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第一幕 断罪からの始まり
vs35 病について
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ランチの時間。
ソフィアとアメリアとはランチの後に合流する約束をして一人で来た。
そろそろ、違う人達とも仲良くしなければ…と思ったのだ。
ビュッフェ形式の所に入り、トレイを手にしてお皿を乗せて歩く。
〈誰かお話し出来そうな方はいるかしら…?〉
そう思いながら昼食を選ぶ。
周りの人達は友達と居るか、一人を好んでいるかのどちらかだ。
〈そういえば…グラントール令嬢は、どんな病なのかしら…〉
ふと、中庭で会ったシリウス・グラントールの悲しげな姿が蘇る。
グラントール令嬢の年齢が自分と同じだから、余計に気になるのだろう。
彼の姿を探してみると、中庭に続く隅の目立たない所に一人で座っているのを見つけた。
マリミエドは急いで鶏肉や野菜の蒸し焼きなどを皿に盛り付けて静かに寄っていく。
「ご機嫌よう、グラントール令息」
「…メイナード令嬢、ご機嫌よう」
シリウスはそう挨拶をして、テーブルに置いた医学書に目を落とす。
「こちら、宜しいかしら?」
「…どうぞ」
シリウスは本から目を離さずに答える。
マリミエドは静かに椅子に座り、トレイを置いて食事にする。
中庭の景色を見ながら黙々と食べていると、シリウスが顔を上げた。
「私に、何か用なのでは…?」
「あ、ごめんなさい。邪魔をしてはいけないと思って…」
「謝る事はないよ。変な人だ」
そう言いシリウスはくすくすと笑う。
その笑顔に、見覚えがあった…。
〈……あーーーあの時の男の子…〉
間違いない。
7歳の時に、無くしたペンダントを探し出してあげた男の子だ。
シリウスは気付いていないようなので、それは言わない事にした。
「…ご令嬢が、何の病か気になってしまって…何かお力になれれば、と思いまして」
「…君に言っても…」
「…そう、ですわよね。…医学書も読み始めたばかりですし…」
マリミエドは食べながら喋る。
すると、シリウスが意外そうな顔でこちらを見た。
「君が医学書?」
「ええ、流行り病も気になりますし、ただの痣が病の兆候であったりしますのね。読んでいて勉強になります」
「…変わった人だな」
「そうかしら。女性でも医者を目指す方はいらっしゃるわ」
「それはそうだが…。…妹は、ずっと熱を出したり咳をしたりして、苦しそうでね。寝てばかりだから歩くのも困難で…」
「ずっと熱を?」
「いや、熱は繰り返すだけで…」
「お医者さまは何て仰っているの?」
「…風邪の一種だろうと言ったり、肺炎の一種だと言ったり…とにかく咳が酷くて辛そうなんだ」
「咳………」
マリミエドは紅茶を飲みながら、昔の出来事を思い出した。
母のメイド達の子供の何人かが、ある日咳が酷くて熱も出るようになり、務めに出られなくなったのだ。
その時に、エレナの助言でその子供達の症状は回復したが…。
「あの…とにかく、換気なさってみて」
「まだ春先で風が冷たいのに?」
「ええ。それと、壁を一度調べてみてはいかがかしら…」
「壁?」
聞かれてマリミエドは戸惑いながらも喋る。
「昔、母のメイドの部屋にカビが生えてしまって、それが原因でメイドの子供が熱を出したり咳をしたりしていたの。わたくしのメイドが、壁にカビが生えているのではないか、と助言したから分かったのだけれど……カビが生えると、咳や熱が続くらしいの。だから、一度だけ確かめてみて」
そう真剣に言うと、シリウスは頷く。
「…分かった。ありがとう、真面目に聞いてくれて嬉しかった…」
「いえ…大してお力になれなくて。…早く良くなる事を祈っているわ」
マリミエドは微笑して言う。
シリウスは、本を片付けて上着を着る。
「先に失礼するよ。早速調べてみる!」
