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第3章.三年後の聖女
16.聖女の不安
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第一神殿の西側には見事な庭園がある。月光の花園と呼ばれており、何種類もの花々が植えられていた。
中でも月鏡草と呼ばれる小さく白い花は、魔力を宿しており月の光を反射する。夜には月とともにぼうっと輝いて見え、この世界の不思議を体現しているかのように見えた。
わたしは庭園の石造りのベンチにひとり腰かけながら、夜空に浮かぶ月とそよ風に揺れる月鏡草を眺めていた。一昨日、カレンドールにまた来たばかりの日に、エルディスに言い聞かされたことを思い出す。
『聖女であるあなた様のご要望ならば、わたくしどもも喜んで帰還に手をお貸しします。ただし、わたくしどもはあなたが地球から姿を消した、その瞬間のその場所にしか返すことはできません』
つまり、わたしは再び暴走トラックの前に放り出されることになる。地球ではわたしの聖女としての能力は失われているため、還ったとたんにわたしは命を落としてしまうだろう。
エルディスはそれを踏まえてよく考えて欲しいと言った。身柄は神殿預かりとするので、何日滞在してもかまわないと言う。
「……どうすればいいの?」
わたしは月に見上げ誰にともなく尋ねる。けれども当然月も月鏡草も何も答えようとはしない。ふと心細くなり涙が一筋頬に流れる。わたしは膝を抱え間に顔を埋めた。
三年前初めてカレンドールに来た時にもこんな気持ちだった。それでもフェレイドたちと旅に出て、魔物を退治する日々の中で、その心細さはだんだん薄れていった。
生きるだけで必死だったからだろうか。それともフェレイドがいつもそばにいたからだろうか?
「フェレイド……」
わたしは無意識のうちにその名前を呼んでいた。
「会いたいよ……。どこにいるの?」
月鏡草がざわりと揺れる。
「……ヤ」
わたしは誰かの声を聞いた気がして顔を上げた。月鏡草の草むらの向こう――神殿の柱の陰に誰かが立っている。月の光がその人の長い金の髪を照らし出した。
白いシャツの上に青く長い詰襟のベストを羽織、同じ色のズボンを履いている。肩にはこげ茶のマントが掛けられていた。膝や腕にはアーマーが付けられ、腰には一振りの剣が差されている。肌は三年前に比べ日に焼け、右の頬には浅い傷跡が残っていた。
わたしは信じられない思いでその人を見つめ、思わず立ち上がり目を瞬かせる。
「フェレイド……?」
中でも月鏡草と呼ばれる小さく白い花は、魔力を宿しており月の光を反射する。夜には月とともにぼうっと輝いて見え、この世界の不思議を体現しているかのように見えた。
わたしは庭園の石造りのベンチにひとり腰かけながら、夜空に浮かぶ月とそよ風に揺れる月鏡草を眺めていた。一昨日、カレンドールにまた来たばかりの日に、エルディスに言い聞かされたことを思い出す。
『聖女であるあなた様のご要望ならば、わたくしどもも喜んで帰還に手をお貸しします。ただし、わたくしどもはあなたが地球から姿を消した、その瞬間のその場所にしか返すことはできません』
つまり、わたしは再び暴走トラックの前に放り出されることになる。地球ではわたしの聖女としての能力は失われているため、還ったとたんにわたしは命を落としてしまうだろう。
エルディスはそれを踏まえてよく考えて欲しいと言った。身柄は神殿預かりとするので、何日滞在してもかまわないと言う。
「……どうすればいいの?」
わたしは月に見上げ誰にともなく尋ねる。けれども当然月も月鏡草も何も答えようとはしない。ふと心細くなり涙が一筋頬に流れる。わたしは膝を抱え間に顔を埋めた。
三年前初めてカレンドールに来た時にもこんな気持ちだった。それでもフェレイドたちと旅に出て、魔物を退治する日々の中で、その心細さはだんだん薄れていった。
生きるだけで必死だったからだろうか。それともフェレイドがいつもそばにいたからだろうか?
「フェレイド……」
わたしは無意識のうちにその名前を呼んでいた。
「会いたいよ……。どこにいるの?」
月鏡草がざわりと揺れる。
「……ヤ」
わたしは誰かの声を聞いた気がして顔を上げた。月鏡草の草むらの向こう――神殿の柱の陰に誰かが立っている。月の光がその人の長い金の髪を照らし出した。
白いシャツの上に青く長い詰襟のベストを羽織、同じ色のズボンを履いている。肩にはこげ茶のマントが掛けられていた。膝や腕にはアーマーが付けられ、腰には一振りの剣が差されている。肌は三年前に比べ日に焼け、右の頬には浅い傷跡が残っていた。
わたしは信じられない思いでその人を見つめ、思わず立ち上がり目を瞬かせる。
「フェレイド……?」
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