上 下
38 / 66
本編

王女様の逆襲!…のはずが(2)

しおりを挟む
 私たちは警察犬と化したソフィア様のあとをついて行った。

 ソフィア様は廊下をくんくんと嗅ぎながら歩いていく。ユーリはまずトイレに行き、廊下に戻って、次は中庭に向かったみたいだった。

 ところが、途中でソフィア様の足がピタリと止まる。中庭の植え込み辺りを嗅ぎ回っていたものの、やがて鼻に皺を寄せて「ウウウ~」と唸った。

 更に、今度は厨房近くにある、メイド用の出入り口へ向かう。最後にぴょんとその場で一回転し、ベルば○のオス○ル様的な姿に戻って腕を組んだ。

「ユーリ殿はどうも裏口から出ていったらしい。それに、なぜかマリカ殿下のにおいもあるのだが……」

「はいぃ!?」

 つい素っ頓狂な叫び声を上げてしまった。

 どうしてマリカ様が王宮にいるの!?

 二日前からマリカ様はカレリアにいないはずなのに。
 
 愛しのアトス様が結婚すると知り、怒り狂ったマリカ様を止められる猛者は、多分カレリアにはいない―ーそう判断した陛下はアトス様の結婚相手が誰なのを、重鎮や魔術師ら以外には当分極秘にすることにした。

 ちなみに、当初アトス様は自分がマリカ様を説得するつもりだったらしい。いつまでも隠しておけるものでもないし、マリカ様もいい大人なのだから、いずれはわかってくださるだろうと。

 しかし、そう申し出たアトス様に対する陛下の答えは、「あの天上天下唯我独尊が納得すると思うか?」だったのだそうだ……。

 そこで、陛下はアトス様と私の結婚式が終わり、マリカ様のほとぼりが冷めるまで、友好国のバルト公国に留学させることにしたのだ。向こうにはまだ独り身のイケメン公子が何人かいるので、気に入った相手がいれば婚約させるつもりもあると聞いていた。

 陛下はマリカ様の扱いには困ってはいるものの、なんだかんだで可愛いには違いないのよね。失恋のアフターケアも怠らないし。相手が陛下も手放せないレベルの、スーパー魔術師のアトス様でなければ、マリカ様の恋も叶っていたのかもしれない。

 まあとにかく、やっと無事に結婚できそうだとほっとした矢先にこれ!! まさか、マリカ様はもう私がアトス様の相手だと知っていたとか!? そこまでするとは思わなかったんだけど、私憎さにユーリをさらったとか!? ありえないと言い切れないところが、マリカ様の怖いところよ……!!

 ガクブルとなる私を前にソフィア様が告げる。

「これは一度陛下にご報告し、指示を仰ぐのがよろしいかと……。捜索隊を出していただこう」

 ソフィア様の言うとおりだったので、私たちは急いで陛下のもとへ行き、すぐに捜索隊を出してもらうことになった。

 アトス様には王宮で待っていろと言われたものの、さすがに弟のピンチにじっとしてはいられない。必死になってアトス様に訴えた結果、アトス様とソフィア様のいる捜索隊に混ぜてもらった。

 ううっ、ユーリ、今姉ちゃんが探しにいくからね!! 無事でいるのよ!!

 王宮の周囲には王都の城下町があって、これが結構広くて多分新宿くらいはある。この世界のこの大陸では一、二を争う規模だ。

 とはいえ、いくらマリカ様でも一応女の子の足だし、ユーリを連れているし、一、二時間程度でそう遠くにまで行けるとは思えない。

 私は獣化したソフィア様の隣を歩きながら、ユーリを必死になって探していた。

 ところで、私も猫の姿になっている。さすがに犬……いや狼ほどではないものの、人間よりはずっと嗅覚があるし、ジャンプして屋根にも登れる。ユーリを探すのに役立つだろうと判断したのだ。

 なのに、まだマリカ様もユーリも見つからない。中央通りにも西通りにも南通りにも北通りにもいない。

 最後に、東通りの終わり近くに来たところで、ソフィア様の四本の足がふと止まった。レンガ造りの細長い三階建ての建物を見上げる。きっと平民用の集合住宅だったところだ。でも、屋根や壁の一部が崩れていて、人が住んでいる気配はない。きっと古くなってひどく痛んだので、皆引っ越してしまったのだろう。