「ええ」
シリウスは小走りで帰っていった。
その後ろ姿を見つめながら、マリミエドはシリウスの妹の病が少しでも良くなるようにと祈ったーー。
公園の白いガゼボで、ソフィアとアメリアと待ち合わせをしているのでマリミエドは早速行ってみる。
すると、そこにレアノルドとクリフォードも居た。
「こっちこっち」
と、クリフォードが笑顔で手を振る。
「……お2人は…」
「友達だろう?」
とレアノルドがすぐに言う。
それは分かるが…と、マリミエドはクリフォードを見た。
クリフォードは苦笑いをする。
「友達の友達だから、俺も友達って事で…駄目かな?」
「友達…ですか…?」
顎に拳を当てて悩んでいると、アメリアが笑って言う。
「さあ、座って下さい。さっきから、お2人とお話ししてたんですよ」
「そう…」
ソフィアがいいのなら、とマリミエドはソフィアの隣りに座った。
紅茶のいい香りが漂う。
「これは…カモミール?」
「ああ、カモミールとペテルを少し」
クリフォードが答えてマリミエドのカップに紅茶を注ぐ。
「ありがとう、フレーズベルグ令息。ペテルは胃薬にも使われますわね」
マリミエドはカップを手にして香りを楽しむ。
「ああ、整腸作用もあるから食後にいいかと思ってね…このスコーンの生地にも入っているよ。香り付けにも使うらしい」
そう言うクリフォードは楽しそうで、こちらまで微笑んでしまう。
「フレーズベルグ令息は、本当に紅茶がお好きなのね」
「ああ…10歳の時にたまたま紅茶にミントを入れたら美味しくてさ、それ以来色んな国の紅茶を仕入れて飲んでいるんだ。美容にいいらしいから、こうして女性に勧められるしね」
笑って言うと、マリミエドとソフィアも笑う。
その中でアメリアは4人を見つめて思った。
〈…やっぱり住む世界の違う方々だわ〉
つくづく思った。
やはり自分は平民なのだと。
こんな優雅なお茶会など楽しむ間に、働いてお金を稼ぎたいと思う。
今日は、この後マリミエドと馬車に乗って面接を受ける予定だ。
緊張しながら、しかし表面上笑っていた。
ソフィアとアメリアとはランチの後に合流する約束をして一人で来た。
そろそろ、違う人達とも仲良くしなければ…と思ったのだ。
ビュッフェ形式の所に入り、トレイを手にしてお皿を乗せて歩く。
〈誰かお話し出来そうな方はいるかしら…?〉
そう思いながら昼食を選ぶ。
周りの人達は友達と居るか、一人を好んでいるかのどちらかだ。
〈そういえば…グラントール令嬢は、どんな病なのかしら…〉
ふと、中庭で会ったシリウス・グラントールの悲しげな姿が蘇る。
グラントール令嬢の年齢が自分と同じだから、余計に気になるのだろう。
彼の姿を探してみると、中庭に続く隅の目立たない所に一人で座っているのを見つけた。
マリミエドは急いで鶏肉や野菜の蒸し焼きなどを皿に盛り付けて静かに寄っていく。
「ご機嫌よう、グラントール令息」
「…メイナード令嬢、ご機嫌よう」
シリウスはそう挨拶をして、テーブルに置いた医学書に目を落とす。
「こちら、宜しいかしら?」
「…どうぞ」
シリウスは本から目を離さずに答える。
マリミエドは静かに椅子に座り、トレイを置いて食事にする。
中庭の景色を見ながら黙々と食べていると、シリウスが顔を上げた。
「私に、何か用なのでは…?」
「あ、ごめんなさい。邪魔をしてはいけないと思って…」
「謝る事はないよ。変な人だ」
そう言いシリウスはくすくすと笑う。
その笑顔に、見覚えがあった…。
〈……あーーーあの時の男の子…〉
間違いない。
7歳の時に、無くしたペンダントを探し出してあげた男の子だ。
シリウスは気付いていないようなので、それは言わない事にした。
「…ご令嬢が、何の病か気になってしまって…何かお力になれれば、と思いまして」
「…君に言っても…」
「…そう、ですわよね。…医学書も読み始めたばかりですし…」
マリミエドは食べながら喋る。
