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そうだ、結婚しよう(5)
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首筋から鎖骨を辿った舌が膨らみのひとつに至る。
細い体に似合わず真琴の胸は豊かだ。この体型も家族を裏切った和歌子似で、初めての恋人ができるまでは、自分の女らしさを忌まわしいとしか思えなかった。
「あっ……」
薫が噛み付くように歯を立てて右の丘を食み、二度目のその感覚に体がびくりと震える。なぜこうも痛みを与えようとするのか理解できなかった。
続いて立った頂を唇に含まれ、強く、弱くと吸い上げられた時には、「いや」と身を震わせて薫の頭を押し退けようとしてしまった。だが、力で敵うはずもなく、あっさりと押さえ付けられ、ネクタイで両手をまとめて縛り上げられてしまう。
「かっ、薫っ……なんで、こんな……」
「嫌だなんて、そんなこと、言わないでくれよ」
どこか切なげな薫の声と眼差しに胸がずきりとする。薫が悲しむのかと思うと、それ以上の抵抗もできなくなった。
「そう、それでいい。真琴は……優しいね」
薫は執拗に真琴の胸とその頂を手と舌で嬲った。真琴は顔を背けて耐えていたのだが、一方で胸の形が変わるほどに強く揉みしだかれ、唾液の濡れた音が耳に届くごとに、体の奥についた火が血液に乗り、肌を火照らせるのを感じていた。
「……っ。あっ……」
セックスは初めてというわけでもないのに、どういうわけか処女のように反応してしまう。
薫の長い指が足の間に入り込み、わずかに潤ったそこをなぞった時には、体が魚のように跳ねたのち強張ってしまった。
「あ、やだ……」
「嫌だはやめろ」
「やっ……」
指先で何度も撫でられるうちに、強張りが解けて蜜がじわりと漏れ出てくる。敏感な花芽を爪で軽く掻かれると、喉の奥から熱い息が吐き出された。
そうして女の部分がしとどに濡れた頃、膝を割られてぐっと腰を押し付けられる。
真琴は次に何が起こるのかを知っていた。心臓が大きく脈打ち呼吸がろくにできなくなる。
「あ、あ、あ……」
蜜口に薫の熱せられた分身があてがわれ、ゆっくりと、だが確実に真琴を征服していく。
「あ、あ、あ……」
「真琴、好きだ。二度と放さない。絶対に」
思いを遂げる興奮に高ぶった声が真琴の耳をくすぐる。真琴は、聞き覚えのあるその言葉に目を見開いた。
(この声……)
四年前に似た台詞を耳にしたことがあった。仕事帰りに元恋人・直樹から連絡が入り、久々に会えると心弾ませて、指定されたホテルの部屋に向かった。ところが、真琴を待っていたのは、恋人たちの甘い一時ではなく、ベッドに腰掛けた不機嫌な表情の直樹だった。
『真琴とどうしても話し合いたくて』
『話し合いならホテルじゃなくてもいいんじゃない?』
『いや、屋外はちょっと。どうも最近誰かに見られている気がして……』
『何それ?』
『まあ、なんだっていいだろ』
その頃薫からの突然の呼び出しや用事で、直樹とのデートをキャンセルすることが増え、直樹は不満が溜まりに溜まっていたのだろう。ついに薫ももう大学生なのだから、いい加減に義姉離れをすべきだ。薫ができないなら真琴が突き放せと迫ってきたのである。
直樹の説得に対する真琴の返答がこうだった。
『ごめん。あなたのことは好きだけど、まだ薫から放れられない。あの子が私を必要としなくなるまでは、そばにいてあげたいんだ』
理解されるとは考えてはいなかった。同時に、今日が直樹との最後の日になるのだと、鋭い胸の痛みとともに感じ取った。
直樹は大きく溜め息を吐いた後で、「もういい」とビジネスケースを手に取って立ち上がり、「ここの部屋代はもう払ってあるから」と真琴に告げた。その後、振り返りもせずに大股で部屋を横切り、ノブに手をかけながら苦々しげに吐き捨てたのである。
『……これ以上家族ごっこに付き合ってられねえよ。まだ二十代なのに所帯じみた女なんてごめんだ』
直樹は生まれて初めての恋人だった。
友人に代わって一度だけ参加した合コンで、一目惚れされて付き合い始めたのだが、もちろん真琴も好意を持ったからこそ、照れ臭そうな告白にイエスと答えたのだ。直樹の真っ直ぐで裏がなく、いつも明るい気性が好きだった。
