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送り主の名

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「陛下、どんなお言葉を贈られたのですか?」


国王の執務室で、朝から何やらそわそわしているレイドルートに宰相ロドルフォが声をかけた。


「君の願いを聞き入れようと」

「願い・・・ですか」

「それを叶えられるとな」


包み隠さず話しているようではあるが、すべてではない。唯一の男だと書き入れたと言えば、愛を請う表現だと言われるだろうと思っての事だ。それにその一言は、幼き少女にかけた格好をつけたいがための事。まさかそんな幼き少女相手に恋をしたのだと知れば、さすがのロドルフォにも飽きられるかもしれない。少女趣味だと。無論少女だからではなく、ローゼリアだから好きになったのだけれども、他人はそうは思わず面白ろおかしく話すであろう。


「ローゼリア嬢は何かお望みを?」

「いや、何かを願われたわけではない。離宮で過ごしたいと言われれば叶えるし、領地に行きたいと言えば・・・それも聞き入れる」


聞き入れたくはないが。そう続きがあるような含みのある言い方だ。


「・・・あ・・・」

「陛下、いかがなさいました?」

「いや・・・名を書き忘れた・・・」


宰相ロドルフォは、その言葉を聞き、はじめは口をポカンと開けて呆けていたが、両目を片手で覆い、ゆっくりと天井を仰ぎ見る。この男は何の為にうら若きご令嬢に花を贈り、言葉を贈ったのだろうか。そんな思いでかける言葉を探していた。


「わざと書かなかった、ではないのですね?」

「・・・あぁ」

「何をしていますのやら・・・普段は王として采配を振るっていらっしゃるというのに、ご令嬢に対してはその能力は発揮されないのですな」


ロドルフォにそう言われ、普通なら腹が立ちそうなもの。しかしレイドルートは、すでに違うことを考えていた。


「まぁ、いい。知らぬ誰かが恋慕を抱いて花を贈ってきたと思って貰えればいい。明日は花を変えて言葉も変えて贈ろう」

「左様ですか」


無かったことにする。それがレイドルートの出した答えだろう。宰相はやれやれとため息をつく。レイドルートはいつものように窓の外を眺める。そしておもむろに立ち上がった。


「離宮に行ってくる」

「お戻りは」

「そう長くはない、昼を食べる程度だ」


手元に届いた花とメッセージカードに、ローゼリアは、レイドルートがあの時の事を覚えていてくれたのだと、自然と口元が緩んでいた。離宮で囲われるのを望むほどまでに気持ちが傾いていることを、この時の二人はまだ知らない。




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