7 / 51
第一話「月の光と胸の痛み」
007.ハチ退治にいこう!(1)
しおりを挟む
今日はいよいよマーヤでの初クエストの日だ。
あのモフモフ命!のお姉さん紹介の第一段は、マーヤの商人ギルド・運輸部からの依頼だった。西の森に巣を作り始めた殺人バチ、キラー・ビーを討伐して欲しいのだという。
この森には物資をマーヤへと運ぶルートの一つがあって、近ごろ行商人や貨物の馬車を襲われ悩まされていたのだそうだ。
クルトはその敵なら戦いに慣れるのにちょうどいいと言って、私もクエストに参加させてもらうことになっていた。
クルトもやっと私が大きくなったって認めてくれたのかな?
これまでは「くんれん」ばかりで私が早くサポートをしたいと言っても、クルトは「まだ早いし、危ない」と言うばかりだったのだ。
だから私はやる気まんまんで、昨日はぐっすり寝て、たっぷり食べて、しっかり爪を研いで、準備は万端になっている。
そんなわけでクルトと私はそろって西の森の端にまで来ていた。
ここから少し先のあたりでキラー・ビーが出るんだそうだ。私はクルトの隣を歩きながら、ちょっとおかしいなと首を傾げる。
キラー・ビーは冒険者にはおなじみの魔物だ。けれどもこんな人里近くの森にはめったに現れない。どちらかと言えばダンジョン近くの林や山のすそ野を好むからだ。
私はしばらくううんと考えたけれども、やっぱりわからないやと顔を上げた。
それにしてもこの森は緑が鮮やかで気持ちがいい。木と木の間から見える空も青くてきれいだ。
お日様が元気だと一日がとってもすてきだな。世界がきらきら、きらきら、クルトの金の髪といっしょに輝くから。
あっ、あっちにうす緑とピンクの小鳥がとまっている。こっちには黄と真っ白なお腹のリスだ。
追いかけたいな、捕まえたいな、遊びたいな。
身体がうずうずとなるのを必死にこらえる。
だめだめ、今日はクルトと仕事に来たんだから。
私はこっそりと隣を歩くクルトを見上げた。うん、クルトにはバレてないみたい。「もう一歳にもなったのに、まだ子猫っぽいんだな」なんて笑われたくないもの。
ああ、でも、やっぱり気になっちゃうな。だってどちらも大きさが手ごろで、可愛くて、美味しそ……。
「――ルナ、この森の生き物には毒があるから、煮ても焼いても食えないぞ」
「みゃあっ!?」
いきなり心を読まれ私はその場に飛び上がった。クルトを見上げ口をぱくぱくとしてしまう。
ど、どうして念話にしていないのに、私の気持ちがわかったの!?
クルトは歩きながらも声を抑えて笑い始めた。
「見ていればわかる」
『にゃ、にゃんで……』
「俺はお前が赤ん坊の頃から育ててきたんだぞ?」
ところがクルトの足がぴたりと止まった。視線が刃物のように瞬時に鋭くなる。杖を握る手に力が込められるのがわかった。
『……!!』
私も森にひそむ魔物の気配を感じ、全身を緊張させ戦闘の体制を取る。クルトが前を見たまま私に告げた。
「ルナ、打ち合わせ通りに行くぞ。依頼は奴らの殲滅だ」
『わかった』
「お前なら必ずできる。俺のパートナーだからな」
『……うん!』
パートナー――その響きに力がみなぎるのがわかる。そう、私はクルトのパートナーなんだ。頑張ろう!!
ぶぅんといくつもの不吉な羽音が重なり響き渡る。
……来る!!
あのモフモフ命!のお姉さん紹介の第一段は、マーヤの商人ギルド・運輸部からの依頼だった。西の森に巣を作り始めた殺人バチ、キラー・ビーを討伐して欲しいのだという。
この森には物資をマーヤへと運ぶルートの一つがあって、近ごろ行商人や貨物の馬車を襲われ悩まされていたのだそうだ。
クルトはその敵なら戦いに慣れるのにちょうどいいと言って、私もクエストに参加させてもらうことになっていた。
クルトもやっと私が大きくなったって認めてくれたのかな?