 アトス様が腰を屈め、ソフィア様の顔を覗き込んだ。

「この中にいるのか?」

 ソフィア様は小さく頷き、前足で閉ざされた扉を掻いた。ここで二人のにおいが途切れているみたいだ。

 捜索隊の一人の近衛兵が取っ手を押したり引いたりしたものの、鍵が掛けられているらしく扉はピクリともしない。

 アトス様が「私がやる」と代わったものの、すぐにはっとして眉を潜めた。

「魔術で封印されている……」

 次は手のひらから魔力の光を出して開けようとしたりしたものの、どうにもならなかったらしく「馬鹿な」と息を呑む。

「開かない……なぜだ」

 これにはソフィア様も、捜索隊の近衛兵も、私もそんなバカなと目を見開いた。

 アトス様は実質的にカレリア一の魔術師だ。そんじょそこらの魔術師の掛けた鍵や封印なんて簡単に解いてしまう。そのアトス様に太刀打ちできない相手がいるだなんて――

 不吉な予感に背筋がぞくりと震える。マリカ様とユーリは恐ろしい誰かの関わる、事件に巻き込まれているのではないだろうか?

 でも、このまま引き下がるわけにはいかない。私はどこか出入りのできる場所はないかと建物を見上げた。そして、二階の壁の一部に穴が空いているのが目に入る。人間は子どもでも無理だろうけど、猫の私なら通り抜けられる大きだった。

 くっそう、猫族を舐めるんじゃないわよ!!

 私は距離と高さを頭の中で計算しつつ、お尻をふりふりとして準備を整えると、一気にソフィア様に向かって駆け出した! 

「ワフッ!?」

 ソフィア様は勢いよく向かってくる私を見て目を見開く。「何をするつもりなのか」と顔に書いてあった。

――ソフィア様、ごめんなさい。踏み台になっていただきます!

 私はとんと地を蹴りソフィア様のモフモフの背に着地すると、続いて近くにいるアトス様の肩に飛び乗った。最後に渾身の力を振り絞ってジャンプをする。

「アイラ……!?」

 あの穴に届くか、届かぬか、それが問題だ! やった! ギリギリ届……かなかったあああぁぁぁ!! 

「うにゃぁぁぁあああ!!」

 私は壁に前足の爪を立てた。とにかく這い上がろうと必死である。

 穴まであと二〇センチ! 二〇センチなのに……!!

 しかし、重力には逆らえずに、ギィィィと耳を塞ぎたい音を立てつつ、ずりずりと壁を落ちていく。あっ、あっ、あっ、落ちる、落ちるぅぅぅううう!!

 ええい、踏ん張れ私、負けるな私!! 猫だってやるときゃやるのよ!!

 私は根性だけを頼りに前足と後ろ足に力を込め、ずり……ずり……とナメクジのスピードでよじ登った。

「アイラ! いけない! 戻るんだ!」

 アトス様の声が聞こえたけれども、中まで探せるのは私しかいない。

 ようやく穴に潜り込むことができて、腹ばいになってほっと息を吐き出す。封印がかけられていたのは、幸い扉だけだったみたいだ。
 
 早速鼻をひくつかせると、奥からユーリのにおいを感じた。

 よし、ひとまずマリカ様とユーリの無事を確認してこよう。

 私は埃っぽい空間に足を踏み出した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【R18】触手に犯された少年聖女を見て興奮した俺はヒトとして獣人として最低です

アマンダ
恋愛
獣人騎士のアルは、護衛対象である少年と共に、ダンジョンでエロモンスターに捕まってしまう。ヌルヌルの触手が与える快楽から逃れようと顔を上げると、顔を赤らめ恥じらう少年の痴態が――――。 連載中の『世界のピンチが救われるまで本能に従ってはいけません!!〜少年聖女と獣人騎士の攻防戦〜』のR18ver.となります。おなじく『男のフリした聖女は触手にアンアン喘がされ、ついでに想い人の獣人騎士も後ろでアンアンしています。』の続編・ヒーロー視点となっています。 本編は読まなくてもわかるようになってますがヒロイン視点を先に読んでから、お読みいただくのが作者のおすすめです! ヒーロー本人はBLだと思ってますが、残念、BLではありません。

【R18】魔法使いの弟子が師匠に魔法のオナホで疑似挿入されちゃう話

紅茶丸
恋愛
魔法のオナホは、リンクさせた女性に快感だけを伝えます♡ 超高価な素材を使った魔法薬作りに失敗してしまったお弟子さん。強面で大柄な師匠に怒られ、罰としてオナホを使った実験に付き合わされることに───。というコメディ系の短編です。 ※エロシーンでは「♡」、濁音喘ぎを使用しています。処女のまま快楽を教え込まれるというシチュエーションです。挿入はありませんがエロはおそらく濃いめです。 キャラクター名がないタイプの小説です。人物描写もあえて少なくしているので、好きな姿で想像してみてください。Ci-enにて先行公開したものを修正して投稿しています。(Ci-enでは縦書きで公開しています。) ムーンライトノベルズ・pixivでも掲載しています。

マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました

東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。 攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる! そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。

R18、アブナイ異世界ライフ

くるくる
恋愛
 気が付けば異世界。しかもそこはハードな18禁乙女ゲームソックリなのだ。獣人と魔人ばかりの異世界にハーフとして転生した主人公。覚悟を決め、ここで幸せになってやる!と意気込む。そんな彼女の異世界ライフ。  主人公ご都合主義。主人公は誰にでも優しいイイ子ちゃんではありません。前向きだが少々気が強く、ドライな所もある女です。  もう1つの作品にちょいと行き詰まり、気の向くまま書いているのでおかしな箇所があるかと思いますがご容赦ください。  ※複数プレイ、過激な性描写あり、注意されたし。

【R18】少年のフリした聖女は触手にアンアン喘がされ、ついでに後ろで想い人もアンアンしています

アマンダ
恋愛
女神さまからのご命令により、男のフリして聖女として召喚されたミコトは、世界を救う旅の途中、ダンジョン内のエロモンスターの餌食となる。 想い人の獣人騎士と共に。 彼の運命の番いに選ばれなかった聖女は必死で快楽を堪えようと耐えるが、その姿を見た獣人騎士が……? 連載中の『世界のピンチが救われるまで本能に従ってはいけません!!〜少年聖女と獣人騎士の攻防戦〜』のR18ver.となっています!本編を見なくてもわかるようになっています。前後編です!! ご好評につき続編『触手に犯される少年聖女を見て興奮した俺はヒトとして獣人として最低です』もUPしましたのでよかったらお読みください!!

伯爵令嬢のユリアは時間停止の魔法で凌辱される。【完結】

ちゃむにい
恋愛
その時ユリアは、ただ教室で座っていただけのはずだった。 「……っ!!?」 気がついた時には制服の着衣は乱れ、股から白い粘液がこぼれ落ち、体の奥に鈍く感じる違和感があった。 ※ムーンライトノベルズにも投稿しています。

【R18】××××で魔力供給をする世界に聖女として転移して、イケメン魔法使いに甘やかされ抱かれる話

もなか
恋愛
目を覚ますと、金髪碧眼のイケメン──アースに抱かれていた。 詳しく話を聞くに、どうやら、私は魔法がある異世界に聖女として転移をしてきたようだ。 え? この世界、魔法を使うためには、魔力供給をしなきゃいけないんですか? え? 魔力供給って、××××しなきゃいけないんですか? え? 私、アースさん専用の聖女なんですか? 魔力供給(性行為)をしなきゃいけない聖女が、イケメン魔法使いに甘やかされ、快楽の日々に溺れる物語──。 ※n番煎じの魔力供給もの。18禁シーンばかりの変態度高めな物語です。 ※ムーンライトノベルズにも載せております。ムーンライトノベルズさんの方は、題名が少し変わっております。 ※ヒーローが変態です。ヒロインはちょろいです。 R18作品です。18歳未満の方(高校生も含む)の閲覧は、御遠慮ください。

完結R18 異世界に召喚されたら、いきなり頬を叩かれました。

にじくす まさしよ
恋愛
R18 タグをご覧になり、合わないと思った方はバックお願いします  両親に先立たれた一人っ子のリアは、その事をきっかけにいじめられるようになった。その日も、いとこにいじめられている最中、喘息発作が起き、いきなり体がどこかに持っていかれる。  あまりの出来事に目を閉じて身を縮こませていたところ、いきなり両頬を叩かれた。びっくりして目を開けると、そこにいた、筋骨隆々の男が顔を赤くして、リアに向かい再び手を振り上げたのであった── ご要望には応えたい派閥です! ざまあはほぼなし。 コメディあり、シリアスあり、右手あり、筋肉あり。いつも似たようなのばっかりですね。 今回のモチーフは、知人のペットを参考にしてます。滅茶苦茶懐きますしかわいいですが、実は苦手な生き物なのです。 【完結R18】おまけ召還された不用品の私には、嫌われ者の夫たちがいます   に少しリンクしています。前作の登場人物がチラッと出てきます。 コメントは多忙のため管理できませんのでクローズしてます。

処理中です...