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第一幕 断罪からの始まり
vs11 悪役令嬢を目指します!
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マリミエドが泣き止んだので、エレナが熱い紅茶を淹れ直した。
それを飲みながら、ギルベルトがペンを取る。
「それで、誰を殺ればいいんだい?」
そう言いにっこりと笑うと、マリミエドが少し目を見開いて言う。
「お兄様…まだ、誰も敵ではありませんわ。今の内に、こちらが皆さんを味方にしていけば何も起こらないかもしれませんし…例え何かあったとしても、有利にはなる筈ですわ」
「リュミ…悔しくはないのか?冤罪で斬首刑にされて…復讐しないと、そういう輩はずっと同じ事をするよ?」
「…お兄様、殿下はどうか分かりませんけれど、他の方々は様子が変でしたわ」
「変?」
「〝婚約破棄だ〟と言われた後ろで、何だか虚ろな感じに並んでらして…変な感じだったので、もしかしたら正気では無かったのかもしれませんわ」
「だからといって」
「お兄様、まだ何もしていないのですから、どういう方々なのかを見極めなければなりませんわ」
マリミエドは真剣な眼差しで言う。
周りをよく見て、異変を察知し、時に臨機応変に対応出来るようにと学んできたからこそ、そう言うのだと分かる。
ギルベルトはため息をついてペンを置く。
「ああ分かった。リュミはいつも正しい…」
確かに、何もしていない者に復讐をするのは馬鹿げている。
マリミエドの〝皇后〟的意見を前にしては、何も言えなくなる。
「それでは、何からなさいますか?姫君」
苦笑してギルベルトが尋ねる。
「まずは、〝悪女〟を制する〝悪役令嬢〟を目指そうと思いますの!」
「は?」「え?」
エレナとギルベルトが唖然として言う。
すると、マリミエドはキラキラと瞳を輝かせて話す。
「わたくし、悪役令嬢として2回も断罪されたのだから、きっと〝悪役令嬢〟に向いているのですわ。だから、お望み通りに〝悪役令嬢〟となったら、マリアさんはどう出るのかと思いまして」
「悪役令嬢って…どういう意味か分かっているのか?」
「分かっていますわ。我が国の王女様のように、人を貶め、笑い唆して楽しむ…それが、悪女ですわよね?悪役令嬢は、そんな悪女さえも正せる役なのですわ!」
…悪女と悪役令嬢は同じ意味かと思っていた二人は唖然とする。
エレナは大衆小説を読んでいたのですぐに取り違えているのを納得した。
どうやら悪役令嬢とは、普通に正しい行いをする人間だと思っているのだ、とギルベルトは理解した。
「リュミ…王女に嫌われたら大変じゃないか?後々のお茶会なんかも呼ばれないだろうし、孤立するぞ?」
「大丈夫ですわ!王女は隣国の公爵家に嫁ぎますが、その公爵家は半年後に国外追放となります」
「何?!」
「あの宰相、国税をかなり横領してますの。それを嫁いでいったお姉様が見抜いて、追放の流れになる筈です。前回の時はお父様がかなり喜んで褒めてらしたわ」
「………」
エレナもギルベルトも思わず言葉を失う。
ギルベルトは咳払いをして言う。
「リュミは聖女を目指した方がいいと思うが…」
「…目指しましたわ、最初に」
「え?」
「殿下と両陛下に恥じぬように、聖女を目指して優しく接していたら、散々な目に遭いましたもの。クラス全員から虐められて、聖女を目指す方々から嫉妬されて骨折させられたり、小屋に連れ込ま…いえ。とにかく!それはもうこりごりです。あのマリアさんに対抗するには、堂々として制さなくてはなりませんのよ!」
そう力説する。
そんな目に遭ったのなら、確かに聖女は止めた方がいいだろう。
「分かったよ、協力は惜しまないから何でも言っておくれ」
ギルベルトは苦笑して言う。
するとマリミエドは紙をテーブルに出して羽ペンにインクを付けて書き出す。
「まずは王女様の我が儘や横暴を止めます。しっかりと、勇気をもって…隣国に嫁いだお姉様のように!」
「リュミ…やはりリスクが大きい。そんな事をするくらいならば、私がマリアを処刑するよ」
ギルベルトが眉をひそめて言う。
「…ありがとうお兄様。けれど…マリアさんに勝たない限り、また時を繰り返すような気がするのです…」
「勝つ、というのは…制する事なのですか?」
エレナが問うと、マリミエドは眉をひそめて答える。
「正直、わたくしもそれが正しいかは分かりません。そうする事で余計に喜ばせてしまうだけかも…とは思うわ」
「でしたら…!」
「でも構わないの。どうやっても、王太子殿下はマリアさんを好きになるのだもの…」
その会話を聞いて、ギルベルトは考える。
〈叱っても、あの女は喜んで吹聴するだろう…〉
〝マリミエド様に虐められたんです~〟と言いながら王太子などに嘘泣きをして縋り付く姿が想像出来る。
マリミエドはそれをしようとしているのだ。
〈悪役令嬢……〉
そもそもギルベルトには〝悪役令嬢〟というものが分からない。
「リュミ、王女殿下のパーティの後にまた話し合わないか?私はまだ〝悪役令嬢〟とは何かを理解していないんだ。だから、パーティーで理解を深めようと思う…それでいいかな?」
「ええ。共に悪役令嬢について学びましょうね!」
そう笑顔で言ってから、考えた作戦を話す。
「それでは、エレナは当日の王女殿下を取り巻く方々の言動を一つ残らず陰でメモして。わたくしがする事によってどうなるか…わたくしも努力するわ。お兄様は、殿方の皆さんがマリアさんをどのように思われているかを調べて下さい」
