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1巻
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セラフィナは大通りを歩きながら、頭の中で夕方からの仕事と、そのあとのエリナーへの授業の計画を練っていた。
現在はエリナーに衣食住すべてを提供され、日々の賃金までしっかりともらっている。しかし、未熟な自分の労働がそれに見合っているとは思えない。もっと役に立てないかと頭を捻っていたとき、エリナーが文字の読み書きや数字の計算が苦手であることを知った。そこでセラフィナはエリナーにこんな提案をしたのだ。
『女将さん、私が先生になります。言葉や数字には自信があるんです』
習得するまで経理と事務も手伝うと言ったら、エリナーはセラフィナの申し出に目を瞬かせた。
『本当にいいのかい? 時間を取ってしまうよ?』
『もちろん大丈夫ですよ。何時間だって構いません』
セラフィナが胸を叩いてそう答えると、エリナーは手を取って喜んでくれた。
『あんたは神様が遣わしてくださった天使だ』
エリナーいわく、平民の女性の学力は誰もみな同じようなものらしく、彼女たちにとって教育そのものが贅沢なのだそうだ。
セラフィナはその話を聞いてから女性に教育を施す重要性を実感し、もっとできることはないだろうかと考えることになった。まだうまくまとまらないのだが、私塾などが効率的かもしれないと思う。
だが、さしあたってはエリナーの授業だ。文法のどのあたりを教えようかと悩みながら歩く。食堂がある通りに差しかかったところで、セラフィナは異変を察知し足を止めた。
食堂の出入り口に三頭の馬がつけられているが、夕方の開店には少々早く、客がくるのは不自然なのだ。セラフィナはそろそろと出入り口から顔を覗かせた。
「女将さん……?」
中ではエリナーと複数の男性が言い争っていた。
「だから、そんな娘は知らないって言っているだろう? 確かに似たような目の色はしているけどね、うちのフィーナはもっと美人だよ!!」
「そんなはずはない。近隣の住人はこの似顔絵そっくりだと言っていたぞ。言葉遣いや発音がどことなく平民とは違うともな」
セラフィナは扉に手をかけたまま立ち尽した。身体が一気に凍りつき動いてくれない。エリナーがセラフィナの気配にはっとなり、男たちの肩越しに目を向ける。その視線を追い、男たちが揃って振り返った。三人のうち二人が手の中の紙とセラフィナを交互に見比べ、頷き合ってからゆっくりと彼女に近づく。
「セラフィナ様ですね?」
「……っ」
「お父上のご命令でお迎えにまいりました」
恐れていたことが現実になり、セラフィナは言葉を発することすらできなかった。
「フィーナ、逃げるんだよ!!」
食堂にエリナーの叫び声が響き渡る。セラフィナはその声に我に返り、弾かれたように通りへ飛び出した。心臓の鼓動が全身にこだましている。全速力での疾走で喉と肺が擦り切れそうになっているセラフィナの頭の中は、疑問でいっぱいだった。
なぜ今更探しにきたのか。顔を見たくもない娘ならば、なぜ放って置いてくれないのか。なぜやっと見つけた居場所を、生き方を奪おうとするのか。
セラフィナはどこに逃げるべきなのかわからないまま、ひたすら足を動かすしかなかった。だが、角を曲がったところで、はっと我に返る。
食堂から反射的に逃げ出してしまったが、残されたエリナーはどうなってしまうのだろうか。エリナーはセラフィナの正体を知らなかったとはいえ、結果的にヘンリー・レノックス子爵に、すなわち貴族に逆らった形になる。なんの力もない平民の女性が、はたしてどう裁かれ、どう罰せられるのか。
セラフィナは、すぐに戻らなければと身を翻した。生家に帰りたくない、貴族に戻りたくないなどと言ってはいられない。ところが数歩走った途端、風に流された髪に視界を塞がれる。
「きゃ……!!」
不意に勢いを削がれて均衡を崩し、前のめりで転びそうになる。セラフィナは目を閉じ、続いてくるはずの衝撃を待った。だがその身体を受け止めたのは、かたい地面ではなく、甘さをかすかに含んだ大人の香りと、広くたくましい男性の胸だったのだ。
「おっと」
どうやら通行人の男性にぶつかってしまったらしい。
「も、申し訳ありません。お、お詫びはあとでさせていただきます」
セラフィナは体勢を立て直すが早いか、元きた道を引き返そうとする。しかし、がくんと身体が仰け反り、力ずくで引き戻されてしまった。
「なっ……」
何事かと振り返り、思いがけない状況に驚いた。男性がセラフィナの手首を強く掴んでいたのだ。
「どこへいく? まさかあの店に戻るとでも?」
そう聞いてくる彼に目を向けたとき、聖書にある神に逆らい堕天した大天使、かつてもっとも光り輝き美しかった者――魔王が舞い降りたのかと錯覚し、セラフィナは目を瞬いた。髪も瞳も混じり気のない漆黒に見える。端整な顔立ちに謎めいた眼差しと長身の身体は、その場に立つだけで貴婦人らの目を奪うだろう。
どこかで会ったことがある気もしたが、セラフィナには男性の容姿に魅せられている暇などなかった。
「だ……誰っ!? 放して! 放してください!!」
この男性もレノックス家の手の者だと思い込み、掴まれた手を振り解こうと全力で暴れる。振り回したセラフィナの右手が男性の頬をかすり、彼はかすかに顔をしかめた。
「……まったくとんだお転婆の早とちりだな。私は君の父上の手下ではないぞ」
髪や目と同じ艶のある声で呟き、ぐいとセラフィナを引き寄せる。
「あっ……」
次の瞬間には、男性はセラフィナの背と膝の裏に手を回し、軽々と身体を抱き上げていた。
「なっ……!!」
「ジョーンズ!!」
男性の声が通り一帯に響き渡ると、すぐに角から黒塗りの馬車が現れた。セラフィナはその側面に刻み込まれた家紋に首を傾げる。黒い盾の中で鷲の上半身に獅子の下半身、黄金の翼をはためかせる獣が天を見上げていた――伝説の聖獣グリフィンだった。
セラフィナはこの家紋を知っている。だがどこの貴族だったかと記憶を辿る間に、扉が開かれ痩せた中背の若い男性が現れた。恐らく彼がジョーンズなのだろう。濃い茶の髪と瞳をしていて、顔立ちは整っているにもかかわらず印象の残らない不思議な男性だ。
「グリフィン様、どうぞ」
ジョーンズが男性を中へ招き入れると、男性はセラフィナを抱えたまま馬車に乗り込む。
「すぐに出せ」