薫を選んだことに後悔はなかった。それでも、一人きりとなった部屋に、ベッドに残る直樹のにおいに、心が引き裂かれそうになった。
真琴は喉が渇いているのに気付き、室内に据え付けられた冷蔵庫を開けた。すると、中はミニバーになっており、水、オレンジジュースの他に、ビール、ワイン、ウォッカが揃っていた。
ワインの封をその場で開け、一口飲むともう止まらなかった。酔って何もかも忘れてしまいたかったのだ。
ビール、ワインはともかく、ウォッカのアルコール度数は小瓶でも強烈で、真琴は十五分も経たぬ間に酩酊し、ベッドに倒れ込んで揺れる天井を見上げた。その時、スーツの懐に入れたスマホに、誰かから電話が掛かってきたのだが、取ったことも話したことも覚えていない。
ふと気づくと朦朧とする意識の中で、温かい何かに体を包み込まれていた。繰り返されるキスと愛撫が気持ちよかった。
『直樹……? 直樹ね? 戻って来てくれたんだ。お願い。私を離さないで』
直樹は耳元でこう囁いてくれた。
『ああ、二度と放さない。真琴、好きだ』
それから何度激しく抱かれ、あられもない喘ぎ声を上げたことか。
翌朝、二日酔いの頭痛で目覚めた時には愕然とした。昨日と同じ服を着たままベッドに横たわっており、直樹との最後の一夜は夢だったのだと察したからだ。もう大人なのに情けないとどっと落ち込んだ記憶がある。
だが、今にして思えばあれは本当に夢だったのか。体調の悪さと失恋のショックで気にする余裕がなかったのだが、あの疲労と体に残った違和感はなんだったのか。
(まさか……)
薫と元恋人・直樹の容姿は似ても似つかない。涼しげな顔立ちで引き締まった体つきの薫に対し、元恋人は南国を思わせる彫の深さで、大学でアメフトをやっていたからか、肩幅ががっしりとして肌は浅黒かった。
思えば、性格も高校から落ち着き、冷静だった薫と正反対だった気がする。
だが、二人にはなんの因果か、よく似たところが一つだけあった。
それは、声だ。
薫の方が若干高くはあるものの、二人とも掠れているのに響きがいい。いぶし銀を思わせる声音だった。駅で遠くから「おおい!」と呼ばれると、薫なのか直樹なのか判断がつかないこともあった。
(まさか……!)
次の瞬間、貫かれる衝撃印真琴は喉を仰け反らせた。
細い体に似合わず真琴の胸は豊かだ。この体型も家族を裏切った和歌子似で、初めての恋人ができるまでは、自分の女らしさを忌まわしいとしか思えなかった。
「あっ……」
薫が噛み付くように歯を立てて右の丘を食み、二度目のその感覚に体がびくりと震える。なぜこうも痛みを与えようとするのか理解できなかった。
続いて立った頂を唇に含まれ、強く、弱くと吸い上げられた時には、「いや」と身を震わせて薫の頭を押し退けようとしてしまった。だが、力で敵うはずもなく、あっさりと押さえ付けられ、ネクタイで両手をまとめて縛り上げられてしまう。
「かっ、薫っ……なんで、こんな……」
「嫌だなんて、そんなこと、言わないでくれよ」
どこか切なげな薫の声と眼差しに胸がずきりとする。薫が悲しむのかと思うと、それ以上の抵抗もできなくなった。
「そう、それでいい。真琴は……優しいね」
薫は執拗に真琴の胸とその頂を手と舌で嬲った。真琴は顔を背けて耐えていたのだが、一方で胸の形が変わるほどに強く揉みしだかれ、唾液の濡れた音が耳に届くごとに、体の奥についた火が血液に乗り、肌を火照らせるのを感じていた。
「……っ。あっ……」
セックスは初めてというわけでもないのに、どういうわけか処女のように反応してしまう。
薫の長い指が足の間に入り込み、わずかに潤ったそこをなぞった時には、体が魚のように跳ねたのち強張ってしまった。
「あ、やだ……」
「嫌だはやめろ」
「やっ……」
指先で何度も撫でられるうちに、強張りが解けて蜜がじわりと漏れ出てくる。敏感な花芽を爪で軽く掻かれると、喉の奥から熱い息が吐き出された。
そうして女の部分がしとどに濡れた頃、膝を割られてぐっと腰を押し付けられる。
真琴は次に何が起こるのかを知っていた。心臓が大きく脈打ち呼吸がろくにできなくなる。
「あ、あ、あ……」
蜜口に薫の熱せられた分身があてがわれ、ゆっくりと、だが確実に真琴を征服していく。
「あ、あ、あ……」
「真琴、好きだ。二度と放さない。絶対に」
