上 下
20 / 26
第3章.三年後の聖女

20.聖女の月夜

しおりを挟む
 神殿でのわたしの部屋は祭祀の間を横切り、大理石の廊下を突き当たった曲がり角の更に奥にある。いつもであれば神官や召使、誰か彼かとはすれ違うのに、なぜだか今日はひとりの人影も見かけなかった。

 狭い室内はシンプルでベッドと木の机しかない。四角に空いた文庫本ほどの小さな穴からは、月が光をフェレイドの背に投げかけていた。そしてわたしは今彼の体の下に組み敷かれている。

「サーヤ……」

 フェレイドの手がわたしのドレスのボタンにかけられる。わたしはその場でようやく我に返り慌ててフェレイドの手を掴んだ。

「ま、待って」

 そう、熱に浮かされすっかり忘れていたが、わたしはこの三年女を捨て切っていたのだ。

「わたしじゃあなたをがっかりさせちゃう。だってダイエットもなんにもしてないし、肌の手入れも仕事ばっかりだったからそんなに――って!!」

 フェレイドはわたしが止めるのも聞かず、あっと言う間にドレスのボタンを外し、下着ごと頭からすっぽり脱がし床に放ってしまった。ぱさりと乾いた音が耳に届く。

「……!?」

 フェレイドはいつの間にこんな技を身に付けたのだろうか!?なんで留めるのは苦手なのに外すののと脱がすのは得意なの!?勇者スキルってこんなところでも万能なの!?

――などと混乱する間に夜の空気が肌に触れる。わたしはぶるりと身を震わせフェレイドを見上げた。青い瞳がじっとわたしの裸を見下ろしている。わたしは頬がかっと赤くなるのを感じた。

「そんなに見ないで……」

 Hは初めてではないのに恥ずかしい。この場から消えしまいたくなった。なのに、フェレイドは溜息を吐きこう言ったのだ。

「サーヤ……あなたは女神のようだ」

「……!?」

 め、め、め、女神って、どうしてそんなことをさらりと言えるの!?これは王子スキル!?それとも外人スキル!?こんなのフェレイドわたしの知るフェレイドじゃない!!それに女神ってあのダイナマイトな女神のことなのかしら!?こんな体で申し訳ございませんという気分になってしまうじゃないの。

 フェレイドはわたしがわたわたと茹蛸になる間に、今度は体を起こし自分のシャツを脱いだ。そのシルエットに思わず目を見張る。

 フェレイドは着痩せをするタイプだったのか、肩幅が思ったよりも広く胸板も厚かった。腕はすらりと長くバランスよく筋肉が付いている。けれども、わたしが釘付けになったのは彫刻のような体ではなく、あちらこちらにある大小さまざまな傷跡だった。

 わたしは思わず腕を伸ばすと、フェレイドの胸に手を当てた。そこにも裂かれたような跡が残っている。

「これは……」

「ああ、一年前に竜と闘った時のものだ」

 手ごわかったとフェレイドは何でもないように笑う。わたしはその微笑みに泣きそうになってしまった。

「わたしがそばにいたら治したのに」

 聖女の能力でもすでに完治した傷跡を消すことはできない。フェレイドはほんとうに三年間たったひとりで戦い続けてきたのだ。どれだけ苦しい日々だったのだろう。

「サーヤ、思い違いをしないでほしい」

 フェレイドは首を振りわたしの手を取った。甲に口づけ長い睫毛を伏せる。

「この傷跡はわたしの勲章だ。わたし自身が選んだ道で、わたしが得たものなんだ」

 それは胸に輝く誇りなのだとフェレイドは笑った。わたしの顔の横に肘をつき頬を包み込む。

「サーヤ、あなたは少しも変わっていない。か細くて月の光に溶けてしまいそうだ」

「……」

 た、確かにわたしはこの世界の一般人に比べれば、小柄で華奢に見えるのかもしれない。ここは素直に日本人であったことに感謝すべきなのかしら?

 冷や汗を流すわたしの額に、フェレイドはキスをひとつ落とした。青い瞳が不安げに揺れる。

「壊してしまいそうで、怖い」

「……」

 わたしはその表情と言葉にフェレイドが愛しくてたまらなくなった。

「壊してもいい。ううん、壊しちゃって」

 その首に手を回し肩へと抱き寄せる。

「大好き」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【R18】触手に犯された少年聖女を見て興奮した俺はヒトとして獣人として最低です

アマンダ
恋愛
獣人騎士のアルは、護衛対象である少年と共に、ダンジョンでエロモンスターに捕まってしまう。ヌルヌルの触手が与える快楽から逃れようと顔を上げると、顔を赤らめ恥じらう少年の痴態が――――。 連載中の『世界のピンチが救われるまで本能に従ってはいけません!!〜少年聖女と獣人騎士の攻防戦〜』のR18ver.となります。おなじく『男のフリした聖女は触手にアンアン喘がされ、ついでに想い人の獣人騎士も後ろでアンアンしています。』の続編・ヒーロー視点となっています。 本編は読まなくてもわかるようになってますがヒロイン視点を先に読んでから、お読みいただくのが作者のおすすめです! ヒーロー本人はBLだと思ってますが、残念、BLではありません。

【R18】えっ、このスケスケの布が伝説の聖女のローブなんですか!?