セラフィナは我に返り男性の胸の中で暴れたが、そのころには馬車はすでに走り出していた。男性は追っ手がいないことを確認し、ようやくセラフィナを隣に下ろして座らせる。セラフィナは間髪を容れずに男性に詰め寄り、シミ一つない純白のシャツの襟首に縋りついた。
「帰して、帰してください!!」
ところが男性は少しも怯まず、セラフィナの手にみずからの手を重ねた。
「君はあの連中に捕まりたいのか?」
「だって……!!」
「逃がしてくれたというのなら、相手の意思を無駄にすべきではない。それはすでに裏切りになるぞ、セラフィナ・グレイシー・レノックス子爵令嬢」
セラフィナは名前と身分を言い当てられて口ごもり、あらためて男性が誰なのか疑問に思った。
「あなたは……?」
男性は唇の端をかすかに上げて笑う。
「あの日ダンスを君に断られた哀れな男さ」
あの日、ダンス、と単語を並べ立てられても、セラフィナにはなんのことだかさっぱりわからなかった。もしかしたら以前会ったことがあるのかもしれないが、結局、男性の正体がわからず、ぽかんと見つめるばかり。
「……忘れられていたとは思わなかったな。私は忘れようと思っても、忘れられなかったのだが」
男性は足を組みセラフィナの顔を覗き込んだ。
「私個人を覚えていないのなら、まずは名乗ることにしようか。私はグリフィン・レイヴァース・ハワード。ブラッドフォード公とも呼ばれている」
驚愕に、セラフィナの腰が席から浮いた。なぜグリフィンの紋章を見た時点で思い出さなかったのかと、おのれを呪う。
グリフィン・レイヴァース・ハワード、またの名をブラッドフォード公。大都市ブラッドフォードを中心とした、広大な領地と莫大な財産を持ち、王家とは血の上でも縁が深い公爵家の筆頭だ。
「どうして、公爵ともあろう方が、私を、助けたのですか……?」
震えながら問うセラフィナに、男性は――公爵は、微笑みを浮かべて答えた。
「まずは場所を変えようか」
やはり魔王を思わせる、美しく不吉な微笑みだった。
セラフィナはそのあとも逃げ出そうと隙を窺ったのだが、公爵本人やジョーンズ、護衛らしき黒服らの監視により、結局それは叶わなかった。なぜ公爵が自分を攫ったのか、その意図をいくら考えてもわからない。
尋ねてみたところで、公爵は微笑みを浮かべるばかりで、セラフィナになにも教えようとしなかった。レノックス家に送るつもりはないことだけは救いだったけれど、いずれにせよ公爵の意のままなのだ。
「……っ」
セラフィナは膝の上で拳を握り締めた。おのれはまるで川に落ちた一枚の木の葉だと悔しく思う。家族に、公爵に、社会に、時代に、それらが渾然一体となった流れに翻弄されるだけ。そんな弱々しい自分はもう嫌だった。川が逃れられない人の一生だというのなら、ただ流される木の葉ではなく、舟の漕ぎ手となり行き先を決めたかった。それだけの強さが欲しいと心から願う。
「セラフィナ様」
ジョーンズに名を呼ばれ、セラフィナははっと顔を上げた。
「このような場で申し訳ございません」
一時間をかけて連れてこられた場所は、二つ先にある大きな街だった。セラフィナもお使いで一度だけきたことがある。食堂のある町とは異なり、人口が多く栄えている街で、人や馬車の行き来が激しい。中央から木材や布地、穀物などの物資が運び込まれ、一大集積地となっているのである。
ジョーンズが馬車の窓を開け、一軒の立派な宿屋を示した。
「あちらでお話を聞いていただきます」
かつては商人の屋敷だった建物を、高級な施設として改装した宿屋だった。馬車が止まり、扉がゆっくりと開けられる。公爵は唇の端に笑みを浮かべつつ、セラフィナに手を差し伸べた。そのまま彼にエスコートされ、二階にある東側の部屋へ案内される。
「ブラッドフォードには負けるが、ここもよい眺めだな」
公爵は窓辺に手をかけ街を見渡してから、セラフィナを振り返った。
「では、早速本題に入ろうか。セラフィナ、私と結婚しないか? 君は私の花嫁となる条件に最適だ」
「……は?」
あまりに唐突で飾り気のないプロポーズに、セラフィナは数秒、意味が理解できなかった。
「……結婚、ですか?」
「ああ、そうだ」
呆然とする彼女に、公爵ははっきりと頷く。
「私は昨年父を亡くし爵位を継承したが、あくまで仮のものでしかない。ハワード家には代々の家訓があり、それに従わなければ当主とは認められないからだ」
セラフィナには話がどこへ向かうのかまったく見えなかった。公爵は彼女の戸惑いを置き去りにしたまま続ける。
「正式なブラッドフォード公となるには、教会から承認された正妻が必要だとされている。セラフィナ、君にその妻となってもらいたい」
「……なぜ、私なのですか?」
さすがにこの状況、この台詞で、大貴族に見初められたと喜ぶほどおめでたくはない。なにか目的があるのだと考えるのが自然だ。
「閣下がご存知かどうかはわかりかねますが、私は一年前にスペンサー伯爵家に婚約を破棄され、社交界に醜聞を残しております。そのような女が妻となり、公爵家の歴史に泥を塗るなど、この身には恐れ多過ぎます」
遠回しの拒絶に公爵の眉がかすかに上がる。
「私の誘いを二度もはねつけたのは君が初めてだ」
公爵は窓の縁から手を離すと、部屋を横切りセラフィナの目の前に立った。見上げるほどの背丈と悪魔を思わせる美しさに圧倒され、セラフィナは思わずあとずさる。しかし、公爵は一歩、また一歩と、獲物を追いつめるかのように、セラフィナとの距離を縮めていく。セラフィナを壁際に追いやった公爵は、彼女の頭上に右の肘と拳を当て、顔を近づけた。睫毛が触れ合いそうな間合いから、セラフィナの顔を楽しげに見つめる。
「公爵家の歴史と君は言うが、ハワード家の興りは国王の愛人が産んだ私生児だ。王位は王妃より生まれた嫡男にのみ与えられ、不義の子はなに一つ得られないと知った女は、息子に高位の爵位と領地を与えようと宮廷を奔走した。そのために国王だけではなく、王族に、廷臣に……はたしてどれだけの男性に媚びと身を売ったのか。その息子がグリフィン・レイヴァース・ハワード――私と同じ名を持つ初代だ」
公爵は拳を壁に強く叩きつけた。壁を貫かんばかりの衝撃に、セラフィナの身体がびくりと震える。公爵は怯える彼女の顎を掴んだ。
「そうした情婦の子孫だからこそ、我が一族は却って正式な結婚と花嫁の血筋にこだわる。当主の正妻となる女は嫡出子であるのと同時に、父母ともに五代を遡り貴族でなければならない――それだけが条件だ」
