義弟の卒業~過保護な義姉さん押し倒される~

東 万里央(あずま まりお)

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身も心も縛られて(6)

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 その夜は薫と体を重ねるようになってから、初めて訪れた穏やかで静かな一時となった。

 窓の外では雪が音もなく降り続けている。明日にはこの古い街は一面に白く染まるのだそうだ。真琴は雪景色を実際に見たことはなかったが、穢れや心の闇を払うかのような、清らかな色をしているのだろうと思えた。

「……なんだか寒いね」

 ベッドの中で真琴がぽつりとそう呟くと、薫は腕を伸ばして真琴を抱き寄せ、包み込むように胸の中に抱き締めた。

 薫の一際高い体温を肌で感じ、パジャマ越しの規則正しく力強い、命の音を瞼を閉じて耳で聞く。

 泣きも抗いもしない真琴が不思議だったのだろうか。薫は鳶色の髪を愛おしそうに撫で、口付けを繰り返しながら耳元に囁いた。

「……今夜は触っても嫌がらないんだな」

「……」

 それからどれだけの時が過ぎたのだろうか。真琴は「ねえ、薫」と義弟の名前を呼んだ。

「薫は、私が薫を好きじゃなくてもいいの……?」 
 
 いいや、それは違うと思う。好きであるのには違いない。世界で一番大切な存在なのだから。だが、その「好き」は恋ではない。 

 薫は真琴を抱く腕にぐっと力を込め、「構わない」となんの迷いもなく言い切った。

「無理だってわかっているから。だったら、そんなもの初めから求めない」

「薫……」

「だけど、俺は真琴が好きだから」

 だから、犯して脅して自分のものにした。それ以外の選択肢はなかったと語った。

「……恋人じゃなきゃ駄目だったの? 家族じゃいけなかった?」

「家族は、いつか別れることになる。それに、真琴が他の男と結婚したら……そいつの子どもが生まれでもしたら、真琴の心から俺は消える」

 忘れられるなど許せないし、受け入れられるはずもない。自分にとっても真琴にとっても、互いだけが唯一でありたかった。

 恨まれてでも、憎まれてでも、恐れられてでも、これまでの関係を破壊してでも、真琴の体と心におのれを刻み付け、生涯癒えない傷跡にしたかったのだと薫は打ち明ける。

 確かに、真琴の心身は傷付いた。傷の深さのあまりに痕になるどころか、今でもズキズキと痛み、絶えず血を流し続けている。悪夢となった卒業式のあの夜と、薫への恐怖を忘れられる日は、もう一生来ないだろう。

「薫を忘れるだなんてないよ……」

「それでも、許せない。……俺以外の誰も見てほしくないんだ」 

 可能なら鎖で手足を拘束し、檻に閉じ込めてしまいたい。薫は最後に苦しげにこう呟いた。

「……愛しているんだ」

 自分以外の何者かが真琴の心を占めるのが許せない。我慢できない。もしそうなってしまえば、息をすることすら苦しくなる。死んでしまう。

「真琴、愛してる」

「薫……」

 薫の愛は真琴には理解できなかった。だが、恐ろしかった薫を哀れだと感じていた。

 薫は奪うような愛し方しかできないのだ。なぜそうなってしまったのかはわからないが、本人にもどうしようもない激情なのだろう。

 そして、真琴は薫を見捨てるのか、みずからの幸福を取るのかと問われれば、薫を選ぶようにしか愛せなかった。

「真琴」

 薫が目を覗き込み、なんの気紛れなのか、真琴の意志を問う。

「……抱いてもいいか?」

 黒い瞳には拒絶されることへの恐れが見え隠れしていた。真琴は、ああ、薫も怖かったのだとようやく悟った。だから、「真琴が欲しい」と懇願された時、瞼を閉じて「……うん、いいよ」と応えたのだ。

 薫の言う通り、どれだけひどい仕打ちをされてもこの手を拒めない。求められれば身を委ねる以外の選択肢はない。

 パジャマのボタンが一つ一つ外され、下着は取り払われてベッドの下に捨てられ、対の豊かな乳房がふるりとまろび出る。何度となく薫に揉みしだかれ、吸われたことで、その頂は触れられるだけでピンと立ち、肌は熱を持つように作り変えられていた。

 薫も服を脱ぎ再び真琴に伸し掛かる。

「真琴、好きだ」

 節張った大きな二つの手が、真琴の更なる官能を引き出そうと、柔らかな曲線を描く全身を這い回る。熱い唇が顔に、首に、胸に、腹にキスの雨を降らす。

 続いて膝ですらりとした真琴の足を割り開き、ゆっくりとその分身で女の部分を貫いていった。

「あっ……」  

 熱の固まりに徐々に隘路を押し広げられ、確実に最奥を征服される感覚に、真琴は白い喉を晒して体を仰け反らせる。

「真琴だけを、愛している」

 薫が言葉とともに腰を大きく引き、再び胎内に押し込み、その動きを激しくして繰り返すのと同時に、室内に真琴の喘ぎ声と濡れた淫らな音が響き渡った。

「あっ……あっ……薫ぅ……」

 これで薫が満足するのかどうかはわからない。だが、もうその激情と欲望を受け入れるしかないのだと、真琴は快感に曖昧になりゆく意識の中で感じていた。
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