、わたくし少し不安で…」
「やめておくかい?」
ギルベルトが喜んで言うと、マリミエドが首を振る。
「悪役令嬢である方々がいつもいらっしゃるのですが、今日は殿方にベッタリで嫌味の一つも仰らなくて…」
「……ん?」
その言葉にギルベルトは止まる。
「リュミ…悪役令嬢という物が〝嫌味を言う存在〟だという認識があるのかい?」
「ええ。小説でもそうでしたわ」
「リュミが目指すのは、そんな悪役令嬢なのかい?」
「その…嫌味を言うのはやめて、嫌がらせもしない悪役令嬢がいますの…」
「…あの小説の〝ヒロインのライバル〟という存在かい?」
「ええ、その人を悪役令嬢に仕立てるので、〝悪役令嬢〟と呼んでましたの。どう呼べばいいのか分からなくて…」
「ふむ…」
少し安心しながらも、ギルベルトは呼び名を考える。
嫌味を言わない、嫌がらせもしないが人を注意して悪役令嬢にされる者…。
〈なんと呼べばいいか…〉
教え戒めるで教戒令嬢…。
教え諭すのは教誨…。
「教誨公女では駄目かな?」
「呼び名を考えていらしたの?」
「ああ。〝悪役〟には賛成出来ないからね」
「…ん~…育成はいかがかしら? 教育するような立場の表現がありますわ」
「育成公女か…悪くないね。では育成してみようか」
「ええ、是非」
2人は笑って立ち上がり、ダンスが行われる会場へと向かう。
玄関で騎士が中に告げる。
会場内がザワつき一斉に注目される中で、2人は一礼して中に歩いていく。
「あれが噂の〝天使の涙〟…」
「まあ、王太子殿下のエスコートはどうしたのかしらね?」
「早くご挨拶してきなさい。気に入られるように」
ヒソヒソと色々な声が飛び交う。
マリミエドはそれらの声にため息を吐く。
「お兄様、もう一人で平気ですわ」
「まだソファーにも座っていないのに?」
答えてギルベルトはマリミエドをソファーに座らせ、シャンパンを2つ手にして一つをマリミエドに渡す。
「ありがとう、お兄様。もう一人で…」
「うん、だからねリュミ…誰がいいと思う?」
ギルベルトが聞く。
先程から早く挨拶をして新しい婚約者になりたいという令嬢達が、今か今かと挨拶のタイミングを測っているので、それを聞いているのだ。
「…あ、フォルネウス家のご令嬢はどうでしょうか?」
「ベルンハルトを〝兄〟と呼ぶのかい?どうせなら〝兄〟と呼ばれる方がいいのだがね」
ギルベルトが言う。
「…そんな屁理屈ばかり言って。早くご挨拶を受けて差し上げて」
そう言いマリミエドはソファーの端に寄る。
すると、待ち構えていた令嬢達が一斉にギルベルトに挨拶に来た。
「ご機嫌よう」の嵐を聞きながら、マリミエドは周りを見る。
〈まさかマリアさんをエスコートしてくるなんて事は無いわよね…?〉
そう思って見ていると、学友達が次々に到着する。
ソフィアは、レアノルドやクリフォードと共にお話をしていた。
「あ、ライニング令嬢、こちらよ」
マリミエドは笑って手を振る。
ソフィア達が手を振ってマリミエドに寄っていく。
「まあメイナード令嬢、そのワインレッドのドレス素敵ね!」
「ありがとう。ライニング令嬢のミントグリーンのドレスも素敵よ」
そう互いに褒め合って笑う。
「本当に綺麗だね、見惚れてしまうよ」
レアノルドが言うと、クリフォードが頷く。
するとマリミエドは照れて赤くなり、頬を押さえながら微笑む。
「ありがとう、お二人も素敵ですわよ」
「それはどうも。兄君には敵わないけれどね」
クリフォードが隣りで令嬢達に囲まれているギルベルトを見て言う。
「まだかしら…私朝から支度してて、お腹が空いてしまって」
ソフィアが言うと、マリミエドも微笑して言う。
「わたくしもですわ。そろそろ両陛下と王女殿下がいらっしゃると思うのですが…」
そう言っている時、登場を知らせるトランペットが鳴る。
皆は一斉に家ごとの並びに戻ってお辞儀をする。
「皇帝陛下、皇后陛下、王女殿下のおなーりー」
響く声で騎士が言い、2階から両陛下と今日の主役であるアルセフィナ王女が現れる。
「皆の者、よく集まってくれたな。今日は王女の誕生日を祝うパーティーだ。存分に楽しんでくれ」
皇帝陛下の言葉で、パーティーの開始の音楽が鳴らされる。
そして王女殿下に挨拶に行く列を作る。
ギルベルトとマリミエドは大公家の後だ。
「本日はおめでとうございます」
そう言うと、王女殿下はじっとマリミエドを見る。
「…いつになく派手ね。嫌いじゃないわ」
珍しく王女殿下がまともだった。
「ありがとうございます、王女殿下。王女殿下のドレスの方が眩くて素敵ですわ」
「ありがとう、マリミエド」
その言葉にお辞儀をして、2人は下がる。
「王女殿下が嫌味を言わないなんて、天変地異の前触れかな」
ギルベルトがエスコートをしながら言う。
テーブルまで来ると、2人は皿を手にして朝食を選ぶ。
「お兄様、そんな事を言っては失礼よ」
「…しかし…」
言い掛けてやめて、ギルベルトはウエイターに皿を運ぶように指示をして、マリミエドをテーブル席にエスコートする。
食事を済ませて紅茶を飲みながら、マリミエドが言う。
「今日は共に悪役令嬢を学ぶ約束ですけれど、わたくし少し不安で…」
「やめておくかい?」
ギルベルトが喜んで言うと、マリミエドが首を振る。
「悪役令嬢である方々がいつもいらっしゃるのですが、今日は殿方にベッタリで嫌味の一つも仰らなくて…」
「……ん?」
その言葉にギルベルトは止まる。
「リュミ…悪役令嬢という物が〝嫌味を言う存在〟だという認識があるのかい?」
「ええ。小説でもそうでしたわ」
「リュミが目指すのは、そんな悪役令嬢なのかい?」
「その…嫌味を言うのはやめて、嫌がらせもしない悪役令嬢がいますの…」
「…あの小説の〝ヒロインのライバル〟という存在かい?」
「ええ、その人を悪役令嬢に仕立てるので、〝悪役令嬢〟と呼んでましたの。どう呼べばいいのか分からなくて…」
「ふむ…」
少し安心しながらも、ギルベルトは呼び名を考える。
嫌味を言わない、嫌がらせもしないが人を注意して悪役令嬢にされる者…。
〈なんと呼べばいいか…〉
教え戒めるで教戒令嬢…。
教え諭すのは教誨…。
「教誨公女では駄目かな?」
「呼び名を考えていらしたの?」
「ああ。〝悪役〟には賛成出来ないからね」
「…ん~…育成はいかがかしら? 教育するような立場の表現がありますわ」
「育成公女か…悪くないね。では育成してみようか」
「ええ、是非」
2人は笑って立ち上がり、ダンスが行われる会場へと向かう。
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