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本編
※猫にマタタビ、王女に嫉妬(4)
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※ちょっとエッチなシーンになります。苦手な方は飛ばしてください。
それは、どうということもない、小さな二本の木の枝だった。だけど、この枝の香りから離れられない。
枝の一本を咥えてベッドへ飛び乗る。齧って、顔を擦り付けて、シーツにゴロゴロ転がった。
「ニャァアン……ニャア」
ふわふわした雲の中にいるような気持になる。世界で一番幸せなのは私なんだと思える。そう言えばここはどこだっただろう。私は何をしに来たんだろうか――記憶や自我すら曖昧になっていって、二つの疑問も霧みたいに薄くなっていった。
それからどれだけの時が過ぎたのだろうか。扉が静かに開けられ誰かが入って来る。でも、私にはぼんやりとした影にしか見えなかった。蕩け切った心では警戒心も沸かない。むしろ、一緒に楽しもうという気分で声を掛けた。
「ニャァァ……ニュフフ」
「……!? アイラ!?」
影は一瞬狼狽えたのちに、「ふむ」と顎に手を当てた。
「なぜ君がこんなところに……。ああ、今日は清掃担当でしたか」
私を見て、木の枝を見て苦笑する。
「……マタタビを見つけてしまったか。獣化して嗅覚が鋭くなったようですね」
影はベッドに近づき腰掛けると、仰向けになった私のお腹を撫でた。くすぐったくてあったかくておかしい。ところが、私の口から出のは笑い声ではなく、「ゴロゴロ」と猫が喉を鳴らすような音だった。
一体どういうことなのだろうか。ああ、そうか、これも夢なのね。いつかの猫になった夢の続きだ。白黒ハチワレの靴下猫だったっけ。
だったら思い切り甘えちゃおうと、私は影の膝に飛び乗った。
誰かにうんと可愛がられたい気分だったのだ。
「アイラ……!?」
体を伸ばして影の頬に顔を擦り付けた。その拍子に唇と唇が触れ合う。影が一瞬目を見開いた気がした。すると、体が今度は軽く軋んだ音を立てながら、あっと言う間に大きくなってしまったのだ。
「あーれぇ……?」
視線がなんだか高くなったような……。それに、人間の声に戻ったような。おまけに、目の前ではアトス様が目を見開いている。私は、なんとアトス様の首と背に手を回して、睫毛の触れ合う距離で見つめ合っていた。
「……」
「……」
私たちは約一分間無言だった。先に口を開いたのはアトス様だ。
「……マタタビに酔うと獣化が不安定になるようですね。さすがに、全裸に猫耳は私の目にも毒だ」
「……? ……? ……?」
獣化ってなんだろうと思ったものの、どうせこれは夢の中なのだからいいやと笑う。
「アトス様ぁ……」
私は勢いのままアトス様を押し倒した。その胸に縋り付いて顔を擦り付ける。
アトス様からはいつかのようなお日様のにおいがした。あの木の枝と同じくらいこのにおいも好きだ。
「好き。好き。大好きぃ……」
「アイラ……」
アトス様が手を伸ばして私の頬に手を当てた。
「いくら君が酔っているとわかっていても、私も自分が止められなくなることもあるのだが……」
きらりと目を開かせたかと思うと、眼鏡を外し枕の横にそっと置く。
「……こうなっているのはマタタビが原因なのだとすれば、君は私以外の男でも、それさえあれば疑似的に発情するということになるな」
私は言っていることがわからずに首を傾げた。
疑似的? はつじょう? なんだか難しい。
アトス様はまだ何かブツブツと呟いている。
「それは困る。……非常に困る。気が狂ってしまいそうだ」
そして、私の背に手を回したかと思うと、くるりと位置を入れ替えてしまったのだ。
「ひゃっ……!?」
タンザナイト色の瞳に見下ろされて、心臓が大きくドキンと鳴った。それが鎮まる間もなく頬に唇を当てられる。クールな、冷たくさえ見える方なのに、燃えるように熱くなって驚いた。アトス様は頬だけではなく喉や顎にも、くすぐったくなるようなキスを繰り返した。
「やっ、くすぐったい……あつい……ひゃっ」
なのに、気持ちがよくて何度もしてほしくなる。アトス様は同時に後頭部に手を回して、そこも優しく何度も撫でてくれた。指先の刺激から蕩けてしまいそうになる。
「うう、ん……。そこ、もっと……」
うっとりとなって体からさらに力が抜ける。
「……感じるところは猫と同じか」
それでも、お尻の下に手を入れられた時には、さすがに体がベッドの上で一瞬跳ねた。
「や、やだあ……尻尾、やめて……」
不快というより自由を奪われるのではと怖くなる。
アトス様は私の拒絶にすぐに手の位置をずらした。
「……尾もついたままなのか。では、ここはどうですか?」
「あっ……」
付け根をそっとマッサージされると、背筋にぞくぞくとした快感が走った。気持ち良すぎて目が潤むのを感じる。
「そこ、大好き……すごく、好き……」
私はたまらなくなってアトス様の顔を引き寄せた。
「好き……もっとお願い……」
お礼とお返しと催促のつもりでぺろりと頬と唇を舐める。
「アイラ……」
アトス様は私を胸に強く抱き締めた。
「食後のデザートというには、少々甘すぎる気がしますね……」
アトス様はそう耳元に囁いてローブの襟元に手を掛けた――
それは、どうということもない、小さな二本の木の枝だった。だけど、この枝の香りから離れられない。
枝の一本を咥えてベッドへ飛び乗る。齧って、顔を擦り付けて、シーツにゴロゴロ転がった。
「ニャァアン……ニャア」
ふわふわした雲の中にいるような気持になる。世界で一番幸せなのは私なんだと思える。そう言えばここはどこだっただろう。私は何をしに来たんだろうか――記憶や自我すら曖昧になっていって、二つの疑問も霧みたいに薄くなっていった。
それからどれだけの時が過ぎたのだろうか。扉が静かに開けられ誰かが入って来る。でも、私にはぼんやりとした影にしか見えなかった。蕩け切った心では警戒心も沸かない。むしろ、一緒に楽しもうという気分で声を掛けた。
「ニャァァ……ニュフフ」
「……!? アイラ!?」
影は一瞬狼狽えたのちに、「ふむ」と顎に手を当てた。
「なぜ君がこんなところに……。ああ、今日は清掃担当でしたか」
私を見て、木の枝を見て苦笑する。
「……マタタビを見つけてしまったか。獣化して嗅覚が鋭くなったようですね」
影はベッドに近づき腰掛けると、仰向けになった私のお腹を撫でた。くすぐったくてあったかくておかしい。ところが、私の口から出のは笑い声ではなく、「ゴロゴロ」と猫が喉を鳴らすような音だった。
一体どういうことなのだろうか。ああ、そうか、これも夢なのね。いつかの猫になった夢の続きだ。白黒ハチワレの靴下猫だったっけ。
だったら思い切り甘えちゃおうと、私は影の膝に飛び乗った。
誰かにうんと可愛がられたい気分だったのだ。
「アイラ……!?」
体を伸ばして影の頬に顔を擦り付けた。その拍子に唇と唇が触れ合う。影が一瞬目を見開いた気がした。すると、体が今度は軽く軋んだ音を立てながら、あっと言う間に大きくなってしまったのだ。
「あーれぇ……?」
視線がなんだか高くなったような……。それに、人間の声に戻ったような。おまけに、目の前ではアトス様が目を見開いている。私は、なんとアトス様の首と背に手を回して、睫毛の触れ合う距離で見つめ合っていた。
「……」
「……」
私たちは約一分間無言だった。先に口を開いたのはアトス様だ。
「……マタタビに酔うと獣化が不安定になるようですね。さすがに、全裸に猫耳は私の目にも毒だ」
「……? ……? ……?」
獣化ってなんだろうと思ったものの、どうせこれは夢の中なのだからいいやと笑う。
「アトス様ぁ……」
私は勢いのままアトス様を押し倒した。その胸に縋り付いて顔を擦り付ける。
アトス様からはいつかのようなお日様のにおいがした。あの木の枝と同じくらいこのにおいも好きだ。
「好き。好き。大好きぃ……」
「アイラ……」
アトス様が手を伸ばして私の頬に手を当てた。
「いくら君が酔っているとわかっていても、私も自分が止められなくなることもあるのだが……」
きらりと目を開かせたかと思うと、眼鏡を外し枕の横にそっと置く。
「……こうなっているのはマタタビが原因なのだとすれば、君は私以外の男でも、それさえあれば疑似的に発情するということになるな」
私は言っていることがわからずに首を傾げた。
疑似的? はつじょう? なんだか難しい。
アトス様はまだ何かブツブツと呟いている。
「それは困る。……非常に困る。気が狂ってしまいそうだ」
そして、私の背に手を回したかと思うと、くるりと位置を入れ替えてしまったのだ。
「ひゃっ……!?」
タンザナイト色の瞳に見下ろされて、心臓が大きくドキンと鳴った。それが鎮まる間もなく頬に唇を当てられる。クールな、冷たくさえ見える方なのに、燃えるように熱くなって驚いた。アトス様は頬だけではなく喉や顎にも、くすぐったくなるようなキスを繰り返した。
「やっ、くすぐったい……あつい……ひゃっ」
なのに、気持ちがよくて何度もしてほしくなる。アトス様は同時に後頭部に手を回して、そこも優しく何度も撫でてくれた。指先の刺激から蕩けてしまいそうになる。
「うう、ん……。そこ、もっと……」
うっとりとなって体からさらに力が抜ける。
「……感じるところは猫と同じか」
それでも、お尻の下に手を入れられた時には、さすがに体がベッドの上で一瞬跳ねた。
「や、やだあ……尻尾、やめて……」
不快というより自由を奪われるのではと怖くなる。
アトス様は私の拒絶にすぐに手の位置をずらした。
「……尾もついたままなのか。では、ここはどうですか?」
「あっ……」
付け根をそっとマッサージされると、背筋にぞくぞくとした快感が走った。気持ち良すぎて目が潤むのを感じる。
「そこ、大好き……すごく、好き……」
私はたまらなくなってアトス様の顔を引き寄せた。
「好き……もっとお願い……」
お礼とお返しと催促のつもりでぺろりと頬と唇を舐める。
「アイラ……」
アトス様は私を胸に強く抱き締めた。
「食後のデザートというには、少々甘すぎる気がしますね……」
アトス様はそう耳元に囁いてローブの襟元に手を掛けた――
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