これまでは「くんれん」ばかりで私が早くサポートをしたいと言っても、クルトは「まだ早いし、危ない」と言うばかりだったのだ。
だから私はやる気まんまんで、昨日はぐっすり寝て、たっぷり食べて、しっかり爪を研いで、準備は万端になっている。
そんなわけでクルトと私はそろって西の森の端にまで来ていた。
ここから少し先のあたりでキラー・ビーが出るんだそうだ。私はクルトの隣を歩きながら、ちょっとおかしいなと首を傾げる。
キラー・ビーは冒険者にはおなじみの魔物だ。けれどもこんな人里近くの森にはめったに現れない。どちらかと言えばダンジョン近くの林や山のすそ野を好むからだ。
私はしばらくううんと考えたけれども、やっぱりわからないやと顔を上げた。
それにしてもこの森は緑が鮮やかで気持ちがいい。木と木の間から見える空も青くてきれいだ。
お日様が元気だと一日がとってもすてきだな。世界がきらきら、きらきら、クルトの金の髪といっしょに輝くから。
あっ、あっちにうす緑とピンクの小鳥がとまっている。こっちには黄と真っ白なお腹のリスだ。
追いかけたいな、捕まえたいな、遊びたいな。
身体がうずうずとなるのを必死にこらえる。
だめだめ、今日はクルトと仕事に来たんだから。
私はこっそりと隣を歩くクルトを見上げた。うん、クルトにはバレてないみたい。「もう一歳にもなったのに、まだ子猫っぽいんだな」なんて笑われたくないもの。
ああ、でも、やっぱり気になっちゃうな。だってどちらも大きさが手ごろで、可愛くて、美味しそ……。
「――ルナ、この森の生き物には毒があるから、煮ても焼いても食えないぞ」
「みゃあっ!?」
いきなり心を読まれ私はその場に飛び上がった。クルトを見上げ口をぱくぱくとしてしまう。
ど、どうして念話にしていないのに、私の気持ちがわかったの!?
クルトは歩きながらも声を抑えて笑い始めた。
「見ていればわかる」
『にゃ、にゃんで……』
「俺はお前が赤ん坊の頃から育ててきたんだぞ?」
ところがクルトの足がぴたりと止まった。視線が刃物のように瞬時に鋭くなる。杖を握る手に力が込められるのがわかった。
『……!!』
私も森にひそむ魔物の気配を感じ、全身を緊張させ戦闘の体制を取る。クルトが前を見たまま私に告げた。
「ルナ、打ち合わせ通りに行くぞ。依頼は奴らの殲滅だ」
『わかった』
「お前なら必ずできる。俺のパートナーだからな」
『……うん!』
パートナー――その響きに力がみなぎるのがわかる。そう、私はクルトのパートナーなんだ。頑張ろう!!
ぶぅんといくつもの不吉な羽音が重なり響き渡る。
……来る!!
10
お気に入りに追加
1,455
あなたにおすすめの小説
幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。
秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚
13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。
歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。
そしてエリーゼは大人へと成長していく。
※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。
小説家になろう様にも掲載しています。
【完結】初めて嫁ぎ先に行ってみたら、私と同名の妻と嫡男がいました。さて、どうしましょうか?
との
恋愛
「なんかさぁ、おかしな噂聞いたんだけど」
結婚式の時から一度もあった事のない私の夫には、最近子供が産まれたらしい。
夫のストマック辺境伯から領地には来るなと言われていたアナベルだが、流石に放っておくわけにもいかず訪ねてみると、
えっ? アナベルって奥様がここに住んでる。
どう言う事? しかも私が毎月支援していたお金はどこに?
