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待っている時間
しおりを挟む夕食の約束をして、別れたあと、スティファニアは自室にてダンテを待っていた。何をしようにも何も手につかない。最初こそダンテはどのぐらいしたら来るだろうか。食堂に行こうと手を差し出してくれるんだろうかなどと考えていたことで、待つ時間にさえ、楽しみと喜びを感じていた。だが、時間が経つにつれて、庭先の畑で会ったリオネルの事が浮かぶ。リオネルが気になりだしたなんてものではない。あれが自分の夫になる予定の男だというのか。出迎えもなく、挨拶さえ交わしていない。その上、先ほどの柔和な態度は何だったと言うのか。メイドかなにかと思ったのかもしれない。畑に行くだろうからと、ドレスではなくワンピースを選んだのも影響したのだろう。貴族の娘は気に入らなくても、平民のメイドになら心を開くと言うのか。肩書きだけで見られている気がして、何となく面白くない。だが、どうこうしようなどと思うこともない。
「あんな人が夫になるなんて・・・」
心はもちろんダンテ一択である。だが、それを許されるような縁談の話ではない。国王直々の縁談であり、あろうことか、侯爵家は、妹に来た縁談の話を勝手に相手を変えて辺境へと姉であるスティファニアを送った。そんな家の娘など、男爵にとっては、毛嫌いする理由にもなるのだろうと思った。考えれば考えるほど思考は暗い方へと引きずられていく。
「ダメね・・・」
そうポツリとつぶやいた時だった。
コンコンコン
「ティファ、俺だ」
ノックと共にかけられた声に、スティファニアの思考の霧が一気に晴れる。
「ダン様!」
スティファニアは座っていた寝台から立ち上がり、急いで扉に手をかける。ドアノブに手をかけたはずだった。勝手に開いていくドアに、思わずよろけてしまう。前のめりに倒れそうになり、目をつぶったが、衝撃は来ない。
ポスッ
何かにぶつかったが、床の素材ではなかった。
「ぬぉっ!?・・・だ、大丈夫か?ティファ・・・」
スティファニアはおそるおそる顔をあげると、目の前には上から心配そうに見つめるダンテの顔。そう、勢いよくドアを開けてしまったダンテに、ドアノブをとり損ねたスティファニアが飛び込んだ形になったのだ。
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