上 下
62 / 66

パン屋の息子

しおりを挟む


宿泊に必要な荷物を運び終えると、ローゼリアとメイドのララは街へと繰り出した。本来ならばここにヘーゼルがいたはずなのだが、一時領地へと戻るヘーゼルに、侯爵が引き継ぎやら、領地で行う課題やらの話をしているうちに長引いてしまった。なので、侯爵がおかかえの騎士を警護に数名つけて送り出した。出立のギリギリまで、ヘーゼルが駄々をこねていたのは言うまでもない。


「お嬢様、何食べますか!?」

「ふふっ、ララったら子どもみたいにはしゃぐのね」

「仕方ないじゃないですか!メイドが街に行くならおつかいって決まっているんです。中々ゆっくり街をまわるなんてできないんですからぁ」

「確かにそうね。じゃあ、ララの食べたいものを選んでいいわよ」

「いいんですか!?じゃあ、お肉!お肉がいいです!」

「はいはい」


苦笑いしながらローゼリアはララのあとを着いていく。あちこちをキョロキョロしながら歩くララの後を、ローゼリアが着いていき、その二人を少し離れたところから騎士達が着いていく。


「いろんなお店がありますね」

「えぇ、たくさんあってララは迷ってるんでしょう?」

「バレました?」

「じゃあ、あの店なんかがおすすめだよ?」

「そうなの?・・・えっ?」


気付けばローゼリアの隣には、赤毛のすらっとした美青年が経っていた。近寄られたことも気づかなかった。


「あの・・・どちらさまでしょう」

「あぁ、突然声をかけて驚かせてしまったね。僕はイアン。この街に住んでる。両親はパン屋を営んでるよ」


イアンと名乗った青年が視線を移すと、パン屋の夫妻がにこっと笑顔を返す。怪しい人物ではなさそうだと、ローゼリアは警戒を解いた。そこに、ララが戻ってきた。


「す、すみません!お声をかけられてるのに気づかず、先に行ってました」

「かまわないわ」

「あの・・・この方は?」

「イアンさんっておっしゃるらしいわ。あちらのパン屋さんの息子さんらしいの」

「そうなのですか」


ララは、どこか訝し気な視線をイアンに向ける。


「なんだか警戒されちゃってるみたいだな。僕はしがないパン屋の息子ってだけなんだけどな」


イアンは、苦笑いしながら頭をかいていた。





しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

王女、騎士と結婚させられイかされまくる

ぺこ
恋愛
髪の色と出自から差別されてきた騎士さまにベタ惚れされて愛されまくる王女のお話。 性描写激しめですが、甘々の溺愛です。 ※原文(♡乱舞淫語まみれバージョン)はpixivの方で見られます。

【本編完結】若き公爵の子を授かった夫人は、愛する夫のために逃げ出した。 一方公爵様は、妻死亡説が流れようとも諦めません!

はづも
恋愛
本編完結済み。番外編がたまに投稿されたりされなかったりします。 伯爵家に生まれたカレン・アーネストは、20歳のとき、幼馴染でもある若き公爵、ジョンズワート・デュライトの妻となった。 しかし、ジョンズワートはカレンを愛しているわけではない。 当時12歳だったカレンの額に傷を負わせた彼は、その責任を取るためにカレンと結婚したのである。 ……本当に好きな人を、諦めてまで。 幼い頃からずっと好きだった彼のために、早く身を引かなければ。 そう思っていたのに、初夜の一度でカレンは懐妊。 このままでは、ジョンズワートが一生自分に縛られてしまう。 夫を想うが故に、カレンは妊娠したことを隠して姿を消した。 愛する人を縛りたくないヒロインと、死亡説が流れても好きな人を諦めることができないヒーローの、両片想い・幼馴染・すれ違い・ハッピーエンドなお話です。

獣人の里の仕置き小屋

真木
恋愛
ある狼獣人の里には、仕置き小屋というところがある。 獣人は愛情深く、その執着ゆえに伴侶が逃げ出すとき、獣人の夫が伴侶に仕置きをするところだ。 今夜もまた一人、里から出ようとして仕置き小屋に連れられてきた少女がいた。 仕置き小屋にあるものを見て、彼女は……。

純潔の寵姫と傀儡の騎士

四葉 翠花
恋愛
侯爵家の養女であるステファニアは、国王の寵愛を一身に受ける第一寵姫でありながら、未だ男を知らない乙女のままだった。 世継ぎの王子を授かれば正妃になれると、他の寵姫たちや養家の思惑が絡み合う中、不能の国王にかわってステファニアの寝台に送り込まれたのは、かつて想いを寄せた初恋の相手だった。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

一年で死ぬなら

朝山みどり
恋愛
一族のお食事会の主な話題はクレアをばかにする事と同じ年のいとこを褒めることだった。 理不尽と思いながらもクレアはじっと下を向いていた。 そんなある日、体の不調が続いたクレアは医者に行った。 そこでクレアは心臓が弱っていて、余命一年とわかった。 一年、我慢しても一年。好きにしても一年。吹っ切れたクレアは・・・・・

処理中です...