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2.祝福に包まれる

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アレは確か10歳を過ぎた頃だったか、まだドワーフには幼児と呼ばれるような歳の頃で、ドボスが持っている記憶の中でも一番古い記憶がピッペとの出会いだった。


たしか母と散歩をしていたのだ、ドワーフの幼児はよく石を拾い歩き、枝を集め、虫の死骸や蔦を集め歩く、それを組み合わせて摩訶不思議な物を作るのだ


俺もそれにもれず毎日散歩にでて、戦利品はないかと下を見ながら歩いていた。そこに落ちていたのがピッペだった。 



最初は羽虫の死骸だと思い、その綺麗なたくさんついている羽をむしれば良い材料になると思い拾い上げれば、幾重もある虹色に透き通った羽に小さな人がついていたのだ



「かあちゃん、なんかいるよ…これって使っていい?」

「はいはい、ドボスは何を今度は、拾ったんだい?この前は石と間違えて魔獣のフンを拾ったからねぇ…何かねぇ?…………ってあんた!それは妖精だよ!!いかんいかん、捕まえたのかい?放しなさい!失礼じゃないか!!」

「違う、拾ったの!もう動かないよ…この羽、綺麗だから欲しいなぁって、あれ?ちょっと動いた?かあちゃん、これ生きてる!!」



母は大慌てで俺が拾った手のひらにも乗るような小さなピッペを家に連れて帰り、介抱をしたのだ、そして俺はそんなピッペを率先して面倒をみていた。



「ピッペ、あぁ!また羽が落ちてる、これももらっていい?ピッペはすぐに羽が抜けるね?いっぱい生え変わるんだね!!」

「うん、私は魔力が安定していないから、すぐに抜けるんだよ、ドボスは私の羽が好き?嬉しい?そんなの何にもならない羽だよ…」

「うん!嬉しい、すごく綺麗な羽だ…いつもありがと、ふふっ…お花のとこまた行く?抱っこするよ、それともまだ体が辛いなら取ってくるよ、お水は足りてる?」



そう抜け落ちる羽を目当てにせっせと面倒をみていたのだ、俺には初めて可愛い家畜を飼うような感覚だった気がする。ピッペは俺が世話をすると嬉しそうにしていたし、どんどん元気を取り戻していった。


そんな楽しい日々も数週間くらいで終わりが訪れた。何人かのエルフ達がピッペを迎えに来たのだ…



「ピッペ、ピッペ…ピッペェェェ、行っちゃいやだよぅ…ゔゔぅえぇぇぅ…ピッペはずっと俺といてくれよぅ…ゔああぁあぁ!!」

「ドボス、あぁ…ドボス…そんなに私を…わかった。私は必ず立派になって、ドボスを迎えに来るから、どうかその時は…私のお嫁ちゃんになってくれる?」

「ゔっ、ゔっ…お嫁ちゃん?俺がお嫁ちゃんなるのっ?
……ゔゔぅ……うんっ、わかった。ピッペが俺よりも大きくなったら、お嫁ちゃんになってあげるよ」

「本当に?わかった!私は、ドボスよりも大きく、いや…それだけじゃ足りない、妖精族の中で一番大きく、一番強く立派になるよ!そしたら私のお嫁ちゃんになって、我々は永遠の伴侶になろう…」



そう言うとピッペが俺の手の甲にペニョリっとくっついた。俺は最後のお別れの握手だと思って、泣きながら手ごと抱きしめて、小さく揺らしたのを覚えている。





なるほど、誓約魔法に必要な両者の合意は取れているし、縛り限定条件の俺より大きくて強くも満たしている。この誓約魔法は有効に間違いない。


誓約魔法は込められた魔力量と限定条件縛りが難しければ難しいほど効果が強くなる。そして誓約を反故にすれば、その効果の強さの分だけ制裁を受けることになる。


込められた魔力量は妖精王になる前とはいえ、その素質がある者だ、かなりの量だろう
更にあんなに小さなピッペが俺よりも大きくなるのは、どれくらい困難だっただろうか…


この婚姻を反故にすれば、制裁はたぶん俺が死ぬだけでは足りないだろう、俺との因果のあるこのドワーフの里ごと吹っ飛ぶかもしれない、もう俺からこの婚約を反故にはできない…



「ドボスが抜けるのは…ちと困る、もう後続育成にも携わっとる、それにドボスほどの腕をみすみす置いておくのはもったいねぇよ!
エクスカリバーまでは打てないが、小国だったら国宝級の刀が打てるくらいだぞ!」



そんな諦めモードで放心していた俺の前に、救世主が現れた。静観していた工房長だ


どうやら俺を連れて行かれると察したのか、俺とピッペに割って入ってきた。そうだ、俺が反故しなければいいのだ、周りが止めることはこの誓約魔法には関わらない、いつもはドワーフにしては金勘定が細かいやつだが、こういうときには頼りになる!



