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大急ぎの準備
しおりを挟むダンテの急な頼みではあったが、深夜とは言わない時間、屋敷の使用人建達が一斉に動き出す。元々使われずじまいの部屋ではあったが掃除は定期的に行なっていた。メイド長の指示でメイド達は、最終のチェックも兼ねて、徹底的に掃除を行い、カーテン、リネンなどを準備。騎士達や料理人といった男達は、ダンテの指揮の下、部屋に置く寝台や鏡台、チェストやテーブルなど、よさげなものを見繕い運び込む。そしてレスタはというと、どうにも釈然としない顔で、ただ成り行きを呆然と眺めていた。
「先代辺境伯夫妻が旦那様に爵位をお譲りになられてから、始めてあの部屋が主を迎え入れるのですな・・・」
レスタの隣には、恰幅のいい、少しだけ腰の曲がった老人がいた。老人は庭師であり、名はロンド。ダンテが畑の守り神なら、ロンドは庭の守り神だろう。レスタは声の方を振り向きもせず、えぇとだけ返事をする。
「旦那様は随分と楽しそうだ。遠目に様子は伺っておりましたが、随分と可愛らしいお嬢さんでしたからな。旦那様もさぞや嬉しいのでしょうな」
「はい、随分と浮かれておりますよ・・・」
「レスタさん、もとよりあのお嬢さんはリオネルに嫁ぐためにこちらへ来られた」
レスタはロンドが何を言おうとしているのか、察しはつくが言葉にはしない。一瞬の間があき、ロンドが話を続ける。
「旦那様の奥方になるには少し年が離れておるが・・・不可能ではない」
レスタの眉間にシワが寄る。その様子を見て、やはりなとロンドは納得する。
「無論、リオネルが相手だとしても問題はない。そう、レスタさん相手でもな」
「は?」
ロンドは一体何を言い出したんだと振り向く。
「レスタさんも彼女が気になっておいででしょう?」
「いや、おれっ、私は・・・」
ロンドの一言に、一瞬素が出そうになって慌てたレスタ。スティファニアが欲しいと思ったのは事実。スティファニアを放って置くリオネルに腹が立つのも事実。そして、あんな風に甘えて貰えるのが羨ましいと思ってしまうのも事実。レスタは心を見透かされたようで、居たたまれない気持ちになっていた。
「そうですな・・・私らは部屋に飾る花でも見繕いますかな。庭にって見繕ってくれますかな?」
ロンドの気遣いか、はたまた面白がっているのか。レスタは何も言わずロンドの後をついていった。
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