「かしこまりました」
エレナが答え、ギルベルトは頷いた。
そして、日も傾いてきたのでそれぞれの部屋に戻る事となった。
それを飲みながら、ギルベルトがペンを取る。
「それで、誰を殺ればいいんだい?」
そう言いにっこりと笑うと、マリミエドが少し目を見開いて言う。
「お兄様…まだ、誰も敵ではありませんわ。今の内に、こちらが皆さんを味方にしていけば何も起こらないかもしれませんし…例え何かあったとしても、有利にはなる筈ですわ」
「リュミ…悔しくはないのか?冤罪で斬首刑にされて…復讐しないと、そういう輩はずっと同じ事をするよ?」
「…お兄様、殿下はどうか分かりませんけれど、他の方々は様子が変でしたわ」
「変?」
「〝婚約破棄だ〟と言われた後ろで、何だか虚ろな感じに並んでらして…変な感じだったので、もしかしたら正気では無かったのかもしれませんわ」
「だからといって」
「お兄様、まだ何もしていないのですから、どういう方々なのかを見極めなければなりませんわ」
マリミエドは真剣な眼差しで言う。
周りをよく見て、異変を察知し、時に臨機応変に対応出来るようにと学んできたからこそ、そう言うのだと分かる。
ギルベルトはため息をついてペンを置く。
「ああ分かった。リュミはいつも正しい…」
確かに、何もしていない者に復讐をするのは馬鹿げている。
マリミエドの〝皇后〟的意見を前にしては、何も言えなくなる。
「それでは、何からなさいますか?姫君」
苦笑してギルベルトが尋ねる。
「まずは、〝悪女〟を制する〝悪役令嬢〟を目指そうと思いますの!」
「は?」「え?」
エレナとギルベルトが唖然として言う。
すると、マリミエドはキラキラと瞳を輝かせて話す。
「わたくし、悪役令嬢として2回も断罪されたのだから、きっと〝悪役令嬢〟に向いているのですわ。だから、お望み通りに〝悪役令嬢〟となったら、マリアさんはどう出るのかと思いまして」
「悪役令嬢って…どういう意味か分かっているのか?」
「分かっていますわ。我が国の王女様のように、人を貶め、笑い唆して楽しむ…それが、悪女ですわよね?悪役令嬢は、そんな悪女さえも正せる役なのですわ!」
…悪女と悪役令嬢は同じ意味かと思っていた二人は唖然とする。
エレナは大衆小説を読んでいたのですぐに取り違えているのを納得した。
どうやら悪役令嬢とは、普通に正しい行いをする人間だと思っているのだ、とギルベルトは理解した。
「リュミ…王女に嫌われたら大変じゃないか?後々のお茶会なんかも呼ばれないだろうし、孤立するぞ?」
「大丈夫ですわ!王女は隣国の公爵家に嫁ぎますが、その公爵家は半年後に国外追放となります」
「何?!」
「あの宰相、国税をかなり横領してますの。それを嫁いでいったお姉様が見抜いて、追放の流れになる筈です。前回の時はお父様がかなり喜んで褒めてらしたわ」
「………」
エレナもギルベルトも思わず言葉を失う。
ギルベルトは咳払いをして言う。
「リュミは聖女を目指した方がいいと思うが…」
「…目指しましたわ、最初に」
「え?」
「殿下と両陛下に恥じぬように、聖女を目指して優しく接していたら、散々な目に遭いましたもの。クラス全員から虐められて、聖女を目指す方々から嫉妬されて骨折させられたり、小屋に連れ込ま…いえ。とにかく!それはもうこりごりです。あのマリアさんに対抗するには、堂々として制さなくてはなりませんのよ!」
そう力説する。
そんな目に遭ったのなら、確かに聖女は止めた方がいいだろう。
「分かったよ、協力は惜しまないから何でも言っておくれ」
ギルベルトは苦笑して言う。
するとマリミエドは紙をテーブルに出して羽ペンにインクを付けて書き出す。
「まずは王女様の我が儘や横暴を止めます。しっかりと、勇気をもって…隣国に嫁いだお姉様のように!」
「リュミ…やはりリスクが大きい。そんな事をするくらいならば、私がマリアを処刑するよ」
ギルベルトが眉をひそめて言う。
「…ありがとうお兄様。けれど…マリアさんに勝たない限り、また時を繰り返すような気がするのです…」
「勝つ、というのは…制する事なのですか?」
エレナが問うと、マリミエドは眉をひそめて答える。
「正直、わたくしもそれが正しいかは分かりません。そうする事で余計に喜ばせてしまうだけかも…とは思うわ」
「でしたら…!」
「でも構わないの。どうやっても、王太子殿下はマリアさんを好きになるのだもの…」
その会話を聞いて、ギルベルトは考える。
〈叱っても、あの女は喜んで吹聴するだろう…〉
〝マリミエド様に虐められたんです~〟と言いながら王太子などに嘘泣きをして縋り付く姿が想像出来る。
マリミエドはそれをしようとしているのだ。
〈悪役令嬢……〉
そもそもギルベルトには〝悪役令嬢〟というものが分からない。
「リュミ、王女殿下のパーティの後にまた話し合わないか?私はまだ〝悪役令嬢〟とは何かを理解していないんだ。だから、パーティーで理解を深めようと思う…それでいいかな?」
「ええ。共に悪役令嬢について学びましょうね!」
そう笑顔で言ってから、考えた作戦を話す。
「それでは、エレナは当日の王女殿下を取り巻く方々の言動を一つ残らず陰でメモして。わたくしがする事によってどうなるか…わたくしも努力するわ。お兄様は、殿方の皆さんがマリアさんをどのように思われているかを調べて下さい」
「かしこまりました」
エレナが答え、ギルベルトは頷いた。
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