思い出しちゃダメ!? 溺愛してくる俺様王の事がどうしても思い出せません

紅花うさぎ

文字の大きさ
上 下
56 / 86

52.とろける

しおりを挟む
 困ったなぁ。これじゃあ、全く口を挟めないじゃない。

 目の前で繰り広げられるエイデンとカイルのバトルを見つめながら頰に手を当てた。

「カイル!! お前は何年俺の側についてるんだ。これくらい何とかうまく処理しろよ」

「そう言われましても……先に結婚の儀だけ済ますというのはいかがかと。ここはきちんと手順を踏んでいただかないと困ります」

 大声で怒鳴るエイデンに対して、カイルはいつもの通り冷静だ。

「きちんと手順を踏むと半年以上かかるじゃないか。そんなに待てるか!!」

 二人は今、エイデンと私の結婚式にむけてのスケジュールで揉めている。国王であるエイデンの結婚となると色々決まりがあるそうで、最短でも準備に半年はかかるらしい。エイデンはそれが気に入らず、先に結婚だけしてしまいたいと言っているのだ。

「それでも待っていただかなくてはいけません」

 叫ぶエイデンに、カイルはきっぱりと言い切った。
 
「ただでさえ新年の儀に婚約者であるレイナ様がいらっしゃらず、貴族の方々から不満の声が出ているのです。この状態で勝手に結婚の儀まで済ませてしまうと、貴族の方々も黙ってはいないでしょう」

「あの……私のせいで何か問題が起こってるの?」

 私の名前が出てきた以上、二人のやりとりを静観するわけにもいかず口を開いた。

「……新年の儀は王族の義務ですので、陛下の婚約者であるレイナ様も同席して然るべきと考える貴族も多数いるんですよ」

 新年の儀とは、年の初めに人々が国王を始めとする王族に謁見することだ。初日は貴族、2日目は一般の人々がエイデンに挨拶をするため城に集まると聞いている。

「もうエイデンったら。言ってくれれば喜んで同席したのに」

「今年はレオナルドとジョアンナもいたからな。お前が来る必要はなかった」

 エイデンのそっけない答えが少しだけ寂しい。

「陛下はレイナ様を皆に見せたくないんですよ」
 カイルの瞳がメガネの奥でキラリと輝いた。
「そうですよね、陛下?」

 カイルと私の視線がエイデンに集まった。うっと言葉に詰まりながら、エイデンがカイルに向かって叫ぶ。

「あー。もういいからさっさと出て行け」

「おやすみなさいませ」

 にっこりと笑いながら丁寧にお辞儀をしたカイルが部屋を出て行く。

「くそっ。カイルのやつ」

 ソファーにどさっと座り込んだエイデンの口から、はぁっと小さなため息が漏れた。年明けから新年の儀で多くの人の相手をしているのだから疲れていても当然だ。

「疲れてるでしょ? 今お茶いれるね」
 そう言って動き出そうとする私をエイデンが呼び止めた。

「お茶より……お前が欲しい」

 あっと思った時にはもうエイデンの上に倒れこんでいた。はだけてしまったスカートの裾を慌ててなおす。

 って、きゃー!! 私ってばエイデンに膝枕されてるじゃない。

「ご、ごめんなさい」

 慌てて体を起こすと、今度はエイデンに後ろから抱きしめられた。

「どうして逃げるんだ? 癒してくれるんじゃないのか?」

 もう、やだ……

 エイデンが私をからかってるって分かってるけど、悪戯っ子みたいに笑うエイデンの顔がかっこよすぎて頭がクラクラしちゃう。

 燃えるように熱くなった顔を背ける私を見て軽く笑ったエイデンが、後ろから私の髪の毛に優しくキスをした。ソファーに体を投げ出したエイデンを背もたれにする形で座らされたまま、エイデンの両腕に閉じ込められる。

「レイナは温かいな……」

 エイデンが私の頰に手を当て、首の向きを変えさせた。エイデンの唇が私の唇に重なり、ちゅっという軽快な音を立てる。

 エイデンも温かいよ……
 もたれかかったエイデンの広い胸から、力強い心臓の音を感じる。

「エイデンごめんね。来年の新年の儀までには、人前に出しても恥ずかしくないと思ってもらえるよう、私頑張るから」

「あー……さっきのカイルの話は気にしなくていいぞ。あいつは俺を困らせたくて、ああ言っただけだからな」

 どういうことかと尋ねる私に、エイデンは言いにくそうにしながらも渋々言葉を続けた。

「新年の儀はあれだ……挨拶に来た者と握手をだな……」

「エイデン?」

 エイデンがこんな風にボソボソと話すのは珍しい。しかも何が言いたいのかよく分からない話だし。

「あー、もう!! だから俺が嫌だったんだ。お前が誰彼構わず握手するのも、綺麗に着飾ったお前を皆に見せるのもな」

 振り返るとエイデンの顔がほんのりと赤くなっているように見えたのは気のせいかしら?

