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第二幕 回避の為=世界の為
vs04 知りたい事は
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ガラスケースの中には真ん中に本があり、右に金の葉と銀の葉が飾られており、左には杖が飾られていた。
そっとガラスに触れると、本がひとりでに開く。
「まあ、魔法で開くのかしら…」
この展示物に触れるのは初めてなので、勝手が分からない。
試しにガラスに触れている右手で本を閉じるような仕草をしてみるとパタンと閉じた。
〈これなら汚れないし破壊もされなくて便利ね…〉
そう思いながら本を開く動作をして、ページをめくる。
『何が知りたい?』
本にそう書かれていた。
「え…? 何って…」
『知りたい事は?』
前の文字が消えて、新たな文字が浮かび上がる。
「…世界樹の事」
そう呟くと、眼の前に巨大な木が現れる。
透明で、金や銀の葉を付けた世界樹だ。
「すごい…幻影の魔法かしら…?」
そっと手を伸ばすと葉に触れる事が出来た。
「綺麗な葉…」
『願いは』
急に手元に文字が現れる。
「え…?」
『はっきりと願いを込めろ』
「願いーーー」
急に問われても困る。
「そう、ね…皆で…今度こそ皆で幸せに暮らしたいわ」
『ソノ為にお前が成す事はナニか?』
「成す事…ーーー」
自分に出来る事は何だろうかと考える。
『難しく考えるナ。2回も斬首刑にされて、ソレでもやりたい事は何かーーーソレを答えヨ』
そう世界樹から透き通った声がした。
マリミエドは思った事を口にする。
「…回避、したい。理不尽な死刑を避けて、わたくしに出来る事を精一杯やるわ。お友達も作りたいし、お兄様が宰相となるお姿だって見たいわ。だって、まだ何も見ていないのよ!妹達の花嫁姿も見ていないし、何よりわたくしのウェディングドレスも作ってなかったのに…あんまりよ!」
そう言いマリミエドはその場に泣き崩れた。
すると、枝が伸びて慰めるように頭を撫でてくれる。
『…泣くナ。我ハ人の涙に弱い。葉が消滅してシまうのだ…』
そう声がして顔を上げると、涙がポタリと落ちて世界樹の葉に当たる。
するとジュッと音がして葉に穴が空いてしまう。
「きゃっ!ご、ごめんなさい…痛いでしょうに…」
マリミエドは咄嗟に葉を両手で撫でて回復を施した。
無意識の治癒はとても優しく木を包み込む。
『ああ、心地が良い……そうか、お前があの時の看取った乙女か』
「え…?」
分からずに思わず顔を上げると、そこに薄っすらと人の姿が浮かぶ。
…その姿に見覚えがあった。
4年前ーーー教会で最後を看取り、夢に見た男性だ。
「…もしもこの先、人間の力ではどうにも出来ない困難が押し寄せてきたらどうする?」
そう聞いてきた人ーーー。
「あの時の方…。困難とは何の事ですか?」
自然と聞いていた。
男は頷いて答える。
『コノ世界を捻じ曲げた悪しき者が居る。封印ヲーーー…』
フッと男性が消えてしまう。
「あっ…」
まだ何か言いたげだったのだが…。
「あの、もう一度…」
『知りたい事はソレなのか?』
そう世界樹が問う。
その問いで、マリミエドはここに来た目的を思い出した。
「あ…あの違います。世界樹が何故、人の願いを叶えるのかが分からなくて、それで調べに来ました」
『そんナ事を…?珍しい人間だナ。ーーー太古、約束シタからだ。我に出会う者は稀有である…その者が成す事を源として、ソノ者の願いを叶えてやる、とーーーシャルルと』
「え?!で、でもシャルル陛下は世界樹が〝願いを叶えるから〟探しに出た筈ですわ」
『否。我ハ枯れかけていた…ソレをシャルルが助け、我ハ本来の姿となれた。お陰で世界を見守る為の枝の旅立ちを行えるようになった。故に、約束シタ』
「世界を見守る旅…」
『ソレだけか?』
「あ、はい、今は」
『今は、カ…面白いナ。お前なら会えるだろウ』
その言葉と共に、世界樹はスーッと消えてしまう。
「リュミ!」
急に後ろから兄の声がしてマリミエドはハッと我に返った。
するとガラスケースまで消えて、触っていたのはただの棚となっていた。
「え…?夢…?」
確かに、はっきりとここにあって見ていた筈なのにーーー。
「リュミ大丈夫か?!」
「ええ…どうなさったのですか?そんなに青ざめて」
マリミエドが聞くと、側に来たギルベルトが蒼白した顔のままマリミエドの両肩を掴む。
「何とも無いか?本当に?」
その様子に首を傾げていると、横で同じく蒼白したユークレースが言う。
「君の体が透けていたんだよ………何か異常は無いか?」
2人共、本気で心配しているのが分かった。
「あの…本が、ここにあって…」
マリミエドはガラスケースに本があり、自動でめくれた事、文字が浮かび上がった事、世界樹が現れて話をした事を話した。
「白昼夢か…?」
ユークレースが呟く。
〈もしや、宝物殿の秘密だろうか…?〉
ギルベルトは一人思い、笑ってユークレースに言う。
「ああ、リュミは疲れていたし、きっとそうだろう!さあ帰ろう!」
「お兄様…!わたくし嘘なんて…」
その言葉にギルベルトはウインクで応えた。
そして、不安がるマリミエドの腰に手を添えて手を握ってエスコートする。
「夢のお話は、この兄にこっそり教えて欲しいな」
そう言い歩き、ユークレースから離れてヒソヒソと話す。
「後で聞くよ」
「あ………はい、いいですわよ」