公爵の力強さにセラフィナはおののいた。この人は怖い、逃げなければと思うのに、悪魔に魅入られたように身体が動かない。公爵はそんなセラフィナの頬を、優しさすら感じる手つきで包み込んだ。
「セラフィナ、君はレノックス子爵家とカーライル伯爵家の血を引いている。いずれも五代以上前から貴族だが、中央での権力がほとんどない。私にとっては実に好都合だ。もちろん君にもメリットがある」
「メリット……?」
「結婚から二年後に、私と君は離婚する」
彼は手を離すと踵を返し窓辺へと戻る。セラフィナはわけがわからず、広い背を見るばかりだった。
「結婚から二年後には離婚……?」
公爵はふたたび窓の外へ目を向ける。
「二年間の婚姻後も子どもができないようなら、当主の権限により離婚が認められているからだ。私は妻も子もいらない。跡継ぎなど従兄弟やその子息がいくらでもいる。だが、体裁は必要だ」
セラフィナはそこでようやく公爵が自分に結婚を申し込んだ理由を悟った。ハワード家と釣り合う高位貴族の出身の正妻では、離婚となれば相手の実家が黙っていない。子どもができないとの噂が広まれば、そのあとの再婚も難しくなるからだ。
ところがレノックス家に政治的な影響力はない。それにセラフィナ本人もエドワードの一件で立場を失っており、初婚でのまともな結婚は望めなくなっている。失うものはなにもないと考えられているのだ。公爵の低く、艶のある声がセラフィナに告げる。
「君には来年から二年、私の妻としての役割を果たしてもらうこととなる。もちろんその間の重責と労苦を上回る報酬を渡そう」
セラフィナは妻とも結婚とも結びつきにくい、報酬という単語に首を傾げた。
「報酬とは……?」
公爵は身体の向きをゆっくりと変え、唇の端だけでかすかに微笑むと、セラフィナの目を見つめる。
「私は君の大切な女将さんを救える」
「……!!」
「それに加えて君が望むものをなんでもやろう」
セラフィナは目を床に落として彼の言葉を繰り返した。
「私が望むもの……」
――そんなものは自問自答するまでもなくわかっていた。ゆっくりと顔を上げると、一言一言を区切り、噛み締めるように告げる。
「……かしこまりました。お申し込みを、お受けします」
「賢明な選択だ。では、なにが欲しい? 言ってみるといい。一切の遠慮は必要ない」
セラフィナは背を伸ばして真っ直ぐに彼を見据えた。
「それでは、自由をいただきたく存じます」
セレストブルーの瞳に輝く光に、公爵がはっとした顔になる。セラフィナは決して目を逸らさなかった。
「二年の勤めのすべてが終わりましたら、レノックス家の娘ではなく、ハワード家の妻でもなく、自由の身となる保証をください」
室内に沈黙が落ちる。それは一分にも満たなかったが、セラフィナには五分にも、十分にも感じられた。公爵が一言も発さずに、自分を凝視していたからだ。
「……君はずいぶん変わったものを欲しがる」
やっと出た一言がそれだった。
「では、君にとっての自由とはなんだ?」
公爵の挑むような問いかけに、セラフィナはやはり迷いなく答える。
「自分の意志で自分の生き方を決める権利です」
きっぱりとした声は意志の強さの表れでもあった。
口約束での契約がまとまったのち、公爵はセラフィナの希望どおりに、一旦は食堂へ送り届けてくれた。そして明朝にはブラッドフォードに出発するから、荷物をまとめ、別れを惜しんでこいと言われる。
馬車で町中に差しかかった途端に、セラフィナは安堵から涙が滲んだ。ほんの数時間離れていただけだというのに、一年ぶりにも、五年ぶりにも、十年ぶりにも感じる。
怒涛のような一日だったセラフィナとは対照的に、町は普段と変わらぬ様子だ。宿屋の女将は二階のバルコニーからシーツを干し、八百屋の店主は店頭からしなびたキャベツを取り除いている。慣れ親しんだ食堂の出入り口の前にきたところで、セラフィナは同乗しているジョーンズに声をかけた。
「ここでお願いします」
ジョーンズは御者に命じ馬車を止め、セラフィナを降ろす。彼女に外套を羽織らせ顔を隠させると、耳元でこう囁いた。
「一時間以内でお願いします」
セラフィナは小さく頷き、出入り口をくぐる。食堂からはいつもどおり、野菜やハーブ、鶏肉、土埃が混じったにおいがした。セラフィナはほっとするのと同時に、テーブルを拭くエリナーを発見する。
「女将さん……!!」
エリナーは顔を上げると目を見開き、布巾を落としてセラフィナに駆け寄った。
「……フィーナ!! あんた、どこにいっていたんだい。大丈夫だったのかい!?」
「すいません、本当にすいません。大変な迷惑をかけてしまいました」
「いいんだよ、もうなんでもいいんだよ」
エリナーは謝罪を繰り返すセラフィナの肩を叩いた。セラフィナはエリナーを見上げ、怪我などがないか確認する。エリナーは彼女の不安を見て取ったのか、腕を曲げて頼もしい力こぶを作った。
「このとおり、ピンピンしてるよ」
エリナーはそう言って笑顔を見せたものの、溜め息を吐き不思議そうに店内を見回す。
「あのあと、馬車に押し込まれたと思ったら、今度は黒服の連中に助け出されてね。連れ戻されて店も元どおりにしてくれたんだよ。けど、なにがなんだかさっぱりわからなくて……」
公爵は約束を守ってくれたのだと、セラフィナは胸を撫で下ろした。レノックス家には圧力をかけ、それ以上手出しができないようにしたのだろう。迅速な救出に舌を巻きつつ感謝する。
「それよりフィーナ、あんたは大丈夫だったのかい? なにかひどいことはされなかったかい?」
エリナーは知りたいことが多くあるだろうに、セラフィナの身を案じている。なぜこの人はこれほど優しいのかと涙が零れそうになった。それでも今は泣くわけにはいかない。
「お、かみさん、話さなくちゃ、いけないことが、あるんです……」
思わず声が震えてしまう。これまで世話になったエリナーには、事情を説明しなければならなかった。ただし、公爵からは結婚の契約については、決して誰にも話すなと言われている。すべてを告げられないのに後ろめたさを覚えながら、セラフィナはまずはおのれの正体を明かした。
「実は私……私は貴族なんです」
カウンター席に腰かけ覚悟を決めて話し始める。なんと言われるのかが恐ろしかった。ところがエリナーは「なんだ」と呟くと、セラフィナの背を二度優しく叩いたのだ。
「あんたがいい家の子なんだってことくらい、初めから知っていたよ」