「だーっ、向こうむいてろ」

 エイデンは掌で顔を隠すようにして横を向いた。そんなエイデンが可愛らしくて、思わずクスっと笑ってしまう。

「何笑ってんだよ」

「だって何だか嬉しくって……」

 エイデンが私を恥ずかしいと思ってるんじゃなくてよかったぁ。それに私の事を独り占めしたいと思ってくれてるなんて嬉しい。

 エイデンの大きな手が指輪に触れるようにしながら私の左手を優しく包み込んだ。

「ねぇ、エイデン?」
「なんだ?」

 エイデンの視線が振り返った私の視線とぶつかった。

「私のこと好き?」

「ばっ!?」

 私の言葉が予想外だったのか、エイデンは狼狽えている。

「い、いきなり何言ってんだ」

「だって……聞きたいんだもん」

 エイデンが記憶をなくしてから私に好きだって言ってくれたのは、指輪をプレゼントしてくれたあの夜だけだ。言葉はなくてもエイデンの愛情はたっぷり感じてるし、不安になることもないんだけど、やっぱりたまには言葉だって欲しい。

 エイデンにもたれていた体を起こし、エイデンの隣に座りなおしてエイデンの方へ体をむけた。

「ねぇエイデン教えて? 私の事好き?」

 うーん。狼狽えているエイデンを見るのもなかなか楽しいじゃない。なぁんて余裕ぶっていると、急に引き寄せられ、エイデンの広い胸の上に倒れこんでしまった。

 ソファーの上で、まるで私がエイデンを押し倒したかのような体勢だ。慌てて逃げようとするけど、エイデンの腕に捕まって動けない。

 一気に形成逆転してしまい、今度は私が狼狽える番になってしまった。エイデンの身体の上でジタバタともがく私を見ながらエイデンが声を出して笑った。

「もう……エイデンの意地悪……」

 エイデンの上に乗っている恥ずかしさで涙目になる私を見て、もう一度エイデンが声をあげて笑った。

 うー、ムカつく!!
 反撃とばかりにエイデンの脇腹をくすぐると、エイデンが「うおっ」っと声を出し、焦ったように身をよじった。

 あはっ。なんか新鮮な反応。
 もう一度くすぐると、「やめろよ」っと言いながらエイデンが体をひっくり返した。その拍子に、今度は私がエイデンに押し倒されてしまった。

 こ、これは……

 身体を密着させたままエイデンに見おろされていると、体中の血が沸騰してるんじゃないかと思うほどに熱くなる。心臓は破裂しちゃいそうな程ドキドキしてるのに、もっと触れて欲しくてたまらない。

 エイデン……キスして……

 口に出すのは恥ずかしいので、少し唇を突き出すようにして目を閉じた。エイデンは何も言わず唇を重ねた。密着した身体から感じるエイデンの重みが心地よい。

「まずいな」

 唇を離したエイデンが体を起こし、私を横抱きにかかえあげる。

「エ、エイデン?」

 エイデンは私をベッドの上に優しく横たえ、まっすぐに私を見つめた。

「結婚の儀まで待つつもりだったが、もう我慢できそうもない」

 エイデンが私の手を握り指を絡ませた。

「嫌か?」

 エイデンの意図する事は分かってる。嫌なわけないじゃない。絡ませた指に力をいれ、エイデンの手を握り返す。

 ほっとしたような嬉しそうな顔でエイデンが微笑み、そっと私の唇にキスをした。

「レイナ、愛してるよ」

 エイデン、私も愛してるわ。

 その夜、私は体中にエイデンのキスを受けながら、今までにないとろけるほど甘い夜を過ごしたのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

優しい愛に包まれて~イケメンとの同居生活はドキドキの連続です~

けいこ
恋愛
人生に疲れ、自暴自棄になり、私はいろんなことから逃げていた。 してはいけないことをしてしまった自分を恥ながらも、この関係を断ち切れないままでいた。 そんな私に、ひょんなことから同居生活を始めた個性的なイケメン男子達が、それぞれに甘く優しく、大人の女の恋心をくすぐるような言葉をかけてくる… ピアノが得意で大企業の御曹司、山崎祥太君、24歳。 有名大学に通い医師を目指してる、神田文都君、23歳。 美大生で画家志望の、望月颯君、21歳。 真っ直ぐで素直なみんなとの関わりの中で、ひどく冷め切った心が、ゆっくり溶けていくのがわかった。 家族、同居の女子達ともいろいろあって、大きく揺れ動く気持ちに戸惑いを隠せない。 こんな私でもやり直せるの? 幸せを願っても…いいの? 動き出す私の未来には、いったい何が待ち受けているの?

婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪

naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。 「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」 まっ、いいかっ! 持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

愛することをやめたら、怒る必要もなくなりました。今さら私を愛する振りなんて、していただかなくても大丈夫です。

石河 翠
恋愛
貴族令嬢でありながら、家族に虐げられて育ったアイビー。彼女は社交界でも人気者の恋多き侯爵エリックに望まれて、彼の妻となった。 ひとなみに愛される生活を夢見たものの、彼が欲していたのは、夫に従順で、家の中を取り仕切る女主人のみ。先妻の子どもと仲良くできない彼女をエリックは疎み、なじる。 それでもエリックを愛し、結婚生活にしがみついていたアイビーだが、彼の子どもに言われたたった一言で心が折れてしまう。ところが、愛することを止めてしまえばその生活は以前よりも穏やかで心地いいものになっていて……。 愛することをやめた途端に愛を囁くようになったヒーローと、その愛をやんわりと拒むヒロインのお話。 この作品は他サイトにも投稿しております。 扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID 179331)をお借りしております。

ある王国の王室の物語

朝山みどり
恋愛
平和が続くある王国の一室で婚約者破棄を宣言された少女がいた。カップを持ったまま下を向いて無言の彼女を国王夫妻、侯爵夫妻、王太子、異母妹がじっと見つめた。 顔をあげた彼女はカップを皿に置くと、レモンパイに手を伸ばすと皿に取った。 それから 「承知しました」とだけ言った。 ゆっくりレモンパイを食べるとお茶のおかわりを注ぐように侍女に合図をした。 それからバウンドケーキに手を伸ばした。 カクヨムで公開したものに手を入れたものです。

子育てが落ち着いた20年目の結婚記念日……「離縁よ!離縁!」私は屋敷を飛び出しました。

さくしゃ
恋愛
アーリントン王国の片隅にあるバーンズ男爵領では、6人の子育てが落ち着いた領主夫人のエミリアと領主のヴァーンズは20回目の結婚記念日を迎えていた。 忙しい子育てと政務にすれ違いの生活を送っていた二人は、久しぶりに二人だけで食事をすることに。 「はぁ……盛り上がりすぎて7人目なんて言われたらどうしよう……いいえ!いっそのことあと5人くらい!」 気合いを入れるエミリアは侍女の案内でヴァーンズが待つ食堂へ。しかし、 「信じられない!離縁よ!離縁!」 深夜2時、エミリアは怒りを露わに屋敷を飛び出していった。自室に「実家へ帰らせていただきます!」という書き置きを残して。 結婚20年目にして離婚の危機……果たしてその結末は!?

傷物令嬢シャルロットは辺境伯様の人質となってスローライフ

悠木真帆
恋愛
侯爵令嬢シャルロット・ラドフォルンは幼いとき王子を庇って右上半身に大やけどを負う。 残ったやけどの痕はシャルロットに暗い影を落とす。 そんなシャルロットにも他国の貴族との婚約が決まり幸せとなるはずだった。 だがーー 月あかりに照らされた婚約者との初めての夜。 やけどの痕を目にした婚約者は顔色を変えて、そのままベッドの上でシャルロットに婚約破棄を申し渡した。 それ以来、屋敷に閉じこもる生活を送っていたシャルロットに父から敵国の人質となることを命じられる。

母と妹が出来て婚約者が義理の家族になった伯爵令嬢は・・

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
全てを失った伯爵令嬢の再生と逆転劇の物語 母を早くに亡くした19歳の美しく、心優しい伯爵令嬢スカーレットには2歳年上の婚約者がいた。2人は間もなく結婚するはずだったが、ある日突然単身赴任中だった父から再婚の知らせが届いた。やがて屋敷にやって来たのは義理の母と2歳年下の義理の妹。肝心の父は旅の途中で不慮の死を遂げていた。そして始まるスカーレットの受難の日々。持っているものを全て奪われ、ついには婚約者と屋敷まで奪われ、住む場所を失ったスカーレットの行く末は・・・? ※ カクヨム、小説家になろうにも投稿しています

とまどいの花嫁は、夫から逃げられない

椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ 初夜、夫は愛人の家へと行った。 戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。 「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」 と言い置いて。 やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に 彼女は強い違和感を感じる。 夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り 突然彼女を溺愛し始めたからだ ______________________ ✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定) ✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです ✴︎なろうさんにも投稿しています 私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ

処理中です...