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本編

※飼い主はあなたです(3)

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※ここから先はエッチなシーンになります。苦手な方は飛ばしてください。










 きっと今私の目は真ん丸になっているだろう。

「……」

 恐る恐る体を起こして手を伸ばす。素っ裸でアトス様の膝の上に座る羽目になったけど、この時にはそれを恥ずかしがる余裕はなかった。この世に二つとないご尊顔を両手でぺたぺた触る。

「あ、あったかい……本物のアトス様だ……」

 ということは、何をどうやってかはわからないけど、お屋敷に戻れたということだ。よく見るとここは私の部屋だ。アトス様はベッドの上に腰掛けているらしい。

「……っ」

 目の奥から涙がじわりと滲む。次の瞬間、感情の堤防が決壊し、私はアトス様にしがみついて、情けなくも声を上げて泣き出してしまった。

「か、か、か、帰れた! こ、怖かったぁあっ!! 怖かったよお!!」

 もう生きているだけで丸儲けだ。人間の足だったら二十キロもなかったんじゃなかろうか。しかし、猫の身には苦しく長い旅路だった。

 アトス様が私の背をよしよしと撫でてくれる。

「恐ろしかったでしょう。君のような家猫系は、外出をすると慣れていないのですぐ迷子になるんですよ。特に女性はオスに追い回され、ますます住処から遠ざかる羽目になることが少なくないので……。山猫系でしたら返り討ちにするのでしょうが」

「こ、怖かった。本当に怖かったです……カイに……変なアビシニアンもどきに会ってっ……」

 いきなり子作り宣言された挙句に、さあ交尾やれ交尾ですよ! おまけに十人は欲しいとか、野球かサッカーのチームでも作るつもりか!

「カイ? アビシニアンもどき?」

 アトス様の体がぴくりと震える。

「……君は、そのオスに何をされたんです? まさか、首にあった傷は、カイとやらに襲われた?」

「は、はい。それはもうガッツリというかガップリと」

 交尾には気を付けろ。噛んで来るオスがいるからとは聞いていたけど、実地で体験すると衝撃的なものがあったわ。

 そこで私は「あれ?」と首を傾げた。

 一体誰から聞いた情報なのだろう。アトス様ではなかったと思う。優しい、諭すような、大人の女の人の声だったような……。

 私はその声の主をどうにか思い出そうとしていたからか、アトス様がタンザナイトの瞳の奥に、炎をメラメラ燃やしているのに気付かなかった。

「……どこまでされた?」

 不意に体を引き離され、肩を掴まれて目を覗き込まれる。

「え、えと……確かキスされて……」

 とにかく抵抗するのに必死だったから、正直よく覚えていないのだ。むしろその後の放浪絶食ダイエットの苦痛が勝って……。その前の二週間は毎日食べたいだけ食べていたから……あはっ! 所詮私は色気より食い気の女よ……。

「キスされて、それからどうなった?」

 いつにないシチュエーションに、私はあれっと目を瞬かせた。アトス様の口調がいつもと違う? あの丁寧語はどこへ行っちゃったの?

 アトス様は眼鏡を外したかと思うと、私の背にするりと手を回した。そのままベッドに押し倒されて目を瞬かせる。

「えっ……」

 何が起きているのかさっぱりわからなかった。

 アトス様は私の頬を優しく撫でる。なのに、切れ長の目が笑っていなくて妙に怖い……!? 

「どこまでされたと聞いている。アイラ、君はいい子だろう? 説明できるな?」

「ど、どこまでって……」

「そいつのキスは、こうだったか?」

 次の瞬間、なんの心の準備もなく唇を塞がれた。

「……!?!?!?」

 温かく、少し湿った感触と、ドアップになったイケメン――二つの衝撃で私は声も出なかった。睫毛が私より長いんじゃないでしょうか!? 唇はすぐに離れてタンザナイト色の瞳が私を見下ろす。

「えっ……えっ」

「できないのなら、このまま続ける」

 アトス様は続いて私の目元や、頬や、顎に啄むようにキスをした。

「やっ……」

 くすぐったくて、恥ずかしくて、なのに気持ちがよくて、顔を逸らそうとするのに、頬を挟まれて瞼を閉じることしかできない。

「もう二度と手放さないと言っただろう」

 何も見えないまま、また、覆い被さるようにキスをされる。

「んぅ……」

 だんだん息苦しくなってきて、唇を開いて息を吸おうとした瞬間、ぬるりとした何かが間に滑り込んできた。

「……っ」

 口の中で私の舌にアトス様の舌が絡んで、びっくりして、だけど嫌ではなくて、自分でも自分の気持ちがわからない。くちゅ、くちゅと私たちだけに聞こえるその音に、かっと顔が熱くなって体も熱くなる。心臓なんて破裂しそうなくらいドキドキしている。すると、息が乱れてまた苦しくなってきた。目の端に涙が滲むのを感じる。

 私が呼吸困難に陥っているのに気づいたのだろうか。アトス様がやっと唇を離してくれた。

「……んふ、はっ……」

 鼻にかかったような息が漏れ出てしまう。

「アイラ、答えは?」

「……」

 そんな余裕なんてどこにもなくて、私はアトス様を見上げるばかりだった。

 アトス様は目を細めてベッドに散る私の髪を掬う。それから毛先に瞼を伏せてキスをすると、唇の端にどこか薄い笑みを浮かべた。

「私の問いに答えないとは、君は悪い子だな。そんな子にはお仕置きだ」

 お、お仕置き!? お仕置きってなんですか!?

 私はさすがに焦ってなんとか声を振り絞る。

「こ、こんなに気持ちよくなかったです!!」

「……気持ちいい?」

「は、はい。こんなに甘くて、ドキドキしませんでした……」

 これで許してもらえるだろうか。お仕置きされないだろうか。ところが、アトス様の反応は予想外のものだった――
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