「では世界樹の横に支店を出してはいかがですか?ドボスが支店工房長で、転移魔法装置を付ければこちらの工房とも繋げれます。妖精国にドワーフの工房はありませんから、繁盛しますよ!」

「えっ?…いやっ…それはっ、だが…そんな支店を建てるような費用は…」

「もちろんこれは私、妖精王直々の頼みですから、私が無償で融資させていただきます。支店を建てるのもお手伝いしますし、転移装置も私が自ら責任を持って作りましょう、ドボスのためですから、素晴らしい工房にさせていただきますよ!」

「……無償、……転移装置、はいっ!よろしくお願いします。ドボス、よかったな!すごい旦那じゃないか!お幸せにな!!ははっ結婚式が楽しみだよ!」



クソッが!?目が金になっていやがる。さっさと手のひらを返しやがって、やっぱり頼りにならなかった。


こうなれば家族なら止めてくれるかと、親族に挨拶をしてほしいっとピッペに言えば、即座に実家に転移させられてしまった。



「あぁ、あのピッペ君ね、いつか迎えに来ると思ってたんじゃよ!えがったえがったぁ、ドボスが結婚しないように見合い話は全て断ってて正解じゃったわい、こんな生き遅れのオッサンドワーフじゃが、大事にしておくれね?おめでとうねぇ」

「あぁお母様っ…ありがとうございます!お母様がドボスを守ってくださってたのですね!なんと大きな愛なんだ…この感謝はしきれません、お母様のことは世界樹のように大事にさせていただきます。」



頼みの綱のかあちゃんはあっさりとピッペ側に寝返ってしまった。
かあちゃんめ…俺が150歳ぐらいのときは耳にタコができるくらい、結婚はまだか!孫を見せんか!って言いまくってたじゃないか!!


もう一目見て、高位な様相に目見よいピッペにかあちゃんはメロメロで、香草茶を淹れてもらい、肩なんか揉んでもらっている。顔はもうデレデレだ



「そうだ!お母様のために別荘を世界樹の側に建てましょう!!周りは美しい湖も草原もありますし、転移装置で街とも繋げればすぐにいけますよ?こちらの家とも繋げれば行き来も容易です。
遠慮なんてしないでください、ドボスを守ってくださったお母様への恩はこの程度では報えません!」

「まぁぁ…なんていい旦那なんだい!!
ドボス、しっかりと素敵なお嫁ちゃんにしてもらうんじゃよ、ひゃひゃひゃ結婚式が楽しみじゃ!楽しみじゃ!」



かあちゃんめ!まったく頼りにならない!
あの後も親戚一同が集まってきたが、女共は目が♡になってるし、男共は仕事の話や土産の酒にすぐに懐柔されていく…


周りがどんどんと埋められていって、俺の気持ちだけが取り残されたようになっていく…
小さな期待を込めて俺の護衛をしているエルフさんにこそりっと聞いてみた。



「あのっ…俺はこんな見た目で!ドワーフなんだが、あの妖精王の伴侶としては相応しくないとか思われませんかね?」

「ハハッ、そのようなこと是非もない!我らは妖精王の伴侶がドワーフだと知って、もろ手を挙げて喜んでいます。何せ有機物で、人型で、何より同じ妖精族ではないか!本当によかった!!」



聞けばピッペは魔法で鉄鉱石を切り刻むことが朝の日課らしい、俺の香りに似ているだろうからっと



「もしかしたら合金ゴーレムか機械人形を伴侶にするつもりかと思っていました。よかったですよ、血が通っているドワーフで!」



聞けばピッペは自分の部屋中を魔獣の毛やなめしたオークの皮で敷き詰めて転がったり頬釣りをしているらしい、俺の毛や肌の手触りに似ているからと



「相手が魔獣や魔物かとびくびくしていました。それが言葉が交わせて人型で、意思疎通も完璧にできるドワーフでなによりですよ」



聞けばピッペは強く、大きくなるためと魔獣や魔族の討伐にも率先して行っていたらしい
どんな馬鹿でかい強敵を撃っても、ピッペはブツブツと呟く
『これじゃ足りない…もっと強く大きくならなければ、お嫁ちゃんにできない…』



「ギガンティスドラゴンを撃っても、まだ足りないと言っておりましたからねぇ、相手がどれだけでかいのだと…魔王や古代竜かとビビり倒してました。それが妖精族で温和で友好的やドワーフなんて!はぁ…なんて素晴らしい伴侶様でしょうか!!」



なるほど、あのバンザイ!!にはそんな思いが込められていたのか…
本来なら妖精王には高位の妖精や高位のエルフが伴侶になるものだが、そこにチビで筋肉隆々で毛だるまのドワーフなど相応しくない!と止めてもらえるのを期待したが、誰も思わないらしい…
もう満面の笑みで本当にもろ手を挙げて歓迎されてしまっている。


アレヨアレヨと転移で連れてこられた世界樹のたもとにある屋敷の従者の反応は、更にわかりやすく安堵&大歓迎だった。


深々と頭を下げてぶるぶると震えむせび泣く執事長、顔はぐしゃぐしゃに泣き崩れながらも香草茶をいれてくれるメイド長、他にも従者達は抱き合って歓声をあげ、歓迎の歌を歌い、メイド達は魔法で花びらを山盛り降らせてくる。



「ゔゔぅぅ…もう伴侶様を迎えるこの日に、死を覚悟して迎えておりました。本当にこのような温和な可愛らしいドワーフでようございましたぁ。」

「えぇえぇ、もうおどろおどろしい悪魔か魔獣かと思っていましたからねぇ…こんな目見よい愛らしいドワーフで、ドボス様、伴侶になってくださって、本当にありがとうございます」



俺は決して愛らしくも目見もよくないが、それだけ恐ろしい相手を想像して慄いていたのだろう、もうここまで歓迎されたら何も言えない、この婚姻を止めてもらえる者など存在しないのだと諦めたときに…
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