茅野ガク
恋愛
憧れの聖騎士様と探しに行った伝説のローブがスケスケだった聖女の話 ※他サイトにも投稿しています

【R18】純情聖女と護衛騎士〜聖なるおっぱいで太くて硬いものを挟むお仕事です〜

河津ミネ
恋愛
フウリ(23)は『眠り姫』と呼ばれる、もうすぐ引退の決まっている聖女だ。 身体に現れた聖紋から聖水晶に癒しの力を与え続けて13年、そろそろ聖女としての力も衰えてきたので引退後は悠々自適の生活をする予定だ。 フウリ付きの聖騎士キース(18)とはもう8年の付き合いでお別れするのが少しさみしいな……と思いつつ日課のお昼寝をしていると、なんだか胸のあたりに違和感が。 目を開けるとキースがフウリの白く豊満なおっぱいを見つめながらあやしい動きをしていて――!?

【R18】満足するまで出られないのでオカズとして一生懸命頑張ります

アマンダ
恋愛
少年聖女と獣人騎士シリーズ第2弾!  女神さまの命令により女であることを隠して、想い人の獣人騎士アルとその他愉快な仲間たちと共に世界を救う至宝を探して海の都を訪れたミコト。アルのカナヅチ克服の特訓に付き合っていた最中、至宝があると思われる、海底に沈んだ家々を発見。恐る恐る中に踏み込んでみると怪しげな魔法が発動して――満足するまで出られないって一体どういうことですか!? 獣人騎士を興奮させるべく、女であることをバレないように気をつけながら、誠心誠意お手伝いさせていただきます。物語の都合上、最後までは致しません。 『世界のピンチが救われるまで本能に従ってはいけません!!』のR18ver.第2弾です。前作『男のフリした聖女は触手にアンアン喘がされ、ついでに想い人の獣人騎士も後ろでアンアンしています』を読んでからがわかりやすいと思うのでよかったら…… ムーンライト様にも掲載しています。全5話です。

騎士様に甘いお仕置きをされました~聖女の姉君は媚薬の調合がお得意~

二階堂まや
恋愛
聖女エルネの姉であるイエヴァは、悩める婦人達のために媚薬の調合と受け渡しを行っていた。それは、妹に対して劣等感を抱いてきた彼女の心の支えとなっていた。 しかしある日、生真面目で仕事人間な夫のアルヴィスにそのことを知られてしまう。 離婚を覚悟したイエヴァだが、アルヴィスは媚薬を使った''仕置き''が必要だと言い出して……? +ムーンライトノベルズにも掲載しております。 +2/16小話追加しました。

【R18】少年のフリした聖女は触手にアンアン喘がされ、ついでに後ろで想い人もアンアンしています

アマンダ
恋愛
女神さまからのご命令により、男のフリして聖女として召喚されたミコトは、世界を救う旅の途中、ダンジョン内のエロモンスターの餌食となる。 想い人の獣人騎士と共に。 彼の運命の番いに選ばれなかった聖女は必死で快楽を堪えようと耐えるが、その姿を見た獣人騎士が……? 連載中の『世界のピンチが救われるまで本能に従ってはいけません!!〜少年聖女と獣人騎士の攻防戦〜』のR18ver.となっています!本編を見なくてもわかるようになっています。前後編です!! ご好評につき続編『触手に犯される少年聖女を見て興奮した俺はヒトとして獣人として最低です』もUPしましたのでよかったらお読みください!!

【R18】素直になれない私が、得体の知れない薬のおかげで幼馴染との距離を強引に縮めた話。

夕月
恋愛
薬師のメルヴィナは、かつてないほどに焦っていた。ちょっとした正義感を発揮した結果、催淫剤を飲んでしまったのだ。 優秀な自分なら、すぐに解毒剤を調合できると思っていたのに、思った以上に身体に薬が回るのが早い。 どんどん熱くなる身体と、ぼんやりとしていく思考。 快楽を求めて誰彼構わず押し倒しそうなほどに追い詰められていく中、幼馴染のフィンリーがあらわれてメルヴィナは更に焦る。 顔を合わせれば口喧嘩ばかりしているけれど、本当はずっと好きな人なのに。 想いを告げるどころか、発情したメルヴィナを見てきっとドン引きされるはずだ。 ……そう思っていたのに、フィンリーは優しい笑みを浮かべている。 「手伝うよ」 ってそれは、解毒剤の調合を? それとも快楽を得るお手伝い!? 素直になれない意地っ張りヒロインが、催淫剤のおかげで大好きな人との距離を縮めた話。 大人描写のある回には★をつけます。

大嫌いなアイツが媚薬を盛られたらしいので、不本意ながらカラダを張って救けてあげます

スケキヨ
恋愛
媚薬を盛られたミアを救けてくれたのは学生時代からのライバルで公爵家の次男坊・リアムだった。ほっとしたのも束の間、なんと今度はリアムのほうが異国の王女に媚薬を盛られて絶体絶命!? 「弟を救けてやってくれないか?」――リアムの兄の策略で、発情したリアムと同じ部屋に閉じ込められてしまったミア。気が付くと、頬を上気させ目元を潤ませたリアムの顔がすぐそばにあって……!! 『媚薬を盛られた私をいろんな意味で救けてくれたのは、大嫌いなアイツでした』という作品の続編になります。前作は読んでいなくてもそんなに支障ありませんので、気楽にご覧ください。 ・R18描写のある話には※を付けています。 ・別サイトにも掲載しています。

処理中です...