21 / 117
21.私の唇はカッサカサ!?
しおりを挟む
「……ましょうか? アリス様?」
アナベルに名前を呼ばれ、はっと我にかえる。
「ごめん、今何か言った?」
「……昨夜の事を思い出していたんですね?」
アナベルが私を見てにっこり……いや、ニヤニヤとした笑みを浮かべた。
「そ、そういうわけじゃないけど……」
図星をつかれてドキっとする。
昨夜は色々ありすぎた。ありすぎて色々考えてたら、頭がオーバーヒートを起こしたらしい。普段から賢いとは言えない頭が、一段と働きを悪くしている。
グフっ。
アナベルの口から奇怪な音が漏れる。笑うのを一生懸命我慢しようと口元に手を当ててはいるが、堪えきれないのだろう。アナベルの体が小刻みに震えている。
あらら、アナベルったらまた興奮してるみたいね。
この笑い方さえなければアナベルは最高に可愛いのに。もったいない事に、何故か興奮するとグフグフとうるさくなるのだ。
「あっ。私のことは気にせず、思う存分キッスの余韻に浸ってください」
私の視線を感じたのか、アナベルが口元に手を当てたままそう言った。
キスの余韻って言われても、横でそんなにグフグフ言われたら落ちついていられませんから。
「……って、なんでキスしたって知ってるの?」
「お二人の顔を見たら、一発で分かりますよ」
えっ? 思わず両手を頬に当てた。
何それ? 私ってば「昨日キスしました」みたいな顔してたの? って、それって一体どんな顔よ!!
「特に昨夜こちらからお帰りになる際にお見かけしたウィルバート様のお顔はゆるゆるでしたからね。よっぽど察しの悪い人間でない限りは想像がつくと思いますよ」
「そ、そうなんだ……」
そっかぁ、ウィルってばそんな緩んだ顔してたのかぁ。ウィルが浮かれてるところなんて全然想像つかないけど、私とのキスでそうなってるのだと思うと何だか照れくさい。
「アリス様?」
再び自分の世界に入り込んでいた私をアナベルが呼び戻す。
「えっと……何の話してたっけ?」
「興奮されてるようですし、リラックスする温かいハーブティーはいかがですか?」
興奮してるのは私じゃなくてアナベルの方でしょ、っと思いながらカップを手にとった。立ち上る湯気から漂う青りんごのような甘い香りが気持ちを落ちつかせてくれる。
「それで……ウィルバート様とのキッスはどうでしたか?」
私がほうっと息をつくのと、お盆を持ったままのアナベルが身を乗り出したのはほとんどほ同時だった。
「えっ? どうでしたかって聞かれても……」
そんなに目を輝かせて見つめられても困ってしまう。
「やはりウィルバート様はキッスがお上手でしたか?」
躊躇う私のことなどお構いなしにアナベルはグイグイせまってくる。
「そんなの答えられないわよ」
「えー。教えてくださらないんですかぁ?」
アナベルが不満そうに口を尖らせた。
「そんなこと言われたって……キスなんて初めてなんだから、上手か下手かなんて判断できるわけないじゃない」
「まったく……アリス様ったら本当にお子様なんですから」
「悪かったわね」
やれやれと、仕方なさそうに肩をすぼめたアナベルに少しだけムカっとする。
えぇ、えぇ、たしかに私は恋愛初心者なお子様ですよ。
「いいですか……素敵なキッスというものは、それだけでとろけちゃいそうに……」
いつの間にやらアナベルのキス講座が始まってしまった。キスについての分析をあれやこれや聞いていると、なんだか気分が盛り下がってくる。
「アリス様、聞いてますか?」
アナベルの勢いに負け、はいっと返事をした。あぁ、これじゃキスの余韻に浸るどころじゃないわね……
「反対に下手なキッスは、鼻息が荒かったり……」
鼻息を荒くしながらキスについて語るアナベルを見て思わず苦笑いしてしまう。
こりゃ話が長くなるだろうなと覚悟したが、いいタイミングでトントントンっとドアを叩く音が聞こえた。
「まぁ、ウィルバート様!?」
思いがけぬ来客に、ドアを開けたアナベルが嬉しそうな声を上げた。
「おはよう、アリス」
「お、おはようございます」
うぅっ。何だか恥ずかしくって、ウィルの顔を直視できない。
「出かける前に渡したいものがあってね」
「そ、そうなんですか」
自分でもあきれちゃうくらいにドギマギして、全てがぎこちなくなってしまう。そんな私とは対照的に、ウィルは悔しいくらいにいつも通りだ。
「これなんだけど」
そう言ってウィルが私の手にのせたのは小瓶だった。
「昨日唇がカサカサすると言っていたろう? 王族専門医に頼んで薬を作らせたから、使っておくれ」
「あ、ありがとうございます」
えっと唇カサカサにつける薬って……リップクリーム!?
このタイミングで、リップクリームのプレゼントってことは、やっぱり私の唇はカサカサだったってことよね?
自分でも乾燥してるなぁとは思っていたけど、ウィルにもそう思われたんだと思うと、かなりショックだ。
王立学園へ向かうウィルが部屋を出るやいなや、抑えていた感情が吹き出した。
「アナベル!!」
「どうされました?」
突然大声を出した私の元に、心配したアナベルが飛んでくる
「ウィルがこれをくれたのって、私の唇がカサカサだから治せって言ってるのよね? それって昨日キスした時、『何だよ、こいつの唇カサカサじゃん。最低だな』って思ったって事よね?」
私がこんなにも泣きそうなのに、アナベルは「考えすぎですよ」と笑っている。
「あー、なんでキスなんかしちゃったんだろう」
あの時唇が乾いてるって自覚してたのに。
「ですからアリス様の考えすぎですって。だいたいウィルバート様がアリス様の事を最低だって思うわけないんですから」
「まぁ確かにウィルは優しいから最低とは思わないかもしれないけど。でも唇カサカサだと思われただけで嫌なの!!」
「はいはい、そうですね。それよりアリス様、その小瓶開けてみませんか?」
アナベルってば、ちょっと冷たくない?
一貫してそんなに気にすることないでしょ、みたいな態度をとり続けるアナベルは、私の叫びより小瓶の中身の方が気になるらしい。
「王族専門医の調合したリップなんて、そうそう手に入るものじゃありませんもの」
王族専門医とは、その名の通り王族の診察や投薬に関する医者の事だ。詳しい仕事内容も、どんな人物なのかも私は知らないけど、そんな特別な人物が調合したのだからそれはそれは素晴らしい物に違いないと、アナベルが瞳を輝かせている。
「そう言ってもリップはリップでしょ? 誰が調合しても大差は……あるみたいね」
瓶の中身にアナベルと目が釘付けになった。
「ねぇ、アナベル? これって本当にリップなのかな? なんか私が想像してたものと違うんだけど……」
「そうですね……私もこれは想定外でした」
唇カサカサに対する薬だから、てっきり蜂蜜みないなとろりとしたものかと思っていた。けれど瓶の中に入っていたのは、揺れるとチャプチャプと音を立てるような液体だ。
そして私達が一番驚いたのはその色で、深緑……いや、それよりもっと黒い、黒緑色をしていた。
「これ唇につけていいやつなのかな? なんとなく匂いも気になるような……」
どこかで嗅いだことのあるような、油臭い匂いが漂っている。
「うわっ。臭いっ」
何の匂いだったっけと、鼻を近づけて後悔した。思い切り嗅ぐと、つんとする刺激臭が鼻の粘膜を攻撃してくる。思わず涙ぐむほどやられてしまった。
同じく顔を近づけて匂いを確かめていたアナベルが無言で瓶の蓋を閉めた。
「王族専門医も大したことありませんね。これなら私の方がよい物を作る事ができますよ。こんな物を使ってアリス様の体に害があったらどうするんですか」
怒りを露わにしながら、材料を取りに行こうとするアナベルをとりあえずなだめた。
「別にそんな今すぐ作らなくてもいいのよ。普通のリップならあるんだし」
「いいえ。アリス様の唇のケアも私の仕事ですから」
いやまぁ、そう言ってくれるのはありがたいんだけど……こんな風にアナベルが張り切る時って、必ずといっていいほど何かが起こるのよね。
と言っても別に事件とか大問題ってわけじゃない。ただ私が困惑するような事が起こるのだ。
「えぇっと、まず蜂蜜と……」
ぶつぶつと呟きながら、紅茶用の蜂蜜を手にとったアナベルがやる気に満ちた目を私に向ける。
「アリス様、待っててくださいね。私がアリス様の唇をうるうるのぷるっぷる、テカッテカに光り輝くものにしてみせますから」
え!?
うるうるのぷるっぷるはいいとして、テカッテカに光り輝く唇ってあんまり魅力的に聞こえないんだけど……
一体どんなものを作る気なのかしら。
お礼を言いながらも、鼻歌を歌うアナベルに不安な気持ちしか抱けなかった。
アナベルに名前を呼ばれ、はっと我にかえる。
「ごめん、今何か言った?」
「……昨夜の事を思い出していたんですね?」
アナベルが私を見てにっこり……いや、ニヤニヤとした笑みを浮かべた。
「そ、そういうわけじゃないけど……」
図星をつかれてドキっとする。
昨夜は色々ありすぎた。ありすぎて色々考えてたら、頭がオーバーヒートを起こしたらしい。普段から賢いとは言えない頭が、一段と働きを悪くしている。
グフっ。
アナベルの口から奇怪な音が漏れる。笑うのを一生懸命我慢しようと口元に手を当ててはいるが、堪えきれないのだろう。アナベルの体が小刻みに震えている。
あらら、アナベルったらまた興奮してるみたいね。
この笑い方さえなければアナベルは最高に可愛いのに。もったいない事に、何故か興奮するとグフグフとうるさくなるのだ。
「あっ。私のことは気にせず、思う存分キッスの余韻に浸ってください」
私の視線を感じたのか、アナベルが口元に手を当てたままそう言った。
キスの余韻って言われても、横でそんなにグフグフ言われたら落ちついていられませんから。
「……って、なんでキスしたって知ってるの?」
「お二人の顔を見たら、一発で分かりますよ」
えっ? 思わず両手を頬に当てた。
何それ? 私ってば「昨日キスしました」みたいな顔してたの? って、それって一体どんな顔よ!!
「特に昨夜こちらからお帰りになる際にお見かけしたウィルバート様のお顔はゆるゆるでしたからね。よっぽど察しの悪い人間でない限りは想像がつくと思いますよ」
「そ、そうなんだ……」
そっかぁ、ウィルってばそんな緩んだ顔してたのかぁ。ウィルが浮かれてるところなんて全然想像つかないけど、私とのキスでそうなってるのだと思うと何だか照れくさい。
「アリス様?」
再び自分の世界に入り込んでいた私をアナベルが呼び戻す。
「えっと……何の話してたっけ?」
「興奮されてるようですし、リラックスする温かいハーブティーはいかがですか?」
興奮してるのは私じゃなくてアナベルの方でしょ、っと思いながらカップを手にとった。立ち上る湯気から漂う青りんごのような甘い香りが気持ちを落ちつかせてくれる。
「それで……ウィルバート様とのキッスはどうでしたか?」
私がほうっと息をつくのと、お盆を持ったままのアナベルが身を乗り出したのはほとんどほ同時だった。
「えっ? どうでしたかって聞かれても……」
そんなに目を輝かせて見つめられても困ってしまう。
「やはりウィルバート様はキッスがお上手でしたか?」
躊躇う私のことなどお構いなしにアナベルはグイグイせまってくる。
「そんなの答えられないわよ」
「えー。教えてくださらないんですかぁ?」
アナベルが不満そうに口を尖らせた。
