33 / 164
第一幕 断罪からの始まり
vs17 お友達を!
しおりを挟む
自習時間。
担任の中年教諭は何かの本を見ながら前に座っている。
その教室で、皆がそれぞれに勉強をする中で、マリミエドは教諭の前に行く。
「バルコニーに出て窓を閉めて宜しいですか?」
「ああ、まだ風が冷たいから何か羽織りなさい」
「はい」
答えてマリミエドはショールを羽織ってバルコニーに出て、窓を閉める。
そして手すりの所で、左右と後ろを見て誰もいないのを確認してから、独り言を始める。
「あ、あ…うん。ご、ご機嫌よう…違うわね…お、おはよう…」
小さな独り言だというのにマリミエドは真っ赤になって俯く。
「駄目だわ…想像が出来ない…」
自分が会話をしている所すら想像も付かない。
「あ…あの枝をお友達だと思いましょう。…おは…おはよう、枝さん」
挨拶をしたものの、何を話したらいいのかが分からない。
「会話…楽しく会話…何を言えばいいのかしら…」
参考にしようと教室を振り返ると、数名の生徒がササッと席に戻った。
〈聞かれてた?!〉
真っ赤になるが、窓は閉まっているので聞こえない筈だ。
しかし万が一聞かれては恥ずかしい…。
マリミエドは軽く咳払いをしながら中に入り、近くの女生徒をチラリと見て聞く。
「…何か、聞こえまして?」
「いえ…何も聞こえませんでしたわ。本当よ」
その女生徒は微笑んで続けて言う。
「何をしてるのか興味があって、つい聞き耳を立ててしまったのだけれど、風の音で全く聞こえなかったの。寒くなかった?」
「え…ええ。大丈夫…」
言い掛けてハッとする。
〈今が会話のチャンスだわ!〉
何か話せばいい…何か…。
「その…」
「あ、ごめんなさい。クラスメイトなのに名乗ってもいないわね。わたくし、ライニング男爵家の次女でソフィアと申しますわ」
「あ、わたくしは…」
「存じ上げない者はおりませんわ、メイナード令嬢」
ソフィアは優しく笑って言う。
立っているのも悪いので、マリミエドはそっと隣りに回る。
「お隣り、宜しくて?」
「ええどうぞ」
笑って言ってくれたので、マリミエドは後ろから荷物を入れたカバンを持ってきて座る。
「何を勉強なさるの?」
ソフィアが聞くと、マリミエドはカバンの中身と睨み合う。
「どれがいいかしら…ライニング令嬢は何を学んでいらっしゃるの?」
「わたくしは午後に観る王立歌劇団の演目を見ておりましたの」
「王立歌劇団の…」
存在は知っているが、劇を見た事は無い。
「本日の演目は初代皇帝シャルル・ノワル陛下の、愛と建国の物語ですわ」
ソフィアは、もう観ましたか?
ーーそう聞こうとして止まる。
マリミエドが興味深そうにこちらのパンフレットを見つめていたからだ。
〈まさか観た事が無いのかしら…?〉
そう思い、いやまさかとも思う。
貴族の年頃の子なら、誰でも観に行くものだが…。
失礼かもしれないが、ソフィアは思い切って聞いてみる。
「王立だから観ていらっしゃるかとおもったけれど…もしかして、お妃教育でお忙しいのかしら?」
「あ…わたくし、歌劇団を観た事が無くて…音楽コンサートでしたら、月に何度か観に行くのですけれど…。でも、次のテストで良い成績を収められたら両親にお願いしてみたいですわ」
そう淋しそうに言うので、悪い事をしてしまったと思い、ソフィアは何か話題が無いかと考える。
その時、マリミエドがカバンから歴史の本を取り出して開いたので見てみると、そこに挟んであった鈴蘭のような押し花の栞が目に付いた。
「まあ!それは隣国オルケイア王国の雪山にしか咲かない雪の鈴ではありません?!」
「ええ、よくご存知ですね。お姉様が送って下さった一輪の花を、押し花にして風化しないように施しましたの」
マリミエドが笑顔で言うと、ソフィアも笑顔で話す。
「よく見せて頂けませんか?わたくし花に興味があって…」
「ええ、どうぞ」
マリミエドは惜しげもなく大切な栞を差し出した。
すると突然後ろから
「雪の鈴?!」
という声と共にマリアが現れて、パッと栞を手にする。
「嘘、だってこれは〝ギルイベント〟のーーー」
「マリアさん!失礼ではなくて?!」
ソフィアが怒って言うと、マリアは我に返って栞をマリミエドに返す。
「あ、ごめんなさい!私驚いてしまって…本当にごめんなさい」
どうやら悪気はなく、本当に驚いているようだった。
それに、ギルイベントとは一体ーーー?
聞く前に、マリアはぶつぶつと呟きながら行ってしまう。
〈…マリアさんの様子がおかしいわ…〉
マリミエドはそう思いながらも、ソフィアと共に雪の鈴についてお喋りに花を咲かせた。
授業が終わり、換気の為に窓が開かれると冷たい風が入ってきた。
〈さっきは風なんて無かった…〉
〝風〟…?
マリミエドはハッとして、教室を出る。
すると、すぐ側のベンチにギルベルトが座っていて手を振る。
「やあ、一緒に学食に行かないか?」
「お兄様…もしや、先程外にいらっしゃいました?!」
マリミエドが真っ赤になって言うので、思わずギルベルトは立ち上がってマリミエドを抱き締める。
「可愛いな~!良かったじゃないか、〝枝〟以外のお友達が出来て」
「おっ…お兄様!!」
マリミエドは兄を突き飛ばすように離す。
「…意地悪ね、そういうのは嫌いだわ」
「悪気は無いんだよ。ただ、寒くないように風を止めようとしたら可愛い声がして…聞こえたら嫌だろうと思って、〝風の結界〟を張ったんだ。…許しておくれ」
苦笑して言うので憎たらしいが、お陰でクラスメイトに聞こえなかったので許した。
「もうしないで下さいね?」
「ああ、約束する」
そう言って、荷物を手に共に学食へ向かった。