セラフィナには言葉遣いにも仕草にも気品があり、平民の娘ではないとすぐにわかったのだとエリナーは言う。
「だったら、どうして……」
エリナーはセラフィナの隣にゆっくりと座ると、ここではないどこかを見る眼差しになった。
「昔、私にも亭主と娘がいたんだ。でも、二人とも流行り病で死んでしまった。何年もかけてどうにか立ち直り、ひとりで生きていくために食堂を構えたんだよ」
その経営が軌道に乗ったころ、この町でセラフィナに出会ったのだそうだ。
「娘はあんたと同じ髪の色で、あんたと会った日が誕生日だったんだ。だから、私はあの子が生まれ変わって帰ってきてくれたんだって思った。あんたと一緒にいられて、本当に嬉しかったんだ」
エリナーは深く重い溜め息を吐いた。
「あんたを利用したのは、私のほうだったんだよ。娘の代わりにそばにいてくれれば、あんたの正体なんて、なんだってよかった」
セラフィナは思いがけないエリナーの過去に、胸が熱くなるのを感じていた。無償の愛情に近いあの優しさは、母親のものだったのだと今ならわかる。
「女将さん、私もここが家だと思っています。早くここに帰りたいと思っています」
「……? フィーナ、なにがあったんだい? しばらく戻らないつもりかい?」
セラフィナは言葉を慎重に選びつつ、エリナーにかいつまんで説明した。
「実は、今回父に連れ戻されそうになったんですが、ある方が私も女将さんも庇ってくれたんです。お礼にその方のおうちで何年か働くことになって……なんでも人手不足で困っているそうで」
「まあ、確かにあんたは料理も掃除もうまいからねえ」
エリナーはどうやら働くという意味を、メイドをすると勘違いしているらしい。偽装結婚の妻を演じろと求められたなどと、普通は誰も思いつかないだろう。
「そのお勤めが終わったら、帰してくれるって約束してもらったんです。だから、女将さん、私……ここに帰ってきてもいいですか?」
セラフィナはエリナーの答えを、裁きを受ける思いで待った。
「当たり前だろう?」
エリナーはふわりと笑い、セラフィナの頭に手を乗せる。
「ここはあんたのうちでもあるんだからね」
その手はいつもと変わらぬ慈しみに満ちていた。
◇◆◇◆◇
グリフィンは宿屋の窓辺に立ち、通りを忙しく行き来する荷馬車の一団を眺めていた。
今ごろセラフィナはエリナーとの別れを惜しんでいるのだろう。取り交わした契約により、彼女には結婚から二年間は平民や下層階級との接触を禁じている。形ばかりの妻とはいえ、ハワード家の奥方として、取り囲まれる衣・食・住・人は、すべてが一流品でなければならないからだ。
当初、セラフィナは契約結婚の候補にはあげていなかった。けれど、去年参加した舞踏会で、あのセレストブルーを見た瞬間、気づくと彼女に手を差し伸べていた。なぜか、セラフィナがこの手を取ると信じて疑わなかったのだ。
ところが、婚約者がいるからと、あっさり振られてしまう。女性に断られるなど初めてだったグリフィンは、らしくもない捨て台詞を吐いて、引き下がるしかなかった。その直後に、セラフィナとエドワードの婚約破棄の茶番劇である。アルビオンの社会は女性に厳しく、婚約破棄された令嬢は、傷物だとみなされる。セラフィナはどういう反応をするのだろうと思っていたら、意外にも彼女は背筋を伸ばしてエドワードに反論した。
堂々としたその姿勢に感心するのと同時に、これは絶好の機会なのではないかと考えた。貴族令嬢としての立場を失った今のセラフィナに求婚すれば、断られることはまずない。なにより二年間であれ結婚するのなら、美しく凛とした眼差しを持つこの娘がいい。きっと退屈しないだろうと感じたのだ。
ブラッドフォードで準備が整い次第、正式に求婚の使者を出すはずだったのだが、同じころに長く臥せっていた父が亡くなった。そのあとは葬儀に、相続の手続きにと目まぐるしく、また喪中であったために求婚が後回しになってしまった。ようやく落ち着きを取り戻し、今度こそと動き出したところで、セラフィナが行方不明だと知る。レノックス家は、表向きは療養中だと告げていたけれど、その療養先に彼女の姿はなかったのだ。
グリフィンはもしや家出をしたのかと勘繰るも、さすがにそれはないだろうとおのれを笑った。セラフィナは歴とした貴族の令嬢である。その令嬢が誰の手助けもなしに、たったひとりで家を出るなどありえない――そう、ありえないと思っていたのだ。
けれど、セラフィナは本当に家出をし、平民として労働に従事していた。彼女は意外に気が強いだけではなく、跳ねっ返りなところもあるのだと、グリフィンはいつになく愉快になった。妻にするならば、やはりあの娘がいいと思ったグリフィンは、みずから町へ赴いた。そしてようやく再会した彼女に契約結婚を迫ったのである。
グリフィンは天を一面に染める、抜けるような青空へ目を移した。鮮やかに記憶に焼きつけられている、セラフィナの瞳と同じ色だった。
グリフィンは先ほどのやり取りを思い出す。
『――君が望むものをなんでもやろう』
それに対する答えは色とりどりのドレスでも、拳ほどの宝石でも、豪奢な屋敷でもなかった。
『それでは、自由をいただきたく存じます』
気高さすら感じさせる眼差しだった。襤褸も同然の衣服を身に纏っていても、セレストブルーの瞳には意志の光が煌めいていた。セラフィナは一輪のアイリスのように、凛とした魂の輝きを見せたのだ。
それまでグリフィンにとって女性とは、美しく、脆く、運命に翻弄される哀れな存在でしかなかった。ところが、セラフィナは見事にその観念を覆したのである。
グリフィンはあの舞踏会で見た瞳を思い出し、背がぞくりとするのを感じた。ほんの一瞬ではあったが天上の青に心ごと呑まれたのだ。あれほどか細くなんの力もない娘が、なぜあんな目ができるのか。なぜひとりで立とうとするのか。その理由をどうしても知りたくなり、気づくとこんなことを尋ねていた。
『君にとっての自由とはなんだ?』
その人間の根幹を問う質問と言ってもいい。その問いにセラフィナは迷いなくこう答えたのだ。
『自分の意志で自分の生き方を決める権利です』
意志、生き方、権利。どの単語も貴族令嬢の――いいや、女性の口から聞いたのは初めてだった。
セラフィナとの交渉において、自分は圧倒的に有利な立場であるはずだったのだ。そもそも「是」以外の回答を受け取る気はなかった。だが、セラフィナの眼差しに心を奪われた瞬間から、その立ち位置は対等のものとなったのである。そんな女性に出会ったのも初めてだった。
