43 / 66
本編
おっさんは(聞いていないのに)語る!(2)
しおりを挟む
おっさんは語りたがる生き物だとは知っている。前世では飲み会なんかで酔った上司に絡まれて延々と聞かされた。大体果てしなくどうでもいい武勇伝だとか、明らかに盛った落とした女の数とか、学歴でも仕事でもプライベートでも、とにかく自慢したがるのである。
しかし、それはあくまで部下や女相手であって、猫相手に語るって何かを拗らせていない!? 独り身が長すぎて頭がおかしくなったのだろうか!?
おっさんは戦慄する私を前にこう呟いた。
「当時、私は女に取り囲まれる毎日だった。正直うんざりしていたよ」
若き日のおっさんはそれはそれはおモテになられたらしい。ところが、女よりも仕事や研究が第一で、邪魔だとしか思えず片端から振ってきたのだとか。結構ストイックな性格みたいだった。
この辺りはまあ頷けないではない。その頃は落ち着きのある長髪美青年だったのだろう。なのに、なぜこんな変態とまで呼べる猫好きに、メタモルフォーゼしてしまったのか!?
「そんな日々の中で唯一の癒しは、親友と語り合うことと、勤め先の裏に遊びに来る猫に餌をやり、戯れることだった……」
猫好きはもはや生まれつきなんですかそうですか……。なら、いつプレミアムクラスにグレードアップしたのか!?
「あれは、秋のある日のことだった。見慣れぬ猫が野良に混じってやって来たのだ。私は窓から見ていたのだが、その姿に釘付けになった。ミルク色の長く艶やかな毛並みに、高貴さすら感じさせるアクアマリンの瞳……。心臓が早鐘を打ち始め、私はいても経ってもいられず、餌を手に研究室を飛び出した」
ところが、麗しのお猫様は手強かった。おっさんの貢いだ餌のにおいを嗅ぎはしたものの、フンと鼻を鳴らして顔を背けて一口も食べなかった。おっさんはつれないその態度に二度ハートを撃ち抜かれた。なお、お猫様は「行かないでぇ! モフらせてぇ!」、と哀願するおっさんを残し、一瞥もせずその場を立ち去ったのだそうだ。
私は話を聞きながらちょっとどころではない危機感を覚えていた。おっさんの危ないツンデレ趣味がわかったからだけではない。まさか恋愛対象が猫なのだろうか。
しかし、その後はお猫様にようやくモフモフさせてもらうまでの、お涙頂戴のストーリーが延々延々と続き、私は退屈過ぎて居眠りをしていた。
おっさんってどうしてこうも話が長いのかしら……。
「……彼女が猫族だと知った時には驚いた。しかも、すでに絶滅したとされていた純血種である上に、その一族の長の娘なのだという。あの高貴さは姫君のものだったのかと納得したものだ。一族は森の奥でひっそり暮らしていたのだが、森が洪水に襲われ、彼女を残して全滅してしまったらしい。そこで、王家に保護を求めてきたのだそうだ」
丸まって眠りたいところだけれども、さすがにおっさんに悪いし……。
「……人の姿の彼女もやはり美しかった。私は、生まれて初めて恋に落ちたのだ」
ああ、体が右に左に振り子となって揺れる……。
「……彼女も初めはけんもほろろだったが、やがて私の貢ぎ物……。……。い、いや、愛を受け入れてくれるようになり、私たちは将来を誓い合う仲になった。しかし、彼女を愛したのは私だけではなかったのだ……!!」
脳内では羊が一匹、二匹と柵を越えている。ちなみにメリノ種である。メーメーメー……。
「……まさか、たった一人の親友が……陛下が彼女を狙っていたとは。彼女を譲るよう命じられた時、私はもうこの友情は終わりであり、カレリアにはいられないと、彼女を連れてリンナに亡命することにし……」
ああ、ハイ〇とク〇ラとペ〇ターとなぜかフランダー〇の犬もいる。皆仲良くあのどこから下がっているのかわからないブランコに乗っている……。
「……彼女を死に追いやった陛下だけは、あの男だけは許さない。私も奴から大切な存在を奪い取ってやるのだ!!」
……ハッ! もう少しで倒れるところだった。危ない危ない。
私は慌てて姿勢を正しておっさんを見上げた。
で、今話はどこまで進んだのでしょうか?
