猫に転生(う)まれて愛でられたいっ!~宮廷魔術師はメイドの下僕~ 

東 万里央(あずま まりお)

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本編

※飼い主はあなたです(7)

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 私は切れ切れの声でそう懇願した。

「アイラ、お願いしますだなんて、下僕に言うセリフじゃない」

 アトス様はそっと唇を重ねると、少し笑ってまた私の腕の横に手をついた。

「でも、猫族らしくない、そんな君がいい」

「あっ……」

 今度は探るように中を擦られて吐息が咽ぶようになってしまう。そして、お腹の中がじんと痺れるようになった。

「あ、あ、んんっ」
 
 入れられるたびに奥から熱い液体が滾滾と湧き出て、アトス様と繋がるところから、淫らな音を立てて漏れてしまう。

 恥ずかしさとその響きを体で感じ、私の体はさらに熱を帯びた。

「アイラ、君はやっぱりここが弱いみたいだな」

 アトス様が腰を動かす速さを上げ、私が感じるそこを何度も突き上げてくる。

「ひゃっ……あん。にゃんっ。……っ。あんっ」

 私は濡れて泡立つ音と気持ちのよさに、徐々に意識を追い上げられていった。

「あ、とすさまぁ……あっ。どこか、いっちゃう……いっちゃう」

 限界にまで熱くなった血が体を巡り、全身が性感帯になったみたいだった。体は快感にだらりとなっているのに、アトス様を加え込んだ部分だけは、なぜかきゅっとなってしまう。

 すると、汗に濡れた秀麗な美貌が苦し気に歪んだ。その表情がなんとも色っぽくて、私がそんな顔をさせているのだと思うと、また背筋がぞくぞくとしてより感じてしまう。

「……っ。私も行きそうだ。君の体は、たまらない」

「あとす、さまっ……」

 髪が乱れてしっとりとなった肌に張り付く。

「アイラ」

 アトス様は私の腰を抱えさらに動きを激しくした。

「あ、あ、あ」

 もう一度大好きなその名前を呼ぼうとしたのに、声は声にならずにそのまま喘ぎ声混じりの吐息へと変わる。

「も、お、だめ……いっちゃいますっ……」

 厚い胸に手を当てて首を振って訴える。すると、こんな答えが返ってきた。

「いって、しまえばいい」

 直後に一際強く、抉るように奥を突かれて、脳裏で星のような火花のような光が弾けた。

「……っ」

 アトス様が瞼を閉じて腰を押し付けるようにする。中に熱いものが流れ込んできて私は目を見開いた。

「あ、つい……」

 体の中に徐々に、でも確実に染み込んでいく。エッチには催眠作用でもあるのだろうか。私は直後に一気に眠くなって、耐え切れずに瞼を閉じたのだった。



――とても疲れているはずなのに、サビ残時のような肩コリがない。いい運動をしたあとのような健康にいい疲労だ。

 私は寝ぼけまなこでオフトゥンから抜け出した。

 窓の外からは小鳥の声が聞こえて、朝のお日様の優しい光が射し込んでいる。

「フニャァァァアア……」

 ベッドの上に両足をついて、体を後ろに引いて背伸びをした。

 昨日はいい夢を見た気がする。嬉しくて、甘くて、ずっと見ていたい夢だった。

 そうして頭と体がすっきりしたところでハッとする。

 な、な、な、なんと! すぐ隣に素っ裸の、それも眼鏡抜きのアトス様が横たわっているではございませんか!! ベッドに肩ひじをついて、手を枕にして私を眺めている。か、絵画のように神々しくいらっしゃる……。

 イケメンでは眼鏡だろうと素顔だろうとイケメンで、少女漫画のように地味子・地味男が眼鏡を取ったら美少女だとか、美少年だなんてあり得ぬのだと知った瞬間でもあった。

「ニャ、ニャ、ニャ、ニャニャ!?」

 あ、あ、あ、アトス様!?と言ったつもりが、喉の奥からは猫の声しかしない。

 アトス様はくすくすと笑って腕を伸ばし、私をベッドの上にころんと転がした。そのまま指先でお腹をさすってくれる。

「ニャァァン」

 くすぐったくて、でも気持ちがよくて体を捩る。アトス様は目を細めながらマッサージを続けた。

「やはり獣化してしまいましたね。こうなるとは思っていましたが……」

 獣化と聞いて何を言っているんだと顔を上げてぎょっとした。

 こ、この手は、いや前足は、紛れもない猫バージョンの私のものじゃないですか!!

