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父と娘

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コンコンコン


「どうぞ」

「失礼します」

「あぁ、ローゼリアか」

「お父様、お時間いいですか?」

「これだけ済ませるからそこにかけて待っててくれ」


執務室を訪れたローゼリアにソファにかけて待っておくように促した侯爵。すぐに終わらせ向かいに腰を下ろす。


「どうしたんだ?」

「お父様にお話がありまして」

「うむ、何だね?」

「私・・・領地の屋敷に行こうと思います」

「決めたんだな」

「はい」


静かに頷くローゼリアに、侯爵はもしやと思ったが、その考えも散霧する。甥のヘーゼルがもしや口説きおとしたのかと思ったが、この様子はどうやらそうではないらしい。ローゼリアは、失意を抱き、深く傷ついた。そして、もう何もかも無駄になったし、何もかもが嫌になってしまった。そんな心の内がしっかりと伝わってくるようだった。


「そうか・・・本当にいいんだな?」

「はい」

「うむ・・・領地までの道のり、護衛も兼ねてヘーゼルをつけるとしよう」

「お気遣いはいりません。ヘーゼルお兄様はお勉強もあるのでしょう?お手を煩わせるわけにはいきませんわ」


この一言と態度でわかる。ローゼリアはヘーゼルを必要としていないし、これっぽっちも恋慕の気持ちなど持ち合わせていないこと。


「まぁ、そう言うな。ヘーゼルも日頃頑張っているからな。たまの休暇だと思えばいい。この際だ、ワガママ放題、ヘーゼルを困らせてやれ」


侯爵なりに気にすることはないという気遣いでもあり、ヘーゼルに対しては最後のチャンスといえよう。もしもローゼリアが、ヘーゼルを困らせて子どもが親の愛を確かめるように、試し行動をなどを起こすようになれば・・・もしかするかもしれないと少しだけ賭けてみたくもなったのだ。


「私は子どもではありませんのよ?わざわざ困らせるようなことなど致しません」


少しだけ口を尖らせた娘に、すまない、すまないとなだめながらも、侯爵は笑顔だった。親である自分にでさえ礼儀を欠かさなかった愛娘。妃教育を受けるようになってからは、淑女らしさを増していった。甘えてくることなどはなく、泣き言さえも言わなかったほどに。


「ローゼリア」

「はい」

「ここはお前の家だ。ヘーゼルが継いだって、お前の家であることにかわりはない。いつでも帰ってくるといい。部屋もそのままにしておく」

「・・・はい」


少しだけ目を見開くローゼリア。そして視界が歪んで見える。だが涙は流れなかった。必死に堪え、そして、ローゼリアは・・・笑って見せた。






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