おっさんは私を見下ろし呆然としていた。
「……済まない。君に話してもわかるはずもないな。私もどうかしていた」
うん、確かにどうかしている。やっぱり独り身を拗らせたに違いない。
おっさんならまだイケると思うから、頑張って婚活して奥さんゲットした方がいいと思う。元カノ(?)の美猫のことなんて忘れてさ。
おっさんは私の首の後ろをコリコリと掻いてくれた。変態レベルの猫好きだけあって、猫の触ってもらって嬉しいところをわかっている。私は気持ちがよくてうっとりと目を閉じた。
「だけど、すっきりしたよ。誰にも言ったことがなかったからね。君は不思議な子だね」
私はそれからベッドの上に丸まって今度こそ眠りに落ちた。明日にはアトス様に会えといいなと思いながら。
しかし、それはあくまで部下や女相手であって、猫相手に語るって何かを拗らせていない!? 独り身が長すぎて頭がおかしくなったのだろうか!?
おっさんは戦慄する私を前にこう呟いた。
「当時、私は女に取り囲まれる毎日だった。正直うんざりしていたよ」
若き日のおっさんはそれはそれはおモテになられたらしい。ところが、女よりも仕事や研究が第一で、邪魔だとしか思えず片端から振ってきたのだとか。結構ストイックな性格みたいだった。
この辺りはまあ頷けないではない。その頃は落ち着きのある長髪美青年だったのだろう。なのに、なぜこんな変態とまで呼べる猫好きに、メタモルフォーゼしてしまったのか!?
「そんな日々の中で唯一の癒しは、親友と語り合うことと、勤め先の裏に遊びに来る猫に餌をやり、戯れることだった……」
猫好きはもはや生まれつきなんですかそうですか……。なら、いつプレミアムクラスにグレードアップしたのか!?
「あれは、秋のある日のことだった。見慣れぬ猫が野良に混じってやって来たのだ。私は窓から見ていたのだが、その姿に釘付けになった。ミルク色の長く艶やかな毛並みに、高貴さすら感じさせるアクアマリンの瞳……。心臓が早鐘を打ち始め、私はいても経ってもいられず、餌を手に研究室を飛び出した」
ところが、麗しのお猫様は手強かった。おっさんの貢いだ餌のにおいを嗅ぎはしたものの、フンと鼻を鳴らして顔を背けて一口も食べなかった。おっさんはつれないその態度に二度ハートを撃ち抜かれた。なお、お猫様は「行かないでぇ! モフらせてぇ!」、と哀願するおっさんを残し、一瞥もせずその場を立ち去ったのだそうだ。
私は話を聞きながらちょっとどころではない危機感を覚えていた。おっさんの危ないツンデレ趣味がわかったからだけではない。まさか恋愛対象が猫なのだろうか。
しかし、その後はお猫様にようやくモフモフさせてもらうまでの、お涙頂戴のストーリーが延々延々と続き、私は退屈過ぎて居眠りをしていた。
おっさんってどうしてこうも話が長いのかしら……。
「……彼女が猫族だと知った時には驚いた。しかも、すでに絶滅したとされていた純血種である上に、その一族の長の娘なのだという。あの高貴さは姫君のものだったのかと納得したものだ。一族は森の奥でひっそり暮らしていたのだが、森が洪水に襲われ、彼女を残して全滅してしまったらしい。そこで、王家に保護を求めてきたのだそうだ」
丸まって眠りたいところだけれども、さすがにおっさんに悪いし……。
「……人の姿の彼女もやはり美しかった。私は、生まれて初めて恋に落ちたのだ」
ああ、体が右に左に振り子となって揺れる……。
「……彼女も初めはけんもほろろだったが、やがて私の貢ぎ物……。……。い、いや、愛を受け入れてくれるようになり、私たちは将来を誓い合う仲になった。しかし、彼女を愛したのは私だけではなかったのだ……!!」
脳内では羊が一匹、二匹と柵を越えている。ちなみにメリノ種である。メーメーメー……。
「……まさか、たった一人の親友が……陛下が彼女を狙っていたとは。彼女を譲るよう命じられた時、私はもうこの友情は終わりであり、カレリアにはいられないと、彼女を連れてリンナに亡命することにし……」
ああ、ハイ〇とク〇ラとペ〇ターとなぜかフランダー〇の犬もいる。皆仲良くあのどこから下がっているのかわからないブランコに乗っている……。
「……彼女を死に追いやった陛下だけは、あの男だけは許さない。私も奴から大切な存在を奪い取ってやるのだ!!」
……ハッ! もう少しで倒れるところだった。危ない危ない。
私は慌てて姿勢を正しておっさんを見上げた。
で、今話はどこまで進んだのでしょうか?
