29 / 117
29.デートの後で
しおりを挟む
「殿下、これは一体どういうことですか?」
突然の大声によって私の妄想は破られ、現実世界に戻された。依然として私を抱きしめたままの状態でウィルが振り返る。
「どうしたんだい? そんな大きな声を出して」
声の主がルーカスである事だけは分かったが、私に見えている鏡の世界からは、ルーカスが一体何に叫んでいるのか全く分からない。
様子が見たくて振り返ろうとするも、ウィルの腕はがっちりと私を抱きしめたままでびくともしない。
「あぁ。届いたんだね」
そう言うと同時にウィルの腕がほどけた。
ほぅっと息をつき振り返ると、部屋に大量の荷物が運び込まれているところだった。
「本棚はアリスの寝室へ。箱は積んだままで構わないから」
ウィルバートの指示を受け、使用人達が部屋へ台車を運びいれる。台車には段ボールが3箱のっていた。その段ボールの中は本でぎっちりだ。その数全部で67冊。
その67冊の本をどうするのか? ウィルと話し合った結果、全て私の寝室に運び入れることになった。私の寝室ならば限られた人しか入らないし、ウィルがこっそり読みに来ることもできるからだ。
使用人達が荷物を運び終え寝室から出るやいなや、「殿下、これはどういうことですか?」ルーカスが感情を抑えたような声で尋ねた。
きっとものすごく怒りたいのを我慢してるのだろう。口調だけではなく、表情にも感情が表れていない。
「どういうこととは?」
ウィルは段ボールの中身を確認しながら返事をした。
「ですから、この荷物の事ですよ。本棚まで設置して……まさかと思いますが、箱の中全てが本というわけではありませんよね?」
「もちろん。全て恋愛小説だよ」
悪びれる様子もなく答えるウィルバートに、ルーカスは一瞬言葉を失った。
「本屋というのは非常に興味深い所だったよ」
「本屋!? 殿下は本屋なんかに行かれたんですか?」
ルーカスの厳しい声も、段ボールから本を取り出しているウィルには聞こえていないようだ。ウィルはホクホク顔で本を棚に並べ始めた。
その姿がまたルーカスにとっては腹立たしいようで、「王太子が本屋に行くなどあり得ない」だの、「恋愛小説を読んでいることがバレたらどうするんだ」などと説教は続いている。
自分の言葉があまりにもウィルに届かないことが腹立たしいのか、ルーカスの厳しい視線は私にも向けられる。そのじとっとした目に見つめられると、全て私のせいだと責められているようで心が痛い。
「そうそう。アナベルにお土産を買ってきたんだった」
ルーカス言葉を無視するかのように、ウィルバートは持っていた紙袋をアナベルへ渡した。そうなるともう真面目な話なんてできやしない。アナベルが感激して叫ぶ声に、ルーカスの声は全てかき消されてしまうのだから。
「私にお土産ですか!? ウィルバート様、ありがとうございます」
そう言ってアナベルが紙袋から取り出した本を見て、あれ? っと思う。
ウィルがお土産に買ったのってあの本だけじゃなかったの?
てっきり例の官能小説だけかと思っていたけれど、アナベルへの土産は、どうやら二冊あったようだ。
「『籠絡された客人』と『誘惑された王太子』ですか。どちらもそそられるタイトルですね」
アナベルがグフっという音を立てると同時に不安な気持ちになる。
「あ、あの……『誘惑された王太子』って、どんな話なんですか?」
どうかこの悪い予感が外れていますように。そう願いながら、アナベルがウラスジを読み上げるのを聞いて、絶望感に襲われた。
やっぱりね。もう一冊とタイトルがよく似てるから、そうだと思ったわよ。
『誘惑された王太子』は、私が想像した通り、異世界の客人と王太子の話のようだ。私とウィルバートを思い起こさせる設定だけでも嫌なのに、話の内容が刺激的だなんて嫌すぎる。
「もう、ウィルってば!! どうしてこんな本買うんですか?」
「カールに勧められたんだよ。面白そうだと思わないかい? わたし用にも買ったから、今夜一緒に読もう」
一緒に読もうって……アナベルの前でそんな事言って大丈夫なのかしら?
