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領地への旅立ち
しおりを挟む「行ってしまうのね・・・」
「お母様、そんなにしんみりなさらないでくださいませ。まるで今生の別れのようですわ」
マリアンヌに領地へと移ることを話に行ったその日、ローゼリアは出立準備を終え、玄関で侯爵夫妻に見送りを受けていた。
「そうだぞ?夏には私どもも領地へと行くではないか。これもローゼリアが決めたことだ。ローゼリアのためにも、笑顔で送り出さないといけないだろう」
侯爵は涙を浮かべる夫人の背中をさすりながらあやすように言い聞かせる。
「そうですわね・・・ローゼリア。身体には気を付けるのよ?」
「はい、お母様」
そしてローゼリアは領地へと旅立って行った。
あれだけローゼリアの事を、お姉様、お姉様とはしゃいでいた妹がやけに静かだ。リチャードは、何かあったのだろうかと問いかけた。
「マリアンヌ。今日はやけに静かだが・・・何かあったのか?」
「別に何もございませんわ」
「そうか・・・ローゼリア嬢とは最近は会っていないようだが?」
「・・・別にいいではありませんか」
「・・・まぁ、気にすることではないのだろうが。お前が静かだと調子が狂う」
「そんなの知りませんわ。これからはこれが普通です。慣れていただければよろしいかと思いますわ」
「本当にどうしたんだ・・・」
リチャードは、マリアンヌのどこか冷めた態度に違和感を覚える。
「どうもこうも・・・お姉様には頻繁には会えなくなりますもの。いつまでもめそめそしていては話になりませんの」
「会えない・・・?まさか・・・」
「ローゼリアお姉様は領地へと旅立たれましたわ」
マリアンヌの言葉が正面から衝撃を与えたが、自身の身体にとどまることもなく、通り抜けていくような感覚を覚えた。まるで、何かを失ったような、つかみ損ねたような、いわば突風を浴びても、散霧してその場には何も残らない時のように。妹の言葉に呆然と立ち尽くしていたリチャードは気づけば私室に戻ってきていた。どうやってここまで戻ってきたのかわからない程、思考が止まってしまっていたらしい。誰かに支えられてきたわけでも運ばれてきたわけでもなさそうである。己の足で歩いてきたのだろうが、記憶がない。それだけマリアンヌの口から発せられた一言が、リチャードに打撃を与えたのだ。いずれかは領地へ行くとは思っていた。しかしこんなにも早く、そして何からか逃げるとでも言わんばかりに王都を出るとは思ってはいなかった。まだ望みはある、時間をかけてこちらを振り向かせて、自分の手で彼女を幸せにしたい。その為にはと策を練っていたのだが、ローゼリアに先手を打たれてしまった形になってしまったのだ。リチャードは、ソファに力なく、どさっと身を投げだしたように座った。天井を仰ぎ見ていた。夕食の準備ができたと使用人が呼びに来た時には、外はもう陽はすっかり落ち暗闇に包まれていた。
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