おっさんは私を見下ろし呆然としていた。
「……済まない。君に話してもわかるはずもないな。私もどうかしていた」
うん、確かにどうかしている。やっぱり独り身を拗らせたに違いない。
おっさんならまだイケると思うから、頑張って婚活して奥さんゲットした方がいいと思う。元カノ(?)の美猫のことなんて忘れてさ。
おっさんは私の首の後ろをコリコリと掻いてくれた。変態レベルの猫好きだけあって、猫の触ってもらって嬉しいところをわかっている。私は気持ちがよくてうっとりと目を閉じた。
「だけど、すっきりしたよ。誰にも言ったことがなかったからね。君は不思議な子だね」
私はそれからベッドの上に丸まって今度こそ眠りに落ちた。明日にはアトス様に会えといいなと思いながら。
1
お気に入りに追加
1,886
あなたにおすすめの小説
【R18】××××で魔力供給をする世界に聖女として転移して、イケメン魔法使いに甘やかされ抱かれる話
もなか
恋愛
目を覚ますと、金髪碧眼のイケメン──アースに抱かれていた。
詳しく話を聞くに、どうやら、私は魔法がある異世界に聖女として転移をしてきたようだ。
え? この世界、魔法を使うためには、魔力供給をしなきゃいけないんですか?
え? 魔力供給って、××××しなきゃいけないんですか?
え? 私、アースさん専用の聖女なんですか?
魔力供給(性行為)をしなきゃいけない聖女が、イケメン魔法使いに甘やかされ、快楽の日々に溺れる物語──。
※n番煎じの魔力供給もの。18禁シーンばかりの変態度高めな物語です。
※ムーンライトノベルズにも載せております。ムーンライトノベルズさんの方は、題名が少し変わっております。
※ヒーローが変態です。ヒロインはちょろいです。
R18作品です。18歳未満の方(高校生も含む)の閲覧は、御遠慮ください。
【R18】少年のフリした聖女は触手にアンアン喘がされ、ついでに後ろで想い人もアンアンしています
アマンダ
恋愛
女神さまからのご命令により、男のフリして聖女として召喚されたミコトは、世界を救う旅の途中、ダンジョン内のエロモンスターの餌食となる。
想い人の獣人騎士と共に。
彼の運命の番いに選ばれなかった聖女は必死で快楽を堪えようと耐えるが、その姿を見た獣人騎士が……?
連載中の『世界のピンチが救われるまで本能に従ってはいけません!!〜少年聖女と獣人騎士の攻防戦〜』のR18ver.となっています!本編を見なくてもわかるようになっています。前後編です!!
ご好評につき続編『触手に犯される少年聖女を見て興奮した俺はヒトとして獣人として最低です』もUPしましたのでよかったらお読みください!!
【R18】触手に犯された少年聖女を見て興奮した俺はヒトとして獣人として最低です
アマンダ
恋愛
獣人騎士のアルは、護衛対象である少年と共に、ダンジョンでエロモンスターに捕まってしまう。ヌルヌルの触手が与える快楽から逃れようと顔を上げると、顔を赤らめ恥じらう少年の痴態が――――。
連載中の『世界のピンチが救われるまで本能に従ってはいけません!!〜少年聖女と獣人騎士の攻防戦〜』のR18ver.となります。おなじく『男のフリした聖女は触手にアンアン喘がされ、ついでに想い人の獣人騎士も後ろでアンアンしています。』の続編・ヒーロー視点となっています。
本編は読まなくてもわかるようになってますがヒロイン視点を先に読んでから、お読みいただくのが作者のおすすめです!