 どうしてこうなった!と慌てふためく私に、アトス様が丁寧に説明してくれる。

「魔術師の体液には魔力が大量に含まれています。そのために君の獣化に一役買ったのでしょう。つい、何度も注ぎ込んでしまいましたし、君は私の汗にも触れましたから」

 なるほど、なるほど、そういうわけだったのね。それにしても、この絶世のご尊顔から体液、なんて言葉を聞く日が来るとは思わなかったわ……。……いや、待って、ちょっと待って。どうしてそんな単語がさらっと会話に出てくるわけ!?

 そこに至って私はようやく昨夜の出来事を思い出した。

「……!!」

 わ、私、私ったら、目の前のこの唇にキスされて、この手で胸を揉まれて、この胸に抱き締められたんじゃないの!! 夢だけど夢じゃなかったどころか、どこまでも現実だった……!! 体の違和感がそれを証明している。

 恥ずかしくてアトス様の顔をこれ以上見ていられない。

 私はくるりと身を翻してベッドから飛び……降りようとして尻尾を掴まれた。

「ニャッ!?」

 何が起こったのかと振り返ると、アトス様が微笑みを浮かべて私を見つめていた。

「もう二度と逃がしませんよ。やっと君を見つけたのですから」

 タンザナイト色の瞳に煌めく甘い光に、昨日あんなこと、そんなこと、こんなことまでしちゃったはずなのに、時めいて心臓がドキンと大きく鳴った。

 すると、呼吸が乱れて魔力を吐き出したせいか、体があっという間に大きくなって、もとの姿に戻ってしまう。だけど、猫耳と尻尾はそのままだった。アトス様も尻尾を掴んだまま放さない。

 私は四つん這いの姿勢でアトス様を振り返った。

「あ、アトス様、尻尾、放してください……」

 付け根を撫でられるのはいいけど、尻尾本体をいじられるのは落ち着かない。

 アトス様は笑ったままこう告げた。

「君が逃げないと約束するならいいでしょう」

「……」

 私は結局小さく頷くしかなかった。だって、尻尾だけは触られると落ち着かないもん。

 アトス様はちゃんと約束を守る人で、すぐに手を解いて自由にしてくれた。尻尾の違和感を振り払おうと左右に振ると、何かに軽く当たる音がして驚く。なんと! アトス様の頬を尻尾ではたいてしまっていたのだった!

「ご、ご、ご、ごめんなさいっ!」

 よりによって世界に二つとない美貌を……!

 アトス様は気にしたふうもなく、「ふむ」と顎に手を当てこう呟いた。

「……いいや、構わない。これも癖になりそうだな」

 癖!? 癖って一体どんな癖ですか!?――と突っ込む間もなく背に伸し掛かられてしまう。

「あ、アトス様!?」

 私はその重みでぺしゃりとベッドの上に潰れてしまった。

 筋肉に覆われた厚い胸を背に感じ、今度は心臓が早鐘のように鳴り始める。うなじに口づけられると耳がピクンと震えた。

 こんな、キスだけで感じるなんて、私の体はどうなってしまったんだろう?

 アトス様は軽くパニックになる私の耳に囁く。

「アイラ、もう一度いいかい? もう一度君を抱きたい」

「え、ええっ!? で、でも……だって……き、昨日のことは遊びなんじゃ……」

 あの一晩で終わりじゃなかったの!? だって、アトス様と私はご主人様と奴隷のはずで……。

 すると、アトス様は「何を言っているんだ」と、首の後ろを軽く舐めながら答えた。

「私達はもう夫婦なんだ。君もサインをしただろう?」

 夫婦と聞いて「へっ?」と間抜けな声が出る。

 アトス様曰く、私がサインをしたあの書類は、奴隷となる雇用契約書ではなく、なんと婚姻届けだったのだそうだ。

「え、ええええええっ!?」

 婚姻届けってどういうことなの!?

「やれやれ、一から説明しなければならないか」

 アトス様は腕の中で私の体を引っ繰り返し、頬を包み込んで私の鼻に自分の鼻を当てた。

「私は今日は久々の休日なんだ。たっぷりベッドの中で説明しよう」

 その後、私が再びアトス様に抱かれ、さんざん泣かされ、鳴かされたのは言うまでもない。また、アトス様が本気モードになると、敬語ではなくなるということも、その最中にようやく悟ることになるのだった……。
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