天然公女は諦めない!〜悪役令嬢(天然)VS転生ヒロイン〜

紗々置 遼嘉

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第一幕 断罪からの始まり

vs17 お友達を!

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 自習時間。
担任の中年教諭は何かの本を見ながら前に座っている。
その教室で、皆がそれぞれに勉強をする中で、マリミエドは教諭の前に行く。
「バルコニーに出て窓を閉めて宜しいですか?」
「ああ、まだ風が冷たいから何か羽織りなさい」
「はい」
答えてマリミエドはショールを羽織ってバルコニーに出て、窓を閉める。
そして手すりの所で、左右と後ろを見て誰もいないのを確認してから、独り言を始める。
「あ、あ…うん。ご、ご機嫌よう…違うわね…お、おはよう…」
小さな独り言だというのにマリミエドは真っ赤になって俯く。
「駄目だわ…想像が出来ない…」
自分が会話をしている所すら想像も付かない。
「あ…あの枝をお友達だと思いましょう。…おは…おはよう、枝さん」
挨拶をしたものの、何を話したらいいのかが分からない。
「会話…楽しく会話…何を言えばいいのかしら…」
参考にしようと教室を振り返ると、数名の生徒がササッと席に戻った。
〈聞かれてた?!〉
真っ赤になるが、窓は閉まっているので聞こえない筈だ。
しかし万が一聞かれては恥ずかしい…。
マリミエドは軽く咳払いをしながら中に入り、近くの女生徒をチラリと見て聞く。
「…何か、聞こえまして?」
「いえ…何も聞こえませんでしたわ。本当よ」
その女生徒は微笑んで続けて言う。
「何をしてるのか興味があって、つい聞き耳を立ててしまったのだけれど、風の音で全く聞こえなかったの。寒くなかった?」
「え…ええ。大丈夫…」
言い掛けてハッとする。
〈今が会話のチャンスだわ!〉
何か話せばいい…何か…。
「その…」
「あ、ごめんなさい。クラスメイトなのに名乗ってもいないわね。わたくし、ライニング男爵家の次女でソフィアと申しますわ」
「あ、わたくしは…」
「存じ上げない者はおりませんわ、メイナード令嬢」
ソフィアは優しく笑って言う。
立っているのも悪いので、マリミエドはそっと隣りに回る。
「お隣り、宜しくて?」
「ええどうぞ」
笑って言ってくれたので、マリミエドは後ろから荷物を入れたカバンを持ってきて座る。
「何を勉強なさるの?」
ソフィアが聞くと、マリミエドはカバンの中身と睨み合う。
「どれがいいかしら…ライニング令嬢は何を学んでいらっしゃるの?」
「わたくしは午後に観る王立歌劇団の演目を見ておりましたの」
「王立歌劇団の…」
存在は知っているが、劇を見た事は無い。
「本日の演目は初代皇帝シャルル・ノワル陛下の、愛と建国の物語ですわ」
ソフィアは、もう観ましたか?
ーーそう聞こうとして止まる。
マリミエドが興味深そうにこちらのパンフレットを見つめていたからだ。
〈まさか観た事が無いのかしら…?〉
そう思い、いやまさかとも思う。
貴族の年頃の子なら、誰でも観に行くものだが…。
失礼かもしれないが、ソフィアは思い切って聞いてみる。
「王立だから観ていらっしゃるかとおもったけれど…もしかして、お妃教育でお忙しいのかしら?」
「あ…わたくし、歌劇団を観た事が無くて…音楽コンサートでしたら、月に何度か観に行くのですけれど…。でも、次のテストで良い成績を収められたら両親にお願いしてみたいですわ」
そう淋しそうに言うので、悪い事をしてしまったと思い、ソフィアは何か話題が無いかと考える。

その時、マリミエドがカバンから歴史の本を取り出して開いたので見てみると、そこに挟んであった鈴蘭のような押し花のしおりが目に付いた。
「まあ!それは隣国オルケイア王国の雪山にしか咲かない雪の鈴スノウ・ベルではありません?!」
「ええ、よくご存知ですね。お姉様が送って下さった一輪の花を、押し花にして風化しないように施しましたの」
マリミエドが笑顔で言うと、ソフィアも笑顔で話す。
「よく見せて頂けませんか?わたくし花に興味があって…」
「ええ、どうぞ」
マリミエドは惜しげもなく大切な栞を差し出した。
すると突然後ろから
雪の鈴スノウ・ベル?!」
という声と共にマリアが現れて、パッと栞を手にする。
「嘘、だってこれは〝ギルイベント〟のーーー」
「マリアさん!失礼ではなくて?!」
ソフィアが怒って言うと、マリアは我に返って栞をマリミエドに返す。
「あ、ごめんなさい!私驚いてしまって…本当にごめんなさい」
どうやら悪気はなく、本当に驚いているようだった。
それに、ギルイベントとは一体ーーー?
聞く前に、マリアはぶつぶつと呟きながら行ってしまう。
〈…マリアさんの様子がおかしいわ…〉
マリミエドはそう思いながらも、ソフィアと共に雪の鈴スノウ・ベルについてお喋りに花を咲かせた。


 授業が終わり、換気の為に窓が開かれると冷たい風が入ってきた。
〈さっきは風なんて無かった…〉
〝風〟…?
マリミエドはハッとして、教室を出る。
すると、すぐ側のベンチにギルベルトが座っていて手を振る。
「やあ、一緒に学食に行かないか?」
「お兄様…もしや、先程外にいらっしゃいました?!」
マリミエドが真っ赤になって言うので、思わずギルベルトは立ち上がってマリミエドを抱き締める。
「可愛いな~!良かったじゃないか、〝枝〟以外のお友達が出来て」
「おっ…お兄様!!」
マリミエドは兄を突き飛ばすように離す。
「…意地悪ね、そういうのは嫌いだわ」
「悪気は無いんだよ。ただ、寒くないように風を止めようとしたら可愛い声がして…聞こえたら嫌だろうと思って、〝風の結界〟を張ったんだ。…許しておくれ」
苦笑して言うので憎たらしいが、お陰でクラスメイトに聞こえなかったので許した。
「もうしないで下さいね?」
「ああ、約束する」
そう言って、荷物を手に共に学食へ向かった。
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