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第二王子アークトゥルス
第二王子は愛しい妻とかくれんぼ
しおりを挟む「・・・んっ・・・?」
「あっ・・・起きたね。おはよう、ラビィ」
「おはよう・・・ございます・・・アーク・・・様・・・?・・・!?ア、アーク様!?」
「どうしたんだい、ラビィ?」
「えっと、あの・・・どうして・・・」
朝目が覚めると、ラビリアの目の前には蕩けるような甘い笑顔を向けるアークトゥルスがいた。ラビリアを大事そうに抱きしめ、嬉しそうに微笑むアークトゥルス。
「うん・・・ごめんね?昨晩、別々に寝たけど、やっぱり不安になっちゃって・・・ラビィは眠ってたけど、一緒に寝たくて・・・その・・・勝手に部屋に連れてきてしまった・・・」
昨日、あの後、ラビリアは王宮に泊まる事になった。ラビリアをクレマン家に帰す事を考えただけで泣いてしまうアークトゥルスに、少しでも一緒にいましょうとラビリアが提案した。寝る直前まで、アークトゥルスの部屋で、抱きしめられたまま他愛もない話をしたが、ラビリアは客間に戻って寝たはずだった。今、なぜかアークトゥルスの部屋の寝台にいる。
「アーク様・・・」
「・・・ごめん・・・」
「びっくりしました。でも、目が覚めて一番にアーク様におはようを言ってもらえるなんて、幸せでしたわ」
「ラビィ・・・許してくれるの?・・・毎日一緒に寝たいな・・・ラビィの瞳に朝一番に映るのは僕がいい。ラビィの寝顔を見れるのは僕だけで、寝言を聞けるのも僕だけだ」
「寝言?」
「あぁ、可愛かったよ」
「な、何を言ってたんでしょうか・・・」
「ん?僕の名前を呼んでた。嬉しかった。夢でも一緒なのかなぁって」
「恥ずかしいです・・・」
「恥ずかしくないよ。僕は嬉しい・・・ラビィ、大好きだ」
アークトゥルスはラビリアの首にすり寄り、耳元でずっと囁く。
「ラビィ、愛してるよ・・・大好き・・・ラビィ、可愛い・・・ラビィ、大好き・・・」
「もう、アーク様、そんなところでボソボソ話さないでくださいます?」
「まだ足りないよ。何度言っても言い足りないんだ・・・ラビィ、愛してる」
「おはようのキスがまだですよ?」
「ラビィ!」
アークトゥルスはガバッと身体を起こすと、ラビリアを見下ろす体勢になり、優しくキスを落とす。
「・・・んっ」
「ラビィからそんな事言われるなんて思わなかったな・・・」
「ふふっ」
「そうだ・・・ラビィ、君に渡したいものがあるんだ」
「渡したいもの?何でしょう?」
「後でのお楽しみだ」
「わかりましたわ」
「さぁ、朝食にしよう!」
朝食をとると、アークトゥルスの案内である部屋へと案内された。
「アーク様、これ・・・」
「・・・どうかな?」
「素敵です!もしかして・・・」
アークトゥルスは、後ろからラビリアを抱きしめる。
「そう、今日の卒業パーティ用に準備していたんだ。これを着て欲しい。僕のものだって、皆に見せつけたいんだ」
二人の目の前にはトルソーにかけられた、青いドレスがあった。アークトゥルスの瞳のサファイアのような青に、髪と同じ色の金で刺繍やレースなどを施されたドレスだった。
「嬉しいです、アーク様。なんだか、アーク様に包まれるみたいな感じがいたしますわ」
「さぁ、準備に入ろう。きっと、僕のラビィが誰よりも綺麗で美しいはずだ」
そして、学園の卒業パーティの会場では、エスコートしたアークトゥルスが、ラビリアから一時も離れる事はなく、近付く令息達を牽制して、ダンスの誘いの手は全て払い除けた。まるで威嚇する猫みたいだったと噂になった。兄は犬、弟は猫である。
それから、結婚式まで、ラビリアは王宮で過ごすも、二人は一度も身体を重ねる事はなかった。
結婚式が行われ、夫婦となって初めての夜。寝台には、約束の薔薇が6本。その夜は、まるで壊れ物に触れるかのように、優しい時間が流れた。
「ラビィに夢中だ」
「ふふっ、私もですわ」
アークトゥルスは、ラビリアの身体を気遣い、閨も毎日は行わない。その代わりに、四六時中抱きつき魔と化している。眠る時に抱きしめるのは常で、日中もどこに行くにも離してはくれなくなった。
「アーク様、少し離れていただけません?」
「嫌だ」
「何もできませんわ」
「ラビィは、僕の腕の中にいる事が仕事だから、何もしなくていいんだよ」
なんとも的外れな答えが返ってくる。このやり取りが永遠と続き、手放さない限り離れないというラビリアの言葉を、物理的に行うアークトゥルスは、ちょっと・・・いや、大変に面倒な男になったかもしれない。
アークトゥルスは公爵位を賜り、王宮を出て、王都の街でラビリアと暮らす。
何年経ってもラビリアへの執着は変わらない。ラビリアの姿が見えないと、屋敷中を探し回るアークトゥルス。
「ラビィ、どこに行ったんだ!?隠れてないで出てきてよー!」
「また父上と母上がかくれんぼしてるよ?」
「今日はすぐ見つかるかな?」
子ども達に言われながら、公爵家の賑やかな日常がそこにあった。
アークトゥルス×ラビリア(完)
ーーーーーーーーーーーーーーー
これにて第二王子の恋のお話は終了です。バージルとミーティアの三人の子どもの恋愛模様はいかがでしたでしょうか?
筆者的には、穏やかで優しい、しかし腹黒い部分を持つ王子が、格好良く婚約者を守っていたのに、弱々しくなり依存気質になってしまうという変化が好きで、それをアークトゥルスで表現しました。
将来的にはレグルスが王太子となり、のちの国王となるのですが、王女のスピカのほうが王の素質があるようなキャラクターになったので、そちらもありかなと思ってはいました。しかし、スピカの旦那様になったエリオットが。最年少で近衛騎士の騎士団長になったため、女王にすると、女王の王配が騎士団長になってしまうため、レグルスの立ち位置が難しくなってしまい、国王はレグルスになるという想定です。
レグルスは本音ダダ漏れ、行動が抑えられない残念王子ですが、王としての素質はしっかりあります。
第二王子のアークトゥルスは、10年以上ラビリアを見守って、節度ある付き合いをし、唯一順調に愛を育ててきたカップルでしたが、まさかの婚前交渉に至ってしまうという結末となりました。しかし、アークトゥルスに守られ続けてきたラビリアが、成長と共に聡明さと行動力を発揮し、咄嗟の判断で年上の彼を守ります。
後にスピカも公爵位を賜りますが、こちらは王宮に留まります。国王となったレグルスとともに、国をさらに発展させます。
またいつしか、この三組のカップルの子どもたちの恋愛模様など、発展させていければと思います。
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