担任の中年教諭は何かの本を見ながら前に座っている。
その教室で、皆がそれぞれに勉強をする中で、マリミエドは教諭の前に行く。
「バルコニーに出て窓を閉めて宜しいですか?」
「ああ、まだ風が冷たいから何か羽織りなさい」
「はい」
答えてマリミエドはショールを羽織ってバルコニーに出て、窓を閉める。
そして手すりの所で、左右と後ろを見て誰もいないのを確認してから、独り言を始める。
「あ、あ…うん。ご、ご機嫌よう…違うわね…お、おはよう…」
小さな独り言だというのにマリミエドは真っ赤になって俯く。
「駄目だわ…想像が出来ない…」
自分が会話をしている所すら想像も付かない。
「あ…あの枝をお友達だと思いましょう。…おは…おはよう、枝さん」
挨拶をしたものの、何を話したらいいのかが分からない。
「会話…楽しく会話…何を言えばいいのかしら…」
参考にしようと教室を振り返ると、数名の生徒がササッと席に戻った。
〈聞かれてた?!〉
真っ赤になるが、窓は閉まっているので聞こえない筈だ。
しかし万が一聞かれては恥ずかしい…。
マリミエドは軽く咳払いをしながら中に入り、近くの女生徒をチラリと見て聞く。
「…何か、聞こえまして?」
「いえ…何も聞こえませんでしたわ。本当よ」
その女生徒は微笑んで続けて言う。
「何をしてるのか興味があって、つい聞き耳を立ててしまったのだけれど、風の音で全く聞こえなかったの。寒くなかった?」
「え…ええ。大丈夫…」
言い掛けてハッとする。
〈今が会話のチャンスだわ!〉
何か話せばいい…何か…。
「その…」
「あ、ごめんなさい。クラスメイトなのに名乗ってもいないわね。わたくし、ライニング男爵家の次女でソフィアと申しますわ」
「あ、わたくしは…」
「存じ上げない者はおりませんわ、メイナード令嬢」
ソフィアは優しく笑って言う。
立っているのも悪いので、マリミエドはそっと隣りに回る。
「お隣り、宜しくて?」
「ええどうぞ」
笑って言ってくれたので、マリミエドは後ろから荷物を入れたカバンを持ってきて座る。
「何を勉強なさるの?」
ソフィアが聞くと、マリミエドはカバンの中身と睨み合う。
「どれがいいかしら…ライニング令嬢は何を学んでいらっしゃるの?」
「わたくしは午後に観る王立歌劇団の演目を見ておりましたの」
「王立歌劇団の…」
存在は知っているが、劇を見た事は無い。
「本日の演目は初代皇帝シャルル・ノワル陛下の、愛と建国の物語ですわ」
ソフィアは、もう観ましたか?
ーーそう聞こうとして止まる。
マリミエドが興味深そうにこちらのパンフレットを見つめていたからだ。
〈まさか観た事が無いのかしら…?〉
そう思い、いやまさかとも思う。
貴族の年頃の子なら、誰でも観に行くものだが…。
失礼かもしれないが、ソフィアは思い切って聞いてみる。
「王立だから観ていらっしゃるかとおもったけれど…もしかして、お妃教育でお忙しいのかしら?」
「あ…わたくし、歌劇団を観た事が無くて…音楽コンサートでしたら、月に何度か観に行くのですけれど…。でも、次のテストで良い成績を収められたら両親にお願いしてみたいですわ」
そう淋しそうに言うので、悪い事をしてしまったと思い、ソフィアは何か話題が無いかと考える。
その時、マリミエドがカバンから歴史の本を取り出して開いたので見てみると、そこに挟んであった鈴蘭のような押し花の栞が目に付いた。
「まあ!それは隣国オルケイア王国の雪山にしか咲かない雪の鈴ではありません?!」
「ええ、よくご存知ですね。お姉様が送って下さった一輪の花を、押し花にして風化しないように施しましたの」
マリミエドが笑顔で言うと、ソフィアも笑顔で話す。
「よく見せて頂けませんか?わたくし花に興味があって…」
「ええ、どうぞ」
マリミエドは惜しげもなく大切な栞を差し出した。
すると突然後ろから
「雪の鈴?!」
という声と共にマリアが現れて、パッと栞を手にする。
「嘘、だってこれは〝ギルイベント〟のーーー」
「マリアさん!失礼ではなくて?!」
ソフィアが怒って言うと、マリアは我に返って栞をマリミエドに返す。
「あ、ごめんなさい!私驚いてしまって…本当にごめんなさい」
どうやら悪気はなく、本当に驚いているようだった。
それに、ギルイベントとは一体ーーー?
聞く前に、マリアはぶつぶつと呟きながら行ってしまう。
〈…マリアさんの様子がおかしいわ…〉
マリミエドはそう思いながらも、ソフィアと共に雪の鈴についてお喋りに花を咲かせた。
授業が終わり、換気の為に窓が開かれると冷たい風が入ってきた。
〈さっきは風なんて無かった…〉
〝風〟…?
マリミエドはハッとして、教室を出る。
すると、すぐ側のベンチにギルベルトが座っていて手を振る。
「やあ、一緒に学食に行かないか?」
「お兄様…もしや、先程外にいらっしゃいました?!」
マリミエドが真っ赤になって言うので、思わずギルベルトは立ち上がってマリミエドを抱き締める。
「可愛いな~!良かったじゃないか、〝枝〟以外のお友達が出来て」
「おっ…お兄様!!」
マリミエドは兄を突き飛ばすように離す。
「…意地悪ね、そういうのは嫌いだわ」
「悪気は無いんだよ。ただ、寒くないように風を止めようとしたら可愛い声がして…聞こえたら嫌だろうと思って、〝風の結界〟を張ったんだ。…許しておくれ」
苦笑して言うので憎たらしいが、お陰でクラスメイトに聞こえなかったので許した。
「もうしないで下さいね?」
「ああ、約束する」
そう言って、荷物を手に共に学食へ向かった。
31
お気に入りに追加
75
あなたにおすすめの小説