ヒーロー本人はBLだと思ってますが、残念、BLではありません。
R18、アブナイ異世界ライフ
くるくる
恋愛
気が付けば異世界。しかもそこはハードな18禁乙女ゲームソックリなのだ。獣人と魔人ばかりの異世界にハーフとして転生した主人公。覚悟を決め、ここで幸せになってやる!と意気込む。そんな彼女の異世界ライフ。
主人公ご都合主義。主人公は誰にでも優しいイイ子ちゃんではありません。前向きだが少々気が強く、ドライな所もある女です。
もう1つの作品にちょいと行き詰まり、気の向くまま書いているのでおかしな箇所があるかと思いますがご容赦ください。
※複数プレイ、過激な性描写あり、注意されたし。
(R18)あらすじしか知らない18禁乙女ゲーム異世界転生。
三月べに
恋愛
魔法溢れる異世界転生だと思っていたのに、入学した途端に生前に見かけただけの18禁乙女ゲームの世界だと気付いたヒロイン。まぁ、ストーリーを知らないんだから、フラグも何もないよねー! がフラグとなった。
「キスって……こんな気持ちええんな?」
攻略対象であろう訛りのあるイケメン同級生のうっとりした表情にズキュン。
【R18】助けてもらった虎獣人にマーキングされちゃう話
象の居る
恋愛
異世界転移したとたん、魔獣に狙われたユキを助けてくれたムキムキ虎獣人のアラン。襲われた恐怖でアランに縋り、家においてもらったあともズルズル関係している。このまま一緒にいたいけどアランはどう思ってる? セフレなのか悩みつつも関係が壊れるのが怖くて聞けない。飽きられたときのために一人暮らしの住宅事情を調べてたらアランの様子がおかしくなって……。
ベッドの上ではちょっと意地悪なのに肝心なとこはヘタレな虎獣人と、普段はハッキリ言うのに怖がりな人間がお互いの気持ちを確かめ合って結ばれる話です。
ムーンライトノベルズさんにも掲載しています。
【本編完結/R18】獣騎士様!私を食べてくださいっ!
天羽
恋愛
閲覧ありがとうございます。
天羽(ソラハネ)です。宜しくお願い致します。
【本編20話完結】
獣騎士団団長(狼獣人)×赤い瞳を持つ娘(人間)
「おおかみさんはあたしをたべるの?」
赤い瞳は魔女の瞳。
その噂のせいで、物心つく前から孤児院で生活する少女……レイラはいつも1人ぼっちだった。
そんなレイラに手を差し伸べてくれたたった1人の存在は……狼獣人で王国獣騎士団のグラン・ジークスだった。
ーー年月が経ち成長したレイラはいつの間にかグランに特別な感情を抱いていた。
「いつになったら私を食べてくれるの?」
直球に思いを伝えてもはぐらかされる毎日……それなのに変わらずグランは優しくレイラを甘やかし、恋心は大きく募っていくばかりーーー。
そんなある日、グランに関する噂を耳にしてーーー。
レイラ(18歳)
・ルビー色の瞳、白い肌
・胸まである長いブラウンの髪
・身長は小さく華奢だが、大きめな胸
・グランが大好きで(性的に)食べて欲しいと思っている
グラン・ジークス(35歳)
・狼獣人(獣耳と尻尾が特徴)
・ダークグレーの髪と瞳、屈強な体躯
・獣騎士団団長 剣術と体術で右に出る者はいない
・強面で冷たい口調だがレイラには優しい
・レイラを溺愛し、自覚は無いがかなりの過保護
※R18作品です
※2月22日22:00 更新20話で完結致しました。
※その後のお話を不定期で更新致します。是非お気に入り登録お願い致します!
▷▶▷誤字脱字ありましたら教えて頂けますと幸いです。
▷▶▷話の流れや登場人物の行動に対しての批判的なコメントはお控え下さい。(かなり落ち込むので……)
【R-18】喪女ですが、魔王の息子×2の花嫁になるため異世界に召喚されました
indi子/金色魚々子
恋愛
――優しげな王子と強引な王子、世継ぎを残すために、今宵も二人の王子に淫らに愛されます。
逢坂美咲(おうさか みさき)は、恋愛経験が一切ないもてない女=喪女。
一人で過ごす事が決定しているクリスマスの夜、バイト先の本屋で万引き犯を追いかけている時に階段で足を滑らせて落ちていってしまう。
しかし、気が付いた時……美咲がいたのは、なんと異世界の魔王城!?
そこで、魔王の息子である二人の王子の『花嫁』として召喚されたと告げられて……?
元の世界に帰るためには、その二人の王子、ミハイルとアレクセイどちらかの子どもを産むことが交換条件に!
もてない女ミサキの、甘くとろける淫らな魔王城ライフ、無事?開幕!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる