上 下
22 / 131

14、執務室にて

しおりを挟む


医務室での手当てが終わり、執務が終われば迎えに来ると言って出ようとしたアリエルの服を、またしてもリシェリアが掴んでくる。結局、執務室に同行させる事になった。

「何もないが待っててくれ」

アリエルはそう告げると、執務室の横にある応接用のソファにリシェリアをおろす。リシェリアが落ち着いてきたのを見て、自身は執務に取り掛かるが、アリエルはソワソワしていた、さっきからずっと視線を感じるのだ。

「リシェリア嬢・・・なんだろうか?」
「えっ、あっ、すいませんつい・・・」
「あ、いや、いい」

見ているのがバレてしまったとばかりに、リシェリアは俯いてしまう。アリエルは、まさか自分を見つめていたなんてあるはずがないと自身に言い聞かせ執務を続ける。しばらく集中していたが、ふとまた視線に気付く。

「リシェリア嬢・・・退屈か?」
「あっ、すみません。私ったらまた・・・」

そう言うとまた俯いていしまったリシェリアの、またという単語をアリエルは聞き逃さなかった。逆に今度はリシェリアをじっと見つめてしまっていたが、アリエルは自分がそんな行動をとっていることに気付かず、ふと顔を上げたリシェリアとパチっと目があった。

「あっ、すまん、何でもない」
「は、はい・・・」

アリエルは無表情を貫こうとしたが、顔が赤くなっていることは隠せなかった。赤面したのも落ち着き、執務もあと少しというところで来訪者があった。

「失礼します。団長、報告書をお持ちし・・・あら?お邪魔でした?」
「う、うるさい!早く報告書を置いて出ていけ!」
「そんな追い払うみたいに言わないでくださいよ」

この男は辺境騎士団の副騎士団長をしているルクスト・マクベル。隣領の伯爵家の次男で現在24歳。若いが腕も立つ上人望も厚い為、アリエルが取り立てて副騎士団長に任命した。

「へぇ、とっても可愛いらしいお嬢さんですね。お名前を伺っても?」
「リシェリアと申します」
「リシェリア嬢、なんとも可愛らしい・・・しかも声まで可愛いなんて!」

ルクストは目をキラキラ輝かせてリシェリアを見ている。

「早く、報告書を寄越せ!」
「団長、そんなに大声出さなくても聞こえますよ。なに怒ってるんですか?」

ルクストはしぶしぶアリエルに近寄り報告書を渡す。

「でも納得しましたよ。騎士達の噂を聞いてまさかとは思ってましたが」

「噂?噂とはなんだ?」

ルクストは玩具を見つけたと言わんばかりにニヤリと笑ってみせる。

「いやね、森で女性を保護したはいいが、団長しか受け付けない令嬢だったと聞いて、その上、医務室に運ぶのもここに連れてくるのもずっと団長が抱きかかえて過保護に面倒見てるっていうじゃないですか」




ーーーーーーーーーーーーーーー


次回


【アリエルside】

今日は書類仕事も楽しい→邪魔が入った!→俺だって!
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

運命の恋人は銀の騎士〜甘やかな独占愛の千一夜〜

藤谷藍
恋愛
今年こそは、王城での舞踏会に参加できますように……。素敵な出会いに憧れる侯爵令嬢リリアは、適齢期をとっくに超えた二十歳だというのに社交界デビューができていない。侍女と二人暮らし、ポーション作りで生計を立てつつ、舞踏会へ出る費用を工面していたある日。リリアは騎士団を指揮する青銀の髪の青年、ジェイドに森で出会った。気になる彼からその場は逃げ出したものの。王都での事件に巻き込まれ、それがきっかけで異国へと転移してしまいーー。その上、偶然にも転移をしたのはリリアだけではなくて……⁉︎ 思いがけず、人生の方向展開をすることに決めたリリアの、恋と冒険のドキドキファンタジーです。

外では氷の騎士なんて呼ばれてる旦那様に今日も溺愛されてます

刻芦葉
恋愛
王国に仕える近衛騎士ユリウスは一切笑顔を見せないことから氷の騎士と呼ばれていた。ただそんな氷の騎士様だけど私の前だけは優しい笑顔を見せてくれる。今日も私は不器用だけど格好いい旦那様に溺愛されています。