【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。
五月ふう
恋愛
リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。
「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」
今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。
「そう……。」
マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。
明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。
リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。
「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」
ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。
「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」
「ちっ……」
ポールは顔をしかめて舌打ちをした。
「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」
ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。
だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。
二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。
「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」

冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります
真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」
婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。
そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。
脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。
王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。

愛する貴方の心から消えた私は…
矢野りと
恋愛
愛する夫が事故に巻き込まれ隣国で行方不明となったのは一年以上前のこと。
周りが諦めの言葉を口にしても、私は決して諦めなかった。
…彼は絶対に生きている。
そう信じて待ち続けていると、願いが天に通じたのか奇跡的に彼は戻って来た。
だが彼は妻である私のことを忘れてしまっていた。
「すまない、君を愛せない」
そう言った彼の目からは私に対する愛情はなくなっていて…。
*設定はゆるいです。

【短編】復讐すればいいのに〜婚約破棄のその後のお話〜
真辺わ人
恋愛
平民の女性との間に真実の愛を見つけた王太子は、公爵令嬢に婚約破棄を告げる。
しかし、公爵家と国王の不興を買い、彼は廃太子とされてしまった。
これはその後の彼(元王太子)と彼女(平民少女)のお話です。
数年後に彼女が語る真実とは……?
前中後編の三部構成です。
❇︎ざまぁはありません。
❇︎設定は緩いですので、頭のネジを緩めながらお読みください。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
【商業企画進行中・取り下げ予定】さようなら、私の初恋。
ごろごろみかん。
ファンタジー
結婚式の夜、私はあなたに殺された。
彼に嫌悪されているのは知っていたけど、でも、殺されるほどだとは思っていなかった。
「誰も、お前なんか必要としていない」
最期の時に言われた言葉。彼に嫌われていても、彼にほかに愛するひとがいても、私は彼の婚約者であることをやめなかった。やめられなかった。私には責務があるから。
だけどそれも、意味のないことだったのだ。
彼に殺されて、気がつけば彼と結婚する半年前に戻っていた。
なぜ時が戻ったのかは分からない。
それでも、ひとつだけ確かなことがある。
あなたは私をいらないと言ったけど──私も、私の人生にあなたはいらない。
私は、私の生きたいように生きます。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

完結 「愛が重い」と言われたので尽くすのを全部止めたところ
音爽(ネソウ)
恋愛
アルミロ・ルファーノ伯爵令息は身体が弱くいつも臥せっていた。財があっても自由がないと嘆く。
だが、そんな彼を幼少期から知る婚約者ニーナ・ガーナインは献身的につくした。
相思相愛で結ばれたはずが健気に尽くす彼女を疎ましく感じる相手。
どんな無茶な要望にも応えていたはずが裏切られることになる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる