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第一話「月の光と胸の痛み」

007.ハチ退治にいこう!(1)

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 今日はいよいよマーヤでの初クエストの日だ。

 あのモフモフ命!のお姉さん紹介の第一段は、マーヤの商人ギルド・運輸部からの依頼だった。西の森に巣を作り始めた殺人バチ、キラー・ビーを討伐して欲しいのだという。

 この森には物資をマーヤへと運ぶルートの一つがあって、近ごろ行商人や貨物の馬車を襲われ悩まされていたのだそうだ。

 クルトはその敵なら戦いに慣れるのにちょうどいいと言って、私もクエストに参加させてもらうことになっていた。

 クルトもやっと私が大きくなったって認めてくれたのかな? 

 これまでは「くんれん」ばかりで私が早くサポートをしたいと言っても、クルトは「まだ早いし、危ない」と言うばかりだったのだ。

 だから私はやる気まんまんで、昨日はぐっすり寝て、たっぷり食べて、しっかり爪を研いで、準備は万端になっている。

 そんなわけでクルトと私はそろって西の森の端にまで来ていた。

 ここから少し先のあたりでキラー・ビーが出るんだそうだ。私はクルトの隣を歩きながら、ちょっとおかしいなと首を傾げる。

 キラー・ビーは冒険者にはおなじみの魔物だ。けれどもこんな人里近くの森にはめったに現れない。どちらかと言えばダンジョン近くの林や山のすそ野を好むからだ。

 私はしばらくううんと考えたけれども、やっぱりわからないやと顔を上げた。

 それにしてもこの森は緑が鮮やかで気持ちがいい。木と木の間から見える空も青くてきれいだ。

 お日様が元気だと一日がとってもすてきだな。世界がきらきら、きらきら、クルトの金の髪といっしょに輝くから。

 あっ、あっちにうす緑とピンクの小鳥がとまっている。こっちには黄と真っ白なお腹のリスだ。

 追いかけたいな、捕まえたいな、遊びたいな。

 身体がうずうずとなるのを必死にこらえる。

 だめだめ、今日はクルトと仕事に来たんだから。

 私はこっそりと隣を歩くクルトを見上げた。うん、クルトにはバレてないみたい。「もう一歳にもなったのに、まだ子猫っぽいんだな」なんて笑われたくないもの。

 ああ、でも、やっぱり気になっちゃうな。だってどちらも大きさが手ごろで、可愛くて、美味しそ……。

「――ルナ、この森の生き物には毒があるから、煮ても焼いても食えないぞ」

「みゃあっ!?」

 いきなり心を読まれ私はその場に飛び上がった。クルトを見上げ口をぱくぱくとしてしまう。

 ど、どうして念話にしていないのに、私の気持ちがわかったの!?

 クルトは歩きながらも声を抑えて笑い始めた。

「見ていればわかる」

『にゃ、にゃんで……』

「俺はお前が赤ん坊の頃から育ててきたんだぞ?」

 ところがクルトの足がぴたりと止まった。視線が刃物のように瞬時に鋭くなる。杖を握る手に力が込められるのがわかった。

『……!!』

 私も森にひそむ魔物の気配を感じ、全身を緊張させ戦闘の体制を取る。クルトが前を見たまま私に告げた。

「ルナ、打ち合わせ通りに行くぞ。依頼は奴らの殲滅だ」

『わかった』

「お前なら必ずできる。俺のパートナーだからな」

『……うん!』

 パートナー――その響きに力がみなぎるのがわかる。そう、私はクルトのパートナーなんだ。頑張ろう!!

 ぶぅんといくつもの不吉な羽音が重なり響き渡る。

……来る!!
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