恋愛小説を読むのを秘密にしてるくらいなのに、こんな官能的なの読んでるなんて知られたらまずいんじゃないかと心配する私の目の端にルーカスがうつった。
頭が痛むのだろう。目を瞑りこめかみに指を当てているルーカスを見ていると少し気の毒な気もしてくる。もう怒る気力もないほどショックなのか、ルーカスはよろけるようにして部屋を出て行ってしまった。こうなるともう、ウィルバートとアナベルの口をふさぐ者はいない。
「カールは実にいい本を紹介してくれたよ。わたしがアリスに色仕掛けで迫られるなんて、素敵な話じゃないか」
いや、全然素敵じゃないですから!! っていうか、ウィルの頭の中ではすでに登場人物が私とウィルになってるの!?
「ウィルバート様、グフっとアリス、グフっ様のベッド……グフっを、かいまみれグフっ、るなんて……」
アナベルにいたっては、もうグフグフ言い過ぎで何言ってるかさっぱり分からない。
あぁ頭が痛くなってきた。
楽しかったデートが、なんともいえない終わり方になってしまったわ。
ルーカスと同じようにこめかみに中指をあて、痛む頭を軽く揉むように押さえた。
☆ ☆ ☆
あふっ。
起きたばかりだというのに、大きな欠伸が止まらない。そんな私を見てアナベルはクスリと笑った。
「昨夜は遅くまでお楽しみだったようですね」
アナベルったら、そういう意味ありげな言い方しかできないのかしら?
アナベルに対する微妙な感情を、眠気ざましのコーヒーと共に飲み込んだ。ミルクと砂糖たっぷりのコーヒーが寝不足でぼんやりとした脳にエネルギーを与えてくれる。
「そういうアナベルこそ、眠たそうな顔してるわよ」
アナベルも眠たいのだろう。欠伸こそしないものの、いつもより多く瞬きをしている。化粧がいつもより濃いのも、寝不足で化粧のりが悪かったに違いない。
「そうですね。昨夜は眠れませんでしたから」
アナベルが再びパチパチっと瞬きをした。
アナベルが寝不足な理由は聞かなくても分かっている。ウィルがお土産に買って来た本を読んでいたからだ。きっとこの話はここで終わらせてしまった方がいい。さもないと厄介な事になってしまう。
グフっ。
しまった。遅かったか……
話題を変える間もなく、アナベルの興奮の証である、あの奇怪な音が鳴り始めてしまった。
「ウィルバート様の選んでくださった本は最高ですね。読み始めたら面白すぎて、グフっ、やめられませんでした」
さすがはウィルバート様、選ぶ本まで素晴らしいとアナベルが大袈裟な程に褒めたたえる。きっと昨夜読んだ本の感想を言いたくてたまらないのだろう。目の前のアナベルはやけに瞳をキラキラさせている。
「アリス様とウィルバート様は、結局どちらの本をお読みになったんですか?」
どちらの本……とは、確認するまでもなく、ウィルが昨日お土産に買ってきた二冊の本の事だろう。
「私はですね、悩みに悩んでアリス様が飼い慣らされる方にしました。もう最高でしたよ。特に最後のシーンでアリス様が……」
「だから私じゃないってば!!」
耐えられなくてつい声が大きくなってしまった。もうお願いだから、私とウィルで勝手な妄想しないでもらいたい。自分で想像するのも恥ずかしくて発熱しちゃいそうなのに、アナベルの脳内でとか、考えただけで気を失ってしまいそうだ。
「確かに本に出てくる王太子はかっこよくて紳士で……ウィルっぽい感じだったわよ。でも異世界の客人の方は私とはまるっきり違ってたじゃない」
本のキャラクターとしての客人は、私の噂を聞いた誰かが書いた事は確かだろう。キャラクターはこの世界では珍しいと言われる黒髪と黒い瞳をしていた。
でも私と同じなのはそれだけだ。あとは全くと言っていいほど違っている。本の客人は、とにかくセクシーなのだ。妖艶と言ってもいいかもしれない。
私に妖艶って言葉が似合うと思う?
