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居眠りと気遣い
しおりを挟む毎日騎士団から公爵家へと戻ると、食事を済ませ、フローラとのダンスやエスコートの特訓が始まる。職務を終え、身体は疲れているのだろうが、ソルディオはこの時間がたまらなく楽しみに思い始めていた。食事を済ませ、ホールに足を踏み入れると、いつもならドレス姿に着替えたフローラが待っているのだが、姿が見えなかった。早く来すぎたのだろうかと見渡せば、その気持ちは稀有に終わった。だが、思いを改めることになる。
「・・・そう・・・だよな」
目に入ってきた光景。それによって、ソルディオは気付かされることになるなど思いもしなかった。まだまだ気遣いが足りなかった。自分ばかり楽しいのだと思い込んでいたのだと。
「・・・今日は、お開きかな・・・」
どうすることもできずにただ見つめていたソルディオ。そう・・・目の前にあったのは、ホールの隅で、椅子にもたれるようにして眠っていたフローラだったのだ。ソルディオは、この姿を見るまで、フローラだってメイドの仕事を終えてからこの特訓の時間を持っているのだ。オーバーワークとも言えるかもしれない。騎士である自分に対して、フローラはメイドであり、非力な女性であること。そこに体力の差があることなど考えもしていなかった自分に腹がたった。
「・・・ん・・・っ!あっ、す、すみませんっ!」
そんなことを考えていたソルディオの目の前で、フローラが目を覚ましたらしく、慌てて椅子から立ち上がった。
「居眠りしてしまうだなんて・・・それに恥ずかしいお姿をお見せしてしまいましたわ・・・」
どことなく罰の悪そうな、少しだけ落ち込んだような様子のフローラに、ソルディオの心は打ちぬかれてしまった。
「い、いえ!毎日俺の特訓に付き合ってくれてるんです、仕方ないことです!それに、メイドの仕事だってきちんとこなしている後に時間をとってくれているんですから・・・気付かなかった俺が悪いんです。本当に、すみません・・・俺がもっとうまくやれれば、こんなに手間をとらせることもなかったんですから」
ソルディオは話しながら、どんどんとうつむいていった。こんな気遣いのない男など、願い下げだろう。
「付き合ってもらっているのは私のほうでは?」
「はい?」
「いえ、なんでもありません。この時間、私は仕事のあとの楽しみとしているのです、そう、気負わないでくださいませ」
またしても、フローラの笑顔と言葉に救われた。どこまでも、フローラはソルディオの中にすっと入ってくる。心がとぎほぐされていくような心地で、二人はまた、手を取りダンスの練習をはじめたのだった。
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