猫に転生(う)まれて愛でられたいっ!~宮廷魔術師はメイドの下僕~ 

東 万里央(あずま まりお)

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本編

*下僕失格(6)

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 そのままぐいっと引っ張られ、繋がったまま抱き起されてしまう。

「ひゃっ……」

 正面から向かい合い、アトス様をまたぐ形になり、私はまた顔が熱くなるのを感じた。

 だって、目の前にアトス様の眼鏡なしの美貌があって……その瞳に蕩けた顔の私が映っているだけではない。自分の体重がかかって、アトス様のかたいものが、奥の奥にまで届いたからだ。

 と言うか、もうかたさだけではなく大きさも復活してるって、アトス様ってどれだけ体力があるのだろう!? 魔術師って(理系+文系)÷2ってイメージがあったけれども、実は体育会系を兼ねていたのだろうか!?

 驚きを口に出す間もなく、腰を掴んで揺すぶられ、その刺激に涙を流して首を振る。アトス様の分身の先端が大切なところに潜り込んできた時には、体の中から串刺しにされてしまうのではないかと怖くなった。

 そんな気持ちもすぐに快感に掻き消されてしまう。

「んあっ……あっ……だ……めっ」

 お腹の奥がマグマのように熱い。私の蜜とアトス様の放ったものが、繋がる部分から漏れ出てきて、それもまた同じくらい熱せられていた。

 一際強く突かれ、あられもない声を上げた瞬間のことだった。口から二本の牙がひょいと出て、爪が猫のものになってしまったのだ。気持ちよさのあまりにこの二つの部分だけ、中途半端に獣化してしまったみたいだ。

 もう自分をコントロールするなんて無理だった。

「あっ……もお、許してえ……ゃあんっ」

 内側を大きく掻き回されて、その後再び奥を突かれて啼いてしまう。

「なら、私を世界で一番好きだと言ってごらん」

「す……あんっ」

 好きだと言おうにもそんな余裕がない。不意に腰を持ち上げられて、そのまま落とされてしまったからだ。体の中への衝撃とともにぱんっと音がして、頭が真っ白になって何も考えられなくなる。

「あ、ああっ……」

 きゅっとアトス様のものを締め付けてしまう。私は耐え切れずに逞しい胸に縋り付き、広い背に腕を回して爪を立てた。猫の鋭い爪がアトス様の肌を薄く裂いて、血で指先がぬるりとなる。

「……っ」

 アトス様の顔がかすかに歪む。それでも私の体を強く抱き締め、離すことはなかった。

「アイラ」

 荒い息を吐き続ける私の耳元にそっと囁く。

「耐えられそうにないなら、噛み付いても構わないから」

 いつもの私なら「そんな、滅相もない!」と後ずさっていたことだろう。けれども、この時は快感に身も心も支配されていて、半分正気を失くしてただ助けを求めていた。
 
 だから、言われるまま、本能のままにアトス様の肩に噛み付いたのだ。二本の牙がアトス様の肩に刺さって、血が口の中に広がる。鉄の味のはずなのに、不思議と甘く感じた。

「くっ……」

 同時に、アトス様が顔を顰めつつ、私の中に再び熱を放つ。

「あんっ……あ、つい……」

 お腹の奥から背筋を二度目の熱風が駆け抜けた。私はアトス様の首に手を回し、体を弓なりに仰け反らせる。

 一分後、力を失くした体をアトス様にもたせ掛けると、アトス様は荒い息を吐きながらも、私の背を優しく撫でてくれた。

「アイラ、よかった。……たまらなかった」

「……ん」

 私はしばらくそうして抱かれていたけれども、やがてはっとなってアトス様の肩に目を落とした。

 ついアトス様を引っ掻いただけではなく、牙を立ててしまった……!!

 肩には二つの小さな穴が空いていて、かすかに血が滲んでいる。

「ご、ごめんなさい……」

 どうしていいのかわからなくて、私は血を舌で舐め取った。そのままペロペロとし続けていると、アトス様が笑いながら私をそっと抱き締めてくる。

「アイラ、くすぐったい。もういいから」

「で、でも、痛そうで……」

「君がつけてくれた傷なら、痛くもなんともない。それどころか……悪くない」

 ちょ、ちょっと待って!? アトス様のヘンな性癖を開花させちゃった!? ただでさえとんでもない猫好きなのに、エッチまでアブノーマルに走ったらやばいわ!! 
 
 どうしたものかと青ざめていたものの、あることを思い出してはっとする。照れくさいけれども、どうしても今伝えたかった。

「あのう、アトス様……」

 私はアトス様の耳に口を寄せた。

「どうしたんだい?」

「さっき、言えなかったから……」

 微笑むアトス様にそっと告げる。

「私、マタタビより、お魚より、お肉より、アトス様が好きです」

 切れ長の目が大きく見開かれた。私は恥ずかしくなりながらも笑う。

「あなたが世界で一番好き。……アトス様はどうですか?」

 どんな答えが帰ってくるかとドキドキしていると、まず初めに言葉ではなくキスの雨が降ってきた。

「にゃんっ……」

 眉に、目に、頬に、最後に唇に――唇へのキスは長く、甘く、優しかった。

「……ん」

 数分後、ようやく唇が離れたものの、まだ睫毛が触れそうなくらい顔が近い。熱を含んだタンザナイト色の瞳もすぐそばにあって、秋の空のように澄み渡って美しかったからか、私は目を逸らすことができなかった。

「アイラ、私も君が世界で一番好きだよ」
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