答えは誰に聞いてもノーだろう。私のこの平凡な顔立ちとメリハリのないボディでは、官能小説の主人公になれるはずがないんだから。
「その様子ですと、やはりアリス様も私と同じ本をお読みになったんですね」
うっ。アナベルが期待に満ちた視線で私を見ている。
「昨夜はウィルバート様と寝室で読書されてたんですよね? 本の内容が内容ですし、読書どころじゃなくなったんじゃありませんか?」
「た、確かにウィルと寝室で読書はしたわ。だ、だけど私はその本を読んでないし……べ、別にそ、そんな雰囲気とかにはならなかったわ」
「そうなんですか?」
アナベルがニヤリと意味深な笑みを浮かべた。
「その慌て方ですと……ウィルバート様に『せっかくだから本の内容を真似してみよう』のような事を言わ……」
「あーっ!!」
大きな声でアナベルの言葉を遮った。いきなり立ち上がった私にアナベルはびっくりしている。
「わ、私……ちょっと書庫に行かないといけないんだった」
「えっ!? アリス様?」
慌てて逃げるように部屋を飛び出した私の後ろでアナベルが何か言っているような気がしたが、恥ずかしい私は立ちどまることなく書庫に駆け込んだ。
突然の大声によって私の妄想は破られ、現実世界に戻された。依然として私を抱きしめたままの状態でウィルが振り返る。
「どうしたんだい? そんな大きな声を出して」
声の主がルーカスである事だけは分かったが、私に見えている鏡の世界からは、ルーカスが一体何に叫んでいるのか全く分からない。
様子が見たくて振り返ろうとするも、ウィルの腕はがっちりと私を抱きしめたままでびくともしない。
「あぁ。届いたんだね」
そう言うと同時にウィルの腕がほどけた。
ほぅっと息をつき振り返ると、部屋に大量の荷物が運び込まれているところだった。
「本棚はアリスの寝室へ。箱は積んだままで構わないから」
ウィルバートの指示を受け、使用人達が部屋へ台車を運びいれる。台車には段ボールが3箱のっていた。その段ボールの中は本でぎっちりだ。その数全部で67冊。
その67冊の本をどうするのか? ウィルと話し合った結果、全て私の寝室に運び入れることになった。私の寝室ならば限られた人しか入らないし、ウィルがこっそり読みに来ることもできるからだ。
使用人達が荷物を運び終え寝室から出るやいなや、「殿下、これはどういうことですか?」ルーカスが感情を抑えたような声で尋ねた。
きっとものすごく怒りたいのを我慢してるのだろう。口調だけではなく、表情にも感情が表れていない。
「どういうこととは?」
ウィルは段ボールの中身を確認しながら返事をした。
「ですから、この荷物の事ですよ。本棚まで設置して……まさかと思いますが、箱の中全てが本というわけではありませんよね?」
「もちろん。全て恋愛小説だよ」
悪びれる様子もなく答えるウィルバートに、ルーカスは一瞬言葉を失った。
「本屋というのは非常に興味深い所だったよ」
「本屋!? 殿下は本屋なんかに行かれたんですか?」
ルーカスの厳しい声も、段ボールから本を取り出しているウィルには聞こえていないようだ。ウィルはホクホク顔で本を棚に並べ始めた。
その姿がまたルーカスにとっては腹立たしいようで、「王太子が本屋に行くなどあり得ない」だの、「恋愛小説を読んでいることがバレたらどうするんだ」などと説教は続いている。
自分の言葉があまりにもウィルに届かないことが腹立たしいのか、ルーカスの厳しい視線は私にも向けられる。そのじとっとした目に見つめられると、全て私のせいだと責められているようで心が痛い。
「そうそう。アナベルにお土産を買ってきたんだった」
ルーカス言葉を無視するかのように、ウィルバートは持っていた紙袋をアナベルへ渡した。そうなるともう真面目な話なんてできやしない。アナベルが感激して叫ぶ声に、ルーカスの声は全てかき消されてしまうのだから。
「私にお土産ですか!? ウィルバート様、ありがとうございます」
そう言ってアナベルが紙袋から取り出した本を見て、あれ? っと思う。
ウィルがお土産に買ったのってあの本だけじゃなかったの?
てっきり例の官能小説だけかと思っていたけれど、アナベルへの土産は、どうやら二冊あったようだ。
「『籠絡された客人』と『誘惑された王太子』ですか。どちらもそそられるタイトルですね」
アナベルがグフっという音を立てると同時に不安な気持ちになる。
「あ、あの……『誘惑された王太子』って、どんな話なんですか?」
どうかこの悪い予感が外れていますように。そう願いながら、アナベルがウラスジを読み上げるのを聞いて、絶望感に襲われた。
やっぱりね。もう一冊とタイトルがよく似てるから、そうだと思ったわよ。
『誘惑された王太子』は、私が想像した通り、異世界の客人と王太子の話のようだ。私とウィルバートを思い起こさせる設定だけでも嫌なのに、話の内容が刺激的だなんて嫌すぎる。
「もう、ウィルってば!! どうしてこんな本買うんですか?」
「カールに勧められたんだよ。面白そうだと思わないかい? わたし用にも買ったから、今夜一緒に読もう」
一緒に読もうって……アナベルの前でそんな事言って大丈夫なのかしら?
