思い出しちゃダメ!? 溺愛してくる俺様王の事がどうしても思い出せません

紅花うさぎ

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32.自覚

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「レイナ様、この数日間本当によく頑張りました。期待以上の出来でしたよ」

 珍しい。カイルから褒められるなんて、明日嵐でもくるんじゃないかしら。

 アストラスタでの私の振る舞いの中で、一番褒められたのはクリスティーナの言葉を上手くかわした事だ。あの聞こえなかったフリをこんなにも褒められるなんて思ってもみなかった。

 もしあの場で私が泣いたり怒鳴ったりしていたら晩餐会の雰囲気が悪くなり、主催者であるアストラスタの女王陛下が困っていただろう。

 今回事を穏便にすました事で、各国要人の中での私の株はあがったはずだとカイルは非常に喜んでいる。

 カイルに褒められた事は嬉しいけど、今は喜びに浸ってる余裕なんてない。とにかく疲れたぁ。もう眠くて眠くてたまらない。目を瞑るとすぐにでも眠ってしまいそうだ。

「お疲れでしょうから、今日はもうおやすみください。明日はまたフレイムジールに向けて出発しますので……」

 部屋を出て行ったカイルと入れ替わるようにして、軽いノックでドアが開いた。

「エイデンどうしたの? 」

 晩餐会が終わった後、男性陣は別室に移動して飲んでるって聞いたんだけど……

「あー、面倒だからな。抜けてきた」

 私が寝ているベッドにエイデンが腰掛けると、エイデンの重みでベッドが軽く弾んだ。

「レイナ、少し話がある」

「……ごめん。私は今日とっても疲れちゃったの。話ならまた明日にしてもらえない?」

 ベッドにうつ伏せに倒れたまま小さなあくびをした。

「少しだけだ。疲れているなら横になったままでも構わない」

 ふぅ……
 そう言われても、横になったままだとすぐに寝ちゃいそうなのよね。

 小さくため息をついて、ベッドの上に体を起こした。いつのまにか、ビビアンは部屋から出ていったようだ。静かな部屋の中でエイデンがゆっくりと口を開いた。

「クリスティーナのことなんだが……」

 やっぱりその話なのね。多分そうだろうなっとは思ってたけど。

「クリスティーナが言っていた事なんだが……その……俺とクリスティーナは婚約していたことがあったんだ」

「みたいね」

「やはり知っていたのか?」

 晩餐会でのクリスティーナの発言に全く驚いていなかった私を見て、エイデンは薄々そうじゃないかと思っていたらしい。

「いつから知っていたんだ?」

「昨日のお昼よ。ジャスミン様が教えてくれたわ」

 エイデンの問いかけに、昨日初めてクリスティーナと会った時の話をした。

「エイデンとクリスティーナ様は愛しあってたんでしょ? それなのに、国のためだからって私なんかと婚約して嫌じゃなかった?」

 あー私ってば本当に嫌な女。こんな言い方したら全く可愛くない上に、エイデンだって嫌な思いするって分かってるのに。

「私をサンドピークに連れて行きたくなかったのって、クリスティーナ様がいたからでしょ? 今回は私がついて来ちゃったせいで、あんまりクリスティーナ様とお喋りできなかったわよね」

 もう黙った方がいいって分かってるのに、口が勝手に嫌な言葉を吐いてしまう。晩餐会でワインを飲み過ぎたせいなんだろうか? うまく感情を抑えることができない。

 目頭が熱くなり、涙がツーと頬を伝った。

「……っ!!」

 ベッドに腰掛けたまま、エイデンが私を強く抱きしめた。

「悪かった。俺が悪かったからもう泣かないでくれ。確かにレイナをサンドピークに連れて行きたくなかったのは、クリスティーナがいるからだ。でもそれはお前に嫌な思いをさせたくなかっただけで、別に深い意味があったわけじゃない」

 エイデンは私を抱く腕を緩めると、私の両手を握りしめ真剣な眼差しで私を見つめた。

「クリスティーナとは先代から言われて婚約しただけだ。別に特別な感情なんて持ってない。俺はお前に出会ってからずっと、お前だけを愛してる。だからクリスティーナとの婚約は破棄したんだ」

 エイデンの手が優しく私の涙を拭う。

「俺が愛してるのは昔も今もレイナだけだ。レイナさえいればそれでいい。くだらない作り話なんか信じるな」

「じゃあ何で昨日クリスティーナ様に会った時に、元婚約者だって教えてくれなかったの? 私にバレなきゃラッキーだと思ってたんでしょ」

 涙と共に嫌な感情がどんどん溢れて止まらない。

「そうだな。レイナに知られたくないと思っていたよ」

 エイデンが再び私を引き寄せ抱きしめた。

「レイナが知ったらショックを受けるんじゃないかと思ってたからな……」

「エイデンの馬鹿!! 隠されてる方が傷つくわよ」

「ごめんな」

 エイデンが優しく私の髪を撫でながら、「本当にすまなかった」と呟くように言った。

 途端に堤防が決壊したかのように、涙がぶわぁっと溢れ出した。エイデンにしがみつき、大きな胸に頬を押し付ける。

「不安にさせて悪かった」
 エイデンが私の頭を撫でながら目頭に優しくキスをした。

 そうよ。不安だったわよ。いくらエイデンの愛情は本物だって自信はあっても、私にはエイデンとの記憶がほとんどないんだもん。どうやって出会ったのか、どうして婚約することになったのかもさっぱり分からないんだもん。

 だからいつかエイデンが私の事なんて好きじゃなくなるんじゃないかって、どうしても不安に思っちゃうのよ。

 エイデンにはずっと私の事を好きでいてほしい!!
 ……あぁ……私……エイデンの事好きなんだ……

「ねぇ、エイデン? 私の事、これからもずっと好きでいてくれる?」

 きっとエイデンはもちろんだと答えるだろう。答えは分かっているのに、どうしても聞きたくてたまらない。

「もちろんだ。これから先何があっても、俺はレイナだけを一生愛している」

「約束だよ?」

「ああ。約束だ」

 頭を撫でるエイデンの大きな手が心地よい。一日の疲れと軽い酔いで、だんだんと瞼が重くなる。

 悲しい気分も幸せな気分も、全てが睡魔に流されていく。泣いてるのか笑ってるのかも分からないような状態のまま、私はエイデンの腕の中で眠りに落ちていった。
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