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臆病な心
しおりを挟むローゼリアはレヴィス公爵家を後にし、屋敷へと帰ってきた。
「おぉ、お帰りローゼリア」
「ただいま戻りました、お父様」
「楽しかったか?」
「はい、マリアンヌ様とは随分とご無沙汰しておりましたから、沢山お話ができまして嬉しかったですわ。お会いしない間に、さらに女性らしくなられておいででした」
にこりと微笑むローゼリアに、この笑顔が見れるのならば、王子との婚約などなくなってもよかったのかもしれないと侯爵は思っていた。
「それではお父様、私は部屋に戻りますわ」
「あぁ」
楽しかったのが手に取るようにわかる娘の姿を、侯爵は嬉しそうに見つめていた。部屋に戻ったローゼリアは、公爵家でのマリアンヌの言葉を思い出す。
『だったら、なおさらお兄様はどうですか!?
待ち望んだお姉様なんですの!
もう!お兄様っ、チャンスがやって来ましたのよ!ローゼリアお姉様、ライモンド殿下と婚約を解消されたそうですの!
だから!お姉様には今婚約者がいないと言うことです!』
マリアンヌが自身を随分と慕ってくれているのは知っている。だがまさか、自身の兄であるリチャードをすすめてくるとは思わなかった。別にリチャードが嫌いというわけではない。王子ライモンドとの婚約話がでなければ、いずれリチャードとの婚約の話も出たかもしれない家格差だからだ。だが、今となっては、互い王子に仕える身として、遠からず近からずの距離にいた。そう気にかけられた事もなく。いつも冷静と淡々としていた。王子の不貞の事実を一番近くで見ていた人物でもある。諌めることもなく、不貞を見逃していたようにも思える。こちらがどんな気持ちで、どれだけ必死に表面を繕っていたか知らないはずもないのに。そんな相手が婚約者などと、考えても想像がつかなかった。きっとこれまでとかわらない。自身に興味などもって貰えるわけもない。これまでの長年の積み重なった気持ちのせいで、人の好意を簡単には受け入れることができなくなっていた。それは国王レイドルートに対しても言えることだ。離宮にて身を隠さないかと提案されようとも、たまにはお茶をと誘われても、どれだけ花を贈られようとも。気持ちはあっても即答はできない。それだけ人の機微に注意深く、そして臆病になっていたのだ。
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