上 下
48 / 66

クローバーを運ぶ鳥

しおりを挟む


 ローゼリアが王宮へと足を運ばなくなってから、一月程経っていた。その間にレイドルートに会ったのは、部屋が花で溢れてかえっているのでさすがにもうと断りに訪れたあのお茶の席だけだ。今日は先日から約束していたマリアンヌの元へと向かう。


「ローゼリアお姉様!」


 公爵家へと馬車が到着するのを、ソワソワと待っていたらしいマリアンヌが駆け出してきた。淑女が駆け出すなどと!と執事のモリスが諌める声が聞こえているがおかまいなし。


「お嬢様!いきなり駆け出すなど、ローゼリアお嬢様が驚かれていらっしゃるではありませんか!」

「まぁまぁ、モリスさん、私の前だけでは構いませんわ。可愛い妹が姉を慕ってくれているだけですから」

「お姉様ぁ・・・」


 マリアンヌは味方になってくれたことに感激を覚え、ローゼリアを潤んだ瞳で見つめている。


「ですが、人の目のあるところではいけませんよ?」


 ローゼリアは、幼子に言い聞かせるように優しい口調で話す。


「は、はい!肝に命じておきますわ!」


 元気すぎる返事も淑女としてはアウト。しかし、今日のこの日を楽しみにしていた様子が手に取るようにわかる。ローゼリアとて頬が緩むのだ。嬉しくてたまらない様子のマリアンヌの案内で、またいつかのサロンに通される。ここは一室の客室だった場所から大きく改装され、目の前に広がるのは、見事な薔薇が咲き誇るこの部屋の為だけの専用の庭園。レヴィス公爵家嫡男であるリチャードが改装したのだという。いくばくか他愛もない会話をして、ローゼリアが切り出す。


「マリアンヌ様、お手紙でお伝えしてましたこれをお持ちいたしましたわ」


ローゼリアが手にとって見せたのはハンカチ。刺繍を施して交換しようと言っていたものだ。クリーム色の柔らかな生地のハンカチに、小鳥が四つ葉のクローバーを咥えた図案だ。


「可愛いっ!これを貰えるのですか!?嬉しいです!でも、使うのが勿体ないです・・・あっ、そうだわ、額にいれて飾ればいいんだわ!レヴィス公爵家の家宝ですわ!」

「眺めるのは構いませんが、家宝にはなりませんし、額縁に入れずに使っていただけませんか?」


ローゼリアは苦笑しながら、暗にやめてくれと話す。マリアンヌは、勿体ないと悲しそうに言うが、嬉しさが伝わってくるのでローゼリアも嬉しくは思う。


「マリアンヌ、またローゼリア嬢を困らせているな」


ほのぼのしたやり取りの最中、呆れた様子のリチャードがサロンに現れた。


「お兄様!だって、ローゼリアお姉様のお手製ですよ。見てください、この見事な刺繍!今にもクローバーを運んでくるために飛び立ちそうな出来ですわ!」

「ほぉ・・・確かに素晴らしい」

「そうでしょう、そうでしょう。羨ましいでしょう?」

「・・・くっ・・・」


リチャードはしたり顔の妹に、苦渋の表情を向けていた。





しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-

猫まんじゅう
恋愛
 そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。  無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。  筈だったのです······が? ◆◇◆  「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」  拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?  「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」  溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない? ◆◇◆ 安心保障のR15設定。 描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。 ゆるゆる設定のコメディ要素あり。 つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。 ※妊娠に関する内容を含みます。 【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】 こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)

【掌編集】今までお世話になりました旦那様もお元気で〜妻の残していった離婚受理証明書を握りしめイケメン公爵は涙と鼻水を垂らす

まほりろ
恋愛
新婚初夜に「君を愛してないし、これからも愛するつもりはない」と言ってしまった公爵。  彼は今まで、天才、美男子、完璧な貴公子、ポーカーフェイスが似合う氷の公爵などと言われもてはやされてきた。  しかし新婚初夜に暴言を吐いた女性が、初恋の人で、命の恩人で、伝説の聖女で、妖精の愛し子であったことを知り意気消沈している。  彼の手には元妻が置いていった「離婚受理証明書」が握られていた……。  他掌編七作品収録。 ※無断転載を禁止します。 ※朗読動画の無断配信も禁止します 「Copyright(C)2023-まほりろ/若松咲良」  某小説サイトに投稿した掌編八作品をこちらに転載しました。 【収録作品】 ①「今までお世話になりました旦那様もお元気で〜ポーカーフェイスの似合う天才貴公子と称された公爵は、妻の残していった離婚受理証明書を握りしめ涙と鼻水を垂らす」 ②「何をされてもやり返せない臆病な公爵令嬢は、王太子に竜の生贄にされ壊れる。能ある鷹と天才美少女は爪を隠す」 ③「運命的な出会いからの即日プロポーズ。婚約破棄された天才錬金術師は新しい恋に生きる!」 ④「4月1日10時30分喫茶店ルナ、婚約者は遅れてやってきた〜新聞は星座占いを見る為だけにある訳ではない」 ⑤「『お姉様はズルい!』が口癖の双子の弟が現世の婚約者! 前世では弟を立てる事を親に強要され馬鹿の振りをしていましたが、現世では奴とは他人なので天才として実力を充分に発揮したいと思います!」 ⑥「婚約破棄をしたいと彼は言った。契約書とおふだにご用心」 ⑦「伯爵家に半世紀仕えた老メイドは伯爵親子の罠にハマり無一文で追放される。老メイドを助けたのはポーカーフェイスの美女でした」 ⑧「お客様の中に褒め褒めの感想を書ける方はいらっしゃいませんか? 天才美文感想書きVS普通の少女がえんぴつで書いた感想!」

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

【R18】さよなら、婚約者様

mokumoku
恋愛
婚約者ディオス様は私といるのが嫌な様子。いつもしかめっ面をしています。 ある時気付いてしまったの…私ってもしかして嫌われてる!? それなのに会いに行ったりして…私ってなんてキモいのでしょう…! もう自分から会いに行くのはやめよう…! そんなこんなで悩んでいたら職場の先輩にディオス様が美しい女性兵士と恋人同士なのでは?と笑われちゃった! なんだ!私は隠れ蓑なのね! このなんだか身に覚えも、釣り合いも取れていない婚約は隠れ蓑に使われてるからだったんだ!と盛大に勘違いした主人公ハルヴァとディオスのすれ違いラブコメディです。 ハッピーエンド♡

【完結】愛に裏切られた私と、愛を諦めなかった元夫

紫崎 藍華
恋愛
政略結婚だったにも関わらず、スティーヴンはイルマに浮気し、妻のミシェルを捨てた。 スティーヴンは政略結婚の重要性を理解できていなかった。 そのような男の愛が許されるはずないのだが、彼は愛を貫いた。 捨てられたミシェルも貴族という立場に翻弄されつつも、一つの答えを見出した。

コミカライズ原作 わたしは知っている

キムラましゅろう
恋愛
わたしは知っている。 夫にわたしより大切に想っている人がいる事を。 だってわたしは見てしまったから。 夫が昔から想っているあの人と抱きしめ合っているところを。 だからわたしは 一日も早く、夫を解放してあげなければならない。 数話で完結予定の短い話です。 設定等、細かな事は考えていないゆる設定です。 性的描写はないですが、それを連想させる表現やワードは出てきます。 妊娠、出産に関わるワードと表現も出てきます。要注意です。 苦手な方はご遠慮くださいませ。 小説家になろうさんの方でも投稿しております。

最悪なお見合いと、執念の再会

当麻月菜
恋愛
伯爵令嬢のリシャーナ・エデュスは学生時代に、隣国の第七王子ガルドシア・フェ・エデュアーレから告白された。 しかし彼は留学期間限定の火遊び相手を求めていただけ。つまり、真剣に悩んだあの頃の自分は黒歴史。抹消したい過去だった。 それから一年後。リシャーナはお見合いをすることになった。 相手はエルディック・アラド。侯爵家の嫡男であり、かつてリシャーナに告白をしたクズ王子のお目付け役で、黒歴史を知るただ一人の人。 最低最悪なお見合い。でも、もう片方は執念の再会ーーの始まり始まり。

処理中です...