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【エイデン視点】本編43〜46 

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「では陛下、エリザベス様はアーガイット家にて幽閉ということでよろしいですか?」

「ああ、それでいい」

 処分内容が甘すぎると不満を口にしながらも、カイルは書類を仕上げていく。たしかに一国の王を刺しておいて、実家で幽閉というのは甘すぎると言われても仕方がない。

 が、俺自身に刺された記憶がないこと、そしてこの問題を秘密裏に処理したいということ、この二つの理由によりエリザベスには自宅での軟禁状態という処分をくだした。

 アーガイット家には、生涯に渡ってエリザベスを閉じ込めておくよう指示を出すつもりだ。もしそれが守れない場合には家を取り潰してやればいい。

 きっとあの男のことだ。きちんと命令に従うだろう。エリザベスの父である口煩い元大臣の顔を思い浮かべた。

「エリザベス様や今回の件に関わった者の処分は決まりましたが、レイナ様に護衛はつけますか?」

 手元の書類にサインしていた手がとまる。まぁ普通に考えたらつけた方がいいだろうな。今回エリザベスに協力した城内の者達はすでに全員の処罰が済んでいるが、今後もいつ裏切り者が現れるか分からない。用心するに越したことはない。

 だが誰をレイナの側に置くかと聞かれたら即答はできない。信用できる騎士はいくらでも思い浮かぶが、その誰がレイナの側にいても気に入らないのだ。

「……どこかに腕のたつ令嬢はいないものかな?」

「まぁ見つからないでしょうね。陛下が嫉妬する気持ちも分かりますが、できれば早めにお決めください」

「なっ!? 俺が嫉妬なんてするわけないだろ」

 カイルめ、何を言ってるんだ。これは嫉妬なんかじゃない。

「ただ騎士にレイナを守らせるのが気に入らないだけだ」

 カイルが小さくため息をついた。

「それを世間では嫉妬だと言うんです」

「まぁレイナを外に出さなければ、護衛なんかいらないだろ」

 そうだ。レイナを守るためには部屋に鍵をかけて閉じ込めておけばいいんだ。どこにも行かさず、誰にも会わさず、ただ俺のためだけに…… 俺の中に暗い闇が広がっていく。

「エイデン、エイデン!!」

 慌てた様子でバタバタとやって来たレオナルドによって、頭の中の闇が払われる。

「レオナルド何してたんだ? 遅いぞ」
「いやエイデン、それどころじゃないんですよ」

 レオナルドは持っていた白地の便箋を俺の前に差し出した。

「これ読んでみてください。説明するより早いですから」

 レオナルドから渡された手紙の字を目で追っていく。

「今確かめてきましたが、手紙の内容は本当のようです」
「くそっ!!」

 手紙はノースローザンヌの第3王子、アダムからのものだった。内容は至極シンプルで、レイナはしばらくノースローザンヌに滞在するというものだった。

 俺から受け取った手紙を読み終えたカイルが静かに口をひらく。

「困りましたね……レイナ様がノースローザンヌの王子に招かれたとなると、こちらからお迎えには行けませんし」

「だいたい何だってレイナは俺の許しも得ず勝手に城を出て行ったんだ?」

 怒鳴る俺にレオナルドとカイルの非難するような視線が向けられた。

「エイデンが婚約解消するなんて言ったからじゃないですか?」

「確かに俺は婚約解消すると言ったが、結婚しないとは言っていないぞ」

 俺がレイナに婚約解消すると言ったのは、俺の記憶にないプロポーズをなかった事にして、もう一度俺自身がレイナと婚約するためだ。それのどこがおかしいっていうんだ?

「だいたいエイデンは嫉妬しすぎなんですよ」

 机の上の書類をペラペラとめくりながら、レオナルドが呆れたように言った。

「自分でプレゼントした婚約指輪にまで妬かなくても……」

 どいつもこいつも人のことを嫉妬深いと思ってやがる。俺は妬いているわけではない。ただ全てが気に入らないだけだ。

 だいたいレイナが悪いんじゃないか。俺じゃない奴からもらった指輪なんかつけて、幸せそうに笑ってんじゃねーよ。

 レイナは俺を好きだと言ったが、レイナの好きなのは俺じゃない。俺じゃない俺なんだ。

 何だかややこしいが、俺は俺でも今の俺とレイナが言う俺はまるで別人だ。レイナが俺じゃない俺を想っている事が腹立たしくて仕方がない。

 レイナを俺のものにしたい。俺だけのものにしたくてたまらない。

「とにかくレイナを早く返してくれるようアダムに手紙を書いておきますよ」

 一応レオナルドにも任せるが、念のため俺もレイナに手紙を書いておくか。なんとしてもレイナの誕生日までに戻って来てもらわねば。誕生日に間に合うようにと急いで指輪を用意したのがパーじゃないか。まぁレイナも俺からの手紙を読めばすぐに帰ってくるだろう。

 と思っていたのだが……

「どういうことだ? 俺が早く帰れと言ってるのに何故レイナは帰って来ないんだ?」

 しかもなんだ。カイルには長々とした手紙を寄越したのに、どうして俺には何の連絡も寄越さない?

「この手紙にはノースローザンヌの王太子の結婚式が終われば帰ると書いてあるんですから、待つしかありませんね」

「お前らちゃんと手紙を読んだのか? その結婚式に、アダムの恋人として出席すると書いてあるんだぞ」

 フレイムジールの王である俺の婚約者に恋人のふりをさせるだって? アダムの奴いい度胸じゃないか。骨まで残らぬ程焼き尽くして後悔させてやる。

「陛下落ちついてください。レイナ様は陛下との婚約を解消したと思っていますし、おそらくアダム様も同じなのでしょう」

「でもアダムは女性人気が高いですからね。もしかしたらレイナも心変わりするかもしれませんよ」

 俺が本気でアダムを燃やしかねないと心配しているカイルの横で、レオナルドが俺の怒りに火をつける。

「そんなエイデンに、レイナが帰って来る魔法の言葉を教えてあげましょうか?」

「魔法? 何だそれは?」

 俺の問いには答えず、レオナルドがさらさらっと何やら書き記した。

「これを手紙に書けば、きっとレイナはすぐに帰って来ますよ」

 訝しみながらも、少しだけ期待してレオナルドが書き記したメモを読んだ。

「えーっと……あいし……書けるか、こんなこと!!」

 メモには、「愛しています。早く会いたい」と書かれていた。

「エイデンが素直な気持ちを伝えないから、レイナは逃げたんだと思いますよ」

「素直な気持ちって、俺は別にあいつの事をあ、ああ、愛してなんか……」

 愛なんて口に出すだけで恥ずかしくなり、思わずどもってしまう。

 そうさ俺は別にレイナを愛しているわけじゃない。そりゃ少しくらいの愛情はあるけれど、愛してなどいない。

 ただ他の男に渡したくないだけ。抱きしめて離したくないだけだ。

 ふふふっとレオナルドが笑った。

「その気持ちがレイナに伝わるといいですね」

 何の気持ちだよと反論しようと思ったが、きっと俺の考えていることはレオナルドにはどうやっても分かってしまうだろう。

「双子って厄介だな」
 はぁっとため息をつく俺を見てレオナルドが笑った。

「手のかかる弟がいて私は幸せですよ」

「たかが10分くらい早く産まれただけだろ。たいして変わらないんだから弟扱いするな!!」

「それでもエイデンは私の可愛い弟ですよ」
 嫌がる俺の顔を見て、レオナルドは再びおかしそうに笑った。
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