「……やはり面白い」
グリフィンは唇の端を上げた。
「二年間、楽しませてもらおう」
現在はエリナーに衣食住すべてを提供され、日々の賃金までしっかりともらっている。しかし、未熟な自分の労働がそれに見合っているとは思えない。もっと役に立てないかと頭を捻っていたとき、エリナーが文字の読み書きや数字の計算が苦手であることを知った。そこでセラフィナはエリナーにこんな提案をしたのだ。
『女将さん、私が先生になります。言葉や数字には自信があるんです』
習得するまで経理と事務も手伝うと言ったら、エリナーはセラフィナの申し出に目を瞬かせた。
『本当にいいのかい? 時間を取ってしまうよ?』
『もちろん大丈夫ですよ。何時間だって構いません』
セラフィナが胸を叩いてそう答えると、エリナーは手を取って喜んでくれた。
『あんたは神様が遣わしてくださった天使だ』
エリナーいわく、平民の女性の学力は誰もみな同じようなものらしく、彼女たちにとって教育そのものが贅沢なのだそうだ。
セラフィナはその話を聞いてから女性に教育を施す重要性を実感し、もっとできることはないだろうかと考えることになった。まだうまくまとまらないのだが、私塾などが効率的かもしれないと思う。
だが、さしあたってはエリナーの授業だ。文法のどのあたりを教えようかと悩みながら歩く。食堂がある通りに差しかかったところで、セラフィナは異変を察知し足を止めた。
食堂の出入り口に三頭の馬がつけられているが、夕方の開店には少々早く、客がくるのは不自然なのだ。セラフィナはそろそろと出入り口から顔を覗かせた。
「女将さん……?」
中ではエリナーと複数の男性が言い争っていた。
「だから、そんな娘は知らないって言っているだろう? 確かに似たような目の色はしているけどね、うちのフィーナはもっと美人だよ!!」
「そんなはずはない。近隣の住人はこの似顔絵そっくりだと言っていたぞ。言葉遣いや発音がどことなく平民とは違うともな」
セラフィナは扉に手をかけたまま立ち尽した。身体が一気に凍りつき動いてくれない。エリナーがセラフィナの気配にはっとなり、男たちの肩越しに目を向ける。その視線を追い、男たちが揃って振り返った。三人のうち二人が手の中の紙とセラフィナを交互に見比べ、頷き合ってからゆっくりと彼女に近づく。
「セラフィナ様ですね?」
「……っ」
「お父上のご命令でお迎えにまいりました」
恐れていたことが現実になり、セラフィナは言葉を発することすらできなかった。
「フィーナ、逃げるんだよ!!」
食堂にエリナーの叫び声が響き渡る。セラフィナはその声に我に返り、弾かれたように通りへ飛び出した。心臓の鼓動が全身にこだましている。全速力での疾走で喉と肺が擦り切れそうになっているセラフィナの頭の中は、疑問でいっぱいだった。
なぜ今更探しにきたのか。顔を見たくもない娘ならば、なぜ放って置いてくれないのか。なぜやっと見つけた居場所を、生き方を奪おうとするのか。
セラフィナはどこに逃げるべきなのかわからないまま、ひたすら足を動かすしかなかった。だが、角を曲がったところで、はっと我に返る。
食堂から反射的に逃げ出してしまったが、残されたエリナーはどうなってしまうのだろうか。エリナーはセラフィナの正体を知らなかったとはいえ、結果的にヘンリー・レノックス子爵に、すなわち貴族に逆らった形になる。なんの力もない平民の女性が、はたしてどう裁かれ、どう罰せられるのか。
セラフィナは、すぐに戻らなければと身を翻した。生家に帰りたくない、貴族に戻りたくないなどと言ってはいられない。ところが数歩走った途端、風に流された髪に視界を塞がれる。
「きゃ……!!」
不意に勢いを削がれて均衡を崩し、前のめりで転びそうになる。セラフィナは目を閉じ、続いてくるはずの衝撃を待った。だがその身体を受け止めたのは、かたい地面ではなく、甘さをかすかに含んだ大人の香りと、広くたくましい男性の胸だったのだ。
「おっと」
どうやら通行人の男性にぶつかってしまったらしい。
「も、申し訳ありません。お、お詫びはあとでさせていただきます」
セラフィナは体勢を立て直すが早いか、元きた道を引き返そうとする。しかし、がくんと身体が仰け反り、力ずくで引き戻されてしまった。
「なっ……」
何事かと振り返り、思いがけない状況に驚いた。男性がセラフィナの手首を強く掴んでいたのだ。
「どこへいく? まさかあの店に戻るとでも?」
そう聞いてくる彼に目を向けたとき、聖書にある神に逆らい堕天した大天使、かつてもっとも光り輝き美しかった者――魔王が舞い降りたのかと錯覚し、セラフィナは目を瞬いた。髪も瞳も混じり気のない漆黒に見える。端整な顔立ちに謎めいた眼差しと長身の身体は、その場に立つだけで貴婦人らの目を奪うだろう。
どこかで会ったことがある気もしたが、セラフィナには男性の容姿に魅せられている暇などなかった。
「だ……誰っ!? 放して! 放してください!!」
この男性もレノックス家の手の者だと思い込み、掴まれた手を振り解こうと全力で暴れる。振り回したセラフィナの右手が男性の頬をかすり、彼はかすかに顔をしかめた。
「……まったくとんだお転婆の早とちりだな。私は君の父上の手下ではないぞ」
髪や目と同じ艶のある声で呟き、ぐいとセラフィナを引き寄せる。
「あっ……」
次の瞬間には、男性はセラフィナの背と膝の裏に手を回し、軽々と身体を抱き上げていた。
「なっ……!!」
「ジョーンズ!!」
男性の声が通り一帯に響き渡ると、すぐに角から黒塗りの馬車が現れた。セラフィナはその側面に刻み込まれた家紋に首を傾げる。黒い盾の中で鷲の上半身に獅子の下半身、黄金の翼をはためかせる獣が天を見上げていた――伝説の聖獣グリフィンだった。
セラフィナはこの家紋を知っている。だがどこの貴族だったかと記憶を辿る間に、扉が開かれ痩せた中背の若い男性が現れた。恐らく彼がジョーンズなのだろう。濃い茶の髪と瞳をしていて、顔立ちは整っているにもかかわらず印象の残らない不思議な男性だ。
「グリフィン様、どうぞ」
ジョーンズが男性を中へ招き入れると、男性はセラフィナを抱えたまま馬車に乗り込む。
「すぐに出せ」
セラフィナは我に返り男性の胸の中で暴れたが、そのころには馬車はすでに走り出していた。男性は追っ手がいないことを確認し、ようやくセラフィナを隣に下ろして座らせる。セラフィナは間髪を容れずに男性に詰め寄り、シミ一つない純白のシャツの襟首に縋りついた。
「帰して、帰してください!!」
ところが男性は少しも怯まず、セラフィナの手にみずからの手を重ねた。
「君はあの連中に捕まりたいのか?」
「だって……!!」
「逃がしてくれたというのなら、相手の意思を無駄にすべきではない。それはすでに裏切りになるぞ、セラフィナ・グレイシー・レノックス子爵令嬢」
セラフィナは名前と身分を言い当てられて口ごもり、あらためて男性が誰なのか疑問に思った。
「あなたは……?」
男性は唇の端をかすかに上げて笑う。
「あの日ダンスを君に断られた哀れな男さ」
あの日、ダンス、と単語を並べ立てられても、セラフィナにはなんのことだかさっぱりわからなかった。もしかしたら以前会ったことがあるのかもしれないが、結局、男性の正体がわからず、ぽかんと見つめるばかり。
「……忘れられていたとは思わなかったな。私は忘れようと思っても、忘れられなかったのだが」
男性は足を組みセラフィナの顔を覗き込んだ。
「私個人を覚えていないのなら、まずは名乗ることにしようか。私はグリフィン・レイヴァース・ハワード。ブラッドフォード公とも呼ばれている」
驚愕に、セラフィナの腰が席から浮いた。なぜグリフィンの紋章を見た時点で思い出さなかったのかと、おのれを呪う。
グリフィン・レイヴァース・ハワード、またの名をブラッドフォード公。大都市ブラッドフォードを中心とした、広大な領地と莫大な財産を持ち、王家とは血の上でも縁が深い公爵家の筆頭だ。
「どうして、公爵ともあろう方が、私を、助けたのですか……?」
震えながら問うセラフィナに、男性は――公爵は、微笑みを浮かべて答えた。
「まずは場所を変えようか」
やはり魔王を思わせる、美しく不吉な微笑みだった。
セラフィナはそのあとも逃げ出そうと隙を窺ったのだが、公爵本人やジョーンズ、護衛らしき黒服らの監視により、結局それは叶わなかった。なぜ公爵が自分を攫ったのか、その意図をいくら考えてもわからない。
尋ねてみたところで、公爵は微笑みを浮かべるばかりで、セラフィナになにも教えようとしなかった。レノックス家に送るつもりはないことだけは救いだったけれど、いずれにせよ公爵の意のままなのだ。
「……っ」
セラフィナは膝の上で拳を握り締めた。おのれはまるで川に落ちた一枚の木の葉だと悔しく思う。家族に、公爵に、社会に、時代に、それらが渾然一体となった流れに翻弄されるだけ。そんな弱々しい自分はもう嫌だった。川が逃れられない人の一生だというのなら、ただ流される木の葉ではなく、舟の漕ぎ手となり行き先を決めたかった。それだけの強さが欲しいと心から願う。
「セラフィナ様」
ジョーンズに名を呼ばれ、セラフィナははっと顔を上げた。
「このような場で申し訳ございません」
一時間をかけて連れてこられた場所は、二つ先にある大きな街だった。セラフィナもお使いで一度だけきたことがある。食堂のある町とは異なり、人口が多く栄えている街で、人や馬車の行き来が激しい。中央から木材や布地、穀物などの物資が運び込まれ、一大集積地となっているのである。
ジョーンズが馬車の窓を開け、一軒の立派な宿屋を示した。
「あちらでお話を聞いていただきます」
かつては商人の屋敷だった建物を、高級な施設として改装した宿屋だった。馬車が止まり、扉がゆっくりと開けられる。公爵は唇の端に笑みを浮かべつつ、セラフィナに手を差し伸べた。そのまま彼にエスコートされ、二階にある東側の部屋へ案内される。
「ブラッドフォードには負けるが、ここもよい眺めだな」
公爵は窓辺に手をかけ街を見渡してから、セラフィナを振り返った。
「では、早速本題に入ろうか。セラフィナ、私と結婚しないか? 君は私の花嫁となる条件に最適だ」
「……は?」
あまりに唐突で飾り気のないプロポーズに、セラフィナは数秒、意味が理解できなかった。
「……結婚、ですか?」
「ああ、そうだ」
呆然とする彼女に、公爵ははっきりと頷く。
「私は昨年父を亡くし爵位を継承したが、あくまで仮のものでしかない。ハワード家には代々の家訓があり、それに従わなければ当主とは認められないからだ」
セラフィナには話がどこへ向かうのかまったく見えなかった。公爵は彼女の戸惑いを置き去りにしたまま続ける。
「正式なブラッドフォード公となるには、教会から承認された正妻が必要だとされている。セラフィナ、君にその妻となってもらいたい」
「……なぜ、私なのですか?」
さすがにこの状況、この台詞で、大貴族に見初められたと喜ぶほどおめでたくはない。なにか目的があるのだと考えるのが自然だ。
「閣下がご存知かどうかはわかりかねますが、私は一年前にスペンサー伯爵家に婚約を破棄され、社交界に醜聞を残しております。そのような女が妻となり、公爵家の歴史に泥を塗るなど、この身には恐れ多過ぎます」
遠回しの拒絶に公爵の眉がかすかに上がる。
「私の誘いを二度もはねつけたのは君が初めてだ」
公爵は窓の縁から手を離すと、部屋を横切りセラフィナの目の前に立った。見上げるほどの背丈と悪魔を思わせる美しさに圧倒され、セラフィナは思わずあとずさる。しかし、公爵は一歩、また一歩と、獲物を追いつめるかのように、セラフィナとの距離を縮めていく。セラフィナを壁際に追いやった公爵は、彼女の頭上に右の肘と拳を当て、顔を近づけた。睫毛が触れ合いそうな間合いから、セラフィナの顔を楽しげに見つめる。
「公爵家の歴史と君は言うが、ハワード家の興りは国王の愛人が産んだ私生児だ。王位は王妃より生まれた嫡男にのみ与えられ、不義の子はなに一つ得られないと知った女は、息子に高位の爵位と領地を与えようと宮廷を奔走した。そのために国王だけではなく、王族に、廷臣に……はたしてどれだけの男性に媚びと身を売ったのか。その息子がグリフィン・レイヴァース・ハワード――私と同じ名を持つ初代だ」
公爵は拳を壁に強く叩きつけた。壁を貫かんばかりの衝撃に、セラフィナの身体がびくりと震える。公爵は怯える彼女の顎を掴んだ。
「そうした情婦の子孫だからこそ、我が一族は却って正式な結婚と花嫁の血筋にこだわる。当主の正妻となる女は嫡出子であるのと同時に、父母ともに五代を遡り貴族でなければならない――それだけが条件だ」
公爵の力強さにセラフィナはおののいた。この人は怖い、逃げなければと思うのに、悪魔に魅入られたように身体が動かない。公爵はそんなセラフィナの頬を、優しさすら感じる手つきで包み込んだ。
