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9.心の操(笑)

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 エムリスの長年の恋人は平民のマリアちゃんと言う女の子だった。成績が市井において非常に優秀であったため、女の身でありながらも特別に学園に入学を許可されたのだ。

 ごく普通の感覚であるマリアちゃんは、当然結婚したいと言ったけれども、私と言う婚約者のいるエムリスの立場では不可能だった。バース伯爵家は私の実家であるクルー侯爵家に資金提供を受けている。そのためエムリスの一存だけで婚約破棄などできる立場ではない。

 私はふふっとエムリスを嘲った。

「あなたがマリアちゃんを手放したくないばかりに、何て言ったか想像できるわ。どうせバース家が安定したら離婚する、妻に子どもができたら離婚する、子どもが大きくなったら離婚する――そうやって夢を餌に嘘を付き続けて、マリアちゃんを縛って来たんでしょ。六年、七年かしら?女の子にはどれだけ貴重な時間かしら」

 その後ろめたさが初夜にあの台詞を言わせた。

『私はお前を愛することはない。両親がクルー家に恩があるから、仕方がなく結婚しただけだ』

 エムリスとしてはマリアちゃんに心の操だけは立てたつもりだったのだろう。それが自分なりの誠意(笑)だと考えていたのだろう。私は滑稽さのあまりほほほと手の甲を口に添え軽やかに笑い始める。

「そんなものは女に何の意味もないわよ。ねぇ、エムリス、手放したくないと言う身勝手を貫き、その揚げ句に愛想を尽かされた感想は?人ひとりの、それも心から愛する女の人生を狂わせた感想を教えてくれるかしら?私とあなた、一体どちらが悪人なのかしらねぇ?」

 ちなみにマリアちゃんは彼女をずっと思い続けて来た幼馴染の男にプロポーズされ、二人で故郷に帰ったのだと聞いた。私もそれでよかったとしみじみ思う。誠実を装った偽善者のお貴族様、ぶっちゃけ自分を被害者だとすら考えているクズよりも、自分一人を愛してくれる平民の方が彼女には合っているだろう。

 エムリスは真っ青になったまま一言の反論もしない。ただ唇を噛み締め足もとを見つめている。

 私は「ねぇ、エムリス」と私はエムリスの肩に手を添え耳元に囁いた。

「あなたは貴族に生まれるべきじゃなかったわねぇ。ああ、でも、そんな甘っちょろいんじゃ平民の身分になっても搾取されるだけでしょうね。それともその身勝手さでうまく立ち回っていくのかしら」

 何かを言われるたびにエムリスは傷付いているらしい。イケメンだけあり耐える姿が何とも言えずにそそる。私はエムリスの頬をついとなぞった。その身体がびくりと震える。

 仕方がない。今日は床上手の王子と一発ヤる予定だったんだけど、身体も疼くしこいつで手を打っておくか。
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