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ついて回るヘーゼル
しおりを挟むそれからと言うもの、ヘーゼルはローゼリアを構い倒していった。ローゼリアが部屋から出てくればどこに行くにも付き添い、庭に散歩に出れば日傘を持って共に散歩をする。食事やお茶の時間には、隣の席を陣取って、あわよくばあーんを狙っている。とにかく事あるごとにローゼリアにベッタリと付いて回る。まるで飼い主の後を追う犬のようにも見える。国王レイドルートが自信のない子犬なら、ヘーゼルは遊んでくれるかもしれないと期待を寄せて快活に付きまとう犬であろう。
「ヘーゼルお兄様は随分とお暇なのですね」
「ん?俺はこう見えても忙しい身だぞ?」
「全然そうには見えませんが・・・」
「ローゼリアを構うのに忙しいんだ」
「・・・それ以外にすることがないのですね」
「ちゃんとあるぞ?伯父上に領主としての教えを乞うている。ちゃんと勉強している」
自信満々に話すヘーゼルに、ローゼリアの心はざわつく。ここにはもう自分の居場所はないのだ。ライモンドの婚約者に選ばれてからは、妃教育の毎日だった。いずれ自分はここを出ていく身。侯爵家の嫡子は自分だけ。自分が輿入れすれば、侯爵家の跡継ぎがいなくなる。そこで白羽の矢が経ったのが侯爵の弟の息子であるヘーゼル。弟夫婦には領地の屋敷を任せていたが、息子が二人いるということで、兄であるヘーゼルが侯爵家の後を継ぐことで合意した。ヘーゼルははじめ、侯爵家に婿入りするのだと心弾ませていたが、ローゼリアがライモンドの婚約者に選ばれた故の継承の話。ヘーゼルは落胆することになった。だが、ライモンドとの婚約が解消された事を知り、意気揚々と領地から出てきたのだ。
「ローゼリア、お前がここにいたいならずっとここにいていいんだぞ?ずっと俺と一緒に暮らそう。きっと楽しいぞ?」
「そうですね・・・確かに楽しいかもしれませんわ」
「だったら、ここに留まっ」
「もう疲れましたの」
「は?」
ローゼリアは斜めに視線を落とし、床をぼーっと見つめながらつぶやく。
「疲れた?」
「はい、今は何も考えたくないのです」
「そうか・・・だったら、領地に行って休養をとるのがいいだろうな。そうだ!俺と一緒に領地に行かないか。また昔みたいに領地をあちこち回ろう。お忍びで街に繰り出してみたり、流行りのカフェなんかに行ってみるのもいいかもな。もちろん、屋敷でのんびりするのもいいさ。昔みたいにさ、川に釣りに出掛けよう。水遊びしたっていいな」
ヘーゼルの口から語られる領地での過ごし方。それも悪くないと、ローゼリアは密かに領地行きを決めたのだった。
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