「セラフィナ、君はレノックス子爵家とカーライル伯爵家の血を引いている。いずれも五代以上前から貴族だが、中央での権力がほとんどない。私にとっては実に好都合だ。もちろん君にもメリットがある」
「メリット……?」
「結婚から二年後に、私と君は離婚する」
彼は手を離すと踵を返し窓辺へと戻る。セラフィナはわけがわからず、広い背を見るばかりだった。
「結婚から二年後には離婚……?」
公爵はふたたび窓の外へ目を向ける。
「二年間の婚姻後も子どもができないようなら、当主の権限により離婚が認められているからだ。私は妻も子もいらない。跡継ぎなど従兄弟やその子息がいくらでもいる。だが、体裁は必要だ」
セラフィナはそこでようやく公爵が自分に結婚を申し込んだ理由を悟った。ハワード家と釣り合う高位貴族の出身の正妻では、離婚となれば相手の実家が黙っていない。子どもができないとの噂が広まれば、そのあとの再婚も難しくなるからだ。
ところがレノックス家に政治的な影響力はない。それにセラフィナ本人もエドワードの一件で立場を失っており、初婚でのまともな結婚は望めなくなっている。失うものはなにもないと考えられているのだ。公爵の低く、艶のある声がセラフィナに告げる。
「君には来年から二年、私の妻としての役割を果たしてもらうこととなる。もちろんその間の重責と労苦を上回る報酬を渡そう」
セラフィナは妻とも結婚とも結びつきにくい、報酬という単語に首を傾げた。
「報酬とは……?」
公爵は身体の向きをゆっくりと変え、唇の端だけでかすかに微笑むと、セラフィナの目を見つめる。
「私は君の大切な女将さんを救える」
「……!!」
「それに加えて君が望むものをなんでもやろう」
セラフィナは目を床に落として彼の言葉を繰り返した。
「私が望むもの……」
――そんなものは自問自答するまでもなくわかっていた。ゆっくりと顔を上げると、一言一言を区切り、噛み締めるように告げる。
「……かしこまりました。お申し込みを、お受けします」
「賢明な選択だ。では、なにが欲しい? 言ってみるといい。一切の遠慮は必要ない」
セラフィナは背を伸ばして真っ直ぐに彼を見据えた。
「それでは、自由をいただきたく存じます」
セレストブルーの瞳に輝く光に、公爵がはっとした顔になる。セラフィナは決して目を逸らさなかった。
「二年の勤めのすべてが終わりましたら、レノックス家の娘ではなく、ハワード家の妻でもなく、自由の身となる保証をください」
室内に沈黙が落ちる。それは一分にも満たなかったが、セラフィナには五分にも、十分にも感じられた。公爵が一言も発さずに、自分を凝視していたからだ。
「……君はずいぶん変わったものを欲しがる」
やっと出た一言がそれだった。
「では、君にとっての自由とはなんだ?」
公爵の挑むような問いかけに、セラフィナはやはり迷いなく答える。
「自分の意志で自分の生き方を決める権利です」
きっぱりとした声は意志の強さの表れでもあった。
口約束での契約がまとまったのち、公爵はセラフィナの希望どおりに、一旦は食堂へ送り届けてくれた。そして明朝にはブラッドフォードに出発するから、荷物をまとめ、別れを惜しんでこいと言われる。
馬車で町中に差しかかった途端に、セラフィナは安堵から涙が滲んだ。ほんの数時間離れていただけだというのに、一年ぶりにも、五年ぶりにも、十年ぶりにも感じる。
怒涛のような一日だったセラフィナとは対照的に、町は普段と変わらぬ様子だ。宿屋の女将は二階のバルコニーからシーツを干し、八百屋の店主は店頭からしなびたキャベツを取り除いている。慣れ親しんだ食堂の出入り口の前にきたところで、セラフィナは同乗しているジョーンズに声をかけた。
「ここでお願いします」
ジョーンズは御者に命じ馬車を止め、セラフィナを降ろす。彼女に外套を羽織らせ顔を隠させると、耳元でこう囁いた。
「一時間以内でお願いします」
セラフィナは小さく頷き、出入り口をくぐる。食堂からはいつもどおり、野菜やハーブ、鶏肉、土埃が混じったにおいがした。セラフィナはほっとするのと同時に、テーブルを拭くエリナーを発見する。
「女将さん……!!」
エリナーは顔を上げると目を見開き、布巾を落としてセラフィナに駆け寄った。
「……フィーナ!! あんた、どこにいっていたんだい。大丈夫だったのかい!?」
「すいません、本当にすいません。大変な迷惑をかけてしまいました」
「いいんだよ、もうなんでもいいんだよ」
エリナーは謝罪を繰り返すセラフィナの肩を叩いた。セラフィナはエリナーを見上げ、怪我などがないか確認する。エリナーは彼女の不安を見て取ったのか、腕を曲げて頼もしい力こぶを作った。
「このとおり、ピンピンしてるよ」
エリナーはそう言って笑顔を見せたものの、溜め息を吐き不思議そうに店内を見回す。
「あのあと、馬車に押し込まれたと思ったら、今度は黒服の連中に助け出されてね。連れ戻されて店も元どおりにしてくれたんだよ。けど、なにがなんだかさっぱりわからなくて……」
公爵は約束を守ってくれたのだと、セラフィナは胸を撫で下ろした。レノックス家には圧力をかけ、それ以上手出しができないようにしたのだろう。迅速な救出に舌を巻きつつ感謝する。
「それよりフィーナ、あんたは大丈夫だったのかい? なにかひどいことはされなかったかい?」
エリナーは知りたいことが多くあるだろうに、セラフィナの身を案じている。なぜこの人はこれほど優しいのかと涙が零れそうになった。それでも今は泣くわけにはいかない。
「お、かみさん、話さなくちゃ、いけないことが、あるんです……」
思わず声が震えてしまう。これまで世話になったエリナーには、事情を説明しなければならなかった。ただし、公爵からは結婚の契約については、決して誰にも話すなと言われている。すべてを告げられないのに後ろめたさを覚えながら、セラフィナはまずはおのれの正体を明かした。
「実は私……私は貴族なんです」
カウンター席に腰かけ覚悟を決めて話し始める。なんと言われるのかが恐ろしかった。ところがエリナーは「なんだ」と呟くと、セラフィナの背を二度優しく叩いたのだ。
「あんたがいい家の子なんだってことくらい、初めから知っていたよ」
セラフィナには言葉遣いにも仕草にも気品があり、平民の娘ではないとすぐにわかったのだとエリナーは言う。
「だったら、どうして……」
エリナーはセラフィナの隣にゆっくりと座ると、ここではないどこかを見る眼差しになった。
