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クローバーを運ぶ鳥
しおりを挟むローゼリアが王宮へと足を運ばなくなってから、一月程経っていた。その間にレイドルートに会ったのは、部屋が花で溢れてかえっているのでさすがにもうと断りに訪れたあのお茶の席だけだ。今日は先日から約束していたマリアンヌの元へと向かう。
「ローゼリアお姉様!」
公爵家へと馬車が到着するのを、ソワソワと待っていたらしいマリアンヌが駆け出してきた。淑女が駆け出すなどと!と執事のモリスが諌める声が聞こえているがおかまいなし。
「お嬢様!いきなり駆け出すなど、ローゼリアお嬢様が驚かれていらっしゃるではありませんか!」
「まぁまぁ、モリスさん、私の前だけでは構いませんわ。可愛い妹が姉を慕ってくれているだけですから」
「お姉様ぁ・・・」
マリアンヌは味方になってくれたことに感激を覚え、ローゼリアを潤んだ瞳で見つめている。
「ですが、人の目のあるところではいけませんよ?」
ローゼリアは、幼子に言い聞かせるように優しい口調で話す。
「は、はい!肝に命じておきますわ!」
元気すぎる返事も淑女としてはアウト。しかし、今日のこの日を楽しみにしていた様子が手に取るようにわかる。ローゼリアとて頬が緩むのだ。嬉しくてたまらない様子のマリアンヌの案内で、またいつかのサロンに通される。ここは一室の客室だった場所から大きく改装され、目の前に広がるのは、見事な薔薇が咲き誇るこの部屋の為だけの専用の庭園。レヴィス公爵家嫡男であるリチャードが改装したのだという。いくばくか他愛もない会話をして、ローゼリアが切り出す。
「マリアンヌ様、お手紙でお伝えしてましたこれをお持ちいたしましたわ」
ローゼリアが手にとって見せたのはハンカチ。刺繍を施して交換しようと言っていたものだ。クリーム色の柔らかな生地のハンカチに、小鳥が四つ葉のクローバーを咥えた図案だ。
「可愛いっ!これを貰えるのですか!?嬉しいです!でも、使うのが勿体ないです・・・あっ、そうだわ、額にいれて飾ればいいんだわ!レヴィス公爵家の家宝ですわ!」
「眺めるのは構いませんが、家宝にはなりませんし、額縁に入れずに使っていただけませんか?」
ローゼリアは苦笑しながら、暗にやめてくれと話す。マリアンヌは、勿体ないと悲しそうに言うが、嬉しさが伝わってくるのでローゼリアも嬉しくは思う。
「マリアンヌ、またローゼリア嬢を困らせているな」
ほのぼのしたやり取りの最中、呆れた様子のリチャードがサロンに現れた。
「お兄様!だって、ローゼリアお姉様のお手製ですよ。見てください、この見事な刺繍!今にもクローバーを運んでくるために飛び立ちそうな出来ですわ!」
「ほぉ・・・確かに素晴らしい」
「そうでしょう、そうでしょう。羨ましいでしょう?」
「・・・くっ・・・」
リチャードはしたり顔の妹に、苦渋の表情を向けていた。
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