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本編
王女様救出大作戦!(6)
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もう道は忍び込んだ時にわかっているので、すんなり王宮を抜け出し宿屋に戻ることができた。
問題は帰り道ではなくアトス様だ。必死に止められていたのに、出て来たので後ろめたい。
どう言い訳をしたものかと悩みつつ、人間に戻って宿屋の扉を開ける。すると、なんと目の前に立ち塞がるのように、腕を組んだアトス様が立っていたのだ……!
「お帰りなさい、アイラ。探検は楽しかったでしょうか?」
身なりはきっちり整えられていて、眼鏡の向こうの瞳も穏やかそのものだ。微笑みすら浮かべている。しかし、私の背からは冷や汗が滝のごとく流れ落ちた。
ヤバい。無茶苦茶ヤバい。アトス様と付き合って一つわかったことがある。それは怒りのボルテージが極限になるほど物静かになるということだ!
マズい。非常にマズい。このまでは一週間に渡るエロいお仕置きになってもおかしくない。体力を使い果たしての腹上死はどうにか避けたい。
そこで、私は最後の手段として猫に変身。ニャァアンと媚びに媚びた声を出し、アトス様の足に体をすりすりと擦り付けた!
形のいい眉がかすかに歪む。
「アイラ、機嫌を取ろうとしても無駄ですよ」
んなこたぁ百も千も承知よ! ついでにアトス様が何に弱いのかも。
「まったく……」
アトス様はひょいと私を腕に抱き上げた。
「君は自分が何をしでかしたのか理解していますか? 今回はどうやらうまく行ったようですが、一歩間違えば捉えられていた可能性もあった」
ううっ、アトス様のお仕置きも怖いけど、お説教の場合はとにかく長い。それで途中で寝ちゃってまた叱られるのだ。
そうなる前に先手必勝だと、私は首をうんと伸ばして、アトス様に必殺鼻チューした!
アトス様の鼻に自分のそれをコツンと軽くぶつける。
「……っ」
アトス様が驚いたように目を見開いた。
「アイラ、こんなことで私が誤魔化されると思って……」
ええい、もう一度鼻チューだ!
「だから、無駄だと……」
更にチュー! チューチューチュー!
チューを五回ほど繰り返しただろうか。アトス様がようやくメロメロ、デロデロになりながらも溜め息を吐いた。私を目の位置にまで持ち上げる。
「……まったく、いけない子ですね。今日はこの辺りにしておきましょう。ですが、いいですね。次はありませんよ」
あいらは いかれるあとすを たぶらかした! 1〇〇ポイントの けいけんちを かくとく! あいらは かわいいレベル1〇〇に あがった!
ーーこうして私はアトス様にお許しをいただき、部屋でスパイの結果を事細かに報告した。もちろん王太子がどMであることもだ。
「なるほど、地下牢ですか……。それにしても、マリカ様が初めに会ったその男は何者なのでしょうね」
部下の魔術師が首を傾げる。幸い首は繋がっており、リンチを受けた後もなかった。アトス様に叱られはしたものの、お給料をちょっと減らされただけで済んだらしい。アトス様のこういうところが好きだなあと思う。
「マリカ様の誘拐を企てた主犯でしょうか? “代わりに償ってもらう“とはどういうことなのか……」
アトス様はそこで部下の考察を遮った。
「今は敵の事情を考慮している状況ではない。我々の目的はマリカ様の奪還だ」
懐から折り畳んだ取り出し、広げて部下に見せる。
「アイラの言った通りであれば、地下から進むのが最善だろう。地下からは結界の気配を感じない」
部下は馬鹿なと言った風に首を横に振った。
「い、いや、しかし、地下からと言っても、地下水路にしろ地下道にしろ、こちらの都合よく続いているはずが……」
「道がなければ作るまでだ」
へっ!?と私と部下の目が丸くなる。アトス様は唇の端を上げて不敵に笑った。
「勝算はある。だが、その前に」
くるりと私を振り返って、ポンポンと頭を優しく叩く。
「アイラ、猫になってくれませんか。君にもう一つしてもらいたいことがあるのです」
してもらいたいこと?
なんだろうと思いながらも宙で一回転。
アトス様は足を揃えて座る私の前に、マジシャンのごとくどこからか二つのつづら……いいや、箱を取り出した。一つは子どもが入れそうな大きさで、もう一つはアマゾ○の一番小さなダンボール箱ほどだ。
「さあ、アイラ、どちらでも好きな方を選んでください」
これが私にやってもらいたいことなの?
私は脳内にハテナマークを浮かべながらも、まずは大きな箱に目を向けた。
猫には箱道というものがある。箱は大きければいいというものではない。体が入るか入らないかのサイズに、ギリギリで収まることが至高にして至福なのだ!
私は迷いなく小さな箱を選び、早速中へと入り込んだ。
うむ、ニャンモナイトになってもよし、香箱座りになってもよし。これぞ究極、落ち着くわぁーーと感激した次の瞬間、パタンと音を立ててフタが閉められた。
「ミャッ!?」
押しても引いても開かない。どういうことと慌てる私に、アトス様が笑みを含んだ声で告げる。
「君にはしばらく大人しくしてもらいます。これ以上危険に晒したくはありませんからね」
だ、だ、だ、騙されたー!!