ーーーーーー
完結、予約投稿済みです。
R15は、今回も念の為
あなたが望んだ、ただそれだけ
cyaru
恋愛
いつものように王城に妃教育に行ったカーメリアは王太子が侯爵令嬢と茶会をしているのを目にする。日に日に大きくなる次の教育が始まらない事に対する焦り。
国王夫妻に呼ばれ両親と共に登城すると婚約の解消を言い渡される。
カーメリアの両親はそれまでの所業が腹に据えかねていた事もあり、領地も売り払い夫人の実家のある隣国へ移住を決めた。
王太子イデオットの悪意なき本音はカーメリアの心を粉々に打ち砕いてしまった。
失意から寝込みがちになったカーメリアに追い打ちをかけるように見舞いに来た王太子イデオットとエンヴィー侯爵令嬢は更に悪意のない本音をカーメリアに浴びせた。
公爵はイデオットの態度に激昂し、処刑を覚悟で2人を叩きだしてしまった。
逃げるように移り住んだリアーノ国で静かに静養をしていたが、そこに1人の男性が現れた。
♡注意事項~この話を読む前に~♡
※胸糞展開ありますが、クールダウンお願いします。
心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。
※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義です。
※架空のお話です。現実世界の話ではありません。イラっとしたら現実に戻ってください。
※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。
※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。
懐妊を告げずに家を出ます。最愛のあなた、どうかお幸せに。
梅雨の人
恋愛
最愛の夫、ブラッド。
あなたと共に、人生が終わるその時まで互いに慈しみ、愛情に溢れる時を過ごしていけると信じていた。
その時までは。
どうか、幸せになってね。
愛しい人。
さようなら。
断罪シーンを自分の夢だと思った悪役令嬢はヒロインに成り代わるべく画策する。
メカ喜楽直人
恋愛
さっきまでやってた18禁乙女ゲームの断罪シーンを夢に見てるっぽい?
「アルテシア・シンクレア公爵令嬢、私はお前との婚約を破棄する。このまま修道院に向かい、これまで自分がやってきた行いを深く考え、その罪を贖う一生を終えるがいい!」
冷たい床に顔を押し付けられた屈辱と、両肩を押さえつけられた痛み。
そして、ちらりと顔を上げれば金髪碧眼のザ王子様なキンキラ衣装を身に着けたイケメンが、聞き覚えのある名前を呼んで、婚約破棄を告げているところだった。
自分が夢の中で悪役令嬢になっていることに気が付いた私は、逆ハーに成功したらしい愛され系ヒロインに対抗して自分がヒロインポジを奪い取るべく行動を開始した。
【完結】婚約破棄される前に私は毒を呷って死にます!当然でしょう?私は王太子妃になるはずだったんですから。どの道、只ではすみません。
つくも茄子
恋愛
フリッツ王太子の婚約者が毒を呷った。
彼女は筆頭公爵家のアレクサンドラ・ウジェーヌ・ヘッセン。
なぜ、彼女は毒を自ら飲み干したのか?
それは婚約者のフリッツ王太子からの婚約破棄が原因であった。
恋人の男爵令嬢を正妃にするためにアレクサンドラを罠に嵌めようとしたのだ。
その中の一人は、アレクサンドラの実弟もいた。
更に宰相の息子と近衛騎士団長の嫡男も、王太子と男爵令嬢の味方であった。
婚約者として王家の全てを知るアレクサンドラは、このまま婚約破棄が成立されればどうなるのかを知っていた。そして自分がどういう立場なのかも痛いほど理解していたのだ。
生死の境から生還したアレクサンドラが目を覚ました時には、全てが様変わりしていた。国の将来のため、必要な処置であった。
婚約破棄を宣言した王太子達のその後は、彼らが思い描いていたバラ色の人生ではなかった。
後悔、悲しみ、憎悪、果てしない負の連鎖の果てに、彼らが手にしたものとは。
「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルバ」にも投稿しています。
人質姫と忘れんぼ王子
雪野 結莉
恋愛
何故か、同じ親から生まれた姉妹のはずなのに、第二王女の私は冷遇され、第一王女のお姉様ばかりが可愛がられる。
やりたいことすらやらせてもらえず、諦めた人生を送っていたが、戦争に負けてお金の為に私は売られることとなった。
お姉様は悠々と今まで通りの生活を送るのに…。
初めて投稿します。
書きたいシーンがあり、そのために書き始めました。
初めての投稿のため、何度も改稿するかもしれませんが、どうぞよろしくお願いします。
小説家になろう様にも掲載しております。
読んでくださった方が、表紙を作ってくださいました。
新○文庫風に作ったそうです。
気に入っています(╹◡╹)
【完結】誰にも相手にされない壁の華、イケメン騎士にお持ち帰りされる。
三園 七詩
恋愛
独身の貴族が集められる、今で言う婚活パーティーそこに地味で地位も下のソフィアも参加することに…しかし誰にも話しかけらない壁の華とかしたソフィア。
それなのに気がつけば裸でベッドに寝ていた…隣にはイケメン騎士でパーティーの花形の男性が隣にいる。
頭を抱えるソフィアはその前の出来事を思い出した。
短編恋愛になってます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる