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はしゃぐメイドと視線
しおりを挟むローゼリアの乗った馬車がゆっくりと道を進んでいく。窓から見える景色をただただぼぅっと眺めていた。景色は少しづつ都会の喧騒から離れ、のどかなものへと移っていく。侯爵領の地へは馬車で一日の距離。急ぐ旅路ではないため、途中の街で一泊の宿をとる予定だ。
「お嬢様と侯爵領に一緒に行くのはどのぐらいぶりでしょうね」
馬車の向かいの席から明るく声をかけてくるのは、侯爵家のメイドのララだ。ミルクティのような色の髪に赤みがかったピンクの瞳の可愛らしい容姿だ。
「そうね、去年はララが帰省していた時だったから、二年ぶりかしらね」
「そうですね。領地の街、私は好きです。お嬢様がよければ、またご一緒にまわりたいです」
「そうね。折角だし、楽しみましょうね」
「やったぁぁ!!」
メイドのララはローゼリアよりも二つ上の二十歳であるのだが、言動がたまに幼いことがある。容姿もあいまって、随分と可愛らしくみえるものだ。妹でもかまっているような気分になるローゼリアは、このメイドのララとのやり取りはほっこりする。はしゃぐララを横目に、また窓の外へと視線を移す。少しの間の事なのに、いろんなことがありすぎて、随分と時間が経ったようなきがする。目まぐるしくかわった環境と人との関わり。逃げるように領地に向かうことを決めたのは正解だったのか。答えの出ない悶々とした気持ちを抱えていた。
「お嬢様、宿泊予定の宿に着いたようですわ」
物思いにふけっていたローゼリアは、ララの声掛けで、馬車が止まったことに気付いた。
「おなかすいたわね。まずは食事にしましょうか」
「わーい!街に出ますか?」
「そうね、必要な荷物だけ運びこんでもらって、街に出ましょう」
まるで姉妹のようなやり取りに、ローゼリアも頬が緩む。街でも値の張る宿に着けられた馬車。降りてきた令嬢の身なり、お付きのメイド。どこにでもあるような光景のはずだったが、建物の陰から二人を見る視線があった。
「へぇ・・・ここの宿に泊まるんだ・・・」
その視線の主は、姿も現さず、ただただ二人を眺めていた。
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