出してと暴れたものの、どうも鍵をかけられたみたいだ。
「なるべく早く戻りますからね。それまでゆっくりしていてください」
やがてアトス様と部下の足音と、扉が閉められる音がした。
私は十分ほど脱出しようと頑張っていたものの、暗い箱の中にいるうちに、習性なのかだんだん眠くなってきた。
ムニャムニャ……寝ちゃいけニャい……いけ……ない……ニャ……。
問題は帰り道ではなくアトス様だ。必死に止められていたのに、出て来たので後ろめたい。
どう言い訳をしたものかと悩みつつ、人間に戻って宿屋の扉を開ける。すると、なんと目の前に立ち塞がるのように、腕を組んだアトス様が立っていたのだ……!
「お帰りなさい、アイラ。探検は楽しかったでしょうか?」
身なりはきっちり整えられていて、眼鏡の向こうの瞳も穏やかそのものだ。微笑みすら浮かべている。しかし、私の背からは冷や汗が滝のごとく流れ落ちた。
ヤバい。無茶苦茶ヤバい。アトス様と付き合って一つわかったことがある。それは怒りのボルテージが極限になるほど物静かになるということだ!
マズい。非常にマズい。このまでは一週間に渡るエロいお仕置きになってもおかしくない。体力を使い果たしての腹上死はどうにか避けたい。
そこで、私は最後の手段として猫に変身。ニャァアンと媚びに媚びた声を出し、アトス様の足に体をすりすりと擦り付けた!
形のいい眉がかすかに歪む。
「アイラ、機嫌を取ろうとしても無駄ですよ」
んなこたぁ百も千も承知よ! ついでにアトス様が何に弱いのかも。
「まったく……」
アトス様はひょいと私を腕に抱き上げた。
「君は自分が何をしでかしたのか理解していますか? 今回はどうやらうまく行ったようですが、一歩間違えば捉えられていた可能性もあった」
ううっ、アトス様のお仕置きも怖いけど、お説教の場合はとにかく長い。それで途中で寝ちゃってまた叱られるのだ。
そうなる前に先手必勝だと、私は首をうんと伸ばして、アトス様に必殺鼻チューした!
アトス様の鼻に自分のそれをコツンと軽くぶつける。
「……っ」
アトス様が驚いたように目を見開いた。
「アイラ、こんなことで私が誤魔化されると思って……」
ええい、もう一度鼻チューだ!
「だから、無駄だと……」
更にチュー! チューチューチュー!
チューを五回ほど繰り返しただろうか。アトス様がようやくメロメロ、デロデロになりながらも溜め息を吐いた。私を目の位置にまで持ち上げる。
「……まったく、いけない子ですね。今日はこの辺りにしておきましょう。ですが、いいですね。次はありませんよ」
あいらは いかれるあとすを たぶらかした! 1〇〇ポイントの けいけんちを かくとく! あいらは かわいいレベル1〇〇に あがった!
ーーこうして私はアトス様にお許しをいただき、部屋でスパイの結果を事細かに報告した。もちろん王太子がどMであることもだ。
「なるほど、地下牢ですか……。それにしても、マリカ様が初めに会ったその男は何者なのでしょうね」
部下の魔術師が首を傾げる。幸い首は繋がっており、リンチを受けた後もなかった。アトス様に叱られはしたものの、お給料をちょっと減らされただけで済んだらしい。アトス様のこういうところが好きだなあと思う。
「マリカ様の誘拐を企てた主犯でしょうか? “代わりに償ってもらう“とはどういうことなのか……」
アトス様はそこで部下の考察を遮った。
「今は敵の事情を考慮している状況ではない。我々の目的はマリカ様の奪還だ」
懐から折り畳んだ取り出し、広げて部下に見せる。
「アイラの言った通りであれば、地下から進むのが最善だろう。地下からは結界の気配を感じない」
部下は馬鹿なと言った風に首を横に振った。
「い、いや、しかし、地下からと言っても、地下水路にしろ地下道にしろ、こちらの都合よく続いているはずが……」
「道がなければ作るまでだ」
へっ!?と私と部下の目が丸くなる。アトス様は唇の端を上げて不敵に笑った。
「勝算はある。だが、その前に」
くるりと私を振り返って、ポンポンと頭を優しく叩く。
「アイラ、猫になってくれませんか。君にもう一つしてもらいたいことがあるのです」
してもらいたいこと?
なんだろうと思いながらも宙で一回転。
アトス様は足を揃えて座る私の前に、マジシャンのごとくどこからか二つのつづら……いいや、箱を取り出した。一つは子どもが入れそうな大きさで、もう一つはアマゾ○の一番小さなダンボール箱ほどだ。
「さあ、アイラ、どちらでも好きな方を選んでください」
これが私にやってもらいたいことなの?
私は脳内にハテナマークを浮かべながらも、まずは大きな箱に目を向けた。
猫には箱道というものがある。箱は大きければいいというものではない。体が入るか入らないかのサイズに、ギリギリで収まることが至高にして至福なのだ!
私は迷いなく小さな箱を選び、早速中へと入り込んだ。
うむ、ニャンモナイトになってもよし、香箱座りになってもよし。これぞ究極、落ち着くわぁーーと感激した次の瞬間、パタンと音を立ててフタが閉められた。
「ミャッ!?」
押しても引いても開かない。どういうことと慌てる私に、アトス様が笑みを含んだ声で告げる。
「君にはしばらく大人しくしてもらいます。これ以上危険に晒したくはありませんからね」
だ、だ、だ、騙されたー!!
出してと暴れたものの、どうも鍵をかけられたみたいだ。
「なるべく早く戻りますからね。それまでゆっくりしていてください」
やがてアトス様と部下の足音と、扉が閉められる音がした。
私は十分ほど脱出しようと頑張っていたものの、暗い箱の中にいるうちに、習性なのかだんだん眠くなってきた。
ムニャムニャ……寝ちゃいけニャい……いけ……ない……ニャ……。
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