すると、シリウスが意外そうな顔でこちらを見た。
「君が医学書?」
「ええ、流行り病も気になりますし、ただの痣が病の兆候であったりしますのね。読んでいて勉強になります」
「…変わった人だな」
「そうかしら。女性でも医者を目指す方はいらっしゃるわ」
「それはそうだが…。…妹は、ずっと熱を出したり咳をしたりして、苦しそうでね。寝てばかりだから歩くのも困難で…」
「ずっと熱を?」
「いや、熱は繰り返すだけで…」
「お医者さまは何て仰っているの?」
「…風邪の一種だろうと言ったり、肺炎の一種だと言ったり…とにかく咳が酷くて辛そうなんだ」
「咳………」
マリミエドは紅茶を飲みながら、昔の出来事を思い出した。
母のメイド達の子供の何人かが、ある日咳が酷くて熱も出るようになり、務めに出られなくなったのだ。
その時に、エレナの助言でその子供達の症状は回復したが…。
「あの…とにかく、換気なさってみて」
「まだ春先で風が冷たいのに?」
「ええ。それと、壁を一度調べてみてはいかがかしら…」
「壁?」
聞かれてマリミエドは戸惑いながらも喋る。
「昔、母のメイドの部屋にカビが生えてしまって、それが原因でメイドの子供が熱を出したり咳をしたりしていたの。わたくしのメイドが、壁にカビが生えているのではないか、と助言したから分かったのだけれど……カビが生えると、咳や熱が続くらしいの。だから、一度だけ確かめてみて」
そう真剣に言うと、シリウスは頷く。
「…分かった。ありがとう、真面目に聞いてくれて嬉しかった…」
「いえ…大してお力になれなくて。…早く良くなる事を祈っているわ」
マリミエドは微笑して言う。
シリウスは、本を片付けて上着を着る。
「先に失礼するよ。早速調べてみる!」
「ええ」
シリウスは小走りで帰っていった。
その後ろ姿を見つめながら、マリミエドはシリウスの妹の病が少しでも良くなるようにと祈ったーー。
公園の白いガゼボで、ソフィアとアメリアと待ち合わせをしているのでマリミエドは早速行ってみる。
すると、そこにレアノルドとクリフォードも居た。
「こっちこっち」
と、クリフォードが笑顔で手を振る。
「……お2人は…」
「友達だろう?」
とレアノルドがすぐに言う。
それは分かるが…と、マリミエドはクリフォードを見た。
クリフォードは苦笑いをする。
「友達の友達だから、俺も友達って事で…駄目かな?」
「友達…ですか…?」
顎に拳を当てて悩んでいると、アメリアが笑って言う。
「さあ、座って下さい。さっきから、お2人とお話ししてたんですよ」
「そう…」
ソフィアがいいのなら、とマリミエドはソフィアの隣りに座った。
紅茶のいい香りが漂う。
「これは…カモミール?」
「ああ、カモミールとペテルを少し」
クリフォードが答えてマリミエドのカップに紅茶を注ぐ。
「ありがとう、フレーズベルグ令息。ペテルは胃薬にも使われますわね」
マリミエドはカップを手にして香りを楽しむ。
「ああ、整腸作用もあるから食後にいいかと思ってね…このスコーンの生地にも入っているよ。香り付けにも使うらしい」
そう言うクリフォードは楽しそうで、こちらまで微笑んでしまう。
「フレーズベルグ令息は、本当に紅茶がお好きなのね」
「ああ…10歳の時にたまたま紅茶にミントを入れたら美味しくてさ、それ以来色んな国の紅茶を仕入れて飲んでいるんだ。美容にいいらしいから、こうして女性に勧められるしね」
笑って言うと、マリミエドとソフィアも笑う。
その中でアメリアは4人を見つめて思った。
〈…やっぱり住む世界の違う方々だわ〉
つくづく思った。
やはり自分は平民なのだと。
こんな優雅なお茶会など楽しむ間に、働いてお金を稼ぎたいと思う。
今日は、この後マリミエドと馬車に乗って面接を受ける予定だ。
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