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久しぶりの対面
しおりを挟むレイドルートが淹れたお茶が目の前に置かれると、ゆらゆらと湯気が立ち上っていく。畏まる姿を少しだけ寂しく思いつつも、目の前にローゼリアがいるのだと思えば、レイドルートの表情もほころぶ。
「ローゼリア嬢、今日はここに来てくれてありがとう。たった数日の事なのに、随分と昔の事のようだ。元気にしておったか?」
そうたった数日の事。たった数日でローゼリアの部屋は温室ばりに花で埋めつくされてしまったのだ。
「えぇ、毎日王城に来ておりましたから・・・たった数日通わないだけで、こんなにも遠い場所だったのかと・・・思っておりますわ」
遠い場所。侯爵邸から毎日通うに、遠くて大変だったのか。レイドルートは申し訳なさを感じていたが、ローゼリアは違った。遠いというのは物理的な事ではなく、心の距離。毎日、妃教育に通っている間は、待ち合わせせずとも顔を度々合わせていた。レイドルートがローゼリアに会いたくて執務室から出てきていたからだ。執務室にこもったまま、ローゼリアに興味も持っていなければ、二人が度々会うこともなかっただろう。それだけレイドルートがローゼリアに会う為に頃合いを見計らって、執務室を出てきていたと言うこと。
「毎日来てくれてもいいのだぞ?」
レイドルートは期待を込めて、ローゼリアにそう言って反応を待つ。
「毎日ですか?・・・ふふっ」
ローゼリアが少しだけこぼした笑みに、レイドルートは釘付けになった。
「茶飲み友達になってくれると言ったであろう?」
ローゼリアが了承してくれないかと期待しながら言ってみる。
「友達とは恐れ多いですわ」
「・・・うむ・・・」
またレイドルートの子犬が垣間見えそうだ。一口お茶を口に含み流し込むと、ローゼリアが話を切り出す。
「陛下」
「なんだ?」
「たくさんお花を頂いてありがとうございます」
「・・・私だとわかっていたのだな」
「えぇ・・・使用人から、お届けに来られる方が花屋の者ではないと聞きまして・・・」
「そうか・・・」
それでレイドルートだと決定づけたのだとわかるが、それで気付いたのだと思うのも悲しい。
『君の願いを聞き入れよう。私はそれを叶えられる、唯一の男だ』
そのひと事はローゼリアに向けてはじめてかけた一言。我ながらキザな一言ではあったが、もしもその一言を覚えてくれていたのなら。そんな期待を持っていたものの、それで気付いたとは言わなかったローゼリア。幼き少女にかけた言葉で憧れを持ってくれることなどあるはずがないのに、淡い期待を抱いてしまった自分に、少々恥ずかしくも落ち込むレイドルートだった。
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