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第二章「容疑者ですが、侍女に昇格しました。」

(2)☆

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「魔に侵される……?」


 ソランジュにはアルフレッドの言葉の意味がわからなかった。


 黒狼戦記でそんな設定は見たこともない。ただ、アルフレッドが娼婦を買う理由は知っていた。この世に生まれ落ちた際かけられた呪いのせいだ。


 ソランジュの頬にアルフレッドの指が食い込む。


「……この件は知らないようだな。なら、呪いについてはどこまでだ」


 ということは、その女を侵す魔とやらはアルフレッドの呪いに関係しているのか。


「そ、それは……」


 ソランジュは口籠るしかなかった。


 なぜなら、覇王であるアルフレッドにとって、この呪いが唯一にして最大の弱点であり、決して知られたくない秘密であり、長年苦しめられてきたからだ。


 小説ではこの呪いについて知る者は、アルフレッド本人と魔術師レジスと専属医と亡父の前王――そして、呪いをかけた張本人であるアルフレッドの亡き母だけだった。


 なお、レジスは作品中でなんとか解呪しようとして失敗している。魔術や呪いではプロのレジスが音を上げたほど、強力で厄介な呪詛だったのだ。


 幼いアルフレッドが不吉だからと父王に廃嫡され、ずっと地下牢に閉じ込められていたほどに――。


 なのに、自分は前世で読者という無責任な立場から、弱点があるからますます素敵なのよねと楽しんですらいた。こうして目の前にいるアルフレッドは架空ではない、苦悩を背負って生きる生身の人間なのに。


 その後ろめたさと殺されるのではないかという不安から、「し、知りません」と震える声で答える。


「本当に、何も」


 アルフレッドの手の力が不意に和らぐ。


「女は嘘がうまいとよく聞くがお前は違うな」


 黒い目がソランジュとの距離を一気に詰めたかと思うと、華奢な手首を掴んでわずかに開いていた唇を強引に奪った。


「んっ……」


 口内を熱い舌が荒々しく掻き回す。


「んんっ……」


 吐息すら奪われて呼吸困難に陥り、黄金色の目の端に涙が滲む。


 これだけでもう死んでしまいそうだった。


 意識が遠くなりかけたところで、アルフレッドが不意に唇を外し、今度は一転して優しく頬を撫ぜた。


「俺を騙すには素直すぎる」


 声も穏やかで優しくすらあるのに、ソランジュの背筋がゾクリと震える。


「もう一度聞く。俺の呪いをどこで知り、どこまで知っている」


「……」


 声が出ない。


 アルフレッドはそれをソランジュの意思だと受け取ったらしい。


「なるほど、答える気はないか。この俺を前に度胸のある女だ」


 目をギラギラさせながら上着を脱ぎ捨て、ソランジュの細い腰をさらう。


「なら、体に聞いてみよう」


「あっ……」


 ブラウスを襟から引きずり降ろされ、乳房がふるりとまろび出る。ソランジュは思わず胸を覆い隠そうとしたが、間髪を容れずに手首を掴まれベッドに押し倒されてしまった。


 目を見開いてアルフレッドを見上げる。


 アルフレッドの黒い瞳もソランジュを見下ろしていた。


 束の間二つの視線がぶつかり合う。


 ――果たして緊張を破ったのはアルフレッドだった。


 ソランジュはスカートを捲り上げられ、足の間に手を差し入れられ、思わず白い喉をさらけ出した。


「んあっ……」


 一ヶ月前アルフレッドに貫かれたそこに触れられた途端、体がビクリと跳ねて腹の奥がじゅんと熱を持った。
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