「そんなこと言われたって……キスなんて初めてなんだから、上手か下手かなんて判断できるわけないじゃない」
「まったく……アリス様ったら本当にお子様なんですから」
「悪かったわね」
やれやれと、仕方なさそうに肩をすぼめたアナベルに少しだけムカっとする。
えぇ、えぇ、たしかに私は恋愛初心者なお子様ですよ。
「いいですか……素敵なキッスというものは、それだけでとろけちゃいそうに……」
いつの間にやらアナベルのキス講座が始まってしまった。キスについての分析をあれやこれや聞いていると、なんだか気分が盛り下がってくる。
「アリス様、聞いてますか?」
アナベルの勢いに負け、はいっと返事をした。あぁ、これじゃキスの余韻に浸るどころじゃないわね……
「反対に下手なキッスは、鼻息が荒かったり……」
鼻息を荒くしながらキスについて語るアナベルを見て思わず苦笑いしてしまう。
こりゃ話が長くなるだろうなと覚悟したが、いいタイミングでトントントンっとドアを叩く音が聞こえた。
「まぁ、ウィルバート様!?」
思いがけぬ来客に、ドアを開けたアナベルが嬉しそうな声を上げた。
「おはよう、アリス」
「お、おはようございます」
うぅっ。何だか恥ずかしくって、ウィルの顔を直視できない。
「出かける前に渡したいものがあってね」
「そ、そうなんですか」
自分でもあきれちゃうくらいにドギマギして、全てがぎこちなくなってしまう。そんな私とは対照的に、ウィルは悔しいくらいにいつも通りだ。
「これなんだけど」
そう言ってウィルが私の手にのせたのは小瓶だった。
「昨日唇がカサカサすると言っていたろう? 王族専門医に頼んで薬を作らせたから、使っておくれ」
「あ、ありがとうございます」
えっと唇カサカサにつける薬って……リップクリーム!?
このタイミングで、リップクリームのプレゼントってことは、やっぱり私の唇はカサカサだったってことよね?
自分でも乾燥してるなぁとは思っていたけど、ウィルにもそう思われたんだと思うと、かなりショックだ。
王立学園へ向かうウィルが部屋を出るやいなや、抑えていた感情が吹き出した。
「アナベル!!」
「どうされました?」
突然大声を出した私の元に、心配したアナベルが飛んでくる
「ウィルがこれをくれたのって、私の唇がカサカサだから治せって言ってるのよね? それって昨日キスした時、『何だよ、こいつの唇カサカサじゃん。最低だな』って思ったって事よね?」
私がこんなにも泣きそうなのに、アナベルは「考えすぎですよ」と笑っている。
「あー、なんでキスなんかしちゃったんだろう」
あの時唇が乾いてるって自覚してたのに。
「ですからアリス様の考えすぎですって。だいたいウィルバート様がアリス様の事を最低だって思うわけないんですから」
「まぁ確かにウィルは優しいから最低とは思わないかもしれないけど。でも唇カサカサだと思われただけで嫌なの!!」
「はいはい、そうですね。それよりアリス様、その小瓶開けてみませんか?」
アナベルってば、ちょっと冷たくない?
