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9月

125.老牙狼さん

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『俺にも雇い主がいたんだよ、自慢の雇い主だった。
優しい御婦人でなぁ
よく魔石を持っていったら褒めてくれたし、番ができたら立派な小屋を作ってくれた。
子供が産まれりゃ休みもくれて、毎日牙狼が足りなくないか点呼して、足りなきゃ必死で探させるんだよ…
病気してないか怪我してないかずっと見守ってくれてなぁ、いい雇い主だった。

なのに御婦人は年で死んじまったんだよ…代替わりしたんだが、俺は新しい雇い主が受け入れれなかった。』


代替わりか…雇い主が亡くなったり牙狼を見れなくなると、その土地を引き継いだ人が新しい雇い主になることがある。
ただ全ての牙狼が受け入れられるわけじゃない
特に前の雇い主と関係が深かった牙狼は、受け入れられない場合が多くて


『新しい雇い主の悪い人じゃなかったんだ…
効率重視だったが、番には配慮してくれたし褒めてもくれた。
ただなぁ…年寄り牙狼には仕事のノルマがキツすぎてなぁ
ババァの番が畑の搬送とかやらされてるの見るのは、耐えられなかった。それで群れから離反したんだよ…』


離反したら雇い主の加護は受けられない。
冒険者に狙われても文句は言えないんだ、でも……


『俺は間違っていたのかな…番にあんな最後をむかえさせちまうなんて
申し訳なくてしかたねぇよ…』


『おじいさんは間違えてないよ、不運が重なったんだ…
なんで牙狼はこんな生き方しかできないんだろう
昔から使役されてきた魔獣だから、冒険者からしかけてこなければ危害なんて加えないし……魔石は確かにでるけど、大した魔石じゃないのに』


たぶん僕も殺処分されたら魔石が出るだろうな
せめて、その魔石はアキラさんが持っていてくれたら救われるのに
なんて言ったらアキラさんは怒るかな?


『そうだなぁ…、牙狼は人と共にあるのに、人は牙狼を全ては受け入れない
悲しいことだなぁ…』

『僕は牙狼と人の橋渡しがしたかったんだよ、僕は牙狼の言葉も人間の言葉もわかるでしょ?
しっかりと通じあえたら…きっとおじいさんも離反しなくて済んだ気がするんだ』


老牙狼には老牙狼の仕事がある。
産まれてから離乳食を食べるまでは母親が子守をするが、その後は老牙狼がすることが多い
牙狼は群れで子育てをするから、その間に母親は働けるしまた子供が産める。
そうやってどんどん群れが大きくなるのに
穏やかで気が長い老牙狼が、たくさんの子達を上手に面倒を見るんだ。
きっと新しい雇い主さんは、知らなかったのだろう


『あぁ…うちのとこのリーダーは人の言葉は聞けたけど、話せなかったからなぁ
俺もあんたみたいなのがいたら、離反しなかっただろうよ…
まぁ結局は後の祭りさっ、今はただ死ぬのを待つだけだ…』


そうだ、僕にはしたい事も見つかったのに…後の祭りなんだ。
とりあえずやることもないし、老牙狼さんとおしゃべりをしながら、部屋に片っ端から清浄魔法をかけていった。
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