天然公女は諦めない!〜悪役令嬢(天然)VS転生ヒロイン〜

紗々置 遼嘉

文字の大きさ
上 下
19 / 164
第一幕 断罪からの始まり

vs03 差し入れの効果

しおりを挟む
サンリエド高等学校に着いてまず、マリミエドは学校内の礼拝堂に向かう。
そこに、皇后陛下の〝天使の涙〟があるからだ。
〝天使の涙〟は
 「サンリエド高等学校から、聖女が誕生する」
という女神の啓示を受けた皇后陛下が、その聖女に捧げる為に置かせた物だ。

神々の銅像が左右にあり、奥に知識と音楽の女神ヘイティアの銅像がある。
その手に、天使の涙が置かれている。
正しくは、ネックレスを掲げているのだ。
〈…ああ、いつ見ても美しく、神々しいわ…〉
ほう、とため息をつきながら見上げて、マリミエドはハッとする。
〈これじゃ駄目よ!!また首を刎ねられたいの、マリミエド!!しっかりなさい!!〉
そう自分を叱咤して、キッと近くにいる近衛兵を見る。
〈…変だわ…〉
マリミエドはキョロっと礼拝堂を見回す。
ここには近衛兵が10人、必ず交代で昼夜警備している。
あの〝天使の涙〟を盗むのは不可能だ。
内部の手引きでも無い限りは!
〈まさか…これも、マリアさんが…?!〉
マリアはいつも近衛兵にまで差し入れを渡していた。
作った菓子やパンなど…。
そんなに大量に一人で毎日作れるのだろうか?
〈誰か、協力者がいるのね〉
一度、情報を整理しなくては…。
マリミエドは祈りながら考える。

マリアは、去年の冬に転入してきた。
この国には、毎年平民の中から5人だけ神殿の選んだ者を、この貴族だけが通えるサンリエド高等学校に通わせている。
国民達の支持を保つ為でもあるが、たまに神聖力の高い平民の者がいるので、その者を聖者として神殿に仕えさせる為だ。
そして、誰が聖女となるかわからないから人員を増やした…とも言われている。
〈聖女は、国に繁栄と栄光をもたらす存在…〉
聖女が国を浄化して、繁栄する…と、言い伝えがある。
マリアは平凡な村娘だと聞いたが……。
ここでいきなり自分が持ち去るのは無理がある。
〈…様子を、みましよう〉
あの〝天使の涙〟を天使のマリアがどうやって手に入れるのかを、まずはじっくりと観察して…その場で取り押さえた方が良くはないだろうか?

礼拝堂を出て、すぐに隠れて中の様子をうかがった。
すると、バスケットを手にしたマリアが笑顔でやってくる。
「皆さん、いつもお疲れ様です~!これ、差し入れです!」
笑顔と共にクッキーの入った袋を渡していくマリアは、確かに天使のように見える。
「いつもありがとな」
「いいえ~当然の事をしているだけです!皆さんが、あの天使の涙を守ってくださっているんだもの」
「はは!…そうだ!近くで見てみるかい?」
「え?いいんですか!?」
マリアが笑顔で言うと、近衛兵達はうなずく。
〈な、なにを…?!〉
マリミエドが困惑している間に、近衛兵はネックレスを手にしてマリアに渡した。
〈なっーーー!!〉
マリミエドは思わずカッと目を見開いて、ザッとマリアの前に出た。
「貴女!自分が聖女にでもなったおつもりなの?!それをお離しなさい!!」
「きゃ…」
バッとマリアから〝天使の涙〟を奪い取ると、マリミエドはキッと近衛兵達を睨み付けた。
「この高貴なる宝石がどんな物かも分からないの?!それでも近衛兵?!」
「お、俺達は…も、申し訳ありません!」
近衛兵達は全員跪いて許しを請う。
マリアだけが、一瞬顔を歪めた後に手を口に添えて涙ぐんだ。
「ご、ごめんなさい…私、あまりに綺麗だったから…ただ見たくて!」
「見るだけなら遠くからになさい!皇后陛下の下賜かしされた物をむやみやたらと触って良いとお思いなの?!」
そう言い、マリミエドは自分の持っていたハンカチで〝天使の涙〟をくるみながら拭く。
「…ここの近衛兵では信用ならないわ。天使の涙は、わたくしが学院長…いえ、皇后陛下のもとに持っていきます!」
少し考えてから言う。
そういえば、マリアが学院長にも差し入れをしていたのを思い出したからだ。
「それでは失礼」
マリミエドは一礼して優雅にその場を後にした。

木陰に隠れて、マリミエドは胸を押さえる。
〈マリアさんと対峙したわ…っ!〉
ドッドッドッと鼓動が体中に鳴り響く。
まだ、斬首された時のマリアの見下した笑みが忘れられなくて、手が震えている。
〝天使の涙〟を手にはしたが、このままではマリミエドが盗んだ事にされてしまう。
それは宜しくない…。
それに、手にして分かった。
 これは、本当に聖女となる者の手に渡るべき品物だ、と。
あんな偽天使のマリアが手にしては穢れてしまう。
マリミエドはキッと空を睨んで歩き出した。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。

五月ふう
恋愛
 リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。 「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」  今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。 「そう……。」  マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。    明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。  リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。 「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」  ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。 「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」 「ちっ……」  ポールは顔をしかめて舌打ちをした。   「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」  ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。 だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。 二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。 「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」

冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります

真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」 婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。  そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。  脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。  王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。

愛する貴方の心から消えた私は…

矢野りと
恋愛
愛する夫が事故に巻き込まれ隣国で行方不明となったのは一年以上前のこと。 周りが諦めの言葉を口にしても、私は決して諦めなかった。  …彼は絶対に生きている。 そう信じて待ち続けていると、願いが天に通じたのか奇跡的に彼は戻って来た。 だが彼は妻である私のことを忘れてしまっていた。 「すまない、君を愛せない」 そう言った彼の目からは私に対する愛情はなくなっていて…。 *設定はゆるいです。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

【商業企画進行中・取り下げ予定】さようなら、私の初恋。

ごろごろみかん。
ファンタジー
結婚式の夜、私はあなたに殺された。 彼に嫌悪されているのは知っていたけど、でも、殺されるほどだとは思っていなかった。 「誰も、お前なんか必要としていない」 最期の時に言われた言葉。彼に嫌われていても、彼にほかに愛するひとがいても、私は彼の婚約者であることをやめなかった。やめられなかった。私には責務があるから。 だけどそれも、意味のないことだったのだ。 彼に殺されて、気がつけば彼と結婚する半年前に戻っていた。 なぜ時が戻ったのかは分からない。 それでも、ひとつだけ確かなことがある。 あなたは私をいらないと言ったけど──私も、私の人生にあなたはいらない。 私は、私の生きたいように生きます。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

アルバートの屈辱

プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。 『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。

旦那様、そんなに彼女が大切なら私は邸を出ていきます

おてんば松尾
恋愛
彼女は二十歳という若さで、領主の妻として領地と領民を守ってきた。二年後戦地から夫が戻ると、そこには見知らぬ女性の姿があった。連れ帰った親友の恋人とその子供の面倒を見続ける旦那様に、妻のソフィアはとうとう離婚届を突き付ける。 if 主人公の性格が変わります(元サヤ編になります) ※こちらの作品カクヨムにも掲載します

処理中です...