恋愛小説を読むのを秘密にしてるくらいなのに、こんな官能的なの読んでるなんて知られたらまずいんじゃないかと心配する私の目の端にルーカスがうつった。
頭が痛むのだろう。目を瞑りこめかみに指を当てているルーカスを見ていると少し気の毒な気もしてくる。もう怒る気力もないほどショックなのか、ルーカスはよろけるようにして部屋を出て行ってしまった。こうなるともう、ウィルバートとアナベルの口をふさぐ者はいない。
「カールは実にいい本を紹介してくれたよ。わたしがアリスに色仕掛けで迫られるなんて、素敵な話じゃないか」
いや、全然素敵じゃないですから!! っていうか、ウィルの頭の中ではすでに登場人物が私とウィルになってるの!?
「ウィルバート様、グフっとアリス、グフっ様のベッド……グフっを、かいまみれグフっ、るなんて……」
アナベルにいたっては、もうグフグフ言い過ぎで何言ってるかさっぱり分からない。
あぁ頭が痛くなってきた。
楽しかったデートが、なんともいえない終わり方になってしまったわ。
ルーカスと同じようにこめかみに中指をあて、痛む頭を軽く揉むように押さえた。
☆ ☆ ☆
あふっ。
起きたばかりだというのに、大きな欠伸が止まらない。そんな私を見てアナベルはクスリと笑った。
「昨夜は遅くまでお楽しみだったようですね」
アナベルったら、そういう意味ありげな言い方しかできないのかしら?
アナベルに対する微妙な感情を、眠気ざましのコーヒーと共に飲み込んだ。ミルクと砂糖たっぷりのコーヒーが寝不足でぼんやりとした脳にエネルギーを与えてくれる。
「そういうアナベルこそ、眠たそうな顔してるわよ」
アナベルも眠たいのだろう。欠伸こそしないものの、いつもより多く瞬きをしている。化粧がいつもより濃いのも、寝不足で化粧のりが悪かったに違いない。
「そうですね。昨夜は眠れませんでしたから」
アナベルが再びパチパチっと瞬きをした。
アナベルが寝不足な理由は聞かなくても分かっている。ウィルがお土産に買って来た本を読んでいたからだ。きっとこの話はここで終わらせてしまった方がいい。さもないと厄介な事になってしまう。
グフっ。
しまった。遅かったか……
話題を変える間もなく、アナベルの興奮の証である、あの奇怪な音が鳴り始めてしまった。
「ウィルバート様の選んでくださった本は最高ですね。読み始めたら面白すぎて、グフっ、やめられませんでした」
さすがはウィルバート様、選ぶ本まで素晴らしいとアナベルが大袈裟な程に褒めたたえる。きっと昨夜読んだ本の感想を言いたくてたまらないのだろう。目の前のアナベルはやけに瞳をキラキラさせている。
「アリス様とウィルバート様は、結局どちらの本をお読みになったんですか?」
どちらの本……とは、確認するまでもなく、ウィルが昨日お土産に買ってきた二冊の本の事だろう。
「私はですね、悩みに悩んでアリス様が飼い慣らされる方にしました。もう最高でしたよ。特に最後のシーンでアリス様が……」
「だから私じゃないってば!!」
耐えられなくてつい声が大きくなってしまった。もうお願いだから、私とウィルで勝手な妄想しないでもらいたい。自分で想像するのも恥ずかしくて発熱しちゃいそうなのに、アナベルの脳内でとか、考えただけで気を失ってしまいそうだ。
「確かに本に出てくる王太子はかっこよくて紳士で……ウィルっぽい感じだったわよ。でも異世界の客人の方は私とはまるっきり違ってたじゃない」
本のキャラクターとしての客人は、私の噂を聞いた誰かが書いた事は確かだろう。キャラクターはこの世界では珍しいと言われる黒髪と黒い瞳をしていた。
でも私と同じなのはそれだけだ。あとは全くと言っていいほど違っている。本の客人は、とにかくセクシーなのだ。妖艶と言ってもいいかもしれない。
私に妖艶って言葉が似合うと思う?
