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本編
王女様救出大作戦!(4)
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リンナは夜は寒く皆が暖を取るからか、お店、家々、集合住宅、神殿のどこも暖炉の火でぼんやり明るい。そんな中でも王宮はひときわ目立っていた。ランプや松明がいくつも灯っているからだろう。
ちょっと離れたところから見ると、明かりに照らされた王宮を包み込むように、ぼんやり光る紫のバリアが見える。一個ウン万円のマスクメロンのネットのような魔力のバリアだ。きっとあれが結界なのだろう。
猫族の目は夜に強いらしく、闇の中では魔力をより敏感に察知する。その能力のおかげで昼には見えなかった結界がわかるみたいだった。
ふむふむ、あの網目の細かさだと、人間が感付かれずに潜り抜けるのは無理だろう。でも、猫の大きさなら簡単だ。
私は闇に紛れてこっそり王宮に近付いた。結界はあっさり突破できたけれども、次は鉄柵やガチムチ衛兵が立ちはだかる。それでも、いくら訓練された兵士でも、完全に気配を消した私には気付かなかった。
木を伝って鉄柵を乗り越え、王宮の敷地に入り込む。
うむ。ここまでは楽勝と言ってもいいわ。猫族がスパイとして重宝されたわけがわかる。
しかし、さすがに中に入るのは至難の業だった。馬鹿正直に正面玄関からだとさすがに見つかるし、それではと使用人用の裏門に回ってみたものの、こちらもがっちりと衛兵にガードされている。マリカ様を浚ってきたので、警戒を厳重にしているのかもしれない。
ない脳みそを振り絞ってしばし考え、そうだ!と手……ではなく前足を打った。
王宮には外観を壊さないよう、派手に飾り付けた煙突がいくつかある。大体その中の数本は使われていない。煙突はススやタールで詰まるので、定期的な掃除が必要だからだ。一斉に掃除となると煙突が使えなくなるから、こうして煙突がいくつもある建物では、メンテナンスの時期をずらしているのが一般的だ。
私は早速屋根に根性でよじ登ると、熱くなっていない煙突の一本に潜り込んだ。壁に爪を立ててじりじりとお尻から降りていく。
おうっぷ。予想通りススとタールで焦げ臭い……。
ようやく下から明かりが見えて、どこかの部屋の暖炉から脱出する頃には、私は白黒ハチワレの靴下猫から、黒一色の見事な黒猫になっていた。
どうもこの部屋は数多くある客間の一室らしい。天蓋付きの豪華なベッドや調度品は取り揃えられているものの、シーツに皺ひとつなく生活感もないところから、このところは使われていないと私は踏んだ。
メイドをやっていたからそういうことには敏感なのよ!
しかし! かかし! 猫ドリルとなって体のススとタールを落としているところで、どこからか聞こえてくるハートの飛び散る喘ぎ声に気付く。
ん? なんじゃい?
喘ぎ声はカーテンの向こうからみたいだ。こっそり捲って忍び込んでみてビビった。
なんと! 侍女らしきアラサーの女の人と衛兵が窓に手をかけて、立ちバッ〇で励んでらっしゃったからだ!
「ハハッ! 普段部下をさんざんいじめるお局侍女様が惨めなザマだな! オラオラっ!!」
「ああっ、そんなひどいわブルーノ! もっと、もっと私をいじめてちょうだいぃ!」
「……」
なるほど、召使たちの逢引きの格好の場となっているわけか。
なんかお二人ともものすごく熱心にプレイされていらっしゃる……。いやいや、楽しそうで何よりでございます。というか、窓際でいたすとかなんて大胆な。
ええっ、そんなこともこんなこともあんなこともしちゃうの!?――と約三〇分ほどじっくり見学していてハッとした。
私はデバガメしにきたのではなく、マリカ様を探しに来たんだった!
くっ……最後まで見られないのが惜しいものの仕方がない。
私は後ろ髪を引かれつつこっそり客間から抜け出した。
それから一階から二階のすべての部屋を見て回ったものの、マリカ様の姿は掻き消えたようにどこにもなかった。
まさか、もう殺されているのではと不吉な想像をしてしまう。私は首を横に振ってそんなはずはないと心を落ち着けた。
あの殺しても死にそうにないマリカ様だもの。どこかで元気にどSっぷりを発揮しているに違いない。
めげずにずっと探し続けて、地下へと続く道を見つけたのは、それから二時間ほど後のことだった。
謁見の前の玉座の裏の床に隠し扉があったのだ。きっと緊急時には王族はここから逃げるのだろう。
私は扉を開けて狭く急な階段を下りて行った。どこもかしこも石造りで闇に閉ざされていて、階段の終わった先には苔生した細い道が続いている。そこを更に五分ほど歩き続けると、ぱっと辺りが開けて目を瞬かせた。道がいきなり広くなって、両脇にいくつもの鉄格子のついた部屋がある。
どうやら地下牢らしい。
特有のカビ臭さに顔を顰めていると、うち一室から明かりが漏れ出ているのに気付いた。同時に、そこから男の人の苛立たし気な声も聞こえる。
「お前、自分の立場を理解しているのか!?」
「フン、しているに決まっているじゃないの。だから食事なんて無用だって言っているのよ」
「死にたいのか!? もう三日も食べていないだろう!?」
「死ぬのは私であってあなたじゃないでしょ。リンナの王太子ともあろう男が何をそんなに慌てているわけ?」
間違えるはずもない。このワガママ道をまっしぐらに行く声は、マリカ様のものだ!!