5分前契約した没落令嬢は、辺境伯の花嫁暮らしを楽しむうちに大国の皇帝の妻になる

西野歌夏
恋愛
 ロザーラ・アリーシャ・エヴルーは、美しい顔と妖艶な体を誇る没落令嬢であった。お家の窮状は深刻だ。そこに半年前に陛下から連絡があってー  私の本当の人生は大陸を横断して、辺境の伯爵家に嫁ぐところから始まる。ただ、その前に最初の契約について語らなければならない。没落令嬢のロザーラには、秘密があった。陛下との契約の背景には、秘密の契約が存在した。やがて、ロザーラは花嫁となりながらも、大国ジークベインリードハルトの皇帝選抜に巻き込まれ、陰謀と暗号にまみれた旅路を駆け抜けることになる。

【完結】婚約者が好きなのです

maruko
恋愛
リリーベルの婚約者は誰にでも優しいオーラン・ドートル侯爵令息様。 でもそんな優しい婚約者がたった一人に対してだけ何故か冷たい。 冷たくされてるのはアリー・メーキリー侯爵令嬢。 彼の幼馴染だ。 そんなある日。偶然アリー様がこらえきれない涙を流すのを見てしまった。見つめる先には婚約者の姿。 私はどうすればいいのだろうか。 全34話(番外編含む) ※他サイトにも投稿しております ※1話〜4話までは文字数多めです 注)感想欄は全話読んでから閲覧ください(汗)

身代わり婚~暴君と呼ばれる辺境伯に拒絶された仮初の花嫁

結城芙由奈 
恋愛
【決してご迷惑はお掛けしません。どうか私をここに置いて頂けませんか?】 妾腹の娘として厄介者扱いを受けていたアリアドネは姉の身代わりとして暴君として名高い辺境伯に嫁がされる。結婚すれば幸せになれるかもしれないと淡い期待を抱いていたのも束の間。望まぬ花嫁を押し付けられたとして夫となるべく辺境伯に初対面で冷たい言葉を投げつけらた。さらに城から追い出されそうになるものの、ある人物に救われて下働きとして置いてもらえる事になるのだった―。

再会したスパダリ社長は強引なプロポーズで私を離す気はないようです

星空永遠
恋愛
6年前、ホームレスだった藤堂樹と出会い、一緒に暮らしていた。しかし、ある日突然、藤堂は桜井千夏の前から姿を消した。それから6年ぶりに再会した藤堂は藤堂ブランド化粧品の社長になっていた!?結婚を前提に交際した二人は45階建てのタマワン最上階で再び同棲を始める。千夏が知らない世界を藤堂は教え、藤堂のスパダリ加減に沼っていく千夏。藤堂は千夏が好きすぎる故に溺愛を超える執着愛で毎日のように愛を囁き続けた。 2024年4月21日 公開 2024年4月21日 完結 ☆ベリーズカフェ、魔法のiらんどにて同作品掲載中。

憧れの騎士さまと、お見合いなんです

絹乃
恋愛
年の差で体格差の溺愛話。大好きな騎士、ヴィレムさまとお見合いが決まった令嬢フランカ。その前後の甘い日々のお話です。

伯爵は年下の妻に振り回される 記憶喪失の奥様は今日も元気に旦那様の心を抉る

新高
恋愛
※第15回恋愛小説大賞で奨励賞をいただきました!ありがとうございます! ※※2023/10/16書籍化しますーー!!!!!応援してくださったみなさま、ありがとうございます!! 契約結婚三年目の若き伯爵夫人であるフェリシアはある日記憶喪失となってしまう。失った記憶はちょうどこの三年分。記憶は失ったものの、性格は逆に明るく快活ーーぶっちゃけ大雑把になり、軽率に契約結婚相手の伯爵の心を抉りつつ、流石に申し訳ないとお詫びの品を探し出せばそれがとんだ騒ぎとなり、結果的に契約が取れて仲睦まじい夫婦となるまでの、そんな二人のドタバタ劇。 ※本編完結しました。コネタを随時更新していきます。 ※R要素の話には「※」マークを付けています。 ※勢いとテンション高めのコメディーなのでふわっとした感じで読んでいただけたら嬉しいです。 ※他サイト様でも公開しています

処理中です...