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胸の痛み

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レイドルートはローゼリアとの食事に、誰かと食事をするとと言う事がこんなにも楽しいものなのかと心躍っていた。誰かとではなく、ローゼリアだからと言う事は、レイドルート自身もまだ気付いてはいないのかもしれない。ローゼリアは緊張していたが、終始和やかな朝食はその緊張をほぐしていった。朝食も済ませ、馬車の準備ができたと使用人が呼びにきた。ローゼリアはお世話になったと使用人達に声をかけながら玄関へと進んでいった。


「待っていたぞ」

「陛下!?」

「さぁ、馬車に乗ってくれ」

「お忙しいのに、見送りまで・・・」

「見送り?・・・あぁ・・・一緒に侯爵邸に行こうと思ってるんだが・・・」

「!?・・・あ・・・そう・・・ですよね。婚約をどうするか、話をしなければなりませんものね・・・」

「まぁ、それもあるが・・・」

「で、でも・・・陛下自ら侯爵邸に足を運ばれなくとも、後日父と一緒に王宮へ登城いたしますわ」

「ん・・・それでもいいんだが・・・早いに越した事はない」

「それも・・・そうですね」


朝食でも和やかな雰囲気、昨晩の暖かな気持ちが急速に冷えていくのがわかった。これで終わりなのだと、これまでの日々が無かったものへと変わるのだと思うと、ローゼリアの胸の奥に、ズキリと何かが刺さったような痛みを感じていた。これから自分はどうなるのだろうか。王子の有責とは言え、婚約者であったことは誰もが知る事実。先の結婚や良縁は見込めないだろうと肩を落とした。それに、王宮に行く事もなくなれば、ローゼリアの心にいる人物には、そう易々とは会えなくなる。それが一番の懸念材料だったかもしれない。そして・・・父にどんな顔をして会えばいいのか。様々な事を考えていたせいか、いつの間にか無口になっていたらしい。


「ローゼリア嬢?」

「あっ・・・す、すみません」

「・・・何か心配事があるか?」

「・・・え、えぇ・・・そうですね・・・」

「何を心配しているのか教えてくれないか?」

「・・・それは・・・」

「私には解決できない事だろうか?」

「えっと・・・あの、私は婚約が無かったこととなりますよね?殿下の婚約者であった事は周知の事実です。そんな女を誰が娶ろうと思うでしょうか・・・私は・・・修道女にでもなった方が・・・」

「それはいかん!」

「え・・・あ・・・はい・・・」

「す、すまん。怒ったわけではない。ただ、ローゼリア嬢は魅力溢れる女性だ。何の心配もいらぬ。ライモンドとの婚約が無くなった君には、男達が列を成して求婚しに来ると私は予想している」

「それは・・・ないと思いますが・・・」

「私も君ほど若ければな・・・その列に我先にと並んだかもしれん」


馬車に向かい合わせになって座るレイドルートが、腕組みをしながら自慢げに語る表情がおかしくて、ローゼリアは笑ってしまった。


「くすっ・・・」

「ようやく笑ってくれたな」

「あっ・・・」

「何も心配いらん。私に任せてくれ。それに、悪いのは王家側だ。ローゼリア嬢には何の落ち度もないんだから。君は・・・幸せになるべきだ」


そう悲しそうに笑うレイドルートの顔が、ローゼリアの胸にまた、ちくりと何かが刺さったようだった。





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