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第3章.三年後の聖女

18.聖女の王子様

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 フェレイドはわたしを抱いたまま話を聞き、最後にそうなのかと溜息を吐いた。

「訳も分からず連れてこられて大変だっただろう」

 わたしは気遣いを感じさせるその言葉に、フェレイドをまじまじと見つめてしまった。三年前のフェレイドならあり得なかったからだ。フェレイドは「済まなかった」と目を伏せ腕に力を込める。

「サーヤ、昔のわたしはあなたの心を思いやらなかった。自分の思いばかりを押し付けていた。あなたはごく普通のか弱い女性だったのに……」

 フェレイドはわたしが地球に帰って以降、冒険者として世界各国を回った。たったひとりで旅をすることで、わたしの孤独を理解したかったのだと言う。

 そして明日のパンすら危うい貧民、両親と死に別れた幼い兄弟、我が子を守るために自らを売る母――そんな人々らと出会い、別れ、いかに自分が守られていたのかを知った。いかに守るべきなのかを学んだ。

「わたしはサーヤだけではない。父上や母上や兄上や姉上、国民にも甘え切っていた。勇者であった時すら分かっていなかったんだ。どれほど愚かだったか今なら理解できる」

 それに、とフェレイドはわたしの目を覗き込む。青い瞳の中に昔と同じ甘えん坊の光が浮かんだ。

「わたしはもう出したものはちゃんと片づけられるし、生水は沸かして飲むようになった。寄り道も買い食いも一度もやっていない。野宿では料理だってできるようになった。獣も魚もナイフで裁けるし、食べられる野草だって見分けられるんだ」

 褒めて、褒めて!と目が言っている。なぜだかフェレイドの背後に、パタパタ振られる犬のしっぽの幻影が見えた。

「……」

 わたしはそのサバイバル能力の進化は何なのだと、ぽかんとフェレイドを見上げてしまう。フェレイドはそんなわたしの耳に優しく、優しく囁いた。

「もうわたしはどこでも生きていける。だから一緒に地球へ――あなたの国へ帰ろう。ジドーシャなどわたしがこの剣で一刀両断にして見せる」

「……っ」

 深い思いやりにまた涙が溢れるのを感じる。わたしはやっとの思いでこれだけを告げた。

「……ダメよ。銃刀法違反で捕まっちゃうわ」

 胸から体を起こすと泣き笑いで青い瞳を見つめる。そして、あることに気づきついぷっと噴き出してしまった。

「さ、サーヤ?」

 わたしはフェレイドの襟元に手を伸ばす。

「フェレイド、ボタン」

 そう、やっぱり一番上のボタンが留められていなかった。

「……わたしがいなきゃダメなんだから」

 バカで、脳筋で、けれども誰よりも優しいわたしの王子様――あなたさえいればわたしはきっとこの世界カレンドールでも生きていける。
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