答えは誰に聞いてもノーだろう。私のこの平凡な顔立ちとメリハリのないボディでは、官能小説の主人公になれるはずがないんだから。
「その様子ですと、やはりアリス様も私と同じ本をお読みになったんですね」
うっ。アナベルが期待に満ちた視線で私を見ている。
「昨夜はウィルバート様と寝室で読書されてたんですよね? 本の内容が内容ですし、読書どころじゃなくなったんじゃありませんか?」
「た、確かにウィルと寝室で読書はしたわ。だ、だけど私はその本を読んでないし……べ、別にそ、そんな雰囲気とかにはならなかったわ」
「そうなんですか?」
アナベルがニヤリと意味深な笑みを浮かべた。
「その慌て方ですと……ウィルバート様に『せっかくだから本の内容を真似してみよう』のような事を言わ……」
「あーっ!!」
大きな声でアナベルの言葉を遮った。いきなり立ち上がった私にアナベルはびっくりしている。
「わ、私……ちょっと書庫に行かないといけないんだった」
「えっ!? アリス様?」
慌てて逃げるように部屋を飛び出した私の後ろでアナベルが何か言っているような気がしたが、恥ずかしい私は立ちどまることなく書庫に駆け込んだ。
0
お気に入りに追加
100
あなたにおすすめの小説
月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~
真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
アルバートの屈辱
プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。
『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。
王が気づいたのはあれから十年後
基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。
妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。
仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。
側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。
王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。
王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。
新たな国王の誕生だった。
【電子書籍化進行中】声を失った令嬢は、次期公爵の義理のお兄さまに恋をしました
八重
恋愛
※発売日少し前を目安に作品を引き下げます
修道院で生まれ育ったローゼマリーは、14歳の時火事に巻き込まれる。
その火事の唯一の生き残りとなった彼女は、領主であるヴィルフェルト公爵に拾われ、彼の養子になる。
彼には息子が一人おり、名をラルス・ヴィルフェルトといった。
ラルスは容姿端麗で文武両道の次期公爵として申し分なく、社交界でも評価されていた。
一方、怠惰なシスターが文字を教えなかったため、ローゼマリーは読み書きができなかった。
必死になんとか義理の父や兄に身振り手振りで伝えようとも、なかなか伝わらない。
なぜなら、彼女は火事で声を失ってしまっていたからだ──
そして次第に優しく文字を教えてくれたり、面倒を見てくれるラルスに恋をしてしまって……。
これは、義理の家族の役に立ちたくて頑張りながら、言えない「好き」を内に秘める、そんな物語。
※小説家になろうが先行公開です
骸骨と呼ばれ、生贄になった王妃のカタの付け方
ウサギテイマーTK
恋愛
骸骨娘と揶揄され、家で酷い扱いを受けていたマリーヌは、国王の正妃として嫁いだ。だが結婚後、国王に愛されることなく、ここでも幽閉に近い扱いを受ける。側妃はマリーヌの義姉で、公式行事も側妃が請け負っている。マリーヌに与えられた最後の役割は、海の神への生贄だった。
注意:地震や津波の描写があります。ご注意を。やや残酷な描写もあります。
伯爵は年下の妻に振り回される 記憶喪失の奥様は今日も元気に旦那様の心を抉る
新高
恋愛
※第15回恋愛小説大賞で奨励賞をいただきました!ありがとうございます!
※※2023/10/16書籍化しますーー!!!!!応援してくださったみなさま、ありがとうございます!!
契約結婚三年目の若き伯爵夫人であるフェリシアはある日記憶喪失となってしまう。失った記憶はちょうどこの三年分。記憶は失ったものの、性格は逆に明るく快活ーーぶっちゃけ大雑把になり、軽率に契約結婚相手の伯爵の心を抉りつつ、流石に申し訳ないとお詫びの品を探し出せばそれがとんだ騒ぎとなり、結果的に契約が取れて仲睦まじい夫婦となるまでの、そんな二人のドタバタ劇。
※本編完結しました。コネタを随時更新していきます。
※R要素の話には「※」マークを付けています。
※勢いとテンション高めのコメディーなのでふわっとした感じで読んでいただけたら嬉しいです。
※他サイト様でも公開しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる