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お茶の香りと心
しおりを挟む勢いよく部屋を飛び出していったレイドルートが、沸かされた湯と、ティーセットを持って戻ってきた。メイドが一緒に来ていると思ったのだが見当たらない。どうするのだろうと考えている間にも、目の前でレイドルートがお茶の準備をしていく。
「あ、あの・・・もしかして陛下がお茶を入れるのですか?」
「ん?あぁそうだが?」
「そ、そんな!私が淹れますわ!」
「いやいや、私が淹れよう。これでもな、茶を淹れるのは得意なんだぞ?」
「そうなのですか?」
「あぁ、王族たるもの、毒を盛られたりすることもあって、人の手の加わったものを口にするのが憚れる時もあってな・・・だから、茶を自分で淹れることもあったのだ。まぁ、今となってはそう気にすることもなくなったが、無性に静かに1人で過ごしたい時もある。そんな時は、自分で茶を淹れることもあるのだ」
「・・・王族とは悲しいものですね。民の為に、国のためにと尽くしても、命を狙われたりするのですから・・・陛下が今までご無事でこられたのは何よりですわ」
「そうだな・・・」
レイドルートは、茶を蒸らしている間、茶器をぼーっと眺めながら、つぶやくように返事をした。
「・・・でも、悲しいことばかりではないがな?」
「何かいい事があったのです?」
「あぁ、いい事が・・・あった」
「そうでしたか。お顔がとても嬉しそうですもの」
「そ、そうか!?・・・ん・・・いい頃合いだろう・・・あぁ、ローゼリア嬢、冷めないうちに飲んでくれ」
レイドルートは湯気の立つお茶をローゼリアへと差し出す。
「ありがとうございます。とてもいい香りがしますわ」
カップを手に、香りを楽しんでいるローゼリアを見て、レイドルートはほっと安堵の息を吐いていた。息子であるライモンドと、公爵令嬢であるミレーヌの不貞の現場を見てしまったローゼリア。ライモンドに恋をしているようには見えない彼女だったが、少なからずとも情はあったのかもしれない。不貞の現場を目にし、顔は青ざめ、意識を失ってしまうほど動転していたのだ。もしかすると、ショックを受けていたのかも知れない。レイドルートは、本当に悪い事をしてしまったと、今後の事を考えていた。だが、ローゼリアの胸中は、ライモンドが誰とどう不貞をしようと、別にどうでもよく、自分が今まで妃教育を頑張ってきた事実を、無かった事にはされたくはないし、無駄にならないといいがと悩んでいた。そこには、ライモンドへの恋や愛などはもちろん、情などもない。ローゼリアの心にはたった一人の男の存在しかないのだから。
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1/28START
『好きなのは貴方じゃない』
「お前の嫁ぎ先が決まった」
侯爵である父がそう言った。
スティファニアは、その時絶望で崩れ落ちそうになる。
想い描いていた未来はもう来ない。
諦めを抱いて辺境に来ると、使用人みんなが親切でとっても居心地がいい。だが、夫になった男爵にはひと目もかからないまま時間だけが過ぎていく。
「見ない顔だな、新入りか?」
夫は私ではない女を愛している。だから必死に心を保とうとした。
私が好きなのは貴方じゃない。
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