ちょっと離れたところから見ると、明かりに照らされた王宮を包み込むように、ぼんやり光る紫のバリアが見える。一個ウン万円のマスクメロンのネットのような魔力のバリアだ。きっとあれが結界なのだろう。
猫族の目は夜に強いらしく、闇の中では魔力をより敏感に察知する。その能力のおかげで昼には見えなかった結界がわかるみたいだった。
ふむふむ、あの網目の細かさだと、人間が感付かれずに潜り抜けるのは無理だろう。でも、猫の大きさなら簡単だ。
私は闇に紛れてこっそり王宮に近付いた。結界はあっさり突破できたけれども、次は鉄柵やガチムチ衛兵が立ちはだかる。それでも、いくら訓練された兵士でも、完全に気配を消した私には気付かなかった。
木を伝って鉄柵を乗り越え、王宮の敷地に入り込む。
うむ。ここまでは楽勝と言ってもいいわ。猫族がスパイとして重宝されたわけがわかる。
しかし、さすがに中に入るのは至難の業だった。馬鹿正直に正面玄関からだとさすがに見つかるし、それではと使用人用の裏門に回ってみたものの、こちらもがっちりと衛兵にガードされている。マリカ様を浚ってきたので、警戒を厳重にしているのかもしれない。
ない脳みそを振り絞ってしばし考え、そうだ!と手……ではなく前足を打った。
王宮には外観を壊さないよう、派手に飾り付けた煙突がいくつかある。大体その中の数本は使われていない。煙突はススやタールで詰まるので、定期的な掃除が必要だからだ。一斉に掃除となると煙突が使えなくなるから、こうして煙突がいくつもある建物では、メンテナンスの時期をずらしているのが一般的だ。
私は早速屋根に根性でよじ登ると、熱くなっていない煙突の一本に潜り込んだ。壁に爪を立ててじりじりとお尻から降りていく。
おうっぷ。予想通りススとタールで焦げ臭い……。
ようやく下から明かりが見えて、どこかの部屋の暖炉から脱出する頃には、私は白黒ハチワレの靴下猫から、黒一色の見事な黒猫になっていた。
どうもこの部屋は数多くある客間の一室らしい。天蓋付きの豪華なベッドや調度品は取り揃えられているものの、シーツに皺ひとつなく生活感もないところから、このところは使われていないと私は踏んだ。
メイドをやっていたからそういうことには敏感なのよ!
しかし! かかし! 猫ドリルとなって体のススとタールを落としているところで、どこからか聞こえてくるハートの飛び散る喘ぎ声に気付く。
ん? なんじゃい?
喘ぎ声はカーテンの向こうからみたいだ。こっそり捲って忍び込んでみてビビった。
なんと! 侍女らしきアラサーの女の人と衛兵が窓に手をかけて、立ちバッ〇で励んでらっしゃったからだ!
「ハハッ! 普段部下をさんざんいじめるお局侍女様が惨めなザマだな! オラオラっ!!」
「ああっ、そんなひどいわブルーノ! もっと、もっと私をいじめてちょうだいぃ!」
「……」
なるほど、召使たちの逢引きの格好の場となっているわけか。
なんかお二人ともものすごく熱心にプレイされていらっしゃる……。いやいや、楽しそうで何よりでございます。というか、窓際でいたすとかなんて大胆な。
ええっ、そんなこともこんなこともあんなこともしちゃうの!?――と約三〇分ほどじっくり見学していてハッとした。
私はデバガメしにきたのではなく、マリカ様を探しに来たんだった!
くっ……最後まで見られないのが惜しいものの仕方がない。
私は後ろ髪を引かれつつこっそり客間から抜け出した。
それから一階から二階のすべての部屋を見て回ったものの、マリカ様の姿は掻き消えたようにどこにもなかった。
まさか、もう殺されているのではと不吉な想像をしてしまう。私は首を横に振ってそんなはずはないと心を落ち着けた。
あの殺しても死にそうにないマリカ様だもの。どこかで元気にどSっぷりを発揮しているに違いない。
めげずにずっと探し続けて、地下へと続く道を見つけたのは、それから二時間ほど後のことだった。
謁見の前の玉座の裏の床に隠し扉があったのだ。きっと緊急時には王族はここから逃げるのだろう。
私は扉を開けて狭く急な階段を下りて行った。どこもかしこも石造りで闇に閉ざされていて、階段の終わった先には苔生した細い道が続いている。そこを更に五分ほど歩き続けると、ぱっと辺りが開けて目を瞬かせた。道がいきなり広くなって、両脇にいくつもの鉄格子のついた部屋がある。
どうやら地下牢らしい。
特有のカビ臭さに顔を顰めていると、うち一室から明かりが漏れ出ているのに気付いた。同時に、そこから男の人の苛立たし気な声も聞こえる。
「お前、自分の立場を理解しているのか!?」
「フン、しているに決まっているじゃないの。だから食事なんて無用だって言っているのよ」
「死にたいのか!? もう三日も食べていないだろう!?」
「死ぬのは私であってあなたじゃないでしょ。リンナの王太子ともあろう男が何をそんなに慌てているわけ?」
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