「昔、私にも亭主と娘がいたんだ。でも、二人とも流行り病で死んでしまった。何年もかけてどうにか立ち直り、ひとりで生きていくために食堂を構えたんだよ」
その経営が軌道に乗ったころ、この町でセラフィナに出会ったのだそうだ。
「娘はあんたと同じ髪の色で、あんたと会った日が誕生日だったんだ。だから、私はあの子が生まれ変わって帰ってきてくれたんだって思った。あんたと一緒にいられて、本当に嬉しかったんだ」
エリナーは深く重い溜め息を吐いた。
「あんたを利用したのは、私のほうだったんだよ。娘の代わりにそばにいてくれれば、あんたの正体なんて、なんだってよかった」
セラフィナは思いがけないエリナーの過去に、胸が熱くなるのを感じていた。無償の愛情に近いあの優しさは、母親のものだったのだと今ならわかる。
「女将さん、私もここが家だと思っています。早くここに帰りたいと思っています」
「……? フィーナ、なにがあったんだい? しばらく戻らないつもりかい?」
セラフィナは言葉を慎重に選びつつ、エリナーにかいつまんで説明した。
「実は、今回父に連れ戻されそうになったんですが、ある方が私も女将さんも庇ってくれたんです。お礼にその方のおうちで何年か働くことになって……なんでも人手不足で困っているそうで」
「まあ、確かにあんたは料理も掃除もうまいからねえ」
エリナーはどうやら働くという意味を、メイドをすると勘違いしているらしい。偽装結婚の妻を演じろと求められたなどと、普通は誰も思いつかないだろう。
「そのお勤めが終わったら、帰してくれるって約束してもらったんです。だから、女将さん、私……ここに帰ってきてもいいですか?」
セラフィナはエリナーの答えを、裁きを受ける思いで待った。
「当たり前だろう?」
エリナーはふわりと笑い、セラフィナの頭に手を乗せる。
「ここはあんたのうちでもあるんだからね」
その手はいつもと変わらぬ慈しみに満ちていた。
◇◆◇◆◇
グリフィンは宿屋の窓辺に立ち、通りを忙しく行き来する荷馬車の一団を眺めていた。
今ごろセラフィナはエリナーとの別れを惜しんでいるのだろう。取り交わした契約により、彼女には結婚から二年間は平民や下層階級との接触を禁じている。形ばかりの妻とはいえ、ハワード家の奥方として、取り囲まれる衣・食・住・人は、すべてが一流品でなければならないからだ。
当初、セラフィナは契約結婚の候補にはあげていなかった。けれど、去年参加した舞踏会で、あのセレストブルーを見た瞬間、気づくと彼女に手を差し伸べていた。なぜか、セラフィナがこの手を取ると信じて疑わなかったのだ。
ところが、婚約者がいるからと、あっさり振られてしまう。女性に断られるなど初めてだったグリフィンは、らしくもない捨て台詞を吐いて、引き下がるしかなかった。その直後に、セラフィナとエドワードの婚約破棄の茶番劇である。アルビオンの社会は女性に厳しく、婚約破棄された令嬢は、傷物だとみなされる。セラフィナはどういう反応をするのだろうと思っていたら、意外にも彼女は背筋を伸ばしてエドワードに反論した。
堂々としたその姿勢に感心するのと同時に、これは絶好の機会なのではないかと考えた。貴族令嬢としての立場を失った今のセラフィナに求婚すれば、断られることはまずない。なにより二年間であれ結婚するのなら、美しく凛とした眼差しを持つこの娘がいい。きっと退屈しないだろうと感じたのだ。
ブラッドフォードで準備が整い次第、正式に求婚の使者を出すはずだったのだが、同じころに長く臥せっていた父が亡くなった。そのあとは葬儀に、相続の手続きにと目まぐるしく、また喪中であったために求婚が後回しになってしまった。ようやく落ち着きを取り戻し、今度こそと動き出したところで、セラフィナが行方不明だと知る。レノックス家は、表向きは療養中だと告げていたけれど、その療養先に彼女の姿はなかったのだ。
グリフィンはもしや家出をしたのかと勘繰るも、さすがにそれはないだろうとおのれを笑った。セラフィナは歴とした貴族の令嬢である。その令嬢が誰の手助けもなしに、たったひとりで家を出るなどありえない――そう、ありえないと思っていたのだ。
けれど、セラフィナは本当に家出をし、平民として労働に従事していた。彼女は意外に気が強いだけではなく、跳ねっ返りなところもあるのだと、グリフィンはいつになく愉快になった。妻にするならば、やはりあの娘がいいと思ったグリフィンは、みずから町へ赴いた。そしてようやく再会した彼女に契約結婚を迫ったのである。
グリフィンは天を一面に染める、抜けるような青空へ目を移した。鮮やかに記憶に焼きつけられている、セラフィナの瞳と同じ色だった。
グリフィンは先ほどのやり取りを思い出す。
『――君が望むものをなんでもやろう』
それに対する答えは色とりどりのドレスでも、拳ほどの宝石でも、豪奢な屋敷でもなかった。
『それでは、自由をいただきたく存じます』
気高さすら感じさせる眼差しだった。襤褸も同然の衣服を身に纏っていても、セレストブルーの瞳には意志の光が煌めいていた。セラフィナは一輪のアイリスのように、凛とした魂の輝きを見せたのだ。
それまでグリフィンにとって女性とは、美しく、脆く、運命に翻弄される哀れな存在でしかなかった。ところが、セラフィナは見事にその観念を覆したのである。
グリフィンはあの舞踏会で見た瞳を思い出し、背がぞくりとするのを感じた。ほんの一瞬ではあったが天上の青に心ごと呑まれたのだ。あれほどか細くなんの力もない娘が、なぜあんな目ができるのか。なぜひとりで立とうとするのか。その理由をどうしても知りたくなり、気づくとこんなことを尋ねていた。
『君にとっての自由とはなんだ?』
その人間の根幹を問う質問と言ってもいい。その問いにセラフィナは迷いなくこう答えたのだ。
『自分の意志で自分の生き方を決める権利です』
意志、生き方、権利。どの単語も貴族令嬢の――いいや、女性の口から聞いたのは初めてだった。
セラフィナとの交渉において、自分は圧倒的に有利な立場であるはずだったのだ。そもそも「是」以外の回答を受け取る気はなかった。だが、セラフィナの眼差しに心を奪われた瞬間から、その立ち位置は対等のものとなったのである。そんな女性に出会ったのも初めてだった。
「……やはり面白い」
グリフィンは唇の端を上げた。
「二年間、楽しませてもらおう」
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