一貫してそんなに気にすることないでしょ、みたいな態度をとり続けるアナベルは、私の叫びより小瓶の中身の方が気になるらしい。
「王族専門医の調合したリップなんて、そうそう手に入るものじゃありませんもの」
王族専門医とは、その名の通り王族の診察や投薬に関する医者の事だ。詳しい仕事内容も、どんな人物なのかも私は知らないけど、そんな特別な人物が調合したのだからそれはそれは素晴らしい物に違いないと、アナベルが瞳を輝かせている。
「そう言ってもリップはリップでしょ? 誰が調合しても大差は……あるみたいね」
瓶の中身にアナベルと目が釘付けになった。
「ねぇ、アナベル? これって本当にリップなのかな? なんか私が想像してたものと違うんだけど……」
「そうですね……私もこれは想定外でした」
唇カサカサに対する薬だから、てっきり蜂蜜みないなとろりとしたものかと思っていた。けれど瓶の中に入っていたのは、揺れるとチャプチャプと音を立てるような液体だ。
そして私達が一番驚いたのはその色で、深緑……いや、それよりもっと黒い、黒緑色をしていた。
「これ唇につけていいやつなのかな? なんとなく匂いも気になるような……」
どこかで嗅いだことのあるような、油臭い匂いが漂っている。
「うわっ。臭いっ」
何の匂いだったっけと、鼻を近づけて後悔した。思い切り嗅ぐと、つんとする刺激臭が鼻の粘膜を攻撃してくる。思わず涙ぐむほどやられてしまった。
同じく顔を近づけて匂いを確かめていたアナベルが無言で瓶の蓋を閉めた。
「王族専門医も大したことありませんね。これなら私の方がよい物を作る事ができますよ。こんな物を使ってアリス様の体に害があったらどうするんですか」
怒りを露わにしながら、材料を取りに行こうとするアナベルをとりあえずなだめた。
「別にそんな今すぐ作らなくてもいいのよ。普通のリップならあるんだし」
「いいえ。アリス様の唇のケアも私の仕事ですから」
いやまぁ、そう言ってくれるのはありがたいんだけど……こんな風にアナベルが張り切る時って、必ずといっていいほど何かが起こるのよね。
と言っても別に事件とか大問題ってわけじゃない。ただ私が困惑するような事が起こるのだ。
「えぇっと、まず蜂蜜と……」
ぶつぶつと呟きながら、紅茶用の蜂蜜を手にとったアナベルがやる気に満ちた目を私に向ける。
「アリス様、待っててくださいね。私がアリス様の唇をうるうるのぷるっぷる、テカッテカに光り輝くものにしてみせますから」
え!?
うるうるのぷるっぷるはいいとして、テカッテカに光り輝く唇ってあんまり魅力的に聞こえないんだけど……
一体どんなものを作る気なのかしら。
お礼を言いながらも、鼻歌を歌うアナベルに不安な気持ちしか抱けなかった。
0
お気に入りに追加
100
あなたにおすすめの小説
淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~
真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。
王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!
gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ?
王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。
国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから!
12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。
麗しのラシェール
真弓りの
恋愛
「僕の麗しのラシェール、君は今日も綺麗だ」
わたくしの旦那様は今日も愛の言葉を投げかける。でも、その言葉は美しい姉に捧げられるものだと知っているの。
ねえ、わたくし、貴方の子供を授かったの。……喜んで、くれる?
これは、誤解が元ですれ違った夫婦のお話です。
…………………………………………………………………………………………
短いお話ですが、珍しく冒頭鬱展開ですので、読む方はお気をつけて。
【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。
五月ふう
恋愛
リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。
「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」
今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。
「そう……。」
マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。
明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。
リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。
「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」
ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。
「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」
「ちっ……」
ポールは顔をしかめて舌打ちをした。
「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」
ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。
だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。
二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。
「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」
【完結】婚約破棄される前に私は毒を呷って死にます!当然でしょう?私は王太子妃になるはずだったんですから。どの道、只ではすみません。
つくも茄子
恋愛
フリッツ王太子の婚約者が毒を呷った。
彼女は筆頭公爵家のアレクサンドラ・ウジェーヌ・ヘッセン。
なぜ、彼女は毒を自ら飲み干したのか?
それは婚約者のフリッツ王太子からの婚約破棄が原因であった。
恋人の男爵令嬢を正妃にするためにアレクサンドラを罠に嵌めようとしたのだ。
その中の一人は、アレクサンドラの実弟もいた。
更に宰相の息子と近衛騎士団長の嫡男も、王太子と男爵令嬢の味方であった。
婚約者として王家の全てを知るアレクサンドラは、このまま婚約破棄が成立されればどうなるのかを知っていた。そして自分がどういう立場なのかも痛いほど理解していたのだ。
生死の境から生還したアレクサンドラが目を覚ました時には、全てが様変わりしていた。国の将来のため、必要な処置であった。
婚約破棄を宣言した王太子達のその後は、彼らが思い描いていたバラ色の人生ではなかった。
後悔、悲しみ、憎悪、果てしない負の連鎖の果てに、彼らが手にしたものとは。
「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルバ」にも投稿しています。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが
ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。
定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない
そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる