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はじめての花は
しおりを挟む「お気持ちは十分に頂きました。嬉しかったですのよ?」
微笑むローゼリアに、今度は尻尾でも振っているのではないかと言わんばかりの表情だ。
「殿方から花を貰うなんて、はじめてでしたから」
「初めて・・・すまないな・・・」
「?」
レイドルートの頭のなかにはいくつかの事が浮かんでいた。はじめて花を貰ったその相手が、父親と言ってもおかしくないほど年の離れたオジサンからだった事。レイドルートの息子であり、唯一の王子であるライモンドが、婚約者として、花やアクセサリーなど、贈り物ひとつもしてこなかった事。そしてはじめて受け取った花にはロマンチックな雰囲気の欠片もないような状態になってしまった事。ローゼリアのはじめてに、何か汚点をつけてしまったようで、申し訳なさばかりが後から後から沸いてくる。ゆっくりと頭を上げたレイドルート。
「次からは加減をするようにしよう・・・」
いらないと言っているのに、レイドルートはやめる気はなさそうだ。ローゼリアはそれがおかしくてクスクスと笑う。
「なんだ?何か変な事を言ったか?」
本気でわからないといった様子のレイドルートに、ローゼリアは必死に笑いをこらえようとするが無理だった。
「ふふっ、ふっ・・・陛下?」
「何だ?」
「いらないと申しましたのに」
「・・・あ・・・」
どうしてレイドルートは、ローゼリアの事になると、こうもポンコツになるのだろうか。ほんのり頬を染めながら、レイドルートは恥ずかしそうにそっぽを向いた。そんな様子が可愛いと思えるのだから、ローゼリアの心はもう決まっているのも同然なのだが。
「お花はまだ綺麗に咲いておりますから、しばらくは必要なさそうです」
「そうか・・・」
「はい」
何か話題が盛り上がったわけでもなく、何か新しいことを得たわけでもなく。ただ緩やかな時間が過ぎた。
「ローゼリア・・・私のローゼリア・・・いくら相手が陛下であろうと、私以外の男に愛想を振り撒くなどと・・・余程私を嫉妬させたいと見える・・・」
二人の様子をジッと見つめながら、離れたところで男がボソボソと呟いていた。小声で、二人にはもちろん聞こえるはずもなく。一体誰が覗いていたのか。それがわかった時には、あの時何故真剣に考えなかったのかと、後悔することになる。
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