思いを遂げる興奮に高ぶった声が真琴の耳をくすぐる。真琴は、聞き覚えのあるその言葉に目を見開いた。
(この声……)
四年前に似た台詞を耳にしたことがあった。仕事帰りに元恋人・直樹から連絡が入り、久々に会えると心弾ませて、指定されたホテルの部屋に向かった。ところが、真琴を待っていたのは、恋人たちの甘い一時ではなく、ベッドに腰掛けた不機嫌な表情の直樹だった。
『真琴とどうしても話し合いたくて』
『話し合いならホテルじゃなくてもいいんじゃない?』
『いや、屋外はちょっと。どうも最近誰かに見られている気がして……』
『何それ?』
『まあ、なんだっていいだろ』
その頃薫からの突然の呼び出しや用事で、直樹とのデートをキャンセルすることが増え、直樹は不満が溜まりに溜まっていたのだろう。ついに薫ももう大学生なのだから、いい加減に義姉離れをすべきだ。薫ができないなら真琴が突き放せと迫ってきたのである。
直樹の説得に対する真琴の返答がこうだった。
『ごめん。あなたのことは好きだけど、まだ薫から放れられない。あの子が私を必要としなくなるまでは、そばにいてあげたいんだ』
理解されるとは考えてはいなかった。同時に、今日が直樹との最後の日になるのだと、鋭い胸の痛みとともに感じ取った。
直樹は大きく溜め息を吐いた後で、「もういい」とビジネスケースを手に取って立ち上がり、「ここの部屋代はもう払ってあるから」と真琴に告げた。その後、振り返りもせずに大股で部屋を横切り、ノブに手をかけながら苦々しげに吐き捨てたのである。
『……これ以上家族ごっこに付き合ってられねえよ。まだ二十代なのに所帯じみた女なんてごめんだ』
直樹は生まれて初めての恋人だった。
友人に代わって一度だけ参加した合コンで、一目惚れされて付き合い始めたのだが、もちろん真琴も好意を持ったからこそ、照れ臭そうな告白にイエスと答えたのだ。直樹の真っ直ぐで裏がなく、いつも明るい気性が好きだった。
薫を選んだことに後悔はなかった。それでも、一人きりとなった部屋に、ベッドに残る直樹のにおいに、心が引き裂かれそうになった。
真琴は喉が渇いているのに気付き、室内に据え付けられた冷蔵庫を開けた。すると、中はミニバーになっており、水、オレンジジュースの他に、ビール、ワイン、ウォッカが揃っていた。
ワインの封をその場で開け、一口飲むともう止まらなかった。酔って何もかも忘れてしまいたかったのだ。
ビール、ワインはともかく、ウォッカのアルコール度数は小瓶でも強烈で、真琴は十五分も経たぬ間に酩酊し、ベッドに倒れ込んで揺れる天井を見上げた。その時、スーツの懐に入れたスマホに、誰かから電話が掛かってきたのだが、取ったことも話したことも覚えていない。
ふと気づくと朦朧とする意識の中で、温かい何かに体を包み込まれていた。繰り返されるキスと愛撫が気持ちよかった。
『直樹……? 直樹ね? 戻って来てくれたんだ。お願い。私を離さないで』
直樹は耳元でこう囁いてくれた。
『ああ、二度と放さない。真琴、好きだ』
それから何度激しく抱かれ、あられもない喘ぎ声を上げたことか。
翌朝、二日酔いの頭痛で目覚めた時には愕然とした。昨日と同じ服を着たままベッドに横たわっており、直樹との最後の一夜は夢だったのだと察したからだ。もう大人なのに情けないとどっと落ち込んだ記憶がある。
だが、今にして思えばあれは本当に夢だったのか。体調の悪さと失恋のショックで気にする余裕がなかったのだが、あの疲労と体に残った違和感はなんだったのか。
(まさか……)
薫と元恋人・直樹の容姿は似ても似つかない。涼しげな顔立ちで引き締まった体つきの薫に対し、元恋人は南国を思わせる彫の深さで、大学でアメフトをやっていたからか、肩幅ががっしりとして肌は浅黒かった。
思えば、性格も高校から落ち着き、冷静だった薫と正反対だった気がする。
だが、二人にはなんの因果か、よく似たところが一つだけあった。
それは、声だ。
薫の方が若干高くはあるものの、二人とも掠れているのに響きがいい。いぶし銀を思わせる声音だった。駅で遠くから「おおい!」と呼ばれると、薫なのか直樹なのか判断がつかないこともあった。
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