マリミエドは言葉の意味を悟って、笑顔で言う。
ユークレースは回帰した事を知らないのだから、この話もしない方がいいだろう、とーーー。
そっとガラスに触れると、本がひとりでに開く。
「まあ、魔法で開くのかしら…」
この展示物に触れるのは初めてなので、勝手が分からない。
試しにガラスに触れている右手で本を閉じるような仕草をしてみるとパタンと閉じた。
〈これなら汚れないし破壊もされなくて便利ね…〉
そう思いながら本を開く動作をして、ページをめくる。
『何が知りたい?』
本にそう書かれていた。
「え…? 何って…」
『知りたい事は?』
前の文字が消えて、新たな文字が浮かび上がる。
「…世界樹の事」
そう呟くと、眼の前に巨大な木が現れる。
透明で、金や銀の葉を付けた世界樹だ。
「すごい…幻影の魔法かしら…?」
そっと手を伸ばすと葉に触れる事が出来た。
「綺麗な葉…」
『願いは』
急に手元に文字が現れる。
「え…?」
『はっきりと願いを込めろ』
「願いーーー」
急に問われても困る。
「そう、ね…皆で…今度こそ皆で幸せに暮らしたいわ」
『ソノ為にお前が成す事はナニか?』
「成す事…ーーー」
自分に出来る事は何だろうかと考える。
『難しく考えるナ。2回も斬首刑にされて、ソレでもやりたい事は何かーーーソレを答えヨ』
そう世界樹から透き通った声がした。
マリミエドは思った事を口にする。
「…回避、したい。理不尽な死刑を避けて、わたくしに出来る事を精一杯やるわ。お友達も作りたいし、お兄様が宰相となるお姿だって見たいわ。だって、まだ何も見ていないのよ!妹達の花嫁姿も見ていないし、何よりわたくしのウェディングドレスも作ってなかったのに…あんまりよ!」
そう言いマリミエドはその場に泣き崩れた。
すると、枝が伸びて慰めるように頭を撫でてくれる。
『…泣くナ。我ハ人の涙に弱い。葉が消滅してシまうのだ…』
そう声がして顔を上げると、涙がポタリと落ちて世界樹の葉に当たる。
するとジュッと音がして葉に穴が空いてしまう。
「きゃっ!ご、ごめんなさい…痛いでしょうに…」
マリミエドは咄嗟に葉を両手で撫でて回復を施した。
無意識の治癒はとても優しく木を包み込む。
『ああ、心地が良い……そうか、お前があの時の看取った乙女か』
「え…?」
分からずに思わず顔を上げると、そこに薄っすらと人の姿が浮かぶ。
…その姿に見覚えがあった。
4年前ーーー教会で最後を看取り、夢に見た男性だ。
「…もしもこの先、人間の力ではどうにも出来ない困難が押し寄せてきたらどうする?」
そう聞いてきた人ーーー。
「あの時の方…。困難とは何の事ですか?」
自然と聞いていた。
男は頷いて答える。
『コノ世界を捻じ曲げた悪しき者が居る。封印ヲーーー…』
フッと男性が消えてしまう。
「あっ…」
まだ何か言いたげだったのだが…。
「あの、もう一度…」
『知りたい事はソレなのか?』
そう世界樹が問う。
その問いで、マリミエドはここに来た目的を思い出した。
「あ…あの違います。世界樹が何故、人の願いを叶えるのかが分からなくて、それで調べに来ました」
『そんナ事を…?珍しい人間だナ。ーーー太古、約束シタからだ。我に出会う者は稀有である…その者が成す事を源として、ソノ者の願いを叶えてやる、とーーーシャルルと』
「え?!で、でもシャルル陛下は世界樹が〝願いを叶えるから〟探しに出た筈ですわ」
『否。我ハ枯れかけていた…ソレをシャルルが助け、我ハ本来の姿となれた。お陰で世界を見守る為の枝の旅立ちを行えるようになった。故に、約束シタ』
「世界を見守る旅…」
『ソレだけか?』
「あ、はい、今は」
『今は、カ…面白いナ。お前なら会えるだろウ』
その言葉と共に、世界樹はスーッと消えてしまう。
「リュミ!」
急に後ろから兄の声がしてマリミエドはハッと我に返った。
するとガラスケースまで消えて、触っていたのはただの棚となっていた。
「え…?夢…?」
確かに、はっきりとここにあって見ていた筈なのにーーー。
「リュミ大丈夫か?!」
「ええ…どうなさったのですか?そんなに青ざめて」
マリミエドが聞くと、側に来たギルベルトが蒼白した顔のままマリミエドの両肩を掴む。
「何とも無いか?本当に?」
その様子に首を傾げていると、横で同じく蒼白したユークレースが言う。
「君の体が透けていたんだよ………何か異常は無いか?」
2人共、本気で心配しているのが分かった。
「あの…本が、ここにあって…」
マリミエドはガラスケースに本があり、自動でめくれた事、文字が浮かび上がった事、世界樹が現れて話をした事を話した。
「白昼夢か…?」
ユークレースが呟く。
〈もしや、宝物殿の秘密だろうか…?〉
ギルベルトは一人思い、笑ってユークレースに言う。
「ああ、リュミは疲れていたし、きっとそうだろう!さあ帰ろう!」
「お兄様…!わたくし嘘なんて…」
その言葉にギルベルトはウインクで応えた。
そして、不安がるマリミエドの腰に手を添えて手を握ってエスコートする。
「夢のお話は、この兄にこっそり教えて欲しいな」
そう言い歩き、ユークレースから離れてヒソヒソと話す。
「後で聞くよ」
「あ………はい、いいですわよ」
マリミエドは言葉の意味を悟って、笑顔で言う。
ユークレースは回帰した事を知らないのだから、この話もしない方がいいだろう、とーーー。
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