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パン屋の息子
しおりを挟む宿泊に必要な荷物を運び終えると、ローゼリアとメイドのララは街へと繰り出した。本来ならばここにヘーゼルがいたはずなのだが、一時領地へと戻るヘーゼルに、侯爵が引き継ぎやら、領地で行う課題やらの話をしているうちに長引いてしまった。なので、侯爵がおかかえの騎士を警護に数名つけて送り出した。出立のギリギリまで、ヘーゼルが駄々をこねていたのは言うまでもない。
「お嬢様、何食べますか!?」
「ふふっ、ララったら子どもみたいにはしゃぐのね」
「仕方ないじゃないですか!メイドが街に行くならおつかいって決まっているんです。中々ゆっくり街をまわるなんてできないんですからぁ」
「確かにそうね。じゃあ、ララの食べたいものを選んでいいわよ」
「いいんですか!?じゃあ、お肉!お肉がいいです!」
「はいはい」
苦笑いしながらローゼリアはララのあとを着いていく。あちこちをキョロキョロしながら歩くララの後を、ローゼリアが着いていき、その二人を少し離れたところから騎士達が着いていく。
「いろんなお店がありますね」
「えぇ、たくさんあってララは迷ってるんでしょう?」
「バレました?」
「じゃあ、あの店なんかがおすすめだよ?」
「そうなの?・・・えっ?」
気付けばローゼリアの隣には、赤毛のすらっとした美青年が経っていた。近寄られたことも気づかなかった。
「あの・・・どちらさまでしょう」
「あぁ、突然声をかけて驚かせてしまったね。僕はイアン。この街に住んでる。両親はパン屋を営んでるよ」
イアンと名乗った青年が視線を移すと、パン屋の夫妻がにこっと笑顔を返す。怪しい人物ではなさそうだと、ローゼリアは警戒を解いた。そこに、ララが戻ってきた。
「す、すみません!お声をかけられてるのに気づかず、先に行ってました」
「かまわないわ」
「あの・・・この方は?」
「イアンさんっておっしゃるらしいわ。あちらのパン屋さんの息子さんらしいの」
「そうなのですか」
ララは、どこか訝し気な視線をイアンに向ける。
「なんだか警戒されちゃってるみたいだな。僕はしがないパン屋の息子ってだけなんだけどな」
イアンは、苦笑いしながら頭をかいていた。
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