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離宮のその部屋は
しおりを挟むレイドルートはゆっくりとした足取りで王宮の通路を進んでいた。いつもの威厳のある様子はなく、どこか物思いに更けるような、心ここにあらずといった言葉がしっくりくるだろう。珍しい姿ではあるが、普段なら誰も気に止めないであろう。だがたまたま通りかかった一人の男が、いつもの様子と違うレイドルートを観察するように見ていた。
「・・・どうなされたのだ・・・?」
不思議に思い、男はレイドルートの後をつけていく。そしてたどり着いたのは、王の許可無き者は立ち入ることができないという離宮。これまでレイドルートが離宮に行こうとも、何をしようとも気にも止めなかった。だが、今日のレイドルートを見ていると、何かいつもと違うような気がしてくる。まさか女でもいるのか?男は注意深く離宮を見るも、中の様子までは確認がとれなかった。
「陛下、お食事になさいますか?」
「いや・・・何もいらん」
離宮の料理人であるライルが聞くとレイドルートがポツリとこぼすように答えた。
「・・・ルゼはいるか」
「はい、ここにおりますよ」
「あの部屋に・・・茶をいれる準備だけしてくれないか」
「かの部屋でございますね」
「あぁ」
深くお辞儀をするルゼに背を向けて、レイドルートはゆっくりと部屋へと向かう。ルゼが言う、かの部屋。それは先日、ローゼリアが利用した一室。客間でもないその部屋は、貴族の屋敷でいうところの女主人の部屋。レイドルートは願望からなのか、使う主のいないその部屋へとローゼリアを運んだのだ。昔から知る使用人達ばかりの離宮。願望が駄々漏れだとバレバレなのである。
「・・・ここにローゼリアがいた・・・確かにいた・・・」
レイドルートはローゼリアを運んだ時の事を思い出す。愚息のせいでいらぬ心労をかけ、顔色も悪く倒れてしまった。倒れた瞬間には、ホッとしたような顔も見せた。あれは支えたのが自分だったから安心してくれたという事だろうか。そんな期待じみた事を考えてしまう。レイドルートは床に膝を付き、寝台へと乗り出し、すがるように身体を預けた。
「会いたい・・・」
昨日会ったばかりだというのに。何ならこれまで窓から遠く見える庭園を歩くローゼリアを眺めていただけの日もあったというのに。勢いで吐き出した言葉が、レイドルートの心を切なく締め付けていた。
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