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第一話「月の光と胸の痛み」
003.モフモフこそ最強説(1)
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私はルナ。ケット・シーのルナ。古い言葉で「お月様」って意味の名前なの。私はソロの冒険者にして渡りの魔術師、クルトのたった一匹の使い魔だ。
ケット・シーは猫型の魔物で、人間並みの知能と魔力を持つ。模様はいろいろあるけれども、私は黒一色の毛並みが自慢だ。そして使い魔とは魔術師の仕事を助け、パートナーとなる魔物のこと。
そんなケット・シーにして使い魔の私は、主人のクルトと一緒に世界中の街から街へと旅をしていた。ちなみに一時間前に新しい街に着いたばかりであり、現在一人と一匹で街歩きを楽しんでいるところだ。
いつもはクルトについて歩くことが多いけど、ここ、マーヤ市の大通りは人が多くて危ないからと、ひょいと肩に乗せてもらっている。私はこの場所が大好きだった。だってクルトと同じものが見られるもの。クルトの背は高くてほとんどの人間を見下ろせる。
マーヤは前の街より大きくてにぎやかだ。街に有名な大聖堂があって、その宿場町になっているからなんだって。冒険者ギルドの施設も大きくて、クエストの依頼もたくさん集まっている。武器屋も、道具屋も、薬屋も、大通りの両側にずらりと軒を連ねていて、冒険者じゃない旅人にもとても便利な街なのだ。
大通りには住民や商人のほかにも、冒険者のパーティが何組も歩いている。戦士、僧侶、武闘家、中にはクルトと同じように、肩に使い魔を乗せた魔術師もいた。
あっ、あの子も私と同じケット・シーだ。黒と白のぶちの男の子みたい。向こうも気がついて私をちらりと見てくる。きっと同じ年ごろだけど、やっぱり私よりずっと大きいな。
私がクルトと出会ってもう一年が過ぎている。その間に私はぐんぐんと大きくなって、クルトの手の平に乗るサイズから、ちょっと小さい猫くらいにはなった。けれども同族のケット・シーには遠く及ばない。
後ろ脚だけでは歩けず人間への変身もできず、念話とレベルの低い治癒の魔術しか使えない。ほとんどのケット・シーは生後半年で人型になれて、魔術もお手のもので主人のクエストの補助ができるのに。
クルトは「急ぐことはない。そのうちできるさ」と慰めてくれるけど、ケット・シーは人間に比べて成長が早い。一年で人間の十六、十七歳くらいにはなってしまう。そこから先は不老のまま一〇〇歳くらいまで生きるのだ。
つまり私はもう人間では立派な成人にあたり、のびしろがあるとは思えなかった。普通のケット・シーだったらよかったのにと落ち込んでしまう。だって私は魔術師の使い魔のはずなのだ。使い魔なら使えなくちゃいけない。
私はいつだってクルトの役に立ちたいのに、どうしておちこぼれのままなんだろう。頑張っているつもりなんだけどな。まだまだ頑張りが足りないのかな。
街や人への好奇心いっぱいの態度から、しゅんとなった私が気になったのだろうか。クルトが手を伸ばし私の頭を撫でた。
「ルナ、どうした。疲れたのか?」
私は慌てて頭を上げて念話で答える。
『何でもないの!ねえ、クルト、今からギルドへ行くの?それとも酒場?宿屋?』
クルトはそうだなと辺りを見回した。
「まずはギルドからだな。手持ちが不安だからひと稼ぎだ」
ケット・シーは猫型の魔物で、人間並みの知能と魔力を持つ。模様はいろいろあるけれども、私は黒一色の毛並みが自慢だ。そして使い魔とは魔術師の仕事を助け、パートナーとなる魔物のこと。
そんなケット・シーにして使い魔の私は、主人のクルトと一緒に世界中の街から街へと旅をしていた。ちなみに一時間前に新しい街に着いたばかりであり、現在一人と一匹で街歩きを楽しんでいるところだ。
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クルトは「急ぐことはない。そのうちできるさ」と慰めてくれるけど、ケット・シーは人間に比べて成長が早い。一年で人間の十六、十七歳くらいにはなってしまう。そこから先は不老のまま一〇〇歳くらいまで生きるのだ。
つまり私はもう人間では立派な成人にあたり、のびしろがあるとは思えなかった。普通のケット・シーだったらよかったのにと落ち込んでしまう。だって私は魔術師の使い魔のはずなのだ。使い魔なら使えなくちゃいけない。
私はいつだってクルトの役に立ちたいのに、どうしておちこぼれのままなんだろう。頑張っているつもりなんだけどな。まだまだ頑張りが足りないのかな。
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私は慌てて頭を上げて念話で答える。
『何でもないの!ねえ、クルト、今からギルドへ行くの?それとも酒場?宿屋?』
クルトはそうだなと辺りを見回した。
「まずはギルドからだな。手持ちが不安だからひと稼ぎだ」
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